写し身の雫とローデリカが居た小屋から進み出した俺は、順調に道中の敵を倒してストームヴィルへと足を踏み入れた。
そしてマルギットと相対し、難なくそれを退けた後、俺は【一人】でストームヴィルの正門前に立っていた。
何故一人なのか……その理由を知るには、マルギットを倒した後の時間を思い出す必要がある。
「流石私の王、瞬殺だった」
律儀に光の粒になって消えた後も、前の世界と同じ台詞を言うマルギットを無視して、ラニは俺に話しかける。
……まだマルギット話してるのに容赦ないね。
「ラニ、話がある」
マルギットと戦った場所からストームヴィルの正門へと続く道、そこを歩く俺の後ろを当然のように着いてくるラニ。
俺は絶対面倒臭い事になると分かった上で、ラニに話しかけた。
「何だ? 私の王」
「ここから先は俺一人で行く、付き添いは不要だ」
ラニの歩く動きが止まり、俺の前で立ち止まる。
ほら見ろ、こうなるのは知ってたよ。
だが俺は瞬き一つしないで俺を見つめるラニに対して、確固たる意志を持ってこれを言う必要があった。
その理由は至極単純、ラニが隣にいると男性陣と普通に会話する事が出来ないからだ。
ラニはその昔、死のルーンを盗み出しデミゴッドであるゴッドウィンを殺害した大罪人として、狭間の地では知られている。
そんな色んな意味で有名人である彼女と共に行動する褪せ人なんて、俺だったら絶対に信用しない。
狭間の地では信用という言葉は存在感が薄いが、俺の精神安定剤である男性陣との広く穏やかな交友の為にも、ラニという存在は隠さず言うと邪魔なのだ。
「……分かった、ここから先は一人で行くがよい私の王」
「? ……あ、あぁ助かる」
ラニは一瞬無表情になったがそれも束の間、直ぐに表情は戻り笑顔でそう言った。
こんなラニの姿は初めて見る。
大体俺からこう言う事を言っても聞く事はなかったし、いつものラニなら今頃逃げる俺を捕まえるのに必死で魔術を放っている筈。
疑問に思っていると、ラニはそれを分かっているかのように自分の左手と、俺の左手を二本の右腕で指差す。
「旦那の言う事はキチンと聞く女だぞ? 私は」
「そ、そうか」
満面の笑みでそう言われると流石の俺も怯んでしまう。
言えない……あの時は助かる為に仕方なく嵌めたなんて。
実際ラニと離れたら、盾を使う時に邪魔になるし外そうと思っていたなんて……言えねぇ。
言ったら間違い無く殺される。
「あのメリナとか言う霊体の女の悔しがる顔が見たかったが……それはまたにしよう」
ラニは何かを思いついたような顔と仕草をすると、俺の方に早足で近づいて来た。
「わ、私の王……これは夫婦の仲なら当たり前にする清い行為なのだが」
「あ、あぁ」
「……い、いってらっしゃいのギューを、してもいいだろうか?」
ラニは恥ずかしげに帽子で顔を隠しながらそう言った。
今まで散々抱きつかれたりされたが、許可を問われた事なんて一度も無かった。
成る程、確かにラニは変わりつつあるらしい。
ラニの体は人形であり冷たい為、あまり触れたくはないのだが仕方ない。
ここで断った方がまずい事になるのは明らかだし、写し身の雫の件で借りもある。
俺が首を縦に頷き胸を開けると、ラニは余所余所しく近づいて来て、俺の体を四本の腕で抱きしめた。
「……やはり私の王は温かいな」
「そうか」
「それに安心する……ずっとこうしていたいが、行かねばならないのだろう?」
「あぁ」
俺がそう言うと、ラニは素直に俺から離れ、手を握る。
「この指輪を付けている限り……私は側に居る。そしていつかこの地を捨て旅立つ時……私の王よ、側にいてくれるか?」
「全てが終われば、俺は君のものになろう」
この言葉に偽りは無い。
ラニはこの狭間の地では大罪人でしか無く、きっとエルデンリングが修復され、狭間の地に平和が訪れた時、ラニの居場所は空にしか無いのだろう。
俺は王でも英雄でも無い、一人のしがない褪せ人だ。
そんな俺が彼女の孤独を癒せるなら、この身この命持っていってほしいと思う。
全てが終わった後、というのが前提だが。
「ふふっ……私はもうとっくにお前の物だぞ? この身体をどうしようが、それは私の王の望むがままだ」
不敵な笑みを浮かべながら、ラニは俺の耳元でそう囁く。
「え、遠慮しておく」
「そうか、残念だ……」
ラニは残念そうに下を向きながら、光の粒になって消えていった。
……人形の体に欲情する人の気持ちが少し分かった気がする。
いやラニに対してそんな事する気も無いし、出来ないのだが。
俺はラニから貰った指輪を外すか悩む。
外すのは簡単だが、外そうと手を伸ばしたら何か途轍もない悪寒がした為、諦めて革のグローブをする事にした。
これなら他人から見たら指輪を付けているなんて分からないし、指輪を外すわけにもいかないので妥協点だろう。
さて……前の世界ではゴストークに言われるがまま、脇の断崖絶壁から入って行ったが……さっきのマルギットとの戦闘で明らかに俺は力を増している事が分かった。
何せ、前の世界では何十回殺された相手を瞬殺したんだ。
少しは鼻が伸びてしまっても仕方ないだろう。
「という訳で正門を開けて欲しいのだが」
「どういう訳か説明してから言えって……まぁいいさ、そうか……分かったよ
あんたが正門の前に行ったら、合図を出してやる……死にたがりに、つける薬はなさそうだ」
何かゴストークが呟いたように聞こえたが、多分気のせいだろう。
前の世界では知らぬ間にルーンを盗まれたり、暗い部屋に閉じ込められたりしたが、そんな事は狭間の地では可愛い悪戯に過ぎない。
俺の目には彼は貴重な話の通じる男に映る。
少なくとも彼は極悪人という訳ではない、ただ単に運が無かっただけなのだ。
心配しなくても奴は俺が倒してやる。
安心して、ここでそれを待っていればいい。
「開門だ! 門を開けてくれ!」
ゴストークがそう叫ぶと、正門が重い音を響かせながら開き始める。
「正門は開けたぜ。あとは好きにするといい」
「あぁ、助かった」
呆れ顔のゴストークにウィンクで感謝を伝えた後、正門からストームヴィル城へと入った俺は、高所からのバリスタやストームヴィル兵の奇襲に難なく対処していき、接ぎ木のゴドリックが居る方へと歩いて行った。