僕のマッシュルアカデミア   作:いる科

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ついにあの人登場。
時系列は結構本編と矛盾してますが、そこはパラレルってことで。
何より書きたいこと多すぎて亀の足〜。許して。


マッシュ・バーンデッドと掴めないヴィラン

 爆豪によって勉強会が行われる日以外は、三人は一緒には帰らない。

 爆豪は兼ねてよりつるんでいるモブ達と、緑谷はマッシュと共に下校するのが常だ。

 理由としては爆豪がそれを望まないことは当然として……もう一つ。

 

「いち……にっ、いち、にぃっ!!」

 

「いちに、いちに」

 

 二人の下校が、常にトレーニングを伴うものだからだ。

 足首と手首に重りをつけ、一定のペースでランニング。

 声を荒らげながら鬼気迫る表情で走る緑谷と、流麗かつ自然体、息一つ乱さないマッシュが、実に対照的であった。

 

「ふー……ご、ごめんマッシュくん、まだ全然ペース上がんないや……」

 

「気にしないで。二人でトレーニングするのは楽しいよ」

 

「マッシュくん……!!」

 

 二人の性格は非常に、相性が良い。

 マッシュはただただ、純粋な感想を述べるだけ。決して、打算は介在しない。

 その無垢な好意が、どれだけ緑谷の心を救っている事か。

 

 逆もまた然りである。

 どこか浮世離れしているマッシュは、世話焼きの緑谷がいなければもっと多くの事で苦労していたことだろう。

 マッシュ自身それを理解しているから、緑谷には多大な信頼を寄せていた。

 

 一人でとぼとぼ歩く帰り道。

 今となっては楽しく二人、それもヒーローを目指すためのランニングロード。

 

(くるしい……!! でも!! たのしい!!)

 

 マッシュが転校してきてからというものの、緑谷のクオリティ・オブ・ライフは上がる一方である。

 

 ……だが、どうやら今日は些か、様子が異なるようだった。

 緑谷もマッシュも、自身の背後に忍び寄る不穏な影に気がつかなかったのだ。

 

「Mサイズの……隠れミノ……」

 

「……! デクくん!」

 

 それはヒロアカ本編で緑谷に襲いかかった、あのヘドロのヴィランだった。

 ヘドロはマンホールから飛び出し、緑谷に掴みかかると――口内に、自身のヘドロを侵入させる。

 

(ヴィラン!!?)

 

 緑谷は反射的に、鍛え上げた腕を思い切り振り回したが――意味はなかった。

 

「効くわけないだろ流動的なんだから!! 大丈夫、大丈夫。体を乗っ取るだけさ……! 苦しいのは四十五秒程度! すぐ楽になるって……」

 

「ん゛ーーっ!! ん゛ーー!!!」

 

 緑谷はマッシュのトレーニング効果を受けて、原作の初期緑谷よりも遥かに強く鍛えられている。

 それでも、やはり相性というものはある。

 物理的な接触の殆どを無効化する、強力な"個性"。

 緑谷には為す術がなく、藻掻く事しか敵わない。

 

(苦しい、息が、出来ない……っ!! マッシュ、くん、逃げて……っ!! ヒーローを呼ぶんだ……!! こい、つは)

 

 ――シンプルなパワーだけでは、決して勝てない相手だ。

 至極真っ当なプロセスを経て、緑谷はそう結論を出した。

 幾ら強いパンチであっても、液体にダメージを与えることは出来ない……と。

 

(四十五秒、だって……!? いや……五分、だ。五分はもち、こたえて、みせる……っ! くるしい、けど。怖いけど……っ!! 息が出来ないけど!! それでも、ヒーローが来るまで……っ!!)

 

 だから。マッシュくん。逃げて。

 必死に目で訴える緑谷とは裏腹に、マッシュは。

 

「大丈夫だよ、デクくん。……それとお前。地獄行き」

 

 マッシュは、拳を構えた。

 緑谷はダメだ、と思った。

 ヴィランも同じだった。

 自身の"個性"に溺れ、驕り昂っていた。

 

「効かねえぇぇえよ人の話聞いてなかったのかクソガキ!! 俺は流動体――へあ?」

 

「フン」

 

「ごふっ…………!?」

 

 マッシュが殴ったのは、ヴィランではない。

 空だ。

 マッシュは、空気を――空間を殴った。

 

(風圧……!! その手が、あったんだ……!!)

 

 それによって生まれた風圧が、ヘドロヴィランの意識を容易く刈り取る。

 規格外の膂力。

 理不尽なまでの暴力。

 

(……前々から思ってた。まるで……まるで)

 

 まるで。

 

(オールマイトみたいだ……!!)

