天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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アンケートは来週までで締め切ります。
よろしくお願いします


悲哀のいちげき

 検査の結果、クローザーのナイルは左足の骨折が診断された。

復帰まで大体1か月はかかると球団は発表。

圧倒的な成績を残していたわけではないにせよ、抑えとしてチームを支えていた助っ人の離脱はドルフィンズにとって大きな震撼を与えた。

急遽(きゅうきょ)中継ぎが1枚欠けたため、ドルフィンズは高卒3年目の勝之木(かちのき)を一軍に合流させる。

しかしやはり、試合終盤の不安が拭えないまま埼玉フィッシャーズとの今カード2戦目を迎える事となった。

 

スターティングラインナップ

 

千葉ドルフィンズ

 

1番 ライト    入夏(いりなつ)水帆(みずほ)

2番 レフト    (わたり)孝之介(こうのすけ)

3番 セカンド   鳥居(とりい)帝人(みかど)

4番 指名打者   阿晒(あざらし)兵太(ひょうた)

5番 ショート   万田(よろずだ)英治(えいじ)

6番 ファースト  早々江(さざえ)(しん)

7番 サード     トマス・ムール

8番 キャッチャー 垣田(かきた)(あたる)

9番 センター   (たち)正宗(まさむね)

先発投手      萩川(はぎかわ)(いたる)

 

埼玉フィッシャーズ

 

1番 レフト    浜町(はままち)千尋(ちひろ)

2番 センター    レナード・グレース

3番 セカンド   梶木(かじき)(がく)

4番 サード    金師(かなし)有世(あらせ)

5番 ファースト  眞栄田(まえだ)天空(てんく)

6番 指名打者   佐原(さはら)(ひろし)

7番 ライト    田中(たなか)(さとし)

8番 ショート   丹生(うにゅう)千里(せんり)

9番 キャッチャー 浦島(うらしま)吉平(きっぺい)

先発投手      (はた)秦志(やすし)

 

 両チームとも捕手を入れ替えるなど昨日の試合から少しオーダーを変えている。

ドルフィンズは5番だったムールを7番に下げ、万田を5番に昇格。

サウスポーに対して極端に強い早々江を6番に置き、得点力の増加を目指した形だ。

先発には大卒2年目の若手投手、萩川をマウンドに送る。

 

 一方のフィッシャーズはクリーンナップを動かさず、下位打線に手を加えた。

安定した守備と意外なパンチ力を兼ね備えた田中、リードに優れ投手からの信頼のある中堅・浦島をキャッチャーに据えた。

先発のマウンドにはベテラン左腕の旗が中6日で上がる。

 

 

 

 初回の表、フィッシャーズの攻撃。

ドルフィンズの先発投手・萩川は得意のシンカーで初回を三者凡退、上々の立ち上がりを見せた。

奪ったアウトは全て内野への平凡なゴロ、時間にして僅か3分で守備を終えリズムを作る。

 

 対してその裏、旗の立ち上がりを迎えると同時に入夏も第一打席に入ろうとしていた。

初球、アウトコースいっぱいにストレートが決まり1ストライク。

2球目は外角からボールゾーンに曲がるスライダーに入夏のバットが止まりボール。

そして3球目、緩いカーブが低めに決まり2ストライクとなった。

かなり丁寧なピッチングだ。

打席で何球かボールを見た印象として、入夏はそう感じていた。

初球の直球が電光掲示板に138km/hと表示されていた通り、ボールとしては速く感じない。

その代わり打者にとって遠く打ちづらいコースを徹底して投げている。

追い込んでから投球間隔をほとんどあけずに投じられた4球目は、これまた外角低めへのチェンジアップだった。

中途半端にバットに当てただけの打球はショート正面でのゴロとなり、1アウト。

最後まで丁寧に投げ抜かれた事、そして自分のバッティングがまったくできなかった事に対して入夏は唇を噛みながらベンチへと足を運んだ。

 

 先頭打者を打ち取った旗は続く渡も初球を内野へのフライに打ち取り2アウト。

3番の鳥居はライナー性の強い打球を放つも、運悪くサードの正面をつき3アウトとなった。

 

