書いてはいたんです。
ただ時間がかかってしまいました。
そんなわけで今回は大体1.5倍の文量でお届けします。
「ブルペンは準備させてます。次の回には登板できますよ。……その、やっぱり交代させますか?」
「あぁ。球数を考えればまだ投げられるだろう。だが、中盤に入ってからボールの質が落ちている。ボールを受けている
ビクトリーズの監督に促されるままに穂立
「スプリットの落ちも段々早くなってきています。シーズン全体の事を考えてもここは他の投手で継投をした方が得策かと」
堂々と胸を張って迅は進言する。
良くも悪くも、今日の深瀬は感情に乗りすぎていた。
前半こそ勢いよく飛ばしていたが、中盤あたりにその反動が来ていたらしい。
球威が落ち、コントロールも深瀬にしては甘くなっていた。
それでも無失点というのが恐ろしいところだが。
「深瀬は納得したのか」
「
深瀬は面倒くさいが、自分の投球を客観視できないほどの馬鹿ではない。
むしろ、一番歯がゆい状態なのは深瀬の方だろう。
エースとしての
だから、あいつが言われたくない事を言ってやった。
――—そんなピッチングだと、入夏に打たれるぞ。
言葉だけでも深瀬には効果てきめんだったらしい。
こっちからフォローするつもりで言ってやったんだけど。そんな睨むなよな。
深瀬はこちらを睨んだ後、憎々しげに了承の声を上げた。
「わかった」って言うだけなのに濁点をつけんじゃねぇとは思ったけれど、予想より話が早くまとまって安堵した。
正直なところ、入夏の何を恐れているのか、俺にはよく分からなかった。
意味不明というやつだ。UFOとか、そういう類の。
入夏は良い打者だとは思う。同世代の右打者で言えばマッハトレインズの
……俺もバッティングにはそこそこ自身はあるけど、まぁ捕手だし。総合力で戦うタイプだからそこは意地を張るような部分じゃない。
高校時代に深瀬と因縁があるという話も知っている。
けれど、ただそれだけだ。ここは高校野球ではない。プロの世界だ。
結果を出したと言えるのは去年の1シーズンだけ、同じリーグでも入夏より優れた実績を持つ打者は当たり前のようにいるし、世代を跨げば入夏以上の実力を持つ選手は全然いる。
正直、深瀬はそういう立場にない。これから何度かMVPを取って、メジャーに行く投手だ。
そんな中、入夏を終生のライバル扱い(言ってはないけど実質そう)しているのだから、深瀬の自己評価はよく分からない。
ただ、恐ろしいというのは今日の対決でなんとなく分かった気がする。
なんか。本当になんとなくなんだけど。
見ているもの、見えているものが他の打者と違う気がする。
今日もヒットは打ってないけど、一番いい当たりを打ったのはあいつなんだよな。
願わくばとりあえず今日はそのまま眠っていてくれ。じゃないと俺が気まずい。
◇
『ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、深瀬に代わりましてジョーンズ。背番号75』
ざわざわと球場内から動揺の声がする。
うるっさいなぁ、打たれたら打たれたで色々言うくせに。
プロの試合数は100試合以上ある。
シーズンを完走して先発が登板できる数は大体25回とかそれくらい。
その試合を全て完投できる投手はいない。
だからこそ、後続のリリーフがどれくらい抑えられるかは見ておくのも戦術の一つだ。
リリーフのジョーンズが自慢である金髪のドレッドヘアーを帽子ごしに揺らしながら投球練習を行う。
……たびたびすっぽ抜けるけど、それでも抑え込むだけの球威はあると思う。
「……深瀬はどうした。怪我か?」
左のバッターボックスに入った入夏がこちらをじっと見て言った。
別にそんなんじゃないし、何なら多分原因お前だけど……。
よし、煽っとくか!
イライラして力んでくれたら儲けもんだし、何より楽しいし。
「別に~。いつも通りだよ。3打席も立ったなら決着は着いたようなモンでしょ。わざわざ勝負するまでもないってさ」
まぁ、勝負するまでもないって判断したのは俺だけどな!
