試合が中盤に入ると、徐々に打線が相手を捉えるようになっていった。
簡単にボールを空振りするケースが減り、前に飛ばすようになってきたのだ。
だがしかし、両者共に守備で味方を鼓舞する。
5回の裏、ヒットで出塁したランナーを一塁に置いての場面。
打者の
その勢いのまま二塁へと送球してダブルプレーに打ち取ってみせた。
ドルフィンズに好プレーが出ればマッハトレインズもやり返す。
6回の表、この日5番に入っている
しかし打球はジャンプしたサード・
守備に助けられ両先発は互いに調子を上げ、結果どちらも9回を投げ切って失点0。
ロースコアどころかスコアレスのまま試合は延長戦へと入った。
10回からはリリーフの出番となる。
まずはマッハトレインズのクローザー・スマイルズがドルフィンズ打線をたった8球で沈めて見せる。
負けじとドルフィンズも現クローザーのルーキー・
しかし登板して早々ストライクが入らずに先頭打者に四球を与えると、ヒットを浴びるなど一死満塁。
犠牲フライでもサヨナラ負けのピンチを招く。
絶体絶命の場面、ここで鳴子がギアを一段階上げた。
この日7番に入っている
続いて8番・助っ人外国人のトンプソン。
俊足かつ一発のあるバッターだ。
ストレートと変化球を交え、迎えたフルカウント。
打たれればサヨナラになるのはもちろんの事、ボールが外れても負けとなる。
長い間をおいて、息を整えた鳴子がボールを投じる。
ストライクゾーンから急速に落ちるボールはバッテリーの狙い通りの見事な空振り三振を奪った。
悔しさのあまりトンプソンはバットを強く地面に叩きつけた。
外野から入夏がベンチへと足を進める。
自分で作ったピンチとはいえ、接戦で抑えるのはさぞアドレナリンが出るだろう。
そう思って入夏はちらりと長髪で隠れた鳴子の表情をうかがってみる。
しかしその表情は何の主張もしていなかった。
本物の「無」である。
そこに抑えた喜びも興奮も、ピンチを招いた怒りもなくただ鳴子は平然とした顔で帰ってきた野手陣を迎えていた。
(……なんかウチのピッチャーってポーカーフェイスの人が多くない?)
その後は両チームのブルペン陣が踏ん張りを見せ、試合は0-0。
スコアレスドローで試合は終了した。
◇
無得点、それも延長した上での引き分けは心身ともに疲弊するものがある。
入夏はヒットこそ打てたものの、牽制に釣り出されてアウト。
登板していた渦巻の熱量を知っていた事もあって、ピッチャーに対して不甲斐ない気持ちが悶々と浮かんでくる。
渦巻も内心怒っているかもしれない。
「いや~、お疲れお疲れ!」
が、渦巻の表情は意外にも明るかった。
万田とグータッチを交わすほどのテンションの高さに、入夏は開いた口が塞がらない。
「う、渦巻……。怒ってないのか?」
「ん? ん~、まぁ~そうだな。絶対白黒付けたい話ではあるけど、今日はお互い失点もしなかったし悪くはなかったかな。ほら、俺ってショートケーキのイチゴは最後までとっておきたいタイプの人間だからさ」
「その例えはよく分からない」
「そうか? じゃ今のナシで。勝ちたかったのは事実だけど、まぁ別に一人で野球やってるわけじゃないし。そういう意味じゃ、今日の試合のお前の守備! あれは良かった! 飛びぬけて上手いわけじゃないが、あぁいうプレーは周りを鼓舞するだけの力がある!」
「え、あ、うん。ありがとう……?」
「つーことで、次に切り替えていけばいいんだよ! 次だけじゃない、そのまた次だって、何度でも俺は玉城と投げ合いたいからな!」
なはは、と渦巻は豪快に笑いながら自分のロッカーへと帰っていく。
一人で野球をやっているわけじゃない。
そういえば、誰かにそうやって怒られた事がある。
あぁそうだ。高校最後の夏が終わったあの日。
