僕のマッシュルアカデミア   作:いる科

3 / 6
感想いっぱい、嬉しい。


マッシュ・バーンデッドと爆破の"個性"

「て、めっ……え゛!! 離しやがれ、この……っ!! クソキノコ!!」

 

 BOMB! と爆豪は掌の汗腺から出したニトロのような汗を爆発させる。

 その威力は、殺傷力こそ大きなものではないが。

 放つ音と光は、人を威圧するには充分すぎるものだった。

 

 この時完璧主義の爆豪が気にしたのは、学生同士の喧嘩で個性を使い暴走した――などという悪評の流布だ。

 だが、この程度の威力であれば怪我をさせることもなく、舐められることもない。

 たとえこの後緑谷たちが騒ごうと、証拠がなければなんとでもなる。

 

 あの教師たちも、初の雄英進学者になるやもしれぬ爆豪を、全力で庇ってくれるだろう。

 そう、これで充分だった。

 みみっちいまでに完璧な道筋、計画だった。

 ――相手が、マッシュでさえなければ。

 

「がぁっ!!?」

 

「それだけ?」

 

 手は離されなかった。

 

(こい、つ……片手で……っ、どんな握力してやがる……ッ!!)

 

 爆豪の抵抗を経て、マッシュの力はむしろ更に強く。

 ミシ、ミシ、と。

 鈍い痛みを伴う軋むような音が、恐怖となって爆豪の脳裏を支配する。

 

(なんで、気づかなかった……! 明らかに……おかしかったろーが……!!)

 

 爆豪が思い出していたのは、緑谷のノートの顛末だ。

 

(俺はあの時、イケスに落ちるようノートを落とした!! つまり……濡れてなきゃ変だ……!!)

 

 そこから導かれる、驚愕の真実。

 

(俺がノートを落としたのを見て全力ダッシュ……!! 落ちる前に拾って……一瞬でここまで戻ってきた……!? ……オールマイト並だろ……!! こいつ……こんなモブ臭ぇ顔してモブじゃねぇ!! "爪"隠してやがったッ!!)

 

 普段の爆豪ならば、その場で気づき、警戒出来た事だ。

 緑谷が爆豪の精神を大きく掻き乱していたからこそ、こうなった。

 目の前の敵の力量を見誤り――あろう事か、"勝利"を当然として、後始末の事ばかり気にしていた。

 

(え゛!? かっちゃんが……えぇっ!!?)

 

 だがかくいう緑谷も――何が起きているのか、全く理解出来ていなかった。

 それも当然だ。

 緑谷にとって、爆豪が誰かにしてやられる所を見るのは、これが初めてだった。

 

 上級生にも果敢に立ち向かい、必ず勝利をもぎ取る――ある意味では、オールマイトよりも尊敬できる身近な"勝利"のイメージ。

 ……それが、緑谷にとっての爆豪勝己だった。

 たった今。その偶像が、崩壊する。

 

「て、めっ……クソっ!! 頭のネジ外れてんのか!? 遊びじゃ済まねえんだぞ……ッ!!」

 

 お互いに雄英を目指す身であるならば、こんな所でいざこざなど起こしてはいけない。

 ヒーローを志すならば、内申が満点である事は当然、風評として清廉潔白でなくてはならない。

 緑谷への軽い嫌がらせ程度ならいざ知らず、"個性"を使ったガチ喧嘩は流石に厳しい。

 ヴィラン予備軍……などと言われてしまっては、ひとたまりもない。

 

 ――ここで終わっておくなら、無かったことにしてやる。

 それがWinWin。

 互いの譲歩、その着地点。

 爆豪は、そう思っていた。

 煮えたぎるマグマのような感情を抑えるだけの冷静さが、マッシュの一撃を食らったことによって戻っていたのだ。

 

「えーっと……なんだっけ。一線級のヒーローは、残すんだよね。……"逸話"ってやつ。見てみたいな、それ」

 

「〜〜〜っ!! テメェ……ッ!!」

 

 一見それは、低俗な煽りだ。

 しかし爆豪は気づいた。気づいてしまった。

 そう。爆豪には逃げは許されない。

 特に、敗北はダメだ。

 

 この場で負けたとして。

 爆豪が職員室に駆け込み証拠の怪我でも見せれば、損をするのは確実にマッシュの方だ。

 雄英進学、という点を抜きにしても。

 曲がりなりにも二年間面倒を見てきた相手と、ぽっと出の転校生では心象に天と地の差がある。

 それに加え、現時点では爆豪が一方的に怪我をさせられている形だ。 

 しかしその選択肢は、爆豪にはない。

 選択の余地が、ないのである。

 

 何故なら、そんな事をしてしまえば爆豪は。

 己の経歴に"敗北"という傷を、自らつけることになるからだ。

 それは爆豪にとって、死に等しい。

 

(それだけは、ダメだ……ッ!)

 

 直後、爆豪は先程よりも、強力な爆破を起こした。

 

「あつ」

 

 流石のマッシュも、これには手を離す。

 

(今ので傷一つねえのかよ……!)

