僕のマッシュルアカデミア   作:いる科

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好評ならつづき、かくかも。


中学生活編
マッシュ・バーンデッドと無個性の少年


 世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。

 ……という前触れで始まる物語、『僕のヒーローアカデミア』通称ヒロアカ。

 

 何らかの異能を持つのが当然の世界で、何の能力も持たない無個性に生まれてしまった少年『緑谷 出久』が、No.1ヒーローのオールマイトにその精神性を認められ、能力を受け継ぐ……。

 といった大筋の、王道かつ斬新なコミックである。

 

 そして。

 今ここに。

 本来、ヒロアカ世界には居ないはずの――無個性にして、ある意味では誰よりも個性的な少年がいた。

 

「押戸か……それとも引き戸か……」

 

 マッシュ・バーンデッド14歳。

 これは彼が、己が筋肉だけで全てを解決し、最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 

 ■ ■ ■

 

 折寺中学校。

 緑谷出久と爆豪勝己の出身校であり、物語序盤の展開が繰り広げられる舞台。

 時は本編より少し遡り――緑谷と爆豪がそれぞれ、中学三年生を迎えたその初日だった。

 

「皆三年生進級おめでとう! 藪から棒なんだけど、転校生が来たよ。入っておいで!」

 

 転校生イベント来たァァァァ!! と盛り上がる各々を横目に、爆豪は一人嘲笑する。

 

(ハッ! 誰が来ようと関係ねーよ)

 

 こんな事で一々騒ぐのは、モブがモブたる所以。

 誰が来ようとこの爆豪勝己の築いた牙城は崩れない。

 この底辺校からたった一人、あの雄英に行き……その事実は逸話となって語り継がれるのだ。

 

 しかし直後。

 そんな爆豪の余裕は、刹那のうちに吹き飛んだ。

 

 ガタガタガタガタ! と、ドアを開けるだけならば決して鳴らない音が教室中に響く。

 

(は?)

 

 バキッ! と鳴り響いた、木材の断末魔。

 そう。つまり。

 おそらく転校生であろう黒髪の少年は、あろうことか。

 あろうことか……教室のドアを壊し、その手に持って現れたのだ。

 

「はじめまして。マッシュ・バーンデッドです。よろしく」

 

 しん、と静寂に包まれる教室。

 皆が同時に思った。

 

(いや……怖……)

 

「るあああああああああ!? 何ドア壊してんの!!? つかどうやったら壊れんの!!?」

 

 唯一、間欠泉より溢れる湧き水の如き思いの丈を激情のままぶつけてくれたのは、教師だった。

 ありがとう先生。アンタ、原作より輝いてるよ。

 

「……押戸か引き戸か分かんなくなっちゃって……なんとかしようとして……」

 

「結果壊してるけどねぇ!!? どーしてくれんのこれ!? 学校の備品よ!? 高いよ!?」

 

「ごめんなさい先生……直します……」

 

(((素直だ……)))

 

「ま、まぁ……反省してるなら、うん……弁償とかはいいや……とりあえず自己紹介して。名前と趣味、好きな食べ物、将来の夢。……あとは……個性かな」

 

「あ、はい」

 

 教室のドアを壁に立てかけて、マッシュは自己紹介をはじめる。

 それはもう、とてつもなく端的に。

 

「マッシュ・バーンデッド。趣味は筋トレ、好きな食べ物はシュークリームです。ヒーローになって毎日シュークリーム食べるのが夢で、個性はないです」

 

(個性が……ない……!?)

 

 緑谷は思わず食いつく。

 無個性ながらにヒーローを夢見る……言わば同士の存在は、信じ難いものだった。

 何故なら。

 

 他でもない自分が、その夢を否定され続けてきたから。

 

 次いで、爆豪が興味を失くす。

 

(チッ……登場が派手なだけの噛ませかよ)

 

 無個性の雑魚に一瞬でも自分がビビった……その事実に、酷く腹を立てながら椅子を揺らす。

 

「あ、席はそこね。緑谷の隣だ。色々教えてやれよ~緑谷」

 

「は、はい!」

 

「分からないことばかりで、迷惑かけるかもだけど……よろしく、緑谷くん」

 

「う、うん! よろしくね、マッシュくん!!」

 

 緑谷は、ほっと胸を撫でおろす。

 

(良かった……意外とまともだ……! 色々聞きたいことあるし……仲良くなれたらいいな……!!)

 

「で。こっちがケビン、こっちがマイク」

 

(…………!!? 筋肉に名前つけてる!!? 怖……っ!!)

