ヤンデレから逃げて二周目   作:鉄の掟

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逃れられない愛

 

 

 

 

 

「お前はまた……私の邪魔をするのだな」

 

「それはこっちの台詞、後いつまで旦那様の手を汚い人形の手で触ってるつもり?」

 

 こうなる事を覚悟して自分で祝福に触れた筈が、今更ながら深く後悔してきた。

 

 ラニは掴んでいた手を離し指輪を自分のローブの中に仕舞うと、メリナの方へ向き歩き出した。

 え……ちょっと、小さい方の君も連れてってくれない? 

 さっきから俺の頬を四本の手でつねってくるから凄く痛いんだけど……。

 

「今まで一度も勝てなかった霊体の分際で、今の私に勝てるとでも?」

 

「勝てなくてもいい、貴方との勝ち負けに興味ないから」

 

「……小娘が、調子に乗るな」

 

「人形のおばさんなんて彼は好きじゃないけど?」

 

 お互いに罵り合いをし終わった直後、メリナとラニはほぼ同時に教会の外に飛び出した。

 

 そこからはもう酷いものだ。

 ラニは冷たい魔術を辺り構わず連発し、メリナは黄金の祈祷や戦技を使い、ラニの猛攻に対抗した。

 その衝撃は途轍もないもので、俺は直ぐに教会の陰に避難するが二人の戦いの規模だと然程意味はない様に思う。

 

「お、おい! 何が起こってるんだ!?」

 

 この騒ぎにパニックになったカーレが俺の近くに走り寄る。

 

 その瞬間、俺の頬をつねっていた小さなラニが二本の右腕をカーレに向けた。

 顔の半分が凍り付いたように固まり、カーレに対して警告の言葉を叫ぶ余裕は無かった。

 

「……ふん、私の王に近づくような奴には容赦しない」

 

「何てことを……」

 

 カーレは小さなラニの放った冷たい魔術によって遠くに吹き飛んでいった。

 あれ……というか今喋った? 人間サイズのラニより大分高い声だったけど。

 

「言った筈だ、全てからお前を守るとな」

 

 俺の鎧を器用に跳ねながら地面に降りた小さいラニは、二つの右手で俺を指指すとドヤ顔でそう言った。

 何て過剰防衛なんだ……カーレはただ俺の方に走って来ただけだというのに、それだけで殺すなんて。

 

「殺しはしていない、気絶程度に抑えた」

 

「普通に思考を読むのやめて」

 

「愛の力だ」

 

 小さい方もそれ言うんだ……。

 

 俺と小さいラニが呑気に話している間に、どうやら二人の決着は着いたようだった。

 

「私の王は! 私の為に指輪を取って来てくれて、更に孤独な旅路にも着いてきてくれると言ったぞ!」

 

「彼は指巫女の代わりとして私を側に置いてくれたし、私の使命の為に黄金樹の麓まで連れて行ってくれた」

 

「そんな事でしか私の王を語れないのか? 私は私の王とあんな事やこんな事までしたことある!」

 

「私は彼といつも抱き合う関係、お互いを求め合ってる関係」

 

「彼は!」

 

「私の王は!」

 

「「「私の事が大好きな夫なんだ!!」」」

 

 

 

 

 うん、おかしいよね? 

 

 さっきまで命をかけた戦いしてたじゃん、いつからそんな嘘吐き大会になってたの? 

 

 ラニさん? 俺指輪は確かに取って来たけど、でもその前に取ってくるものが指輪だと知ってれば行かなかったよ? 

 どうしてもそれが必要だって言って鍵を渡されたら、誰でも行くじゃん。

 

 そしてメリナさん? 間違ってる部分はラニよりは少ないけど、最後の方は間違ってるよ? 

 確かに俺はルーンを力にする為に君を求めてると言えなくもないけど、その言い方じゃまるで恋人の関係みたいに聞こえちゃうじゃん。

 

 で、一番間違ってる所が何でハモるの??? 

 

 うわ……二人共こっち向いた。

 

「このままじゃ拉致開かない」

 

「この際はっきりと決めて貰おう、私の王」

 

 目の前には右側にラニとその足元に小さいラニ、左側にはメリナが仁王立ちで俺を睨む。

 

「「「どっちを妻として迎えるの?」」」

 

「……」

 

 おかしい、こんなの絶対おかしいよ。

 

 そもそも俺は前の世界から逃げてこの世界に来た筈だ、それがどうして前の世界より酷い状況になってるんだ。

 俺はただ普通の関係を望んでいるだけなのに、何故皆んな俺の事をそんな簡単に好きになる事が出来るんだよ。

 

 俺は人に好かれるような、そんな奴じゃない。

 話せないような悪事に手を貸した事もあったし、知らず知らずのうちに虐殺の手助けをしていた事もあった。

 こんな血も涙もない世界で平和は訪れないだろうし、心から平穏を望んでいる訳でもない。

 

 俺は結局、ただの褪せた戦士でしか無い。

 そんな俺が誰かと一緒になるなんて、そんな事思える筈がない。

 例えそうじゃなくとも、狭間の地の女性は何か怖いし。

 

 そして、何よりも自分を選べと目で語る二人に言っておきたい事がある。

 前の世界ではどうしても言えなかった事だ。

 俺は……俺はなぁ! 

