天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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早咲きの花火①

 互いに1勝1敗で迎えたドルフィンズ対フィッシャーズとの3戦目。

試合早々いきなり開幕の号砲が鳴り響いた。

ドルフィンズの先発投手・ゴードンが投じたこの日の第1球。

すっぽ抜けにも近いカーブをフィッシャーズの先頭打者・浜町(はままち)が逆方向へと弾き返した。

打球はライト方向へとぐんぐんと伸び、ライトを守る入夏の頭上を高く超えてスタンドへと一直線に突き刺さる。

プレーボールホームランという鮮烈な一発で試合は幕を上げた。

 

スターティングラインナップ

 

千葉ドルフィンズ

 

1番 ライト    入夏(いりなつ)水帆(みずほ)

2番 サード    三護(さんご)(しょう)

3番 セカンド   鳥居(とりい)帝人(みかど)

4番 ファースト  阿晒(あざらし)兵太(ひょうた)

5番 ショート   万田(よろずだ)英治(えいじ)

6番 指名打者   槍塚(やりづか)(だん)

7番 レフト    (つくだ)爽一郎(そういちろう)

8番 キャッチャー 志々海(しじみ)大和(やまと)

9番 センター   (たち)正宗(まさむね)

先発投手       ミカエル・ゴードン

 

埼玉フィッシャーズ

1番 ライト    浜町(はままち)千尋(ちひろ)

2番 レフト     レナード・グレース

3番 セカンド   梶木(かじき)(がく)

4番 サード    金師(かなし)有世(あらせ)

5番 指名打者   眞栄田(まえだ)天空(てんく)

6番 キャッチャー 西村(にしむら)(るい)

7番 ショート   丹生(うにゅう)千里(せんり)

8番 ファースト  (ともえ)(らん)

9番 センター   羽瀬(はぜ)慧太(けいた)

先発投手       ジェイク・ロバートソン

 

 ドルフィンズは打線を全て日本人で埋め、これまでショートで出場していた両打ち(スイッチ・ヒッター)の三護を2番・サードとして起用。

先日のインタビューで苦心していたと話す2番打者にテコ入れをして今日の試合に臨む。

対するフィッシャーズは初戦とオーダーを変えない布陣だ。

 

 先頭打者弾を浴びたゴードンはその後もヒット、凡打を挟んで死球と乱れに乱れて初回だけで4安打2四死球4得点を献上、3つのアウトを取るまで打順は9番まで進んでいた。

いきなり出鼻をくじかれておかしくなったのか、それとも今日は元々調子の良くない日だったのか。

おそらく後者だろう、と入夏は感じていた。

投手経験のない入夏にとって確固としたことは言えないが、腕の振りがあまり良くないが故にコントロールが定まっていないと見えた。

 

 さて、ものは切り替えようだ。

世の中には10点差を逆転した試合だってあるのだ。

4点差など悲観するほどではない。

そのためには先頭打者としてまず出塁しなければ。

 

 何度も踏みならされたバッターボックスでバットを3度回し、入夏が打席に入った。

対する投手は助っ人右腕のロバートソン、防御率は4点台前半ながら援護に恵まれ今シーズンで既に3勝をあげている。

ドルフィンズと対戦するのは今回で2回目、前回は5回2失点の勝ち負けつかずという結果だった。

なお入夏はその試合に出場していなかったので今回が初対戦という事になる。

 

 初球、ストレートがアウトコースぎりぎりに吸い込まれストライク。

球速としてはさして速くは感じないものの、ボールがシュート回転しているので左打者の目線からは逃げるような軌道を描いているため厄介ではある。

2球目はストレートを続け、入夏が打ち返すも一塁線を切れてファールに。

追い込まれて迎えた3球目。

三度投じられた真ん中低めのストレートを引っ張った打球は強烈なゴロとなって一二塁間からライトフェンスまで凄まじい速度で転がっていく。

滑り込むことなく二塁へと到達し、入夏はチャンスメイクを果たした。

 

 攻撃はやまない。

2番の三護が初球をレフト前に弾き返すヒットを放ち、3番の鳥居は4球全て見送って四球。

満塁となって、打席には4番の阿晒。

2ストライク2ボールから低めに逃げるスライダーを打ち返し、打球はショートの頭を超えてセンターとレフトの中間を真っ二つに破った。

バッターボックスからばたばたと擬音の聞こえそうな足取りで阿晒が一塁へと走っていく様子を見ながら入夏はホームへ余裕を持って生還する。

また1人、そしてさらに一塁ランナーの鳥居も送球が返ってくる()()()の所でスライディングし、ホームベースを左手で触れ帰ってきた。

阿晒の走者一掃ツーベース。

後続こそ絶たれたが、これで点差を1点にまで縮めた。

 

 しかし援護を貰っても先発のゴードンはぴりっとしない投球が続く。

2回は1、2番を打ち取り2アウトを奪うも、3番の梶木に対して今度は四球。

ランナーをためての4番金師との勝負となる。

初球にストライクを奪ってからの2球目。

狙われたのはまたもカーブだった。

じっくりとバットを引き、タイミングを完全に合わせて金師が強く振り抜く。

打球は綺麗な放物線を描いて一気にレフトスタンドへ突き刺さった。

2試合連続となる金師の2ランホームランでフィッシャーズが6点目を奪った。

 

