「誰かっ・・・助けて・・・ッ!!!」
男性が助けを求めるも、誰も答えてはくれない。
「ヒーローはまだ来ないのか!?!?」
男性だけではない。
村に住む人々は悲痛な叫びをあげ、ヒーローを呼ぶ。
しかし、その村は都市部から離れた場所に存在しており、ヒーローの到着は遅れていた。
村はとあるヴィランによって瓦礫と化していた。
村の建物は崩れ落ち、地面にはいくつものクレーターができている。
地響が鳴り、揺れによってさらに建物が崩壊していく。
唯一駆けつけていた夫婦ヒーロー『ウォーターホース』は、村を襲撃したヴィランと対峙していた。
住人の救助とヴィランとの接敵、二つを天秤にかけヴィランと抗戦することを選んだ。
住人の中には救助向けの個性を持つ人もいくつかおり、その人達に救助を任せ、ウォーターホースはヴィランと戦っているのだ。
「急げ!!とにかく今はこの場から離れることを考えろ!!」
「息子は!?私の息子はどこなの!?」
「ヒーローが来ない・・・もう駄目だ・・・」
「誰か助けて!!」
救助をする者。
家族を探す者。
絶望する者。
「ねぇ、ママ。あれ・・・」
人々の声が交錯する中、1人の少女が母親を呼び、山を指差す。
その指先が示す方向から『ゴゴゴッ』と大きな物音が鳴り響く。
さらに視界を上に向けると、砂埃と共に木々が崩れ落ちてくるのが人々の目に入った。
「キャーッ!!」
「山崩れだぁぁぁぁ!!!」
ヴィランの暴走によりその土地の地盤は崩れ、山崩れが起きる。
「嫌だっ!!死にたくない!!」
「助けて!!誰か!!助けてオールマイト!!」
絶望の声も山崩れの轟音によってかき消される。
「大丈夫ッ・・・大丈夫よ・・・ッ!!」
母親は娘を抱き抱え、その場にうずくまる。
この娘だけは命に替えても守ってみせると。
母親の個性は火を操る個性だった。
山崩れに対処できるような個性ではない。
いくら娘を庇ったからと言って、山崩れから命を守ることなんて不可能に等しい。
しかし、そんなことは関係ない。
無理だろうが、親として子を守るのは当然なのだ。
たとえ無駄な行為だったとしても。
鳴り響く轟音。
自身に迫る死の恐怖。
恐怖により身体中の血管が収縮し、身体が凍るように冷えていく。
そして、口から出る息は寒さによって白くなっていた。
息が・・・白い・・・?
母親が違和感を感じた次の瞬間・・・
パキパキパキッ!!
何かが凍るような音が村中に鳴り響く。
そして、気がつくと先ほどまでの轟音は全く聞こえなくなっていた。
無音。
何も聞こえない。
自身の耳が恐怖でおかしくなったのかと錯覚したが、周りの住民の困惑する声が聞こえるため正常だと判断する。
「わぁ・・・!!見てママ!!綺麗!!」
胸の中にいた娘が母親の後ろを指差す。
「何・・・これ・・・」
娘が指差した方向を見た母親は驚嘆する。
崩れ落ちる山を含めた村一帯が氷結していたのだった・・・
***
「おいおい!!ヒーローってのもこんなもんかよ!!」
「マスキュラー・・・クッ!!」
ウォーターホースはその場で膝をつく。
水の個性で多くのヴィランと対峙してきたが、マスキュラーの筋肉増強の個性の前では歯が立たなかった。
その日、ウォーターホースは息子を従兄弟に任せ、夫婦水入らずで旅行中だった。
その旅行中にマスキュラーと接敵し今に至る。
ウォーターホースはどちらかというと救助専門のヒーローだ。
ヴィランとの戦闘経験は0ではない。
しかし、マスキュラーレベルのヴィランとの戦闘は初めてであった。
「さて・・・お前らはどんな断末魔をあげるのか楽しみだ・・・!!」
妻は後ろで倒れている。
微かに息が聞こえるので死んではいない。
なんとか妻だけでも逃がそうと試行錯誤する。
しかし、無慈悲にもマスキュラーが目の前に迫ってくる。
山崩れの轟音が響き、村を飲み込んでいく様子が頭に浮かぶ。
(俺は・・・市民を守れなかった・・・すまない・・・)
自身の力不足によって村は崩壊。
そして、1人残してしまう息子を思いながら死を覚悟する。
(すまない皆・・・すまない洸汰・・・)
だが、突如轟音が消える。
(山崩れの音が消えた・・・?)
奇妙な現象にウォーターホースだけでなく、マスキュラーも困惑する。
「なんだぁ!?急に静かになりやがった・・・一体何が・・・なっ!?!?」
マスキュラーが振り返り、村一帯が凍りつく光景に驚く。
マスキュラーはその場から動こうとするも、なぜか足が動かない。
そして、村の方向から10cm程の一筋の氷の道が自身に向かって伸びているのが目に入った。
「なんだこれはッ!?!?」
氷の道の先には自身の足。
その足はパキパキと音を立て凍っており、どんどん広がっていた。
「俺の足がッ・・・凍っていくッ!?!?」
氷結を防ごうにも手段がない。
どんどんと足の感覚が無くなっていく中、男の声が耳に入った。
「あらら・・・こりゃあ随分とこっぴどくやられたなぁ、ウォーターホース」
凍っていない上半身を無理矢理動かし、声の方向を向く。
そこには、白のシャツに緑のコートを着た男がウォーターホースの側にいた。
「ちょっと冷たいだろうが、我慢な」
そう言いウォーターホース達の傷口を凍らせ止血する。
「誰だ・・・誰だお前はァ!!??」
マスキュラーが声を荒らげる。
その声に驚いたのか『ビクッ』と体を震わせ、男はマスキュラーへと向き合う。
「俺か?あー・・・俺はあれだ・・・」
頭をかきながら気だるそうに男は言う。
「俺は・・・正義のヒーロー・・・ってのは違うな・・・俺は何なんだ・・・?」
「ふざけんじゃn・・・ッッッ!!!」
怒号を飛ばすも最後まで言うことができない。
足から凍り広がっていた氷が今ではもう口元まで進んでいた。
パキリパキリと鼻が凍るのを感じる中、マスキュラーは目だけを動かし男を睨む。
(許さねぇ・・・!!絶対にお前を許さ・・・・・・・・・)
そうして完全に体全身が凍りつき、マスキュラーは意識を失った。
「くっ・・・あ、あんたは一体・・・」
「おいおい・・・無理するなって」
ボロボロの体を動かし、自身を助けてくれた男に問い詰める。
しかし、痛みと冷たさで上手く体を動かすことができなかった。
「もうすぐヒーロー達が駆けつける。村の方も俺が対処したから安心しろ」
男はウォーターホースの治療を終え、自転車にまたがりその場を去ろうとする。
「待ってくれ・・・名前・・・名前だけでも教えてくれっ・・・!!!」
必死に問いかけるウォーターホースの姿を見た男は、自転車を漕ぐのを止めて頭をかきながら自身の名前を告げた。
「
チリンチリンとベルを鳴らし男はその場から離れていく。
「クザン・・・」
ウォーターホースは自身の恩人の名前を口にする。
村の方からは、駆けつけたヒーロー達が村人の救助活動を行っていたが、ウォーターホースは村ではなく、自転車で走り去るクザンの方向を見続けていた。