僕のマッシュルアカデミア   作:いる科

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マッシュ・バーンデッドと爆発的イジメっ子

 『ヒロアカ』における第一話の日。

 その日の朝……一週間という時間を経て仲を深めたマッシュと緑谷は、共に登校していた。

 

「うわ、でっけーヴィラン!」

 

「ほんとだ。でかいね」

 

 野次馬根性ではしゃぐ緑谷と、黙々とシュークリームを食べ続けるマイペースなマッシュ。

 

(相変わらず食べるなあ……黙々と……顔何考えてるか全く分かんないし……)

 

 最初こそツッコミの追いつかない緑谷であったが、慣れとは怖いものだ。

 心の中で疑問こそ覚えつつも、完全にマッシュの在り方に順応してしまっている。

 

「見に行こうよマッシュくん! まだ登校時間余裕あるし!」

 

「いいよ」

 

 そうして二人は、本日デビューとなったヒーロー『Mt.レディ』の活躍を目の当たりにする。

 活躍の機会を奪われ項垂れる『シンリンカムイ』をよそに、マッシュは呟いた。

 

「うーむ。ヒーローのお陰で今日も平和ですな」

 

「そうだね……!! にしても巨大化か……派手な個性だなあ……!」

 

「デクくんはホントにヒーロー好きだね。めっちゃノート取ってる……」

 

「そりゃもう!! だってカッコイイじゃないか……!! どんなに困ってる人でも笑顔で助けられるヒーロー……!! あぁ、僕もなりたいなあ……っ!!」

 

 言い切ってから、ハッ、と気づく。

 今まで誰にも肯定されたことのない夢。

 最愛の母ですら、涙ながらに謝るだけで……決して、叶うとは言ってはくれなかった。

 

「なれるんじゃない?」

 

「……え?」

 

「現に僕は助かってるし。……君みたいな良い人と友達になれて、本当に良かった」

 

「…………っ。うん……!!」

 

 緑谷は、熱くなる目頭を抑えるので精一杯だった。

 知り合ったばかりの、友になったばかりの彼に貰った、ただ一言。

 マッシュにとっては、何気ない感想に過ぎない。

 その端的な肯定が、緑谷にとっては、本当に――本当に、嬉しいものだった。

 誠に身勝手ながら、出会って一週間にも満たない彼が、同じ釜の飯を食べる同士に思えた。

 

「マッシュくんは……」

 

「?」

 

「マッシュくんは、どうしてヒーローを目指してるの?」

 

「爺ちゃんに楽な生活をさせてあげたくて」

 

 失礼な話ではあるが、思っていた数億倍はリアルでまともな返事が返ってきたことに、緑谷は目を剥いて驚いた。

 

「そっか……僕がこう言うと何様って感じだけど……凄く立派だと思うよ、マッシュくん! お互い、頑張ろうね!」

 

「やっぱり良い奴だな、君は」

 

 並木道、二人歩いてお裾分け。

 始業を間近に、シュークリームの食べ歩き。

 肴は朝の陽射しに桜の香り――春はまだまだ、始まったばかり。

 

 そうして……始業のベルが鳴り響く。

 

 ――授業を終えて六限目。

 もう緑谷たちは三年生ということで、進路希望のプリントが配られ。

 雄英を志願する爆豪に注目が集まった。

 

「僕と同じだ」

 

「あぁ゛……?」

 

 空気の読めないマッシュの発言に、爆豪の眉間がピクリと軽く痙攣する。

 所謂火種という奴である。

 態々言わなければ何も起こらず済むものを、そこを躊躇なく。

 自覚なく地雷原へと踏み込むのが、マッシュ・バーンデッドという男であった。

 

「そいやあ緑谷も雄英志望だったな」

 

 そして、先生の一言が引き金となって――爆豪の理不尽な怒りが爆発した。

 

「うおお゛いッ!! どういう了見だ、デク!! そこのクソキノコもだ!! 無個性の雑魚共が記念受験かあ!?」

 

 爆豪の地雷に心当たりのある緑谷は、彼の怒りを鎮火すべく、精一杯に言葉を紡ぐ。

 

「ち、違うよ……待って、かっちゃん。張り合おうとかじゃないんだ、ただ、小さい頃からの夢だから……」

 

「夢だから諦めなけりゃ叶うってか!!? お子様気分もいい加減にしろよデク!! てめェが一体何を出来るって!?」

 

「…………で、出来る出来ないじゃ……な、ないんだ……なるんだ、ヒーローに……」

 

「あぁ……!?」

 

「なれるって言ってくれたんだ!! だったらやるしかないじゃないかバカヤローッ!!」

 

 恐れに震える体を黙らせて、声を張り上げる。

 今この瞬間、何よりも怖いのは、爆豪勝己に立ち向かうこと――ではない。

 

(マッシュくんが言ってくれたこと……無駄にしたくない……!!)

