天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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とても今更ですが、この小説はフィクションです。
実在の人物や事件には一切関係ありません。
ご注意ください。


バグりヒーロー

「お前、多分ヒーローインタビューに呼ばれるだろうから準備しとけよ」

 

 阿晒(あざらし)にさらりと指摘され、入夏は聞き流しかけた言葉に再び耳を傾けた。

 

「そうなんですか?」

 

「今日の試合、打撃で一番活躍したのお前だしな。3の2でホームラン1つ、2打点だろ? 言っとくけど今日のヒーローインタビューは代わってやらないからな」

 

「……どうしましょう。何も考えてませんでした。久々すぎて何を言えばいいのか全く分からないんですけど」

 

 顔を真っ青にして入夏が言う。

入夏は自らが評価されるのは好きだが、目立ちたいわけではない。

人前で話す事は得意ではないし、注目を浴びながらインタビューを受ける事態ともなれば、サヨナラのチャンスで打席に立つ時以上に緊張する。

 

「どんな事を話すべきなんでしたっけ。世界平和とか……? ラブアンドピースって言えばいいんですか?」

 

「普通でいいんだよ普通で。そこまで深く考えなくてもいいんじゃないか? 打った時どんな気持ちだったかーとか明日からまた頑張りますーとかそういうのでいいんだよ」

 

 分かったら力抜け、と阿晒に肩を揉まれ入夏は深呼吸する。

どこかからまた突き刺すような視線がしたと同時に、アナウンサーの声がマイクにのって聞こえてきた。

 

『放送席、放送席! お待たせいたしました、ヒーローインタビューのお時間です。本日のヒーローは二人! 今シーズン初本塁打を含む2安打2打点の活躍の入夏選手、そしてプロ初登板で見事なリリーフを見せた鳴子(なるこ)選手です!』

 

 あ、二人なんだ。

それはそれで何だかモヤっとする。

そんな思いを抱きながら入夏がふと横を見ると、髪を下ろして亡霊のようにたたずむ鳴子の存在に気づく。

驚きのあまりその場から転げ落ちそうになる体を抑え、ヒーローインタビュー用に設置されたお立ち台に登る。

後ろからあのビジュアルでついてこられるのは怖かったので鳴子は先に行ってもらった。

 

『それではまず、入夏選手。今シーズンの初ホームラン、どういった感触でしたか?』

 

「きれそうでした」

 

『え?』

 

「え? ……あ、打球の話です。かなり際どいところだったので入るか不安だったんですけど。感触は、良かったです。はい」

 

『今シーズンは中々苦しい状況が続いていましたが、その中で今日一軍再昇格、そして即スタメン出場でしたね。結果を出せたのはどういった面が影響していると思いますか?』

 

「はい。今年に入ってから上手くいかない事や予想外の事ばかりで難しい時期が続いていたんですけど、実りもありました。今はそれを一軍で発揮していきたいと思っています」

 

『ありがとうございます。それでは鳴子選手。プロ初登板はかなり厳しい場面での登板という事になりましたが、改めてどういった気持ちで投げましたか?』

 

「ふふふ。ランナーをくぎ付けにして、打者に対しては冷や汗をかかしてやろうという気持ちで投げました。気持ちは100点だと思います」

 

『途中でヘアゴムがちぎれるハプニングもありましたが、その後は素晴らしいピッチングでしたね』

 

「あれはハプニングとも言えますし、そうでないとも言えますね。分かりやすく言えば『お約束』というやつです」

 

(分かりやすく……? もっと複雑になってないか……?)