 

 それは、緑谷の語彙における最大級の賛辞であった。

 そして。

 

「私が来た!! ……ってあれ。終わっちゃってる!?」

 

「うーん。見たことある。誰だっけこのおじさん」

 

 そのオールマイト御本人、満を持してここに参上である。

 

「オールマイトォ!!!? マッシュくん、オールマイトはおじさんじゃないよ!!! あぁ……すごい本物だ……画風が全然違うよ……!!!」

 

「圧怖。ごめん。そっか、ヒーローか。なら安心です。いつもあざます。後このヴィランおねしゃす」

 

 まくし立てる緑谷に若干引きつつも、マッシュはほっと胸を撫で下ろした。

 この気絶したヘドロをまさか、そのままにしておくわけにもいかなかったからだ。

 

「おお、そうか君が倒してくれたのかありがとう!! ヴィラン退治に巻き込んで悪かったね」

 

「いえ、困った時はお互い様なんで」

 

 マッシュらしい、酷く端的な言葉。

 

(……これは……見つけたかもしれません。お師匠。"聖火"を託せる――次の象徴を……)

 

 オールマイトはしかしそこに、人々を安心させるヒーローの大きな背中――その原点を見た。

 

「――君は、大物だな!!」

 

 オールマイトから、そう賞賛されることの意味を――残念ながら、マッシュは知らない。

 

「それほどでも。あ、シュークリーム食べます?」

 

「直で入れてる!? HAHAHA!! オーマイグッネス!! ナイスジョーク!!」

 

 なお、ジョークではない模様。

 噛み合っているようで一切噛み合わないマッシュとオールマイトの会話に、緑谷が乱入する。

 

「そ、そうだ……!! さいっ、サイン、どっか……! あ、このノートに……!! お願いします!」

 

「お易い御用!!」

 

「やったあああああ!!!! やったよマッシュくん、オールマイト直筆のサインだよーー!!!! 家宝だ! こんなの家宝だあああ!」

 

 オタク魂全開である。

 世界で一番尊敬する人に出会えたのだから、無理もない話だが――。

 にしても。

 

「さっきまで溺れてた人間のテンションじゃない……」

 

 マッシュの意見も、もっともであった。

 

「だってオールマイトだよ!!? いいの!? マッシュくんもサイン貰っとこうよ!!?」

 

「いや僕はそういうのいいんで……ヒーロー詳しくないし……」

 

「ええええ゛え゛え゛!!!?」

 

「Shit! とはいえあれだな! これは警察で事情聴取の必要があるかもな!! 少し着いてきてくれるかな!?」

 

「いっすよ」

 

「行きます!!!!」

 

 結論から言うと、警察からの聴取は呆気なく終わった。

 元々ヒーローの追っていた凶悪なヴィランであった事、明らかな正当防衛である事。

 何より、マッシュがヴィランを無力化するに留めており、一切の怪我を負わせていなかった事。

 このような事情から、警察ヒーローそれぞれに、ひたすら賞賛される時間となった。

 

「君のおかげで助かったよ、まだ学生なのに凄いな!!」

 

「いえいえ」

 

「連絡先を聞いてもいいかな? 感謝状とかを出すことになるかもしれないからさ」

 

「おー、やったー」

 

「プロになったら是非うちの事務所に……!」

 

「どもども」

 

「個性が何か聞いてもいいかい!?」

 

「ないです」

 

「くぅ〜〜〜不明路線か!! オールマイトもそうだけどカッコイイよな、分かるぞ!!」

 

「いや……」

 

 当然、無個性である事など信じられない。

 個性届を見ればそう届出があるのだから、後に警察ヒーロー共々大層驚くことになるわけだが――それはさておき。

 

(……凄いなあ。マッシュ君は……それに比べて、僕は……)

 

 そう。緑谷は、何も出来なかった。

 あのヴィラン相手に、何も出来なかった。

 勿論、緑谷も筋トレの成果がすぐに出るなんて思っちゃいない。

 

 だとしても――。

 マッシュと緑谷は、立っている次元が、圧倒的に違いすぎた。

 

 緑谷はその事を、否応にも自覚させられた。

 何より、あのオールマイトの興味の全てがマッシュに向けられていた。

 緑谷にはオールマイトにとって、"熱狂的なファン"以上の何かを感じさせるものがなかった。

 緑谷は観察眼と分析力に優れていたが故に、それを強く肌で感じてしまったのだ。

 

(……分かってた、けど。これは……ちょっと、凹むなあ……)

 

 警察署の外、駐車場で緑谷は一人アスファルトに落ちる自身の影に力なく微笑む。

 数分の間そうしていると、やがて自動ドアの開く音が聞こえた。

 

「では私は急ぐのでこれで!!」

 

 その音を立てたのは、オールマイトだった。

 

「あ、オールマイト……最後にひとつ、いいですか……!?」

 

「ム?」

 

 実の所、オールマイトにはあまり時間が残されていない。

 普段見せている"画風の違う姿"は力み続けることで維持しており、実際の彼の姿は衰弱した骸骨のようなものだ。

 度重なる怪我と入院、手術が彼をすっかり弱らせてしまっていた。

 画風の違う姿――マッスルフォームの制限時間は、短い。

 警察署の御手洗で一時間程度休んだとはいえ、残り一分程度というのが実情だった。

 

 そんな中、待たない、と断言出来なかった理由は何だっただろう。

 少なくともこの時点では――オールマイトの興味の全てはマッシュにあった。

 ならば、緑谷に割く時間などなかったはずだ。

 それでもオールマイトは、足を止め、傾聴してしまった。

 つまるところ、具体的かつ合理的な理由などなかった。

 

「"無個性"でも……ヒーローには、なれますか……!!? いえ、なります、なるんですけど……っ!! あ、あの、僕に……ヒーローを、教えてください……っ!!」

 

 必死に、何かに食らいつくようなその姿が。

 かつての自分の姿に、酷く似ている気がした。

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