意味深ムーブTS転生者 作:げへかす
どうなるかは分かりません。
「あ、でも頑張りすぎてぶっ倒れてもバッドエンドになるかも」
「“ええ……”」
パチリ、と目を開ける。
爆破されて以来、寝ても覚めても悪夢ばかりだ。おまけに夢の中で先生と遭遇してしまうし、現実の問題も解決しきれていないし、踏んだり蹴ったり。
夢での出来事を思い返す。
悪夢に関しては正史時空で起こり得たバッドエンドばかり。俺の存在するこの場でも起こり得るものかは分からないが、見知った人間が死ぬ様や絶望する様を見せられ続けると言うのは、はっきり言って気持ちのいい物ではない。
おまけに、それを先生にも見られてしまった。一度だけじゃなく二度も。
夢の中で出会った先生。あれはまず間違いなく俺の夢の産物ではなく意志ある存在、つまるところ本人であろう。
一度目は目覚めてからただ偶然そういう夢を見たことを期待していたが。
気が滅入る。
ベアトリーチェ操るアリウススクワッドによる暗殺未遂、により爆破されて入院して暫く。
俺の排除を始めたという事はエデン条約に向けて、黒幕が本格的に動き始めたので間違いないだろう。俺がアビドスに居続けたかったのは、こういった差異を可能な限り無くしたかったのが一つの理由だ。
それは敵わなかった挙句、こうして被害者として一部直接的に関わることになってしまった。
「あたま、いたい……」
大怪我をしたことがなかったのでわからなかったが、俺にツルギほどの超回復能力はなかったらしい。小さい傷といったものはすんなりと治ってはいたが、火傷や大怪我となれば包帯が取れ、まともに動けるようになるにはかなりの時間を要してしまった。
そのせいで、おそらくエデン条約に関連する補修授業部の活動も始まってしまっているようである。
あの爆発が起こった日。
俺の存在による「揺らぎ」、詰まるところ俺がいるからこそ起こってしまった暗殺未遂、それによって確定した「収束」があの気絶する寸前に見えた。気を失う直前だったが、苦し紛れのあの言葉はサオリに伝わったのだろうか。
ほんの少しでもマダムへの猜疑心が湧いてくれれば、予定している交渉を有利に進められる可能性が上がる。
ただ「マダムの言葉は信じるな」と言っておいて「俺の言葉は信じてほしい」と言うのは非常に自分勝手だ。あくまで僅かな可能性に留めておくべきだろう。
俺の得た収束の知識では、アリウススクワッドは同じアリウスの人間に追われていた。つまりはアリウス解放からは程遠い。
ゲマトリアという外から来た人の集団の中でも、結果的に多くの契約や儀式を蔑ろにしてしまった奴のことだ。そうなってしまっても仕方がないのかもしれない。
だからこそ何とかして物理的に引き剥がし、呪縛を解くのを早めたかったのだが。
スクワッドの逃亡生活。
それ以外に見えたもう一つの収束。カタコンペを通った先の廃墟、教会、そこに本来居るはずのない
正史と収束。
何故か少し境界が曖昧になってきているが、俺がアリウス自治区に足を踏み入れているという未来ならば間違いなく収束だろう。
ごく僅かではあったが見えた未来。
あの自治区はベアトリーチェの掌の上、乗り込むにしてはやや危険がすぎる。
ただ正史の二校襲撃に至っては、あのハナコすらも解決法が存在しないと結論を出しかけた、混濁極まった状況だ。
それらを土台からひっくり返すのは俺みたいな異物が関わったところで不可能だと判断し、各陣営に少しずつ働きかけていく方針ではあった。ただこのような未来が見えた以上もっと大胆に行動した方が事態の好転には良かったのかもしれない。
となると、急いだほうがいい。
積み上がったお見舞いの品々。
大多数は風紀委員会と対策委員会からのものだが、それに混じって先生からの品もある。
一部差出人不明の贈り物があったが、嫌な予感しかしないので触れないでおこう。
ともあれ。
こういう事があるから手間を増やさないよう自己管理は徹底していたつもりだったのだが、今回ばかりは致し方あるまい。風紀委員会所属となってはいるが、俺の存在は盤外であるという認識でいたが故の手痛いダメージだ。
とはいえ先生には俺の力について夢を通してバレてしまっている。
となると。バラバラと包帯やギプスを剥がしていく。
片方の手でスマホからモモトークを開き、いつの間にか連絡先に登録されている先生へ文章を送る。
この現象がキヴォトスの全生徒に起こっているとは考えづらいが、アロナが居ると考えると不可能ではないのかもしれない。
とはいえ身は一つしかないので、どれだけ生徒に親身であろうとも限界はあるだろうが。
先生にはいくつか情報を共有してしまっても良いだろう。
未来が見えた。先生はそう時間を空けずにこの部屋へとやってくる。