 

 

 結局ゴードンは2回6失点でノックアウト。

3対6のまま、3回表には先日1軍に昇格した勝之木(かちのき)翔太郎(しょうたろう)がプロ初登板から2日連続のマウンドに上がる。

8番から始まるフィッシャーズ打線に相対し、得意の小さく変化するボールで三者凡退で抑えてみせた。

4回も回またぎで続投し、3番の梶木からプロ初奪三振を決め無失点で流れを作った。

それに応えるように4回の裏、ドルフィンズも反撃を見せる。

先頭打者の三護が四球で出塁すると3番の鳥居もファーストゴロでランナーを二塁に進める。

4番の阿晒はセンターフライに倒れ、打席には5番の万田。

カットボールを詰まりながらも打ち返し、ボールは一塁ライン際にポトリと落ちるヒットに。

その隙にランナーが生還しこれで2点差にまで縮めた。

しかし6番の槍塚は空振り三振に倒れて3アウト。

 

  5回の表、ドルフィンズの守備は大卒3年目となる技巧派右腕の川背見(かわせみ)(あおい)がマウンドに上がる。

プロ野球選手にしては小柄ながらも、正統派と呼ぶべき美麗な投球フォームから繰り出される制球力のあるボールを武器に去年ブレイクした投手だ。

しかし今シーズンは打ちこまれる事が多く、防御率は5点台。

2軍落ちも経験し現在はビハインドの場面で多く投げている。

 

 フィッシャーズの打線は先ほどホームランを打った4番の金師から始まる。

左足をゆっくりと上げ、スリークォーターからボールが投げられる。

真ん中低めに落ちるスライダーを見送り1ストライク。

次のストレートはボールになるが、ストライクゾーンのギリギリを突いている。

そして3球目、高めのストレートを打ち上げさせセンターへの平凡なフライでアウトを奪った。

続く下位打線も凡退に抑え、裏の攻撃に移る。

 

 5回の裏、ドルフィンズの攻撃は7番の佃から。

しかし先発のロバートソン相手にあっさりと三振を取られ、8番の志々海もセカンドゴロ。

2アウトとなり、9番の舘が打席に入る。

舘は初昇格で迎えた1戦目でこそプロ初ヒットを打ったが、その後は快音が響かず。

今日も1打数無安打で2回目の打席を迎えた。

 

 初球を振りに行くも、弱弱しい打球が三塁線を切れてファール。

2球目は内角に直球が決まり一気に追い込まれた。

 

(……タイミングがあってないな)

 

 ネクストバッターサークルで様子を眺める入夏にも苦戦しているのが見て取れる。

舘の守備力はずば抜けているとはいえ、打撃ではまだまだ課題が残る。

特に飛ばすことに関しては文字通り力不足という感じが否めない。

そして相手投手は打たれてはいるが球威のある外国人投手だ。

ホームランはおろか、外野へのフライを打つのも難しいように思える。

ただ、ここでランナーが出て回ってくれれば流れも変わってくるはずなのだが。

 

 1球高めに浮いたボールを見送り、4球目。

内角をえぐるような鋭いボールが舘を襲い、鈍い音が響いた。

ボールが転がる。

打者も投手も捕手も審判も、一瞬動きがぴたりと止まってボールへと視線を向けていた。

かと思うと舘が急に一塁へと向かって駆け出す。

それを見て捕手がやや遅れながらも、三塁側に転がったボールを拾ってボールを握る。

突然一塁へと駆け出した舘のスピードに対応しきれなかったのだろう。

普段は打球を打った後に外すはずのキャッチャーマスクを付けたまま、一塁へと送球する。

タイミングとしては守備の方が先。

しかし送球があまりにもアバウトすぎた。

ボールは腕を伸ばしたファーストのグラブから数十cmも離れ、一塁ベンチ側へと飛んでいく。

一塁コーチャーに走るよう促され、舘も慌てて二塁へと走る。

ライトがボールを捕球して送球する間に頭から滑り込んでセーフを勝ち取った。

 

 なんだこれ地獄か?

頭が痛くなりつつも、入夏は状況を整理する。

ネクストバッターサークルからは舘の体で見えなかったが、ボールが当たったのは腕ではなくバットの先端、グリップ部分だった。

二塁塁上での舘のリアクションを見るに、相当手に痺れがきたのだろう。

その反応を見た周囲がデッドボールと間違えて思考を止めてしまった。

バッテリーがバットに当たったのだと気づいたのは舘が走り出した後だった。

そして送球が逸れてあれよあれよという間に二塁まで進めた、という事らしい。

……言葉にすると改めて思うが、野球とは何が起こるのか分からないものだ。

 

 しかし、舘はチャンスを作ってくれた。

ならば返さないといけない。

大きく息を吐き、入夏はバッターボックスへと向かった。

 




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