天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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お久しぶりです。
色々と時間とモチベが取れず、大幅に遅れてしまいました。


VS深瀬 和仁

 夏の熱を思い出す。

 

 浮かれるような熱は未だ、球場を変えてグラウンドの中にずっといた。

 入夏には打席に立つ自分自身も、そしてマウンド上に深瀬(ふかせ)も夏の延長線上にいるように思えた。

 

『当然分かってると思うが、ビクトリーズの強さを支えているのは深瀬(ふかせ)神木(かみき)、ペレスの先発三本柱だ。……揃いも揃って150km/hオーバーをぽんぽんと投げるパワーピッチャーなわけだが、こいつらを打ち崩さない限りチームの優勝はないと思っておいた方が良い。なにぶんローテーションの半分はこいつらの登板機会がある。特に去年は深瀬にやられっぱなしだったからな。シーズンを通してうちに対しては無敗。苦手意識を持っている選手も少なくはないだろう。勝つためには最小失点で最大限の点を取る、これに尽きる。難しい戦いにはなるだろうが、それぞれの役割を全うすれば必ずチャンスはやってくるはずだ』

 

 ヘッドコーチの言葉を思い出す。

 事実、そう簡単にチャンスを作れる相手ではないという事はよく分かっている。

 ビクトリーズのいわゆる先発三本柱は全体として高いレベルを誇っているが、その中でも深瀬は頭一つ抜けている印象がある。

 開幕戦での完封劇。

 力強い直球は球速以上の体感速度を誇り、今シーズンに入ってから投球割合が増えたカーブも他の投手のウイニングショットになりうるキレと落差がある。

 そして何よりも厄介なのがプロの打者から「消える魔球」と称される高速スプリット。

 直球との見分けがしづらく、本当にボールが消えていると錯覚するレベルだ。

 それらの武器が積み重なって、奪三振数はトップを独走している。

 断言できる。今この時代に君臨している投手は深瀬のほかにいない。

 

「はぁ……俺、お前と対戦するの嫌なんだよな」

 

 ホームベースの後ろでぼそりとつぶやく声がする。

 ビクトリーズの正捕手としてマスクを被っている穗立(ほだて)(じん)のものだった。

 かつて高校No.1捕手と謳われた強肩強打の同世代選手は気だるさを隠しもせずに言葉を続ける。

 

「特に深瀬が投げる日は。スタミナの管理も狂うし、何の因縁があるかは知らんけど、とっとと仲直りなりなんなりしてくんないかな」

 

「それは……まだ、難しいかもしれない」

 

「『まだ』、ねぇ。はいはい、知ってた。6年だっけ? そんだけ仲違いしてたらそりゃ無理だろうよ。一周回ってお前ら仲良いんじゃねぇの?」

 

「……そう見えるのか?」

 

「少なくとも俺にはお前ら二人とも同類に見えるがな。ほら、とっとと構えろよ。あいつは真っ向勝負がお望みなんでね。もっとも、気を抜く暇なんてないだろうけどな」

 

「分かった。正々堂々と行かせてもらう」

 

「……ちっ、クソ真面目が」

 

 一つ間を置いて、深瀬がサインに対して首を縦に振る。

 ゆったりと投球モーションに入っていく深瀬のタイミングに合わせるように入夏も深く息を吸い込んだ。

 意識は変えない。

 出せる力を尽くすというのは、特別な事をするわけではない。

 積み重ねてきたものを繋げられるかどうかだ。

 

 深瀬の右手が見える。

 瞬間ボールが急に大きく見えた。

 球場がざわめく、それもそのはずだ。球場内の電光掲示板では158km/hと記録されていたのだから。

 試合の序盤からトップスピードで飛ばしてきたボールは、全快でいくという深瀬からのメッセージなのだろう。

 

 背筋に少しの冷たさを感じると同時に、入夏の心は熱く燃える一方だった。

 あの深瀬が。近いようでずっと遠かったお前が、全力の高みで俺を待ってくれている。

 

 バットをくるりと3回回して打席に戻る。

 

「ふー……」

 

 恐れるな。

 今できることを最大限にやる。

 

 深瀬が振りかぶる。

 帽子の下から見えたその口端は少し上がっているように見えた。

 先ほどと同じような直球、今度は体が動いた。

 ――—今はこの程度のことしかできないかもしれないけれど。

 これが俺の宣戦布告だ!