ふと、最近すっかり鳴りを潜めていた未来視が見やすくなっていることに気づく。
ヘイローを破壊する爆弾のせい、であったりするのだろうか。
「あとはティーパーティーに接触……手紙は送ったが、果たして届いているのやら」
ナギサへ送った手紙。
今の俺が直接「裏切り者」の正体を明かしたところで、間違いなく信用されない上逆に疑われてしまうだろう。残された時間は少ないが現状、エデン条約のゲヘナ側の協力者、賛同者の一人として信頼を得ていきたい。
途中で握りつぶされることなく、届いていれば良いのだが。
セイア襲撃事件は既に起こっている。
俺自身がゲヘナ生であることにより、トリニティ内部、特にティーパーティーに関して接点が無さすぎたが故に防げなかった。
が、この間未来視の狭間でセイアの存在は確認できている。揺らぎの収束により間違っても死亡してるなんてこともなく、正史のセイアと同じ、あるいは近しい状況であると考えて良いだろう。
補習授業部も生まれてしまっている。
これに関しては俺が気を失っている期間、回復に集中している期間に起こったことのようで、ヒナからそのことを聞くまでは俺は知ることができなかった。
ミカも取り返しがつかなくなっている。
セイア襲撃を画策したミカはそれが実行された今、もう止まれなくなっている。それを止めるには正史通り先生の介入が必要不可欠だ。
アリウス生徒の救済。
これはベアトリーチェを排除するのが間違いなく最善。何ならユスティナ聖徒会の複製が存在しないうちに叩く方が良いだろう。
先生の敵対者として舞台に降りるまでは大人である以上排除すら厳しいような気がするが、果たして。
「正義実現委員会……は流石に無理だし。やっぱ俺が動くしかないか……」
俺の勘違いでなければ旧友がソコに居るはずなのだが、やはり流石にティーパーティー直属の組織となると独断で行動するのは不可能だろう。
その時、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。
見ると先生が立っていた。
「“おはよう、怪我は大丈夫そう?”」
「まあね。……で、あの、先生、夢のことだけど」
イタズラが親にバレた時の感覚をふと思い出す。
まともに人間の姿をした年上の人をほぼ見ないので、余計にそういう対象として勘違いしてしまいそうになる。学生あるあるだろうか。
「“夢の話もそうなんだけど、一つ話があって”」
俺が話を言い淀んだのを見て何を思っていたのか、微笑ましげな表情を見せていた先生。そんな顔を引き締めつつ聞いてきた言葉。
「“補習授業部って知ってる?”」
「……トリニティにできた新しい部活、だよね」
まさか、ナギサの疑惑の目がこちらにも向いているとは思わなかった。
「今そっちはどんな感じ?」
『もうすぐ終わりそうですよ、流石にこれ以上は厳しいかと』
先生との相談の途中にやってきた電話に思わず、先生に待っているよう伝えて保健室を飛び出してしまった。
スマホから漏れてくるのは万魔殿のイロハの声。自室爆破以来不安だったがツキはちゃんと回ってきたようだった。
『……全く、よく分からない取引だとは思っていましたが、こういうことだったとは』
「まあまあ、引き延ばしについてはちゃんとお礼はするからさ」
『イブキが喜ぶものでお願いします』
「りょーかい」
万魔殿にちょくちょくと赴いてはイブキのご機嫌を取りマコトに幾つか情報を売り、結果的にヒナやアコに制裁を食らっていたアレソレ。それは決して無駄ではなかった。
エデン条約編において正史で起こった、万魔殿とアリウスの接触。
俺自身がアリウスの動向を掴めないのであれば、掴んだ奴に全力で乗っかってやる。
という訳で万魔殿の情報網にひたすら賭けていた訳だが、その賭けには勝った。ついでにその時のために幾つか貸しを作っておいたので、こうして連絡を寄越してくれたわけだ。
俺だって頑張ったのだが、やはり地位やカリスマが物を言うのだろうか。俺の情報網では尻尾を掴むことさえ出来なかった。
ともあれ。
アリウス自治区は文字通りベアトリーチェの掌の上。
おまけに自治区へ向かうためのカタコンベは部外者の攻略はほぼ不可能だ。
となるとそれ以外の場所で接触を図るしかない。
健脚でない俺であっても、会談を長引かせて貰えば何とかカタコンベに入るまでに間に合う。
おまけに神秘も味方しているのか、未来視によりどのカタコンベの入り口に向かうのかさえ把握できた。
正にここがターニングポイントだと言わんばかりに。
そうして、俺は辿り着く。
「……お前はッ!」
「痛ッ……!」
出会い頭の発砲。本当にキヴォトスの生徒は容赦がない。