 

「それでこっちがトム、こっちがキムにヤマダにコウジにサトミに……」

 

「いきなりジャパニーズになったね!!?」

 

「帰国子女だから」

 

「関係ある!?」

 

 何はともあれ、こうして無事(?)にマッシュは折寺中学への転入を果たしたのだった。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 その日の放課後。

 緑谷のマッシュは、成り行きで共に帰路についていた。

 

「マッシュくん、学校はどうだった?」

 

「授業が分からない。まずいな、これは」

 

 参考までに、マッシュの学力レベルは2+3が出来ないレベルである。

 

「そ、そっか……高校、目指してるところとかあるの?」

 

「雄英」

 

「雄英!!?」

 

「シュークリーム美味しい」

 

「どっから出したの!? ……え、直!? 直でポケットに入れてたの!?」

 

「二つあるけど。デクくん、食べる?」

 

「ア、イタダキマス……デク……!!?」

 

「? 名前じゃないの? ほら……あの爆発ヘアーの人が」

 

 爆発ヘアー。

 爆豪勝己のことである、とすぐに緑谷は察する。

 日常的にデク、デク、と緑谷の事を呼んでいるから、そのせいで緑谷デクなる名前と勘違いしたのだろう。

 これは緑谷にとっては、かなりおっかない話である。

 木偶の坊から由来する蔑称が、いつの間にか自分の代名詞になってしまうわけだ。

 実に恐ろしい。

 

「あ、えと……それはかっちゃんが僕をバカにして……あっ、かっちゃんっていうのは勝己から来てて……爆豪勝己、なんだけど……」

 

「……? あだ名ってこと? 友達っぽくていいね、デクくん。親しみやすさもピカイチ」

 

「ア、ウン」

 

 緑谷出久というキャラクターは、一見凡人のように見えてそうではない。

 物語全体を通して、狂気的なまでの自己犠牲とヒーローへの執着を見せる彼の数々の行動が、多くの人間の心と体を動かしていくことになる。

 

 ……とはいえ、今はまだそうではない。

 無個性が故にいじめられ、前に進む気持ちをへし折られ。

 ただ闇雲に、目標を掲げることでなんとか心の均衡を保っている状態。

 否。実現性がない、決して叶わないそれは、最早目標とは呼べない――現実逃避に近い理想だ。

 それが今の彼だった。

 

 故に。

 

 友達と呼べる関係性のない緑谷に、やっとこさ訪れた友情チャンス。

 知り合ったばかりのマッシュに、デクなんて蔑称で呼ぶな、やめろ……と強く言うことなど、とても出来ない。

 

 相当察しが悪いのか、仲が良いもの同士のあだ名、ニックネームのようなものだと思ってしまっているらしい。

 明らかに蔑称だというのに。

 帰国子女だというし、常識にも疎いのかもしれない。

 

(ま、まぁバカにして言ってるわけじゃないんだし……全然別に……むしろ好意の表れとして受け取ればまあまあ嬉しいんじゃないか……!?)

 

 そんな彼なのだから、己の疑問の全てをぶつけることなど、更に出来るはずがない。

 彼は、今この時点ではただの弱気なナードだった。

 

(にしたって……雄英進学希望!! 僕と同じだ……き、気持ち悪いかもしれないけど、これって最早運命的な何かなんじゃないか……!!? コミックなら絶対そうだ! で、でも、いきなり無個性のこと聞いたらヤな奴とか思われるよな……取り敢えず仲良くなれそうな話題……話題……そういえば凄いパワーでドア壊してたけど、あれって武術か何かなのかな……人間の通常の筋肉であんなことが出来るものなのか……? ブツブツ……」

 

「ひとりごと、怖っ」

 

 心の中で呟いていたつもりが、いつの間にか本当に声に出ている。

 ヒロアカの作中ではお馴染みの、ステレオタイプなオタクらしい悪癖だ。

 ブツブツブツブツ……。

 マッシュが怖がるのも無理のない絵面であった。

 

「うわ、ごめん!!?」

 

「そんな謝られても。……僕は無個性だし、武術を習ったりはしていないよ。筋トレ一筋」

 

「そ、そうなんだ……」

 

(聞こえてたのか……これならいっそ面と向かって聞いた方が印象良かったよな……あーやらかした……マッシュくんが優しい人で良かったよ……)

 

 と、心の内で猛省しつつ。

 あっけらかんと答えるマッシュに、緑谷はどうやら今ので嫌われただとか、そういうことはないらしいと察した。

 その事実が、緑谷の背中を、とん、と優しく押す。

 中々切り出せずにいた話題を……今、ここで。

 

「じじ、実は僕も、マッシュくんと同じ無個性なんだ……」

 

「あー、クラスの人達が言ってたな」

 

 あまりにもあっけらかんとした返答に、緑谷は拍子抜け。

 結構勇気出したんだけどなぁ、と思いつつも、絞り出すように肯定する。

 

「う、うん……だからその……」

 

「気にすることないんじゃない? 無個性だからって、劣ってるわけじゃないんだし」

 

「……劣ってるわけじゃない……? こ、個性があるのとないのとじゃあ全然……」

 

「筋肉があれば強くなれる。僕は僕より強い人、会ったことないし」

 

「……あ、あはは……そうなんだ」

 

 緑谷は、マッシュのセリフを誇張表現による激励と捉えていたが、マッシュからすれば純然たる本音だった。

 そもそも素直で単純なマッシュに、嘘で人を鼓舞するような真似が出来るはずもないのだが――知り合ったばかりの緑谷がそれを知るはずもなく。

 

 マッシュの真意と、実力を緑谷が知るのは、翌週の月曜、放課後の事だった。




緑谷「ぼくたち」
フィン「気が合うね……」
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