「ヒーローを教えろ、か……ときに少年。何故君はヒーローを志す?」
「人を救けるって、滅茶苦茶かっこいいじゃないですか……!! 恐れ知らずの笑顔で助けてくれる……僕も、あなたのようなヒーローになりたい……!! "無個性"だけど……それでも……いや、だからこそ……!!」
思ったより沢山喋られてしまった、とオールマイトは思った。
残された時間は少ない。
「恐れ知らず、ね……。ヒーローには力は必要だよ、少年」
「力……やっぱりそうですよね。だから筋トレ始めたんです! マッシュくんみたいに……!!」
あれを参考にするのは間違いではないかと思うオールマイトだったが、それをツッコんでいる余裕は最早なく。
「HAHAHA! そうか! なら頑張れ少年」
そもそも、頑張っている者に水を差す必要も無いだろう、とオールマイトは判断した。
「では私は本当に急ぐので――」
「え、もう……!? まって、待ってくださいオールマイト!」
「NO!! 待たない!! それでは今後とも……応援よろしくねー!!」
そう言い残して、オールマイトはドビュン、と飛んだ。
それは飛翔ではなく跳躍だが、見る者全てに前者と思わせるほどの圧倒的パワー!!
……それを、緑谷は肌で体感していた。本能のまま、オールマイトに思い切りしがみついていたのだ。
「ってコラコラーッ!! 離しなさい!! 熱狂が過ぎるぞ!?」
「今……離すと、死ん……死んじゃう……っ!!」
「確かに!!」
そうして、オールマイトのタイムリミットはやってきたのだった。
(ああ、Holy Shitだド畜生……!)
さて。
その後緑谷と、トゥルーフォームに戻ってしまったオールマイトがどのような会話をしていたのか、マッシュは知らない。
その日は結局夜遅くの帰宅となってしまったため、家族が迎えに来たのだ。
必然、この日のうちに再度緑谷とマッシュが会話をする機会は訪れなかった。
「マッシュ」
「爺ちゃん。来てくれなくても自分で帰れるのに……」
「このくらいはさせておくれ。……ヒーローの人から聞いたぞマッシュ。凄い活躍だったそうじゃなぁ、流石は儂の子じゃ」
「わーい」
優しげにマッシュに語りかけるのは、マッシュの養父――レグロ・バーンデッドだ。
過酷な異国の土地で無個性として生まれたマッシュが捨て子となるのは、無理もない話。
マッシュにとって、レグロはこの世で最も大切な人だ。
彼がいなければ、今のマッシュは有り得ないのだから。
「爺ちゃん、帰ろう」
「うむ」
「シュークリームある?」
「あるぞ」
「わあい」
(……しっかし、自衛のために筋トレさせたつもりがとんでもない子を生み出してしもうた。ま、結果オーライじゃな!)
レグロというのもまた、やはりマッシュの親と言うべきか、どこか抜けた男であった。
■ ■ ■
次の日。
「うーん。デクくん、今日元気ない? シュークリーム食べる?」
「大丈夫だよマッシュくん。……僕はやるべき事全部やるだけなんだ。……あ、シュークリームは食べるよ」
「美味しい?」
「……美味しい」
そんな心温まる(?)やり取りもありつつ、放課後。
「あのー」
いつも通り各々のトレーニングに励む緑谷とマッシュの元に、何故か。
何故か。
「なんでいるんですか」
「HAHAHA!! マッシュ少年、君に少し用があってね!!」
オールマイトの姿があった。
「僕に?」
「うん、少し二人でお話しよ?」
ピュアな女子か、と突っ込む人間はここにはいない。
「え。いいですけど。昨日の夕食の献立とか……?」
「HAHAHA!! ナイスジョーク!!」
緑谷は推しに出会ってしまったオタクとして使い物にならず、文字通りツッコミの不在である。
「では少し聞かれたくない話なので、着いてきてくれるかな!?」
「らじゃー」
そして二人は、どびゅん! とビルの屋上目掛けて飛んだ。
これは、マッシュがオールマイトと同じことが出来るという証左の一つであった。
