天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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舘と万田

<ネクストブレイクは誰だ!? ドルフィンズ期待のスター候補3選>

 

 4年前に2位に輝いて以来、Bクラスでの低迷が続いている千葉ドルフィンズ。

その課題と言えばやはり低調な打線であろう。

打率、出塁率、本塁打数。

昨年はどれをとっても最下位であり、三番を打つ鳥居(とりい)と四番を打つ阿晒(あざらし)に頼り切りな状況が否めない。

鳥居はFA(フリーエージェント)を3年後に取得予定であり、阿晒も今年で33歳とベテラン選手に足を踏み入れることになる。

新たな若手野手の台頭がドルフィンズにとっての最重要課題といえよう。

 

 現在、ドルフィンズでは一軍の舞台を目指して若手野手が日々二軍で奮闘している。

チームは現在、浮上へ向けて奮闘中である。

そこで今回は未来のスターとなるであろう選手を3人紹介していく。

 

 

 

(たち)正宗(まさむね)

 

(二軍での試合。センターの守備につく舘の写真)

 

出身地:佐賀県

投打:右投げ左打ち

身長/体重:177cm/69kg

誕生日:3月24日

経歴:佐賀銘明(めいめい)高校

その他情報:ドラフト4位指名 プロ3年目

 

 舘正宗は高卒3年目ながら高い守備力を見せる外野手だ。

高校時代にはそのフィールディングで幾度となく窮地を救い、3年夏の大会でチームをベスト8まで導いた。

特に前後の打球には強く、取材の最中でも好プレーを連発していた。

 

 昨シーズンはオープン戦での不運な交錯事故もあり、やや出遅れた。

しかし守備での安定感はキラリと光るものを見せており、二軍での打率も昨シーズンより約4分増加して.238を記録している。

 

 足と守備は球界でも認められている選手であり、打撃が課題。

セカンドの鳥居を除くセンターラインの整備が急務となるだけに、覚醒が期待されている。

 

 

 ≪次ページ "キャプテン”候補の大型ショート≫

 

万田(よろずだ)英治(えいじ)

 

(一軍でヒットを放ちガッツポーズする万田の写真)

(サヨナラ打を放った選手に満面の笑みで水をかける万田の写真)

 

出身地:新潟県

投打:右投げ右打ち

身長/体重:188cm/83kg

誕生日:5月5日

経歴:横浜白煌館(よこはまはくこうかん)高校―地潘俱(じぱんぐ)大学

その他情報:ドラフト3位指名 プロ2年目

 

 ネクストブレイクと言えば欠かせないのが、プロ2年目を迎える万田英治だ。

万田は日本人離れした強肩とパンチ力を兼ね備えた、新しい時代を予感させるショートだ。

高校時代こそ甲子園大会出場経験はないものの、練習が日本一厳しいと評される地潘俱大学で実力を磨き、4年時にはキャプテンとして大学選手権での日本一をけん引。

ショートとして大会ベストナインを獲得しプロの世界に足を踏み入れた。

 

 3位での指名であったものの、徐々に頭角を現し昨シーズン終盤に1軍初合流。

プロ初安打、初打点を記録するなどアピールを果たした。

大学時代にキャプテンを務めていたこともあり、リーダーシップも十分に持っている。

 

 2軍では打率.266で放った本塁打は5本。

破壊力に欠ける打線の起爆剤として機能できるか、期待がかかる。

 

 

 ≪次ページ 覚醒待たれる劇場型スラッガー≫

 

入夏(いりなつ)水帆(みずほ)

 

(昨シーズン、一軍で本塁打を放った直後の入夏の写真)

 

出身地:千葉県

投打:左投げ左打ち

身長/体重:178cm/72kg

誕生日:7月1日

経歴:穂波(ほなみ)高校

その他情報:ドラフト4位指名 プロ6年目

 

 体格に見合わぬ力強いスイングが持ち味の入夏水帆。

フランチャイズプレーヤーとして、今季こそという期待がかかっている。

 

 高校時代は3番センター入夏、そして5番ピッチャー深瀬(現大阪ビクトリーズ)の強力クリーンナップで千葉県のみならず甲子園を沸かせた。

甲子園大会では2回戦で敗退したものの、9回に入夏が放った弾丸ライナーのホームランを鮮明に覚えている高校野球ファンも多いのではないだろうか。

 

 昨シーズンは少ない出場機会の中で逆転のホームランを放つなど、印象的な場面での活躍が見られた。

インコースの直球を弾き返す一級品な打撃力を持つだけに、それ以外のコースも打てれば鬼に金棒だ。

 

 また、妥協を許さない真っ直ぐな性格も彼の魅力である。

特に考え事をしている時の彼の表情は、心の内から何かをかきたてるものがある。

脱『二軍の帝王』を目指し、一軍の舞台で飛び跳ねてほしい。

 