 

「俺は男の娘じゃないと興奮できねぇんだよぉ!!」

 

 俺の思いの籠った叫びが、深い夜の中に響く。

 視界の端で何かの花が風で揺れた気がした。

 

 ラニとメリナはその場に立ち尽くして、絶望した目で俺を見つめる。

 その目は次第に下がって行き、ラニはその場に座り込み深く帽子を被ると、何かをぶつぶつと呟き始めた。

 メリナは両腕で自分の身体を抱き締め、膝立ちの姿勢でただ俺の方を暗く淀んだ瞳で見つめて来た。

 

 信じられない、嘘だと言ってくれ、そんな気持ちを痛い程二人から感じる。

 

 そんな二人を目の前に俺は……兜の中で口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁそうとも、俺が男の娘が好きだというのは真っ赤な嘘だ。

 

 俺の迫真の演技力にどうやら二人は上手く騙されてるらしい。

 どうだ! こう言えば流石の二人でも諦めるしかないだろう! 

 男の娘、それはつまり男でありながら女性的な体型と格好、そして声質を持った人の事を指す。

 

 そんな奴は俺が知る限り、この狭間の地には一人として居ない! 

 つまり! 俺はリスクを犯さずして二人の求婚を回避し、その他の女性達にもこの事を伝える事で、将来は何にも怯える事なく冒険が出来るという事なのだ。

 

 何て素晴らしい作戦なのだと自分でも思うが、前の世界では流石に気恥ずかしかった為、言う寸前までは何度か行ったが言うには至らなかった。

 しかし今は文字通り八方塞がり、最後の切り札を使う瞬間はここしか無かった。

 

「だから……ごめん、二人とはそういう関係にはなれない」

 

 俺がそう言っても、ラニとメリナは何も答えない。

 それが少し不気味に感じたが、それも束の間……二人はほぼ同時に立ち上がると、何も言わずに消えてしまった。

 

 残された俺はやっと彼女達から解放されると思うと、踊り出したくなる程嬉しさが込み上げて来た。

 しかし、心は不思議なもので。

 あれだけ恐怖に震え上がった二人の事も、立ち去る時の表情を見たら、もう少し傷付けないやり方があったのでは、と思ってしまう。

 

「さて、取り敢えず祝福も使えるようになったし、朝になるまで体を休めるか」

 

 何があっても祝福の光は褪せ人を拒みはしない。

 

 俺が祝福の側に横たわると、その光は強く俺を包み込むように広がり、心地の良い暖かさと疲れから、俺は眠ってしまったようだった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、流石の僕も照れちゃうなぁ」

 

「……誰だ?」

 

 祝福の側で眠りについた筈の俺は、気付けば祝福の側では無く教会の壁に背中を預け座っていた。

 

 それだけならまだ俺が眠っている間に寝相を変えたのかもしれないが、この世界は何処か夢の中にいるように、教会の外が霧が掛かって見えない。

 そして周りにはたおやかに萎びかけた薄紫のスイレンが、所狭しと生えていて、それも疑問を感じる要因の一つとなっている。

 

 ただ最も違和感を感じるのは、スイレンの花に囲まれて立っている一人の少年……いや少女なのか? 

 髪は長いし背は低い、声も少女の様に高いが、その顔や体付きは何処か少年っぽさも兼ね備えている。

 

「それはそれとして会えて嬉しいよ、エルデの王様」

 

「……何故それを知ってる? 前の世界の事を君は知っているのか?」

 

 俺がそう問うと、目の前の少年? は足元のスイレンを一つまた一つ摘み取ると、何かを作り始めた。

 

 まだ敵が味方か分からないため、俺がそれをジッと見つめていると、少年は俺の視線に気付いた後、「あんま見つめてないでよ」と言い後ろを向いた。

 その仕草はまるで恥ずかしがり屋のクララの様だった。

 

「王様は有名人だからね、皆んな知ってるし皆んな愛しているよ」

 

「……一体何者なんだ、君は」

 

 まるで俺の全てを知っているかの様に少年は話す。

 

 それが酷く不気味で仕方ない、後ろ姿しか見えない少年は少し考え込む様な仕草をすると、また何かを作り始めた。

 

「んー、一番伝えたいのは敵じゃないって事かな」

 

 そう言うと、少年は立ち上がり俺の元まで歩き、スイレンの花と葉を数枚使い指輪の形にしたそれを、両手の掌に乗せこちらに差し出して来た。

 

「はい、これ。あげるよ」

 

 その完成度には素直に驚いた。

 

 あの短時間で見た目も良く、丈夫そうなこの指輪を作っていたのか。

 普段から作っているのか、それともただ単に器用なだけなのか知らないが、何故少年はこれを俺に渡すんだ? 

 

「それは眠りの指輪。もし今後眠る時に僕に会いたくなったらそれを付けてね、そしたら会えるから」

 

「必要だとは思えないが」

 

「必要になるよ」

 

 そう断言した少年は俺の手に指輪を置くと、立ち上がり俺を見下ろした。

 

「もし王様がこの世界でもエルデンリングを求めるなら……それは必要になる」

 

 少年がそう言い残した直後、俺は耐えきれない睡魔に襲われた。

 

 その衝動は比類無く、意識を失うかの様にその場で俺は眠りについてしまった。

 そして、眠りに落ちる直前に少年が残した言葉は。

 

【聖樹で待ってるよ】

 

 だったと思う。多分。

 

 





眠りの指輪

夢の中で少年から渡されたスイレンの指輪。
夜に祝福で休む時にこの指輪を付けていれば、またあの少年に夢の中で会う事が出来るだろう。

少年は数多の謎を残し、消えた。
忽然と現れ、忽然と消えるのだ。


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