 

 教室がしん、と静寂に包まれる。

 それは、誰も、何が起こっているのか分かっていないが故に訪れた、時間の空白だった。

 

 りんごが上に落ちる。

 有り得ないことだ。

 

 オールマイトが負ける。

 当然、そんな事は考えられない。

 

 緑谷出久が爆豪勝己に反発することは、それらと同列。

 彼らにとっては、決して起こり得ない事象の一つだった。

 

 その後、教師の鶴の一声によって授業は恙無く行われた。

 そして放課後。

 

「見て、マッシュくん! 今朝の事件ヤフートップだよ!」

 

「おーすごい」

 

「帰って早くノートに纏めなくっちゃ……!」

 

「熱心だなぁ」

 

 雑談に花を咲かせる二人に忍び寄る爆豪。

 用など言わずもがな。

 

「話まだ済んでねーぞ、デク」

 

「あっ」

 

 爆豪は緑谷の手元からひょい、とノートを奪う。

 そこに、わらわらと集まってきた爆豪の取り巻きが口を挟んだ。

 

「カツキ何ソレ?」

 

「将来の為の……? マジか!? く〜〜緑谷〜〜!!」

 

 勿論それは賞賛の類の驚きではない。

 嘲笑のためのオーバーリアクション。

 いたたまれなくなった緑谷は、思わず大声を出す。

 

「いっ、良いだろ! 返してよ!!」

 

(ビビりながら反抗してきやがって……仲間ができて調子づいたってか……?)

 

 爆豪は変わりつつある緑谷を確かめるため。

 そして何より極限に近いイラつきを発散させるため、ノートを軽く爆発させた。

 個性――爆破。

 これは、緑谷とマッシュが生まれながらに得られなかった、『ヒーローになる権利』そのものだった。

 

「あ〜〜〜〜〜っ!!!! ひどい……っ!!」

 

「一線級のトップヒーローは大抵、学生時から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて! 唯一の! 『雄英進学者』っつー箔をつけてぇのさ」

 

 爆豪は、傲慢な自らの人生設計をペラペラと語りながら、爆破して黒焦げになったノートをポイ、と窓から捨てる。

 これには流石の緑谷も、黙って聞いてはいられなかった。

 

「…………っ、そんなの!! 君の都合じゃないか!!」

 

(チッ……いつもならこんだけ言えば黙って何も言えなくなる癖によ……!! このキノコのせいか……こいつも分からせとかねぇと――)

 

 チラ、と目線をずらすと、そこにはもうマッシュは居なかった。

 爆豪はそれを、いたたまれなくなって逃げ出したものと、勘違いした。

 

「折角できた友達逃げちまったなぁナードくん? ……ま、どうせ受かんねえだろーが、一応さ。雄英受けるなよ。……いいな?」

 

 爆豪は確信する。

 緑谷に起きた異変はやはり、友人が出来たことによる増長であった。

 事実、こうして一人になるだけで――。

 

「〜〜〜〜〜っ」

 

「いやいや、流石に何か言い返せよ」

 

「言ってやんなよ、可哀想に彼はおともだちに見捨てられてショックを受けているのです」

 

 爆豪の取り巻きが小馬鹿にするように茶化した瞬間。

 バァン! と。強風が叩きつけるような、轟音が鳴る。

 

「見捨ててないけど」

 

 マッシュ・バーンデッド、ここに参上である。

 

「え、マッシュくん……? え、ちょ、どこから……!?」

 

 マッシュの手元には、先程爆豪によって捨てられたノートがあった。

 爆豪はこの事象に――何か、とてつもない違和感を感じた。

 

(この短時間で……? 有り得るか……!? ……いや、何考えてんだ俺は。コイツら無個性の雑魚が徒党組んだくらいで、俺の道を阻めるわけがねー!!)

 

 焦燥。

 せめて緑谷の心だけでも、今すぐに折ってしまわなければならない……そんな漠然とした直感。

 それ自体が、普段クレバーな自身の在り方を損なっている事には、まだ気づかない。

 肥大化した自尊心が、『圧倒』以外のあらゆる選択肢を彼から奪ってしまっていた。

 

「……っ!! はっ、そんなに二人仲良くお手手繋いでヒーローになりてぇならいい方法あるぜ。来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイぶううううぅ゛っっ゛!!!?」

 

 がしっ。

 

「言い過ぎ」

 

「……? へ? ……え゛?」

 

 緑谷は、頭の中が真っ白になった。

 爆豪が顔面を捕まれ、持ち上げられている。

 それをしているのは――。

 

「ま、マッシュ、くん…………!!?!? な、なにやって……っ」

 

「いや、これ話通じないなって思ったから……」

 

「て、めっ……え゛!!」

 

 爆豪は、決めた。

 このキノコ頭だけは、絶対に許さない――と。




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