天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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今回はライバルVSライバルです。
こういうのを一度書いてみたかった。


ピックアップゲーム 北海道パイレーツVS大阪ビクトリーズ

 ドルフィンズがスパークスと試合をしている時刻。

 北海道、バイコーンスタジアムでは北海道パイレーツと大阪ビクトリーズが試合を予定していた。

 やや硬いマウンドに手を付け、パイレーツの先発投手・奥戸場(おくとば)(そら)は大きく深呼吸をした。

 大丈夫。俺なら出来る。俺は強い。絶対に偉大な人間になる。

 「君なら大投手になれる」とかの大クローザー・斑鳩(いかるが)(かすみ)に太鼓判を押された男だ。

 

『そこまでは言ってねーよ』

 

 相手の先発投手は深瀬(ふかせ)和仁(かずひと)

 ここまでリーグトップの勝利数と奪三振数を記録している、名実ともに日本の右のエースだ。

 深瀬とは何か共通点を感じる。

 

『そういえば大城(おおしろ)先輩は元気にしてんのかな』

 

 ―――上等。そんな相手に勝つからこそ価値がある。

 相手が日本の右のエースなら、俺は左のエースになってやる。

 何なら「日本のエースに勝った男」として名を揚げるチャンスだ。

 

『相変わらず欲がふけーなオメーは』

 

 うるさいんですけどさっきからぁ!!

 先ほどから横槍を入れてくるのは斑鳩霞。

 さっき言った大クローザー、その亡霊らしい。

 恐らく浮遊霊だ。

 ……いや、それにしてはいつも自分の周りを付け回しているような。

 え、呪われてるとかじゃないよな?

 恨まれたりとかしてないよな?

 

 まぁいい。

 ともあれこの人の指導のおかげで投球の幅が広がったのも事実。

 俺レベルになると優れた指導者が墓から現れるものだ。

 これは決して環境じゃない、俺が努力した結果だ。

 

「いくぞぉ!」

 

 努めて不敵に笑う。

 下剋上がまさに今、始まろうとしていた。多分。

 

 

 

 スターティングラインナップ

 北海道パイレーツ

 

 1番 ピッチャー  奥戸場宙

 2番 ショート   芽張(めばる)憲治(けんじ)

 3番 ライト    宇坪(うつぼ)蘭太郎(らんたろう)

 4番 レフト    グリン・トッド

 5番 ファースト  恵比寿(えびす)(たかし)

 6番 サード    (かぶと)大将(ひろまさ)

 7番 キャッチャー 田西(たにし)重春(しげはる)

 8番 セカンド   青山(あおやま)(しゅん)

 9番 センター   矢守(やもり)(たける)

 

 大阪ビクトリーズ

 

 1番 ショート   根古(ねご)権太(ごんた)

 2番 ライト    達磨(だるま)(ぎょう)

 3番 センター   番場(ばんば)朱鶴(しゅかく)

 4番 指名打者   羽場(うば)大悟(だいご)

 5番 サード     ブラッド・ロドン

 6番 キャッチャー 穂立(ほだて)(じん)

 7番 ファースト   ウィンストン・アーチボルト

 8番 レフト    山田(やまだ)(はる)

 9番 セカンド   井達(いだち)(はじめ)

 先発投手 深瀬(ふかせ)和仁(かずひと)

 

 先攻はビクトリーズ。

 先頭打者の根古が打席へと入った。

 ここまで盗塁数はリーグ3位。

 いきなり出塁させるのは避けたいところだ。

 

 初球はストレートが低めに決まってまずはストライク。

 スピードはまずまず。初回にしては速い方だ。

 根古は振る様子も見せなかった。

 根古はバッターとしては非常に気まぐれというか、よく分からない選手だ。

 あっさり三振してくれる日もあればボコボコに打ち崩される日もある。

 今日はどちらか、早いうちに見極めておきたい。

 

 次はカーブ。

 根古はスイングするもバットは空を切り2ストライク。

 ストライク先行となった所で、キャッチャーの田西は一度ボールを挟もうと指示を挟んできた。

 ―――いや。首を横に振る。

 ここで先頭打者を三球三振に打ち取れば投球の追い風にもなる。

 なにより勝負の場で日和っている人間に明日などない。

 そうなれば、俺は何者にもなれない。

 

 「仕方ねぇな」と言わんばかりに田西は再度サインを出す。

 こういう時に勝負に乗ってくれるところ好きだぜ、田西さん。

 田西が構えるのは打者のインコース。

 体を捻って左腕を振り抜く。

 左打者のインコースを突く真っ直ぐ。

 早くも今日一番の指にかかったストレートに根古はバットが出ない。

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

 っしゃあビタビタァ!!