さぁて、どれどれ。どんな様子の顔を―――
「そうか。それもそうだな。分かった」
ちぇっ、反応薄いなぁ。
そういうよく分からねぇ表情してるから勘違いされやすいんだよお前は。
あーあ、煽る相手間違えたかも。
マウンドを見ると、ジョーンズがチューインガムを噛みながらサインを待っている。
分かってるよ、ここを抑えれば問題ねぇ。
2番の槍塚は左ピッチャーに対して苦手意識がある。
3番の鳥居はパワーピッチャー相手には警戒するほどの飛距離は飛ばせない。
配球を間違えなけりゃ、お前のボールは打たれねぇ。
さてと、どう攻めるか。
入夏の打撃フォームはぱっと見4月あたりのそれと変わりがないように見えるが、細かな部分に変化がある。
特にバットの持ち方。以前なら力んでポップフライも望めるのだが、今回はそれがなさそうに見える。
攻め方は変えない、あくまでもいつも通りだ。
ストライクが取りたいときは変化球で、引っかけさせたいときはボール覚悟のストレートで押し込む。
ジョーンズは丁寧に投げ分けられるピッチャーではないが、押し切るだけの球威を持っている。
まずはカーブでカウントを有利にすすめたい。
直球狙いだろうから、冷静に低めに、とジェスチャーを送る。
ジョーンズが投じたカーブは予想通りのふわりとした軌道をかけてストライクゾーンに入る。
入夏に振る様子はなし。
球審がストライクと高らかに叫んだ。
さて、一歩に有利になったところで……今度はスライダーを外角、左バッターへの泣き所に……。
よし、良いコース。
まさに狙い通りのコースだったわけだが、球審の手は上がらず。
これで1ボール1ストライクへ。
……チッ、どっかの国みたいにAIか何かでストライクゾーンか判定してくれりゃいいのによ。
まあ泣き言は言っても仕方がない。
外角の速球でカウントを取ろう。
変化球ばかりだとかえって狙われそうで怖いし……。
にしてもこいつ、頭の中はシンプルなくせしてポーカーフェイス気取るようになりやがって腹立ってきたな。
できるだけ低めにいくように……。
ジョーンズが投じたその3球目は狙いより少し外れて高くなる。
そのボールを入夏が見逃すはずがなかった。
強烈なスイングで快音を周囲に響かせる。
打球は……と迅が立ち上がると、ライン際でライトの
――—おいおい、マジかこんなの。
「ファール!!」
打球が着弾した音が聞こえた刹那、審判の一言で球場は落ち着きを取り戻した。
ファンの中には安堵している表情の者も見える。
つか俺も肝冷えたわ、今のは。
まぁいい、今ので追い込めたわけだし。
ジョーンズの気持ちも警戒モードになってくれるだろう。
このカウントになればもう直球はいらない。
変化球だけで空振りを取るか、引っかけさせりゃ楽々アウトだ。
とりあえず、見せたれ左殺しのスライダー!
……え、首振んの?
じゃあ、カーブで仕留める?
……これもだめなのか?
つーか首振んなマジでお前はさぁ!!
ストレートだろ!? どうせストレートでさっきのリベンジしたいんでしょ!?
分かりやすすぎて狙いもろバレだわこの馬鹿!
ただでさえ球種少ねぇし狙い絞りやすいってのに……。
あー、くそ。
分かったよ。
インハイに今日一番のストレートな。
じゃなきゃ許さないから。
左バッターの内にミットを構える。
ジョーンズが力強く首を縦に振って、投球動作に入る。
投げる瞬間、僅かな体の動きのズレが見えた。
――—あっ、外に来る……と直感的にそう思った。
がつん、と固い何かで殴られたかのような音が脳内にこだまする。
それが幻聴ではないと気づいた時には、既にボールは宙へ舞っていた。
混じる歓声と悲鳴。一塁審判が右手をくるくると回す。
悠々とベースを一周していく入夏を尻目に、俺はジョーンズと同様にただただ首を垂れるしかなかった。
完全な逆球。ただ、致命的というほど球威がないわけではなかったのはジョーンズ本人の様子を見れば分かる。
むしろ押し切れるくらいの力があったはずなのだが……研ぎ澄まされたスイングはいとも容易く右翼席へと飛び込んだ。
なるほどね、前言撤回。
そりゃ深瀬もライバル視するわけだ。
確かにこいつは恐ろしい選手だ。何がきっかけかは知らないが、恐るべきスピードで成長している。
さて、と……。
一息吐いて腰を落とす。
普通にやべぇなこのシチュエーション。
まぁホームランは事故だしジョーンズも立ち直ってくれるだろうが……。
困ったな。俺、どんな顔してベンチに帰りゃいいんだ?
