ヤンデレから逃げて二周目   作:鉄の掟

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お久しぶりです、鉄の掟です。
また書きたくなったので書いてみました。
祝! エルデンリングDLC発売日決定!!


二周目の世界

 

 

 

 

「……はっ!」

 

 薄暗く狭い洞窟の中で目が覚める。

 同時に俺は自分の体を携帯ランタンで照らし、異常がないかを確認した。

 

 良かった、どうやら前の世界での事は無かったことになっているらしい。

 

 前の世界、いや別の狭間の地とでも言った方がいいかも知れない。

 俺はそこで散々酷い目に遭わされた、無論強大な敵に何度も殺されたり理不尽な目にあった事もそこには含まれている。

 

 しかし……何よりも恐ろしかったのは、狭間の地の様々な場所で関わった女性達なのだ。

 

 今でも身の毛がよだつ。

 追ってくる女性達から逃げる為に、巨人達の聳える山嶺に行っても、隠された聖樹に行っても、挙げ句の果てには黄金樹の中に逃げ込んでも……そこに安寧は無かった。

 

 何が間違っていたのかは分からない。

 ただ彼女達の必死の静止を振り切って、円卓の大祝福に祈った事は間違っていなかったのだろう。

 そのおかげで俺はこうしてまた始められるのだから。

 

 未知と恐怖、そして血湧き肉躍る様な冒険を。

 

「おかえりなさい」

 

「」

 

 洞窟の木製の門を開いた瞬間。

 数多のデミゴッドを打ち倒してきた俺が反応できない速度で、人影が突っ込んで来た。

 

 まるで待ち伏せていたかの様に目にも留まらぬ早さで俺を押し倒し、最初の頃は無表情しか見せなかったその顔をだらしなく崩している。

 

 装飾のないシンプルなローブで全身を覆った彼女の名は、メリナ。

 俺が恐怖する女性の1人である。

 

「やっぱり貴方の胸の中は安心する、ふふっ……こうしてると貴方と初めてした時を思い出すわ」

 

 俺は望まぬ再会に、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。

 

 彼女、メリナはルーンと呼ばれる狭間の地独自の物を、力に変えられる能力を持っている。

 恐らく彼女が言う【初めてした】というのは、前の世界で初めてルーンを力に変えた時の事だろう。

 

 重ねただけの手は、次第に腕を掴む様になり、最終的に彼女は祝福に触れる度に、俺の事を押し倒してくる様になった。

 

 ルーンを力に変えるのはただ肌を触れるだけでいい筈なんだが……どうしてこうなった。

 

「貴方が私を置いて旅立った時は運命の死を見せようかと思ったけど、こうしてまた会いに来てくれたから、許してあげる」

 

 薄っすらとメリナの閉じた片目が青く光る。

 その青い光は直ぐに閉じ、胸の下からメリナは満足そうに微笑む。

 

 対して、俺は失地騎士の兜の下で苦笑いをしていた。

 

「それで私はリエーニエの辺りが良いと思うんだけど、どう?」

 

 どう、とは? 

 

 俺が質問の意図がまるで分からずに黙っていると、メリナは小首を傾げ何故こんな簡単な事も分からないの? という風な顔をしながら言う。

 

「私と貴方の家の話よ、壺村なら他の雌犬も居ないし静かで良いと思うわ……それに、壺しかいないから何があっても邪魔は入らないし」

 

 壺村の小さき戦士に何を見せる気だ。

 

 俺が小さく首を振ると、メリナはジッと兜の下の俺の目を睨んできた。

 そんな目をしてもダメなものはダメ、後頼むから左目を薄っすら開けようとするのは辞めて欲しいです。

 

「何が不満なの?」

 

「……この世界が以前の狭間の地と同じなら、俺にはやるべき事がある、だからそう言う事は出来ない」

 

 まぁ、半分は嘘だけど。

 

 狭間の地の探検はまたしたいが藪を突いて蛇が出てくるのはもう勘弁だ、なので出来る限り女性は回避しながら旅をしよう。

 アレキサンダーやブライブ、パッチなど人間関係は男だけの関わりで俺は十分だ。

 

「そう……私より貴方はそんな事を優先するのね」

 

 狭間の地の運命を左右する様な冒険を、そんな事って言っていいのだろうか。

 メリナも最初の頃は、黄金樹の麓に帰るのを執着していた筈なのに……何処で何を間違ったのか。

 これが分からない。

 

「……分かった、また旅をしましょう」

 

 良かった、何とか納得してくれた様だ。

 

「マリカをぶち殺さないと一緒に暮らせないものね」

 

 メリナさん??? 