 ……いや、浮かれてる場合じゃないな。

 まだまだここから。

 2番、俊足巧打が売りの達磨はスライダーを打ち上げさせてセンターフライ。

 続く3番のオールラウンダー、番場に対しては一進一退の投球が続き勝負はフルカウントに持ち込まれる。

 が、ここも今日いい調子のストレートが活きた。

 外角に投げ込んだストレートを引っかけさせて打球はセカンドへの力のないゴロに。

 セカンドの青山がしっかりと捌いて3アウト。

 いい感じの投球で初回をリズムよく終えた。

 

 二刀流の選手は忙しい。

 ピッチングを終えてベンチに戻れば、すぐにバットを持ってバッティングの準備をしなければならない。

 3回ほどスイングの確認をして打席へと向かう。

 実を言うと、高校時代はピッチングよりもバッティングの方が好きだった。

 守りよりも攻めの方がなんとなく性に合っている気がする。

 

 相手先発はエースの深瀬。

 球速、コントロール、スタミナ、変化球。どれをとっても超一流で隙が無い。

 そして何より、打席に入った時に感じるビリビリとした緊張感。

 他の対戦した投手よりもずっと嫌な感覚を打者に与えている。

 

 一人で打ち崩せるような相手じゃない。

 だからまずは、出塁してチャンスメイクをしたい。

 深瀬が振りかぶって投球に入る。

 手元で大きく変化するボールに思わず手が出た。

 バットはボールの数センチ上を思い切り空振った。

 深瀬が使う伝家の宝刀・スプリットだ。

 これを見極められるかどうかが恐らく深瀬攻略の鍵である。

 2球目。

 今度はインコースぎりぎりを突くストレートに脳が危険信号を察知し、体が仰け反る。

 が、これもストライク。

 思わず「えっ」という困惑の表情が出そうになる。

 当の深瀬は特に悪びれる様子もなくキャッチャーからの返球を受け取った。

 

 野郎、スカした態度を取りやがって。

 今に見てろ、その面を渋顔に変えてやる。

 深瀬が振りかぶる。

 こういう状況なら、俺は一球ボール気味のコースで打者の様子を見る。

 追い込まれた形だから、ここは際どいコースのボールはファールで逃れて……。

 ボールが指から離れ、高速で向かってくる。

 放たれたボールは真っ直ぐな軌道を描いてミットに突き刺さる。

 振ったバットは虚しく空を切るだけだった。

 

 失投じゃない。

 ()()()ど真ん中のストレートで空振りを奪ってきやがった。

 三球三振、それも投手としては空振りを奪わせた最高の形。

 

『あーあ、あの人はやっぱり乗らせると怖いなぁ』

 

 呆れるような、諦めるような斑鳩の声が聞こえた。

 

 深瀬の支配的なピッチングは続く。

 2番の芽張に対しては初球のスライダーを詰まらせてファーストへのゴロ。

 3番、恐らくパイレーツで最も打力がある宇坪との対決ではストレートとカーブを混ぜて追い込むと、最後は低めのストレートで見逃し三振を奪って3アウト。

 パイレーツはわずか10球で攻撃を終える事となった。

 

 2回からは投手の踏ん張り合い。

 ……いや、踏ん張ってたのはこっちだけだ。

 ランナーを出しつつ何とか要所を抑えるこっちと、ほとんどランナーを出すことなく打線を封じ込める深瀬。

 どちらが優勢なのかはヒットの数を見ればすぐに分かる。

 パイレーツは2回に5番の恵比寿がヒットで出塁したものの6番の兜が痛恨の併殺打でチャンスを逃す。

 

 だが、こちらも0点で抑えてはいる。

 点を取られない限りは負けない。

 5回まで投げ終え、お互い無得点。

 

 6回の表、ビクトリーズは3番から始まる好打順。

 クリーンナップと勝負する正念場だ。

 先頭の番場は初回にフルカウントまで粘れる程度にはボールが見えている。

 初球、ストレート。リリースポイントが早かったか高めに外れてボール。

 際どいコースを慎重に突いていくが、番場はつられずカウントは不利になる。

 何というか、打者には嫌な余裕がある感じだ。

 だから難しいコースも簡単に見極めてくる。

 最後はスライダーを見極められて四球。

 嫌な形で出塁を許した。

 