 

 頭に疑問符が浮かんでいるのは自分だけなのだろうか、と入夏は不安になる。

 

『……はい、なるほど。ありがとうございました! それでは最後に入夏選手、現地のファンに向けて何か一言、お願いします!』

 

「……えっと。今日は球場まで来てくださってありがとうございました。明日も勝てるように頑張りたいと思います」

 

『ありがとうございます! 本日のヒーロー、入夏選手と鳴子選手に大きな拍手をお願いします!』

 

 拍手に包まれ、入夏はファンのいる方向へ改めて礼をする。

横にいた鳴子が「ふふふ。()()()、ですね」と笑みを浮かべ呟いていたのが聞こえたが、入夏には意味がよく分からなかった。

 

 

以下

 

 監督談話

 

―――初勝利おめでとうございます。

 

「どうも。しかしこれからもずっと試合が続いていくわけなんで、これからですね」

 

―――入夏が2安打2本塁打2打点の活躍。

 

「まあ二軍でずっと見てきたので驚きはしないですよ。入夏にしても万田にしても、あぁあと舘や鳴子にしてもね。実力を持ってると判断した上で昇格させたので」

 

―――守護神を務めていたナイルの負傷退場はやはり痛いか。

 

「当たり前に決まってんだろバカヤロー。今からリスタートって時にな。事故は事故だしこんな事を言っても仕方ないけど」

 

―――今後の守護神は。

 

「最終回の守備は誰でも投げられるわけではないという事はよく知っているので、よく考えようと思います」

 

 

 

他球場の結果

2(スパークス)3(マッハトレインズ)

4(ビクトリーズ)1(パイレーツ)

 

 今回のピックアップナイン

 

ビクトリーズ(以下V)深瀬(ふかせ) 8回途中1失点の好投で勝利も「悔しい」

マッハトレインズ(以下M)越智(おち) 盟友救うタイムリー「頑張ってくれていたので」

フィッシャーズ(以下F) 眞栄田 自画自賛の2ラン「完璧」

M 田吹(たぶき) 今シーズン最多 13球粘ってのヒットに「出塁するのが僕の仕事」

V ロドン 技ありの決勝タイムリーヒット

ドルフィンズ(以下D) 万田 好守&プロ初3塁打「阿晒さんが走ってくれたおかげです!」

B 入夏 今シーズン初本塁打に 「次は160km/hを打ちたい」

パイレーツ(以下P) 宇坪(うつぼ) タイムリーに珍コメント「どの球種を打ったかよく分からない。速かったので」

スパークス(以下S) 敗戦も綱井(つない)2盗塁 指揮官「怪我さえなければ盗塁王も射程圏内」

 

 

 

 

 激闘から一夜が明け、とあるマンションの一室。

椅子に座り、ハサミの音を鳴らしながら一人微笑む入夏の姿があった。

 

「くくく……」

 

『え、何笑ってんの。怖いんだけど』

 

 背後から聞こえた勇名(いさな)の声に、入夏は思わず飛びのきそうになる。

勢いで落としそうになったハサミの掴んで一息つくと、不機嫌な顔で勇名の元へと振り向いた。

 

「起きてるなら起きてるって言ってくださいよ。びっくりするじゃないですか」

 

『起きた直後にハサミ持ちながら怪しげに笑う人がすぐ近くにいた俺の気持ちも考えて? というかそもそも何してんの?』

 

「新聞のスクラップブックを作ってるんです」

 

『スクラップ?』

 

「記事を切り取って本にしていく作業です」

 

『いやそれは知ってるけど。え、何のために?』

 

 勇名の声は極めて純粋に不思議がるものだった。

確かに実力も実績も持ち合わせていて、日ごろから活躍していた彼からすれば意味が分からないのだろう。

明日から上手くいかなくなって、生活が危うくなることなど微塵もないのだろう。

 

「……笑わないでくださいよ。人からの賞賛は()()()()なんです。賞味期限は短い、言った人でさえもそのことをすぐに忘れてしまう。結果で評価が変化するスポーツ、それを何試合もやるプロとなればもっと短くなります。だから、その時の評価を忘れず噛みしめられるように、こうやって形にしたいんです。あ、(たち)のプロ初安打も小さいけど記事になってる。切り抜いておこ」

 

『周りからの評価だけが全てじゃないと思うけど?』

 

