天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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トルネードは二つもいらない①

 渦巻(うずまき)雷麦(らいむ)玉城(たまき)真人(まさと)は同級生である。

 ついでに入夏も同い年だ。

 渦巻は神奈川出身のシティーボーイ、片や玉城は沖縄で生まれ育った。

 それぞれ高校時代から上半身を大きくひねる投球フォームで名前を挙げ、「東の渦巻」「西の玉城」とコアな野球ファンからは呼ばれていた。

 が、二人は仲がすこぶる悪い。

 原因は単純、投球フォームが似通っている事だ。

 

 渦巻は右投げ、玉城は左投げの投手のため傍から見た分には気にならないのだが、投球の参考にした投手が同じ人らしい。

 その結果、どちらが真の後継者なのかという議論が二人を二分した。

 入夏からすればどっちも後継者でいいじゃないか、とは思っているのだが語っている時の渦巻の熱量の前ではそんな事は到底言えなかった。

 

 じゃあ勝負で白黒付ければ早いのではないか、と思うかもしれない。

 しかし意外な事に、試合で二人が投げ合った事は今まで一度もなかった。

 高校時代には二人とも甲子園大会に出場した経験があるものの、対戦した試合はゼロ。

 もっとも夏の大会では49校が出場するのだから、対戦する方が難しいとも言える。

 その後、渦巻は高卒でドラフト一位指名されプロの門戸を叩く。

 怪我で離脱する事もあったが、順調にエースとしての階段を上がっている。

 一方の玉城は東京の大学へと進学。

 華々しい実力でエースナンバーを背負い、一昨年のドラフト一位で福岡マッハトレインズに指名された。

 入団した玉城は即戦力として躍動。

 一年目から二桁勝利をあげる活躍を見せ、同じく大卒で仙台スパークスに入団した猪頭(ししがしら)と近年稀にみるハイレベルの新人王争いを展開。

 20本塁打を放った猪頭には敗れたものの、特別賞を受賞していた。

 

 その二人が、ついに初めての対戦に臨もうとしている。

 記者や観客の話題はそれで持ちきりだった。

 

 

「うらぁっ!!」

 

 福岡エクスプレスドームの中に渦巻の声が響く。

 ただのキャッチボールだというのに、声は全力だ。

 気合が入っている事は誰の目に見ても明らかだった。

 

『すごい気合だねぇ、彼は』

 

「向こうの先発の人に対抗心を燃やしているみたいですよ。フォームが似ているからだとかなんとか」

 

『あー、なるほどね。そりゃ燃えるわけだわ』

 

「分かるんですね」

 

『いやーだって自分と似た人って何となく嫌な感じしない? 自分を見失いそうになるというか、うーん……同じ役割を持っている人ってあんまり良いイメージがわかないんだよねぇ。入夏君も似たタイプの人がいたらそう思わない?』

 

「確かに、オールラウンダータイプの外野手は結構いますけど」

 

 そこそこの打率を打ててホームランも安定して打てる、それでいて足の速く守備もできる外野手。

 入夏にとって最も身近なのはそういったバランスの整った選手だ。

 いわゆる5ツールプレーヤーと呼ばれるタイプである。

 より具体的に言えば北海道パイレーツの宇坪(うつぼ)蘭太郎(らんたろう)選手や大阪ビクトリーズの番場(ばんば)朱鶴(しゅかく)選手がそのタイプだ。

 彼らは毎年のように打率2割後半、20本塁打、20盗塁の壁をクリアしており、守備も上手い。

 

『え、君ってオールラウンダータイプなの?』

 

「え?」

 

『え?』

 

「だって盗塁ももうすぐ二桁ですし……守備もまぁ悪くはないとは自負しています。なので近いのはそのタイプかなと。でもそういう人たちって大体自分よりも高い能力を持っているので、嫌というよりは憧れの気持ちが強いです」

 

『君さ、そういうところ謙虚というか卑屈だよね』

 

「たまに言われます。でも、自分の実力がまだまだ足りていない事は事実なので。ところで、さっきの話で言えば俺は勇名さんのような選手を目指しているわけですよ。あなたの指導を受けているので。それは良いんでしょうか」

 

『んー……俺はもう現役じゃないからなぁ。もし現役だったら嫌がっていたとは思うけど、今はそこまでって感じだなぁ』

 

 そういうものなのか、と入夏が思っているとスパイクに何かが当たる感触がした。

 見れば、足元にボールが転がってきていた。

 

「悪ぃ、ボール取ってくれ!」

 

 渦巻が駆け寄ってくる。

 ボールの持ち主は彼だったようだ。

 

「投げるぞ」

 

「うい、ナイスボール! 今日は頼むぞ入夏!」

 

「あ、うん……。渦巻は玉城の事が嫌いなのか?」

 

 入夏が言うと、渦巻は目をぱちくりと開閉した。

 

「何言ってんだ。嫌いなわけないだろ。あいつはいい投手だよ」

 

「でも今日は随分気合が入っているみたいだし。この前も『絶対に負けるわけにはいかない』って言ってたから、相手の事が好きじゃないのかと」

 

「それとこれとは別だ! いいか、好き嫌いと『一番になりたい』という気持ちは両立するんだ! 俺はあいつの事を認めてはいる、だが一番は俺が獲る! それだけの話だ!」

 

 なるほど、確かに的を射ている考えだ。

 

「……あぁ、その通りだ」

 

「けどよぉ、俺がどれだけ抑えても一人じゃ勝てねぇ。だから―――頼むぜ、入夏」

 

 

 