 2回、3回と両先発は互いの強みを生かし、ランナーを一人も出さない快投を続けゲームはどちらが先に1点を奪うかの勝負になると考えられた。

試合が動いたのは4回の表、1番の浜町がセンター前へ両チーム通じて初めてのヒットを放ったところからだった。

続くグレースに対してはスライダーを詰まらせたが、打球が失速した事も重なってライトを守る入夏の前にポトリと落ちるヒットとなる。

パーフェクトから一転、ノーアウト一二塁のピンチを背負った状態でフィッシャーズの強力クリーンナップとの対決を迎えた。

 

 3番、梶木との勝負は1球で終わった。

スライダーを引っかけながらも打球は三遊間へ。

サードを守るムールが飛び込むも届かず、ボールはレフトへと抜ける。

かと入夏は思ったが、ボールは外野へと転がらなかった。

ショートの万田が内野の深い位置でボールを掴み取っていたのだ。

 

(けど、あの距離じゃギリギリ間に合わない)

 

 右打ちの梶木は特段俊足というわけではないが、鈍足とは評価できない程度には足が速い。

1塁ランナーは間に合わない、であれば投げるならファーストだ。

しかし体勢が悪く、捕球した位置からはかなり距離がある。

通常のケースに比べて悪送球を招いてランナーを生還させてしまうリスクが高いため、入夏が同じ立場だったら送球はしないだろう。

 

「んなせばなるぅ!!」

 

 しかし万田は全く躊躇(ちゅうちょ)することもなく、捕球した体勢から体を宙に浮かせて送球した。

ボールは山なりの軌道を描きながらも一塁へと正確に飛んでいく。

ファーストを守る阿晒が足とミットを精一杯伸ばし少しでも早い捕球を試みた。

ベースを駆け抜ける梶木が先か、それともボールが一塁に届くのが先か。

捕球音が鳴る、そして。

 

「アウト!」

 

 一塁審が軍配を上げたのは守備の方だった。

ただ、この判定に対してフィッシャーズのランナーコーチは不服を唱えている様子だった。

向こうの監督はその様子を見て、審判に対して再審議を求めた。

プロの世界では「リクエスト」と呼ばれるこの制度は、二回失敗するまで判定のやり直しを求める事が出来る。

 

 球場内に一時中断のアナウンスが流れるとともに、電光掲示板では先ほどのプレー、特にファーストが捕球する瞬間を繰り返し流していた。

 

(アウト、かなぁ)

 

 確かにギリギリのタイミングではあるが、捕球する方が僅かに早く見える。

映像が繰り返されるたびに歓声が上がっていたのはドルフィンズファンの方だった。

 

 それにしても、と入夏は心の中で万田に賞賛を送っていた。

遠い距離からの遠投や送球の正確さもそうだが、一番は彼の精神性のようなものに力を感じた。

ほとんどの人が無理だろうと諦めるところで一歩を踏み出せる強さ、ミスを恐れないハートの強さ。

そのメンタリティは見習わなければ。

 

 入夏が予想していた通りアウトの判定は覆らず、1アウト二三塁となって打席には4番の金師が入った。

ピンチで4番、さらに一塁が空いている状況のため敬遠して次の打者で勝負という事も考えられたが、バッテリーは勝負を選んだようだ。

初球、警戒したバッテリーは低めの変化球で凡打を誘うも乗らず1ボール。

この時、もしも2ボール0ストライクであればバッテリーは間違いなく敬遠を選んでいただろう。

惜しむらくはその判断がいささか遅かったことだ。

高めに浮いた変化球を完璧に捉えた打球は豪快な音を残し、充分な角度と速度を付けて放物線を描く。

レフトは一歩も動かないまま、ボールがスタンドに入るのをただ見送る事しか出来なかった。

文句のつけようがない完璧な3ランホームランだ。

 

(今のはやっぱり狙っていたのか……かなり飛んでるし)

 

 同じプロといっても、実力にはそれぞれ差はあるし見習うべきところがある。

フォームや打ち方といったメカニックな部分であったり、打席での心構えや振る舞いもそうだ。

その点金師はホームランを打ち慣れているからか、やはり振る舞いも落ち着いて―――。

いや待て、泣いてないかアレ?

2塁を回った金師の目元がキラリと光った事で、入夏の疑念は確信に変わった。

本当に泣いてる。

え? 何故?

塁上で泣くことを責めようとは思わないし、自らがそれを言える立場ではないと入夏は自負している。

ただし、これに関しては全く意味が分からなかった。

要するに、意味わからん怖というのが入夏の率直な感想だった。

 

 この一発で緊張の糸が切れたのか、萩川はこの後も連打を浴びこの回5点を失った。




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ピックアップナイン 第一回

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