「……やっぱり凄いや、マッシュくんは」
先日の件もあって、尽く打ちのめされる、緑谷だった。
「それで、話ってなんですか」
吹き付ける強風に、オールマイトの触覚のような髪がたなびく。
この期に及んで、マッシュは切り裂くように端的だった。
「聞きたいことがあってね。マッシュ少年。……君は何故、ヒーローを志す?」
「なんでって……うーん。人を助けてお金が入るなら、それ以上にいい事ないと思うんで。シュークリーム沢山買いたいし、爺ちゃんに楽させてやりたいし」
「……何故、人を助けるのかな?」
「僕は爺ちゃんに助けられて育ったから。困った時は皆お互い様なんで、やれる事はやります」
「家族に恵まれた、というワケか」
「そうだなあ。爺ちゃんに育てられてなかったら、多分僕はこうじゃなかったと思うから、はい。本当にそうです」
ここに来てオールマイトは、漸くマッシュという男の正体に気がついた。
つまりマッシュは、ヒーローをヒーローとは思っていないのだ。
語る言葉は熱を持たず、しかし確かな人の温もりを感じさせるこの矛盾。
マッシュは至極当然として人を助ける。
それで例え自身が害を被るとしても、力ずくで押し通る。
そうしてその場その場の本能で生きてきた――そのような道で生きてこられるだけの力があって、成り立った。
なんとも微妙なバランスで成り立ってしまったのが、このマッシュ・バーンデッドという男なのだ。
人間という生き物の突然変異、とでも言おうか。
"個性"が人を象徴する時代、全員が突然変異と言ってしまえばそれはそうなのだが。
ともかく"笑顔"を信条とするオールマイトとは……ある意味でかけ離れた存在とも言えた。
即ち。
ナチュラルボーンヒーローを目指し、多くの苦難を乗り越えてそう成ったオールマイトと。
生まれながらにして、その資質を備えたマッシュ・バーンデッド。
(末恐ろしい。もし、同じ時代に生まれていたら――嫉妬せずに、いられただろうか)
そもそも力を渡さずとも、とうに天に愛された存在。生まれついてのヒーローである。
オールマイトは継承者以前にヒーローであり、やはり"譲渡"においても人助けの理念に従いたかった。
既にその道にいる者よりも――かつての自分のように、持たざる者に。
その点で言えば、マッシュは全くもってオールマイトの助けを必要としていなかった。
「あ、僕からもちょっといいですか」
「ム?」
「おじさんがもし暇なら、デクくんを鍛えてあげて欲しいなって思って」
「緑谷少年の事かい?」
「はい。彼頑張ってるけど、僕じゃ教えるの下手くそで。伸び悩んで来てるんで、なんかいい方法ないかなって」
オールマイトは無粋なことは嫌う性格である。
常にアメリカンなジョークを交えて、水を差すようなことは言わない理想のヒーロー。
それでも。
この時ばかりは、聞かずにはいられなかった。
「……彼が、ヒーローになれると?」
「え゛。……なれないんですか? あんなに良い人なのに」
心根が優しいだけでは、ヒーローにはなれない。
オールマイトは咄嗟にそのような反駁が頭に浮かんだのを、首を横に振ってかき消した。
「世界の損失だ……あわわわわわ」
マッシュはあまりにも大袈裟だが、かくいうオールマイトも、緑谷出久という男に……確かに何かを感じていたからだ。
落胆するのは、その何かを突き止めてからでも遅くはない。
「分かった。だが緑谷少年にも当然話は通してからだな!!」
「うす。あざます」
こうして、緑谷のマッシュに対する返しきれない恩が更に増え。
マッシュと緑谷の愉快なトレーニングに、仲間が一人加わったのだった。
「オールマイトに教えて貰えるだなんて夢みたいだ……!!!」
「良かったね」
「うん!!」
(……これ私が教えること、あるかなあ?)
オールマイトは、思った五倍は過酷なトレーニングを二人がしていた事に、驚くあまりであった。
レグロ「もしかして儂の出番、これだけ?」