まさかこんなに書くとは思っていませんでした。
これからも頑張っていきます。
温かい目で見守っていただけると幸いです。
腹を決めてまず最初にやった事は、チームへの謝罪だった。
監督からは少し驚くような表情をされたが、「気持ちが切り替わったならよし、これからのゲームで取り返してほしい」と激励の言葉を貰った。
チームメイトからの反応は様々だった。
こうやって考えてみると、入夏は色々な人と関わってきたんだなと改めて実感する。
全て自分のせいにして解決しようとしてきたけれど、それはそれで勿体ない事をしていたような気がした。
試合に気持ちを向け、バットを振り込む。
気持ちは楽になったけれど、それでもバットを振る瞬間は好きだ。
自分が集中できるルーティンというのは大事だと思う。
納得のいく打撃を目指してバットを振る。
雑念が消えたおかげか、体が軽く感じた。
『そろそろ休憩しなよ』
「ありがとうございます、勇名さん」
勇名に言われ、入夏は一度バットを地面に置く。
あの日からオーバーワークにならないよう、気を配るようにしていた。
以前なら焦りもあって従わなかったかもしれないが、今は少し気持ちが楽になったのかもしれない。
「……あの」
今なら、話していいだろうか。
自分の過去の事を。
今抱いている、この感情を。
改めて野球を教えてくれた、この人に聞いてほしい。
そして、言うべきだと思った。
「休憩ついでに、俺の話に付き合っていただいてもいいですか?」
『仕方ないなぁ、いいよ。休んでくれるならね』
「ありがとうございます」
入夏はお礼の言葉を述べ、ほっと一息つく。
そして、話し始めた。
「俺、別に最初からこんな滅茶苦茶な性格だったわけじゃないんですよ」
□
自分は、野球以外あまり取り柄のない子供だった。
勉強も得意ではなく、運動も並外れたというほどの事もない。
内気なので友達も数を誇れるほどはいない。
2つ上に優秀な兄がいた事が余計にコンプレックスを加速させていた。
兄は勉強も運動も出来て、威張らない人格者だ。
プロ野球選手になった今でも、兄の事を尊敬している。
そんな兄に唯一勝てる野球を続けようというのはある意味当然で、子供らしい同期だと思う。
中学生になって、入夏はほどほどの強さの野球クラブに所属した。
全国大会を目指せるレベルではないけれど、みんな一生懸命に野球に取り組む良いチームだった。
そして、同じクラブに仲の良い友達が出来た。
「絶対、プロ野球選手になろうな!」
そんな感じの事を二人で誓った。
詳しい事は覚えていないけれど、誓ったという事実だけは鮮明に覚えている。
同じだと、勝手に思い込んでいた。
自分には野球があった。野球しか取り柄が無かった。
だからとにかく必死にやるしかない。
結局のところ、その差なんだろうと思う。
強制したわけじゃない。
けれど気を遣ってくれたのか、いつも練習に付き合ってくれた。
苦しかったけれど、目標に向かって突き進む事は気持ちが良かった。
彼の顔色なんて、全く考えずに。
3年の春、彼は野球を辞めた。
目に見えて動揺した自分に、彼は「ごめん」としか言わなかった。
申し訳なさそうな彼の表情を見て、ようやく悟った。
―――勝手に彼の気持ちを決めてしまっていたのだと。
兆候は確かにあったはずだ。
ヒントも少なくなかったはずだ。
それでも「信頼」というあやふやなもので彼を縛ってしまっていた。
その事実が、どうしても許容できなかった結果がこれだ。
ならばどうすればいいか。
人の気持ちを読み取る能力が無いと分かった自分の行動はシンプルだった。
分からないのだから、もう追及はしなくなった。
自分の思い通りの結果が出ないのは自身の能力不足故だと思うようになった。
苦しかったけれど、他人を苦しめるよりはずっと楽だった。
人の悩みが平凡かどうかを測るのは結局のところ、平均点だ。
その点で言うなら自分の悩みはちっぽけなのかもしれない。
誰かが死んだわけでもない。
関係が完全に崩れたわけでもない。
それでも、本人にとっては忘れられない傷になる事だってある。