『ふざけんな、ふざっけんな!! お前は一人で野球やってるつもりかよ! お前が言ったのは俺の努力を全部否定するのと同じなんだよ!』
違う、そんな事を言いたかったんじゃない。
俺はただ、自分がもっと努力すれば勝てたって。
本当にそう思ってるんだ。
『うるせぇ。もう二度とお前とは組む事はない。お前なんかいなくたって勝てるって、俺は証明してやる』
思えばあれ以来、深瀬とはまともな会話をしていない。
同級生の元キャプテン・
高校を卒業しても、卒業して以降もこの関係性は変わっていない。
人間関係でいつも俺は間違った選択肢を選んでいる気がする。
だからせめて得意な事だけは人一倍向上心を持たなければならないと思っているのだが、それも壁にぶつかってばかりだ。
入夏はため息をつきながら試合会場であるエクスプレスドームの選手用出口を出ようと荷物を抱えて歩く。
落ちたままだった視線が誰かの靴を射止めた。
ふと入夏が顔を上げると、そこには越智が立っていた。
「お疲れ様です」
入夏は流れるような勢いそのままにすーっと横を通り過ぎようとしたが、肩を掴まれた。
「なんですか。俺に何か用があるんですか」
「……うーん。迷いどころではあるが君なら良いか」
「どういう事ですか?」
「ちょっとこの動画を見て欲しいんだ」
「もしかして……いかがわしいやつとかですか」
「違う。勉強用の動画だ」
スマートフォンから動画が流れる。
概要はよくある試合の現地映像のようだ。
しかし、他の動画と比べて違うのはその情報量である。
その時投手が何を考えていたのか、ランナーのリードの取り方はどうだったか、バッターの狙い球など、事細かに解説されたものだった。
ただ、動画としては不慣れな感じもある。
確かにこれは勉強用と言うのも頷ける。
「これを見てどう思った?」
「どう、って言われましても。勉強にはなるんじゃないですか」
「ふむ、そうかそうか」
言葉こそそっけないように聞こえるが、その声色はこころなしか上がっているように見えた。
「というかこれ、使用許可とか大丈夫なんですか? 最近そういうの厳しいですし」
「それならば問題ない。許可は取った」
「あぁ。なら問題はないですね。……ん?」
今、会話に不自然な点が無かったか?
第三者が作ったものだとばかり思っていたが、今の言い方はまるで……。
「許可なら取った。この動画は俺が編集したものだ」
「えぇ……?」
「どうして動画を?」
「初めはコーチからの助言だった。『配球の説明が出来ないようではまだまだ甘い』と言われてな。動画を見返す内に、自分でアウトプットできるように動画の編集を始めてみたんだ。そしたら、なんだか興が乗ってきて……」
「乗っちゃったんですね」
「それで、どうだ? この動画の感想は?」
「えー……っと、そうですね」
何となく合点がいった。
つまりこの動画は、メモ帳を動画にしたようなものなのだ。
確かにアウトプットの方法としてはこういう形のものもありだろう。
ただ、動画単体でどうかと言われると……。
昨今の動画投稿者ブームで入夏の眼が肥えているのか、これを他人に見せるとなるとまた変わってくる。
「これってどこかに公開してたりは」
「あぁ。この前やってみた。炎上した」
「えぇぇ……。それはまたどうしてですか?」
「球団に許可は取っていたが、ユーザーネームで自分の名前は出していなかったんだ。自分の立場関係なく、周りから見てどういう反応をされるのか知ってみたくてな。それがコメントであそこまで荒れるとは……」
確かに、本物のプロが名前を隠して動画を投稿しているとは思いもよらないだろう。
今名前を変更したら変更したで、ますます疑いの目が深くなりそうだ。
「まぁ、その。……頑張ってください」
「どういう意味で言っているんだそれは!?」
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