 

 快音を鳴らして打球がセンター方向を襲う。

 しかし、すぐに捕球音が鳴り響いた。

 深瀬がグラブを球審に見せるように掲げる。

 とっさに伸ばしたそのグローブの中に完全に捕球されていた。

 

 一瞬だけ視線が合う。

 宣戦布告の気持ちはどうやら伝わっていたらしい。

 

「…………うざってぇ。青春ドラマかよ」

 

 地面についたバットを取るとき、穂立が再びぼそりとつぶやく声が聞こえた。

 

 

「「かっとばせー、う・ば!!」」

 

 初回から相手チームの声援が鳴り響く。

 千葉ドルフィンズと大阪ビクトリーズの今シーズン初めてのエース対決はいきなりビクトリーズのチャンスを迎えていた。

 1番の根古(ねご)がレフト前へのヒットで出塁すると、続く達磨(だるま)はつまりながらも内野の間を抜けるライト前ヒットで繋ぎ、強力打線を象徴する4番・羽場(うば)大悟(だいご)へと打線が回る。

 

 ビクトリーズの打線を表現するには「超重量打線」という言葉がぴったりだろう。

 1番、2番とバットコントロールに長けた選手で出塁。

 クリーンナップに長打力のある選手をずらりと並べ、溜めたランナーを返していく王道的な打線だ。

 これに加えて下位打線にも二桁本塁打を記録したことのある選手やそれを見込める外国人打者が入るなど、チームとして高い完成度を誇っている。

 ただ、弱点がないというわけでもない。

 長打力に重きを置いている打線の代償としてか、スタメンに名を連ねる選手は他のチームと比べてやや恰幅(かっぷく)が良すぎるきらいがある。

 平たく言えば、1・2番を除けば機動力はあまりない。

 そのため、ゴロを打たせることができるかどうか。

 

 ホームベース手前から早々江(さざえ)が内野へ守備のサインを送る。

 サードの三護(さんご)は三塁ベースのやや後ろへ構え、二遊間はダブルプレーを意識して二塁ベースに寄る形を取った。

 右打者の羽場のインコースに構える早々江。

 エースの西部(にしべ)がうなずき、ボールを投じる。

 鈍い音がして打球は3塁ベンチへと飛んで行った。

 2球目、再び早々江はインコースを選択。

 ボールゾーンから内角へと入り込むスライダーはストライクゾーンからやや外れてボール。

 続く3球目。早々江が選んだのは……インコース寄りの位置だった。

 投じられたボールは打者の腰元から鋭く打者の内側を攻める。

 ばきっと音が鳴り、バットの先端が宙を舞う。

 勢いのない打球はあらかじめラインをしめていたサードの正面へ。

 三護はボールを捕球した勢いそのままに三塁ベースを踏み、1塁へとボールを投げる。

 送球はやや高くなったものの、右腕を伸ばしたポンズがしっかりと捕球しこれで3アウト。

 先ほどのボールは恐らくシュートボールだろう。

 西部の直球はややシュート回転をする軌道のため、余計に判断しづらく感じたのだろう。

 ……ピンチの場面、それも4番打者相手に全てインコースを突き切ったバッテリーのメンタルと投球術は素直に脱帽せざるを得ない。

 

 西部と深瀬の投げ合い、先手を打ったのはビクトリーズだった。

 4回の裏、2アウトからランナーを一塁三塁に置いて、打席には6番の穂立。

 

 試合は深瀬の圧倒的なピッチングと、西部をはじめとしたドルフィンズ投手陣の粘り強い投げ合いが続き8回へ。

 今日の入夏は深瀬に対してノーヒット。

 この回の先頭で深瀬の4度目の対決かと思われた勝負は予期しないアナウンスによって遮られた。

 

『ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、深瀬に代わりましてジョーンズ。背番号49』

 




短くてすんません……
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