 

(文・佐藤(さとう)(みどり) 3月15日の記事より引用)

 

 

 

 

 乾いたミットの音の後に続けて、まばらな歓声が響く。

二軍で行われる試合のほとんどは昼に行われる。

今日が平日という事もあって、熱心なファン以外が二軍球場を訪れる事は少ない。

 

(未練を探すとは言ったけど何から調べたら……やっぱり代永さんに直接聞いてみるのが一番なのか)

 

 

 現在は1アウト、ショートの万田(まんだ)が強肩でアウトをもぎ取った所からだ。

ライトの守備位置につきながら、入夏はこの前勇名と交わした取引について思案していた。

未練を探すとは言ったが、どこから探せば良いのか。

そもそも誰かに聞いて解決するものなのかと思うが、約束した以上は最善を尽くすのが筋というものだ。

しかし当人である勇名は恐らく未練に関する記憶が抜けているので役に立たない。

勇名の後輩だった角田も候補には上がるが、話が長く本題から逸れがちなので出来れば避けたい。

となれば一番の候補に挙がるのは二軍監督の代永だ。

勇名がよく世話になっていた、と言っていた事からそこそこの交流はあったと言える。

 

(けど……あの反応が気になるな)

 

 先ほどの練習で代永は、勇名の事を化物だといった。

同時に理解できない、とも。

『勇名みたいにはなってくれるなよ』という言葉は、勇名を嫌っているから出たものなのだろうか。

 

 ―――やめだ、どれだけ推測を立てたところで人の心が分かるはずがない。

とりあえず聞いてみるのが一番だろう。

そうと決まれば試合後に……。

 

 と、考えていると打球が飛んできた。

打球はセンターとライトの中間あたり、勢いが弱まっている事を加味すれば難しい球ではない。

センターを守る(たち)正宗(まさむね)の位置を確認しながらも、ボールから目は離さない。

落下予測地点へと余裕を持って到着し、捕球する。

二塁へボールを投げ返し、後ろを振り返ってみると舘がカバーの体勢に入っていた。

 

「ど、どうも」

 

 入夏に対して舘は明らかにぎこちない笑顔を返した。

目は笑っているとも困っているともとれる何とも微妙な開き方をしており、上げた口角からは尖った歯が顔を覗かせていた。

そのまま「へへへ……」と小悪党のような笑みをもらしながら、ぺこぺこと頭を下げて舘は本来の守備位置へと足早に去っていく。

 

 腑に落ちない気分が入夏の頭を走った。

舘は他の選手に対してもへり下る姿勢は誰に対しても同じような気もするが、入夏は詳しく見ていないので分からない。

確かに舘はまだ高卒3年目という若さもあり、プロの世界となればまだまだ先輩の方が圧倒的に多い。

しかし以前からそんな低姿勢だったかと言われるとそうだった気もするし、そうでなかった気もする。

端的に言えば入夏には分からないし、分かろうとも思っていなかった。

 

 

 

『時に入夏君』

 

「どうしました、勇名さん?」

 

『どうしてそんな隅っこにいるのかな?』

 

「どうしてと言われても……お気に入りだからです」

 

 ベンチの後列、その端は入夏の特等席だ。

勿論それは入夏がそう言い張っているわけではないし、誰かとの争いの末に奪ったものではない。

人気が無いために苦労する事なく定位置を守れているだけの話である。

二軍で定位置を守っているというのもまた虚しい話ではあるが。

 

『他の人と話したりしないの?』

 

「あんまり……。打席に集中したいですし」

 

『気にならないの? 相手のボールがどうとか、そういう話も?』

 

「それは時々しますけど、やっぱり一人の方が集中できるんですよね」

 

 中学時代の時も、高校時代の時も、ベンチから身を乗り出して応援した記憶は入夏にはない。

群れるよりも先にするべきものがあるからだ。

打席に入るための準備、そして打席を終えた後の振り返り。

それらのタスクは一人で黙々と積み上げていくものであると入夏は思っていた。

 

『でも、それだと寂しくない?』

 

「もう慣れました。一軍でも俺に話しかけるような物好きは槍塚か阿晒(あざらし)さんくらいしかいませんでしたし……」

 

「おーっす入夏! 相変わらず日陰が好きだな!」

 

 不意に肩を叩かれ、入夏の体が跳ねた。

ごつい手の主は同い年の大型ショート、万田(よろずだ)英治(えいじ)だ。

スポーツ刈りから派生したような、やや毛量の多い髪ともっさりしたもみあげ。

そして丸く大きな眼がじっと入夏を見ていた。

日本人離れした強肩とパンチ力のある打撃を武器に、大卒2年目にして次代の正遊撃手を期待されている選手だ。

 