 

 爆豪は、幾多もの逡巡の後に、この喧嘩を買った。

 何よりも。やられっぱなしでいる事を、彼のプライドが許さなかった。

 こうして、マッシュvs爆豪の開戦の火蓋が切られた。

 

(どうしよう……どうしよう!? や、ヤバいよ……!!)

 

 無論、この間に入ってケンカを止められる程の度胸は、緑谷にはなかった。

 これが、あるいは片方がヴィランであったなら、話は違っただろうが――。

 何よりマッシュに助けられた身である。

 彼の意志を害することに、緑谷が臆したことは想像に難くない。

 

「ぶっ殺したらァッ゛!!」

 

 もし相手がマッシュでなければ、"怪我しない程度に"やら"殺さない程度に"といった補足の枕詞がついたに違いない。

 爆豪の持って生まれた天才的な戦闘センスがこの時、がなり立てるが如き警鐘を鳴らしたのだ。

 ――即ち。手加減などしている余裕は微塵もない、と。

 

「死ね!!」

 

 自由になったのも束の間、間合を取り直した爆豪は、爆破を利用した慣性の操作によって、トリッキーに攻め手を構築する。

 普段ならば、渾身の右ストレート。

 それだけで圧倒できる。

 だが爆豪は、マッシュに対してはそれでは通用しないと直感した。

 本気を出さなくてはいけないと、脳が警鐘を鳴らしていた。

 

 数秒の内に……入れたフェイントの数は占めて七。

 目眩しの爆破に怯んだ所に、本命の一撃を――。

 兼ねてより頭の中に描いてきた、無双のイメージを、そのままになぞる。

 そして。

 

「フン」

 

「……ぁ……?」

 

 爆豪は、気づけば地面に横たわっていた。

 頬が、じんじんと痛んでいる。

 

(張り、手……? ビンタ……だと……!? い、いてぇ……!! クソいてぇ……っ!!)

 

 血は出ていない。

 だが……今ので爆豪は、脳をかなり揺らされた。

 暫くは戦闘はおろか、まともに立つことも出来ない状態にされた。

 たった、一発で。

 

(嘘、だろ……俺が、負け……ンな、馬鹿な……馬鹿な……ッ!! 俺、は……っ)

 

「なんか可哀想になってきたな……。終わりにしよっか。デクくんもこれ以上は困るみたいだし……」

 

 マッシュが何を言ったのか、爆豪には分からなかった。

 無論緑谷も、突然自身が呼ばれたことに驚くばかりである。

 

「えっ!? 僕!?」

 

「うん、ごめん」

 

「いや、その……」

 

「デクくん帰ろう。はい、ノート」

 

「え、あ、うん……か、かっちゃん……大丈夫……? 立てる……?」

 

「…………は?」

 

 緑谷は、今何を言ったのか。

 酩酊する爆豪の脳裏に、かつての光景がフラッシュバックする。

 

 あれは、そう。まだ二人が、幼稚園児の頃の話だ。

 爆豪は先頭を歩いている。

 緑谷は、当然のように一番後ろだ。

 爆豪が当然のように出来ることを、モブ達は賞賛する。

 緑谷は何も出来ず、羨ましそうにただ見ていた。

 人は生まれながらに、平等ではない。

 齢四歳にして知る、社会の現実の縮図がそこにはあった。

 

(なの、に、こいつは……いつも、そうだ……前も……!!)

 

 爆豪は、平気だった。

 たとえ足を踏み外して川に落ちても、本当に平気だった。

 

(大丈夫だった!! 平気だったんだ!!)

 

 そうに決まっている。

 爆豪勝己は優れている。

 そのように、天が自身を作ったのだから。

 

――大丈夫? 立てる? 頭打ってたら大変だよ!

 

 心配するような目。

 差し伸べられた手。

 強者が弱者へ、差し伸べる慈愛。

 

(俺をそんな顔で見てんじゃねえ!! 俺は――俺が、一番……っ!!)

 

 刹那。

 爆豪の視界の中に――緑谷の他にもう一人。

 圧倒的強者、マッシュ・バーンデッドの姿が映った。

 彼は爆豪の方を向いていない。

 何を考えているか分からない半開きの目で、緑谷の方を真っ直ぐ、見つめている。

 勝者は、敗者に興味を持たない。

 必然。爆豪は、己が"敗北"を否応にも実感させられた。

 それは度し難い、感情の荒波だった。

 

(…………俺、が……負けた……?)

 

 爆豪勝己人生史上、初の敗北。

 混乱と焦燥の中で、爆豪は身動き一つ取れず。

 惨めにも――自身が見下し続けてきた相手に、手厚い介抱を受けることとなった。

 

 そうして爆豪を保健室に送り届けた後。

 マッシュと緑谷は、共に帰路につく。

 

「ケンカは良くないことだけど……で、でも。凄くかっこよかったよ、マッシュくん。ありがとう……!! ……ぼ、僕も、君みたいになれたらな……」

 

「じゃあやろう。筋トレ」

 

「へ?」

 

「まずは筋肉に名前をつけるところから」

 

「そこから!!?」

 

「うん。ちなみに僕のはこっちがマイクでこっちがケビンで……」

 

「それ前に一回聞いたけど!!?」

 

 あらゆる意味で、ツッコミの追いつかない緑谷なのであった。

 




次回、緑谷改造計画。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。