その後、開き直ったジョーンズは2番の槍塚をストレートで空振り三振、3番の鳥居はショートゴロ、4番の阿晒からはスライダーで見逃しの三振を奪うピッチングで傷口を最小限に留めてみせた。
――—すまん。
――—仕方ねぇ、あんま気にすんな。
言葉の壁はあるが、ジョーンズとそんな趣旨の言葉を交わし、ベンチへと足を運ぶ。
あー、深瀬がベンチに座って腕組んでる~。
帰りたくねぇ……。
「あー、深瀬? その、いや、なんだ……悪ぃ。お前のピッチングをふいにしちまって。さっきのホームランは俺のミスだ。あまりジョーンズを責めずにやって……」
深瀬はこちらを一瞥し、俺の右肩を叩く。
その口角は僅かに上がっているように見えた。
「良い。それよりもお前……俺に借りが出来たな?」
……。
…………。
やば。
◇
うおりゃあああああ!!!
8回の裏、無死二塁。
4番手のナイルから気合と根性で放った打球は鋭く三遊間を抜ける。
これで今日は2安打目!
勝ち権利を消した事実は取り返せないが、何とか今日は勝たねぇと。
絶対に後でとんでもない借りの返し方をさせられそうな気がする!!
……とりあえず一仕事したところで、状況を整理しよう。
ランナーは代走の
いつも通りの快速で、先ほどの俺の打席中に盗塁を決めてくれた。
ヒットで次の塁に進み、これで無死一三塁。
ダブルプレーでも杓が帰れば1点は取れる。
そんでもってバッターは7番、高齢ながらもメジャーで通算200本塁打を記録した大打者、スタンバーグ。
打率は低いが、その分当たった時の飛距離はチームでも随一だ。
犠牲フライを警戒してか、ナイルは中々ストライクが入らない。
ついには四球で、あっという間に無死満塁。
絶好の機会で打席には8番、
応援歌がチャンス専用のものへと変わり、球場内のボルテージが一気に上がっていく。
「「「オオオ……オイ!! オイ!! かっとばせー、や・ま・だ!」」」
「たまには打てよ山田ー!!」
「打たんとスタメン取れへんぞ山田ー!!」
応援歌に混じって何か聞こえるな。
晴さんは俺らより1個上の世代。
本職はキャッチャーだったが、出場機会を増やすため現在は内野手登録。
主にファーストやレフトで起用されることが多い。
何でって言われたらまぁ、俺の影響がデカいんだけど。
それでもスタメンを張れるくらいには打撃が安定しており、温厚な性格で先輩として尊敬に値する人だ。
あと、なぜか厄介ファンが多い。ちょっと可哀そう。
あんまなめんなよ、晴さんの打率2割後半だっつの。
ナイルが大きく肩を上下し、迎えた初球。
山田が持ち味のシャープなスイングで打球を捉えた。
打球はライトとセンターの中間、やや前へと飛んでいく。
――—落ちる。これで大量得点だ。
確信したその時、ボールの下から一つの影が恐るべきスピードで襲う。
センターの舘だった。
グラブをギリギリのところでボールと地面の間に滑り込むようにしてのスライディングキャッチ。
スピード、ボールの速度、グラブの位置。あらゆる要素が嚙み合わないと不可能な技術。
まさに、神業。
三塁ベースを踏んだままで待機していた杓はタッチアップして生還することができたが、塁間で打球を見ていた俺は三塁には進めなかった。
強い選手が一人だけなら何とでもなる。
だが、今年のドルフィンズは―――。
これは連覇に立ちはだかる大きな壁になるかもしれない。
歓声一色の球場の中、俺はそう思った。
唐突なキャラクター紹介のコーナー!
このキャラクターを暖めるために今回長引いたと言っても過言ではないキャラ、その名も山田晴!
バッティング良し、長打そこそこ、守備が上手いときた選手。
作品に記述されている通り、ポジションは一塁手と左翼手です。
「打てる捕手」の触れ込みで入団しましたが、「めっちゃ打てる捕手」の穂立迅の台頭によりポジションコンバートを余儀なくされました。
打率は安定して2割後半、本塁打は2桁に届きそうで届きません。
そして厄介ファンとアンチが多いという設定です。
何故ならめちゃくちゃ競合しやすいポジションだから。
去年も新外国人や他の選手とレギュラー争いさせられたせいで規定打席に立ててません。
ただ打撃での安定感がピカイチで守備も優秀なので、「山田レギュラー辞めろ!」から「山田で良くね?」になりがちです。
今年も新外国人のスタンバーグとレギュラー争いをするかと思われましたが、スタンバーグの守備面の衰えが編成の想定以上に低かったため、レギュラーに落ち着きそう。
という蛇足でした。
次回をのんびりお楽しみに。