 次は4番の羽場。

 飛ばす力はあるが、ふくよかな体格どおり足は速くない。

 ゴロ性の打球を打たせて併殺に打ち取るのが理想だ。

 

 田西とのリードで変化球中心に組み立てていく。

 カーブ、チェンジアップ、スライダー、あと付け焼き刃のフォーク。

 投げられる球種には自信がある。

 的を絞らせない投球でバッターを追い込んだ。

 カウント2ボール2ストライクの平行カウント。

 そろそろ球数が100球に達しそうな状況もあってフルカウントになるまでに仕留めたい。

 

 田西が指でサインを送り、「叩きつけるくらいで来い」とジェスチャーを送る。

 OK、狙い通りに。

 ランナーが走らないよう小さなモーションでボールを閉じる。

 低めに落ちていくチェンジアップ。

 空振りを狙ったボールは掬い上げるような軌道を描くバットに捉えられた。

 すぐに振り返って上を指さす。

 

 長打を警戒していたため外野手は全員やや下がっている。

 ノーバウンドで捕るのは至難の業だ。

 しかし、センターにはあいつがいる。

 てんでダメなな打撃力と抜群の走力を兼ね備えた守備特化の外野手、矢守健が。

 矢守は全速力を飛ばしてボールに一直線に向かう。

 他の外野手ならスライディングで届くかどうかの絶妙な打球を足だけで抑えて見せた。

 

 よしよし! ここで一つアウトを取れたのは大きい!

 このまま粘って打線の援護を待てば―――。

 ……いや、援護は来るのか?

 

 小さな綻び、疑念だった。

 その僅かな隙が今日の試合では命とりだった。

 96球目、中途半端に止まった思考から投じられた力の無いボールは5番のロドンに完璧に捉えられる。

 打った側も、打たれた側もそれと分かる一発はスタンドの中段へと突き刺さる。

 

「ピッチャー交代」

 

 投手コーチがベンチから上がってくる。

 その声に、奥戸場はただ俯くことしかできなかった。

 

 

 と思ったか!!

 俺の試合はまだ終わってない。

 俺がセンターに引いて投手を交代したわけだからまだバッティングで取り返せる。

 

 そんなわけで、6回に3度目の打席が回ってきた。

 2アウトなのが最悪だが、打席が回ってくるだけよしだ。

 

 俺はまだ、相手にプレッシャーを与えるほど支配的なピッチングは出来ない。

 でも打席に立つことで、チャンスは二倍。

 人よりも多くのものを得られるチャンスが俺にはある。

 これは自分で首脳陣に信頼されてのものだから、つまりは掴み取ったものである。

 

 右の打席で気合を入れる。

 相手投手は深瀬。

 まだまだ体力的にも多くの回を投げらせそうな状況なのは一目瞭然だ。

 はい負けましたと簡単に終わるわけにはいかない。

 俺が降板したんだ。お前だってマウンドから引きずりおろしてやるぜ。

 

 深瀬は相変わらず直球で押し切るピッチングが続く。

 追い込まれてから、いくつか決めに入ったボールが投げられたがこれをファールで何とかカウントを戻す。

 ストレート。カットして一塁線のファールに。ストレート。打ち損じたが3塁線をボテボテと転がりファール。スプリット。バットの先端で何とか掠らせてバックネットに叩き込みファール。

 そろそろ10球は超えてきたはずだ。

 絶対出塁してやる。

 最後、深瀬の投じたボール。

 ……スプリット!

 バットに当てるのが精一杯。

 だったらむしろ、叩きつけてやる。

 ダウンスイングで捉えたボールはマウンドの手前で高くバウンドした。

 走れ、走れ! 向こうの守備よりも速く!

 横を見るとショートの根古がボールを捕って一塁へと送球しようとしていた。

 セーフにしてやる、絶対にだ!

 ふわっと体を宙に浮かせ、頭からのヘッドスライディングを試みる。

 頭か守備側のグラブか、どちらが先かは土煙でよく見えなかった。

 

 一つ、永遠に続いたような沈黙がついに切れる。

 

「セーフ!!」

 

「うおっしゃあ!!」

 

 思わずベースを気の高ぶるままバンバンと叩く。

 どうだ、見たか! これが俺の力―――

 

 それでも、深瀬は動揺する様子もなかった。

 ただ淡々と次のバッターも打ち取って見せ、気づけばもう9回2アウト。

 最後のバッターを空振り三振に打ち取ってゲームセット。

 終始にわたって支配的なピッチングをした深瀬は今シーズン3度目の完封、5度目の完投を14奪三振で飾った。




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