「分かってますよ。けど、俺はあなたみたいに自分で自分を肯定できる何かがあるわけではないですから。全てじゃなくても、それに支えられてる人間はいるんです」

 

 しゃきしゃきと紙を切る音を鳴らす音だけが部屋に寂しく響く。

入夏は先に予防線を張っていたが、やはり小馬鹿にされるのではないかと思っていた。

人々に夢を見せるプロ野球選手としてはあまりに小さな器であることを、どこかで自覚していたからだ。

 

『ふーん…………』

 

「何ですか。やっぱりおかしいですか。自意識過剰だって思いますか」

 

『そんな事ないさ。けど、だったらインタビューもちゃんとしないとね。喋る能力って野球でも結構大事だよ』

 

 完全に痛いところを突かれ、入夏は苦い顔をした。

 

「一応これでも角田(かくた)さんに教えてもらったはずなんですけど……。あ、そういえば少し思い出したことがあります。以前角田さんに会った時に勇名さんの写真を見たら、何か自分だけ勇名さんの顔だけ見えなくて。どうしてなんでしょう?」

 

『……縺?*繧峨l縺斐▲縺溘=縺?>縺代°縺ェ』

 

「え?」

 

 その時勇名が発していたのは音ではあっても、言語ではなかった。

勇名は何かを話していたのかもしれない。

しかし、()()がかかったような、どこかしらからノイズが流れたような不協和音しか入夏には聞こえなかった。

 

『隱ー?溘′郢皮伐縺よュ」菴鍋衍險?繧上¢縺ェ縺?シ』

 

「勇名さん!? ちょっと、どうしたんですか!?」

 

 明らかに異常な事態と恐怖を前に、入夏は慌てふためいた。

機械が暴走したかのように勇名は不協和音を垂れ流している。

こういう時どうすれば。

悩む入夏の頭に浮かんだのは、高校時代の同級生で仏門に入っている塩谷(しおや)が以前話していた言葉だった。

 

『塩っていうのは昔から邪気を払う効果があるものとして使われてきたものだ。考えたくはねぇけど、もしその喋るバットがお前に危害を加えそうになったら塩を撒いてみろ。無いよりはずっとましだ』

 

 入夏は急いでキッチンに駆け込み、大さじに塩を入れてリビングへと戻ってくる。

勢いのまま勇名に大さじに入れた塩をぶっかけた。

 

『うぇっしょっぱぁ!!?? なになに、何が起きてるの!?』

 

「あ、戻った」

 

『あれ、入夏君? ……もしかしてだけど俺、変な事口走ってた?』

 

「全然聞き取れませんでした」

 

『そっか。何を言ったかは覚えてないけど、君が聞くべき話ではなかったって事だろう』

 

 そうですか、と入夏は安堵する。

この時、はぐらかせずに問い詰める事が出来ていたなら。

彼の事をもっと知ろうとしていたら。

もしかすると後に起こる悲劇には繋がらなかったかもしれない。

しかし、そんな事をこの時の入夏は知る由もなかった。




 というわけで新企画「ピックアップナイン」を開催します!
本文に書いてある今回のピックアップナインのところに9名の選手の記事見出し風の文章を書いております。
この中から皆さまが面白そう、どんな選手だろうと興味を持っていただいた選手にアンケートで投票していただこうという企画です。

 初回なので主人公も入れております。
最初ということで本当に深く考えず、ぱっとした印象で投票いただければと思います。
上位3名の選手を記事風にして書き出す予定です。
もし票が集まらなかった場合はランダムで決めます。
また、他の小説投稿サイトでもこの企画を行うのでハーメルンのみでの投票結果が完全に反映されるというわけではありませんのでご了承ください

 長々となりましたが、よろしくお願いします!

 感想や評価、ここすきをいただけると嬉しいです!

ピックアップナイン 第一回

  • V 深瀬
  • M 越智
  • F 眞栄田
  • M 田吹
  • V ロドン
  • D 万田
  • D 入夏
  • P 宇坪
  • S 綱井
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