以前の
息を吐くことすら許せなくなるほどの傷だったのだろう。
ずっと、俺にとって野球は呪いのようなものだった。
苦しみながら前進する事こそ全てだと思っていた。
だからこうやってあなたに出会えて、技術を学んで、人を知って。
そうやって前に進んでこれたこの1年間は、とても楽しかった。
少しだけ以前の状態に戻ってしまった時期もあったけれど。
今はちゃんと自分の感情と向き合って、前に進みたい。
□
入夏が話をする間、勇名は何も言わずに聞いていた。
『……そうか。君がそういう方向に頑張ってくれるのなら、俺は嬉しいな』
「それもこれも、結局誰かから助けてもらった結果なんですけどね。あぁ、でも少しスッキリしました。思った事を吐き出すって大事なんですね」
当たり前の事だだろうとは思う。
けれど、その言葉を心地よく感じるのは気持ちが晴れたおかげなのかもしれない。
……って危ない危ない、もう一つの話を忘れそうになっていた。
心地よさに浸っているだけではいけない。
もう一つ、打撃に関して重要な話をしたかったのだ。
「それで、その上で試したい事があるんですけど。改めて、俺と勇名さんで息を合わせてみませんか?」
『ん?? ごめん、よく分からないんだけど。詳しく説明してくれる?』
完全に疑問符がついた口調で勇名は言う。
しまった、過程をすっとばしていた。
けれどこの感覚をどう表現すればよいものか。
「その、ですね。とても表現が難しいんですけど……今まで自分がやろうとしていた事って、『バットを異物として操る』やり方だと思うんですよ。でもオフの修行を経て、一番実力を出すために必要なのは『バットを自分の体の一部として扱う』ことだと思うようになったんです。つまりバットと一心同体になることこそ、俺に必要な事だと思うんです」
始めは悩んでいたような様子の勇名だったが、少しずつ意図を汲みとってくれたのか相づちを打ってくれた。
『なるほどね、なるほどなるほど。だから呼吸を合わせるのか。確かに、それは今の俺じゃないと出来ない話だな。……ふーん。いいじゃないか、乗りかかった船だ。俺がここにいるまで手伝うよ』
「……! ありがとうございます!」
休憩を挟んだのち、入夏は練習を再開する。
鋭く、力まないという事を今まで何度も意識してきた。
しかし、それは結局のところ体とバットの状態が一致していないから起こっていたものだ。
どちらか一方が合わせるのではない。
自分のものとするためには、自然と合致するような形にしなければ。
息を整えて、一振り。
……まだ万全じゃない。
間を空ける。
大丈夫だ。
今はこの結果を、ありのままに受け止める事が出来ている。
◇
試合を終え、入夏は今日の内容を整理していた。
4打数1安打、1四球。
結果としてはぼちぼちだったが、凡退の内容も少しは良くなっている。
まだ勇名との呼吸は完全に噛み合っているわけではないが、それでも確かな手ごたえを感じつつあった。
「ほー、中々良いバッティングしてんな」
入夏がロッカールームの中を歩いていると、阿晒の声が耳に入った。
何かの動画をもう一人の男と一緒に見ながら出た感想のようだ。
阿晒の隣で一緒に動画を見ている男性と入夏は面識がない。
服装を見るに、ドルフィンズの球団職員のようだ。
阿晒のコメントに何となく興味を持ったので、入夏は後ろから声をかけてみる。
「あの、何を見ているんですか?」
「おぉ、入夏か! お前も見てみろよ、これ!」
動画の中では一人の選手のバッティングの様子が映されていた。
選手や観客の様子を見るに、海外で撮影したものだろう。
打席に立つその姿には見覚えがある。
「これ、もしかしてポンズ選手の動画ですか?」
「そうそう!」
阿晒が肯定する。
入夏の見た通り、今年から新加入した助っ人のポンズが海外で活躍していた時の映像を集めたもので間違いないらしい。
「けど、どうして今この映像を?」
「それについては私から説明いたします」
入夏の問いに答えたのは阿晒と話していたもう一人の人物だった。
年齢は入夏と同じくらい、勉強のできる大人しめな人という印象だ。