俺の予想を遥かに上回るダメージにより思わず声が漏れる。病み上がりにしても至近距離からの発砲にしても、俺の体がとにかく想像以上に軟すぎる。
やはり、ヘイローを破壊する爆弾が神秘に何かしら影響を与えたとしか思えない。
肩口を押さえながら、錠前サオリへと近づく。
肩が、頭が痛い。視界が二重にぼやける。痛みから苛々が積もる。
今まで数年以上痛みというものに触れてこなかったが故に、耐性が非常に下がってしまっている気がするが、大丈夫だろうか。
爆破後の失神から回復した時も感情のまま怒鳴っていたような気がするし、追い爆発とかの心配をした方が良かったやもしれない。
気が逸れそうになるのを頭を振り気持ちを落ち着ける。
「……死んでなかったのか。なら、ここで」
「待って、話がしたいんだ。未来の、結末のための話が」
視界が何重にも重なって、ずれていく。気持ちが悪い。
しかしながら、吐く訳にも気を失う訳にもいかない。今この瞬間、出来るだけ話を進めなければならない。
銃を持ったサオリが俺の脳天に発砲したようにも見えたが、頭に衝撃は来なかった。
言葉を選ぶ。何も敵対したい訳ではないのだ。
可能であれば、先生との対話にまで繋げたい。
まだ事態は混み合っていない。対面させたところで出会い頭に発砲することはないだろう。俺という先例のせいであまり信用できるか分からなくなったが。
「……まず、私の名前は日隠メア。所属は風紀……まあ、今はいいか。私の方は初めまして、だ」
「……」
「そして、アリウス分校……アリウススクワッドの錠前サオリ。ごめんね、話が進まなさそうだから」
銃を構えて一向に喋ろうとしないサオリに代わって言葉を続ける。
余計眼光が鋭くなったような気もするが、名乗ってもいないのに名前を使われるとそういう反応にもなる。
まず課題として解決しなければいけないのは、巡航ミサイルの発射だ。全ての元を辿ればベアトリーチェに行き着くのでベアトリーチェのアリウスからの排除でも良い。
ヘイローを破壊する爆弾、巡航ミサイル、ユスティナ聖徒会の
それがアリウス生徒という追い詰められた人達にとって、共通の敵、共通の感情という救いだったのかもしれない。
ただ、サオリ自身もこのことには自力で気づくことが出来ていた。
もっと早く気づけば、もっと早く行動できれば、最悪の一歩手前じゃなくもっと前で止まれる筈だ。
「サオリは、アツコを助けたいんだよね」
エデン条約を滅茶苦茶にしようとしているのは、それが理由の筈。流石に俺の存在があるからと言ってそこまでが変わるということはないだろう。
アツコを助けるにはベアトリーチェの排除、それか儀式の失敗を狙う必要がある。
ベアトリーチェが敵対者として動き出すための先生がいればショートカットが出来るのかもしれないが、先生の助力は100パーセントではない。
俺自身もヘイローを破壊する爆弾を使用された身として、十分敵対者としての素養はある可能性もあるが、どちらにせよ先生の力はあったほうが良い。
今の俺の耐久力にいささか不安が残る。いざ殴り合いになったところで負ける未来しか見えない。
「……今のままじゃアツコは助けられないよ」
「お得意の未来視という奴か」
「どうしたらアツコを助けられるか、未来の視える私に聞きたくならない?」
まあブラフでしかない。
そんな都合よく未来は見れないし、見れた未来はアリウスの追っ手から逃げるスクワッドの様子のみ。助けられる100パーセントはどこにも見えていない。
相手はどうやら聞くつもりもないらしい。
「私達は使命を全うするだけだ。予言の大天使、未来視の悪魔、だったか。ここで貴様を始末すれば、もう失敗しない」
サオリが先生に助けを求めれば、きっと何とかなる。筈だ。
ふと、何か思いついたかのようにサオリが口を開いた。
「……目を閉じて、私が撃つ弾を避けてみろ。もしその未来視の力とやらで避けられたら考えてやる」
……未来視の力はそう都合良くないのだが。
「“遅いな……”」
“外された包帯を眺める。”
「“メア、大丈夫かな?”」
“その時ふと肘がぶつかり、ガラガラと見舞い品が音を立てて崩れ落ちてしまった。”
“ 慌てて元の位置に戻していると、他の物とは少し毛色の違う物を拾った”
「“……あれ、これって……”」
「“メアの、学生証……?”」
だいぶ混沌として解らなくなっている…
着地点が分からなすぎて割とどうしようもない。
なのでとりあえず次回完結を目指して頑張ります。
学生証
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メアに渡す
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預かっておく