 スターティングラインナップ

 

 千葉ドルフィンズ

 

 1番 ライト    入夏水帆

 2番 サード    穂立(ほだて)(れん)

 3番 セカンド   鳥居(とりい)帝人(みかど)

 4番 指名打者   阿晒(あざらし)兵太(ひょうた)

 5番 ファースト  早々江(さざえ)(しん)

 6番 ショート   万田(よろずだ)英治(えいじ)

 7番 レフト    (しば)文殊(もんじゅ)

 8番 キャッチャー 垣田(かきた)(あたる)

 9番 センター   (たち)正宗(まさむね)

 先発投手 渦巻(うずまき)雷麦(らいむ)

 

 福岡マッハトレインズ

 

 1番 セカンド   田吹(たぶき)弘正(ひろまさ)

 2番 ショート   布施(ふせ)(こん)

 3番 指名打者   加藤(かとう)(たけし)

 4番 ファースト  安藤(あんどう)(やすし)

 5番 キャッチャー 越智(おち)子龍(しりゅう)

 6番 レフト    三ツ繰(みつくり)(しん)

 7番 ライト    高足(たかあし)泰平(たいへい)

 8番 センター    グレイグ・トンプソン

 9番 サード    熊本(くまもと)基樹(もとき)

 先発投手 玉城(たまき)真人(まさと)

 

 観客席は試合が始まる前から賑わっていた。

 盛り上がりは本人たちが思っているよりもすごいもののようだ。

 

 プレーボールの声がかかる。

 マッハトレインズは以前と同じようにセカンドが一塁寄りに深く守る独特のシフトを敷いている。

 彼らの守備は非常に細かく、そして徹底的だ。

 ただ守るのではなく、自らの存在を主張するような強気な姿勢。

 こういった作戦がチームを3位に導いた要因だろう。

 

 玉城が息を整え上半身をやや後ろへと引く。

 右足を上げ大きく腰を捻って投球へと入った。

 ダイナミックな体の動きからボールが放たれた。

 ―――やや高い。

 入夏は反射的に動いたバットをビタリと止めた。

 

「ストライク!!」

 

 入夏の眉が歪む。

 そうか、ストライクか。

 選球眼にはなまじ自信があるだけに、今のボールには不満を漏らしそうになる。

 151km/hのストレート。試合開始直後から飛ばしてきている。

 

 いや、気にしてはいけない。

 表情に出すのは審判の心証が良くないし、何より今のボールに手を出しても凡打になる予感しかなかった。

 

「今のボールに手を出さなかったのは正解だ。初球でいきなりフライでも上げてくれればこっちとしては助かったんだがな」

 

 後ろで越智がぼやくように言う。

 名伯楽(めいはくらく)である宮使(みやつか)竜郎(たつろう)の遺伝子を引き継いでいるのか、冷静にこちらを揺さぶりにかけてきている。

 

「どうも。ちょっとは成長していますから」

 

 入夏が返事をすると、越智が苛立たし気に眉をひそめた。

 何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか。

 二球目、今度は落差のあるフォークがワンバウンドしてボール。

 玉城のフォークも一級品だが、それを平然とした顔で止める越智も捕手としての能力の高さを示している。

 

 三球目、投じられたボールはまたも沈んだ。

 外角への変化球に入夏は手を出す。

 打球は三塁線を切れてファールゾーンへとライナーで飛んでいった。

 このボールのは見逃してもストライクだった。

 しかし当ててファールにするので精一杯だ。

 今のところ玉城はホームランどころかヒット性の当たりも許さないような投球を見せている。

 

 そして四球目。

 玉城の指先から放たれたボールはふわりと浮いたと錯覚させるような軌道を描く。

 

「がっ……!」

 

 この前の対戦で散々嫌な目に遭わされたカーブだ。

 うめき声と共に当てただけの打球はショートへのゴロになって1アウト。

 

 先頭打者を打ち取った玉城の勢いは止まらず。

 2番の穂立には全て直球で空振り三振を奪い、3番の鳥居にもストレートで押して意識づけてからのチェンジアップでサードへのゴロに打ち取った。

 

「すまない、渦巻。初回から援護したかったが、失敗した」

 

「あんま気にすんなよ、入夏。相手が強いのは分かってた事だ。だからこそ戦いがいがある!」

 

 っしゃーいくぞー!! と高校球児のような声を上げながら渦巻がマウンドへと向かっていく。

 彼の口元はわずかに緩んでいるように見えた。

 

 

 マッハトレインズのリードオフマンである田吹は出塁能力が高い。

 ボールをよく見るし、追い込まれてからは際どいボールをカットするだけのミート力を持っている。

 とにかく出塁して後ろに繋ぐ。

 一貫した仕事人らしさはまさにマッハトレインズを象徴するような選手だ。

 

 渦巻が投球に入る。

 上半身を大きく捻り、勢いのいい声と共にボールが投じられた。

 コースが多少甘くなりつつも、そこは流石のエース格。

 鋭いボールで空振りを取って見せた。

 

 観客席からおお、と歓声が上がる。

 何事かと入夏が電光掲示板を見やると、球速は「154km/h」と表示されていた。

 

 田吹には自分のスイングをさせず空振り三振を奪うと、続く布施に対しても鋭く曲がるカットボールで見逃し三振。

 その勢いのまま3番の加藤に対しても2ストライクと早々に追い込んで、最後はストレートで空振りの三振。

 

「さ、三者連続……」

 

 間違いない。

 二人とも初対決でハイになっている。

 球場は異様な盛り上がりを見せていた。




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