 

 困惑する俺を置いて、名残惜しそうにゆっくりと俺の上からメリナは退いた。

 

 ふわりと彼女の匂いと温かい体温が鎧に残る、まるで獣のマーキングみたいだ。

 このメリナの行動で何度俺が、前の世界で死にかける目にあったのかも知らないだろう彼女は、俺の手を片手で握り歩き出した。

 

「私、貴方が好き」

 

 突然、メリナはそんな事を呟いた。

 

 余りにも突拍子の無い言葉だった為、俺が戸惑い立ち止まると、メリナは深くローブを被り恥ずかしげにこちらへ振り向いた。

 

「本当に怖かったの、貴方が私を置いて消えてしまった時……もう二度と会えないと本気で思ったわ」

 

「……」

 

「でも……この世界でも貴方は居て、私は最初に出会うことが出来た。好き、大好き、愛してる……死が二人を蝕んでも側に居させて?」

 

 メリナは普段と違い弱々しく正面から抱き付いた。

 

 それは使命も何もかも忘れた、ただの一人のか弱い少女の様だった。

 そんないつもと違うメリナに思わず、守ってあげたくなる様な加護欲がそそられる。

 もしかしたら、メリナはそこまで怖く無いのかも知れない。

 

 何事も決めつけていては進まないし始まらない。

 それは狭間の地では余りにも顕著だ。

 俺はメリナに対して謝罪と反省をし、優しく安心させる様にメリナの細い体を抱きしめようと腕を上げる。

 

「ご主人、騙されやすすぎ」

 

「っ!? ……貴方、何?」

 

 俺は尻餅を付いていた、いや付かされたと言っていいだろう。

 

 何故なら俺の目の前には、頭に透明なクラゲを被った小柄な少女が、口から漏れる紫色の液体を手で拭いながら、片手で眠り壺を握り潰していたからだ。

 

「……もしかして、クララか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「ぐっ……貴方、毒を……」

 

「あんまり動かないでね、じゃないと……死んじゃうよ?」

 

 少女の見た目からは考えられない程、周りを威圧する様な声がクララから聞こえた。

 

 いやそもそも、さっきは被っているクラゲからこの子はクララだと思ってしまったが、果たして本当にそうなのだろうか? 

 何を隠そう、クララというのは霊体のクラゲだ。

 決してこの子のように少女の見た目では無い、だからこそ俺はクララをよく召喚していた。

 

 人型でないクララは人間関係で疲れた俺にとっては、癒しの存在だった。

 召喚する度に俺を上からその体で覆い隠し、数本の触手を巻き付けてくるのも、何処か可愛げがあって癒されていた。

 癒されていたんだけどなぁ……。

 

「私は既に死んでいる、祝福がある限り私は」

 

「うん知ってる……でも今は消えて?」

 

 そう言ったクララは毒が回り動けないメリナに容赦無く毒液を吐きかけた、毒液を二度喰らったメリナは片目の青い目を開けようとしたが間に合わず、小さな光の粒になり風と共に消えていった。

 

「……」

 

 クララはそれを見つめていた。

 

 まるでそれは戦士が勝利を収める時、勝ち誇る様に。

 その場で立ち尽くし小さな手を拳に変え握り締めていた。

 

「こ、怖かったよぉ……ご主人」

 

「うわっ……クララ?」

 

 かと思えば、さっきの勇猛果敢な姿は何処かに消え。

 クララは半泣きの状態で立ち上がるタイミングを見失い尻餅を付いたまま俺の胸の中に、小さくすっぽりとハマった。

 

 被るクラゲも数本の触手を俺の顔に巻き付け、ぐるぐる巻きにされた俺はクララが退いてくれないと動けなくなってしまった。

 

 俺の胸の中で不安そうに泣くクララは、俺の知ってる弱気で健気でクラゲのクララそのものだった。

 矢張りこの子はクララなのだろうか。

 もしかしたらメリナといいクララといい……この狭間の地では何かが狂ってるのかも知れない。

 

「ううっ……ひっぐ……ご、ご主人、クララの事……怖くない?」

 

 随分と小さく可愛くなってしまったクララは、胸の中で俺の顔を見上げながらそう問いかけた。

 

 怖くないかと聞かれれば、ぶっちゃけメリナを簡単に倒す時点で恐ろしいが……これ以上泣かせるのも俺の良心が痛む為、YESともNOとも取れる曖昧な動きで顔を頷かせた。

 

「そっ……か、えへへよかったぁ」

 

 どうやら肯定の方で解釈したらしい。

 

 俺的には大分否定よりの頷きだったのだが、クララがそう思ったのならそれでもいいだろう。

 

「ご主人、これからまた旅をするんだよね?」

 

 俺は力強くその問いに頷く。

 

 どうやらこの狭間の地では前の世界とは違った事が起きているらしい。

 ただそれが理由で旅を辞める訳には行かない、この狭間の地にはきっと修復者が必要なのだから。

 

「じゃあ早く行こ? 妹も待ってるだろうから」

 

 にこりと笑ってクララは立ち上がった。

 

 いや聞いてないんですけど……というか何でそんな事クララに分かるの? ぎこちない足取りでクララに着いて行く。

 そして昇降機に乗って上に着くのを待っている時、クララはニヤけた口を開いた。

 

「だってこの世界に来る前に、妹と約束したもん。今度こそはご主人と一緒に星をずっと追いかけて……永遠に一緒に居ようねって!」

 

 そう言ったクララの目は何処か禁忌の魔術である、源流の暗い光の様に恐ろしかった。

 

 

 

 

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