「申し遅れました。私は
「まぁ要するに、ポンズが改めてどんな選手か知っておきたいって話だ。クリーンナップを任されている以上、求められる役割は重要だしな」
その言葉に、入夏の探求心もくすぐられる。
後ろを打つ打者がどんな選手か把握していくことは、打順が「打線」となるための重要な鍵となる。
言われてみれば、今まで入夏も自分の打席の事ばかり考えていた気がする。
チームを優勝させるためには、味方を知る事も大きな武器となるはずだ。
「あの、俺も動画を確認してもいいですか?」
「お、手伝ってくれるのか! ありがとな!」
入夏も加わり、動画を確認する。
動画の中にはホームランだけではなく、単打や二塁打、果ては凡退までの記録が見やすいようにダイジェスト化して映像に残されていた。
「すごいですね。これだけの映像を外木田さんが撮影したんですか?」
「いえ。この映像を撮影したのは、アメリカにいる別のスカウトマンです。私はその人から指示されたとおりの映像を並べて編集しただけ。なので、大したことはしていません」
動画を繋ぎ合わせる編集が出来るだけでも十分凄いと思うんだけどな。
それにしても。
動画を見ていると、何か違和感が頭の中に浮かんでくる。
それはやがて、一つの結論に達した。
「……これ、日本にいる時の方が大振りになっていませんか?」
「確かに、映像を見る限りだと入夏の言う通りだな。アメリカにいた時の方がコンパクトな打撃をしているように見える。打撃スタイルが変わってるように見えるが、外木田は何か思い当たる所があるか?」
外木田はあごに手を当て、考えるようなしぐさを見せる。
「……変化の原因として考えられるのは球場の広さの違いでしょうか」
「広さ?」
「よく言われますが、『日本の球場はメジャーリーグのそれと比べて小さい』という話は間違いではないです。だから飛距離の面のみに限定して言うのであれば、日本はホームランを打ちやすいと考えてしまうのも無理はないかと」
「なるほど。狙えると分かればつい狙ってしまうもんな」
入夏もその点に関しては納得できた。
普段の球場に慣れている自分が地方球場などの比較的狭い球場で打席に入れば、ホームランを狙いたくなる。
それに、ポンズに関しては枠の問題もある。
一軍に登録できる外国人の数に制限がある以上、周囲は助っ人としての側面を求めてしまう。
そうなれば力んで長打が減ってしまうのは自然とも言えた。
「ポンズ選手はアメリカでは中距離砲という扱いでした。我々もその能力を見込んで獲得したつもりです。アメリカで発揮していた能力のまま日本でも活躍してほしいんですが、それは同じ目線の方が発言した方がより響くのかと思いまして。本来なら我々がサポートするべき部分ですし、他の選手とも自然と仲良くなるのが一番良いとは存じております。しかし、ポンズ選手はその……少しナイーブというか、警戒心が強いといいますか。ロッカールームでも近寄りがたい雰囲気を出していますよね。それもわざとではなくて、異国の環境にあまり慣れていないが故といいますか」
「流石に海外でプレーした事はないけど、何となく気持ちは共感できるな。うーん、手伝ってやりたいのは山々だが、どこから入っていけばいいか……。時に外木田、ポンズって確か娘がいたよな?」
「はい。小学生の娘が一人。現在は学校にも通っております」
「だよな。それじゃあ、そっち方面から話題を作ってみるか……どれくらい出来るか分からんが、ともかくこっちから接触はしてみるか」
「ありがとうございます! こちらからも出来る部分で頑張ってみますので、よろしくお願いいたします!」
外木田は頭を下げ、それでは、とロッカールームから出ていった。
「ちなみに何をする予定なんですか?」
「そうだな。子供もいるみたいだし、ここは日本らしく……アニメで攻めるか」
「アニメ??」
アニメ?
アニメって、animation?
……なんで?
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