『いい機会だ。彼と話してみなよ』

 

「え、ちょっ、あの」

 

 しどろもどろな返答をしていると、万田と視線がかち合った。

バットと会話するような狂人と思われたら、もしかすると精神病院にでも連れていかれるかもしれない。

 

「ん? どうした?」

 

「聞いてない、よな? 今の話」

 

「うんにゃ、別に。独り言でも喋ってたん?」

 

「そんなところ……なんだろうか?」

 

「いや、なんで俺が確認させられてんだよ。まぁ、話があるんなら聞くぜ? 壁に向かって喋ってばっかじゃつまらねぇだろ」

 

 万田が入夏の隣に座り、グローブをいじりながら言葉を投げかける。

ずっと一人でいる入夏を気遣っての行動なのだろう。

彼のような男を「陽キャ」と呼ぶのだろうなと入夏はなんとなく思った。

流石は日本一練習が厳しいと言われる地潘俱(じぱんぐ)大学でキャプテンを務めていた男だ。

同学年とはいえ気さくに話しかけてくるあたり、コミュニケーション能力の高さがうかがえる。

 

「優しいんだな」

 

「バッ……お前、照れるような事を平然と言うなよ! バカ!」

 

 顔を紅潮させ、大げさな手振りで万田が否定した。

 

「分かった。じゃあ言わない」

 

「素直か! で、何考えてたんだよ?」

 

 何を考えていたのかと言われて、入夏は先ほどの勇名との会話を回想する。

―――寂しくはないのか。という話題は万田に変に気を遣わせてしまうだろう。

一人の時は打席の準備と振り返りをしているから、そっちの方が会話としては適切だ。

 

「……打席に入る前の準備、とか。打席で何を考えるか」

 

「そうか。じゃあさ、観察ついでにちょっと勝負してみようぜ。例えばそうだな……今打席に立ってる舘の打席結果を考えてみるとか。当てられたら、今日の飯は俺がおごってやるよ」

 

「いいのか?」

 

 夕飯代という言葉を聞いて、入夏の頭はフル回転する。

勇名が何かを言っているが、きっと関係のない話だ。

 

 打席に立っている舘は、守備に定評があるものの打撃は不得意だ。

オープン戦でも良い当たりを打っていた印象は薄く、1軍監督の錦からも「1軍で2割5分打てたら上出来」とまで言われているあたり打撃での期待が少ない事が分かる。

それに、初球から手を出す事は滅多にない。

 

「三振、かな」

 

「お、いいの? 凡退か出塁かで賭けようと思ってたのに。フッ、案外大胆だな。いいぜ、その心意気に乗ってやる! ピタリと当てたらご飯大盛りのやつをつけてやる!」

 

「言ったな」

 

 そうと決まればご飯に合うおかずを考えておこう。

カウントは舘が粘って3ボール2ストライク、フルカウントとなっている。

舘はバットをやや短めに持って、少しでもバットに当てられる確率を上げようとしていた。

 

「勝負が決まる前に、一つだけ言っておくぜ入夏」

 

 ふふん、と自慢げに万田が鼻を鳴らす。

彼の瞳には確信めいた何かがあるように見えた。

 

「お前は舘が打てないと思ってるんだろうが、早計だぜ」

 

「??」

 

「打つだけが全てじゃない。見てろ」

 

 あいつは勝つぜ。

お前にじゃなくて、自分自身にな。

 

 これが漫画ならにやりという効果音でも付きそうな、いたずらっぽい笑みを万田は浮かべていた。

 

 相手投手がボールを投げると同時に舘がバットを動かす。

そして。

スイングの寸前で、侍の居合切りの構えのようにピタリとバットを止めた。

審判が背筋を正す間に、舘は悠然とバットを置いて一塁へと歩き出す。

 

「グッジョブ! 見たか、舘の進化を! 大体お前はいつも一人でいるが、野球は個人技じゃねぇんだ。大事なのは―――」

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

「は?」

 

 瞬間、万田が腑抜けた声を上げた。

審判は少しの間を置いた後に上半身を捻って力強くストライクを宣告していた。

見事……いや、残念なことに今のボールは際どかったがストライクと言われると引き下がるほかないコースだ。

舘はストライクコールをした球審とバットに視線を交互させ、そして見るからに肩を落としてベンチに帰ってきた。

 

 入夏が隣を見れば万田は顔を両手で覆い、天を仰いでいた。

話の続きが気になった入夏が

 

「大事なのは?」

 

 と聞き返すと

 

「何も聞かなかったことにしてくれ」

 

 と顔を覆ったままの状態で言われた。

 

 そろそろ入夏にも打順が回ってくる。

バットを持ち、ベンチから立ち上がった。

 

「じゃあ、夜はご飯大盛りで」

 

 そう言うと、手で塞がれた万田の口から「追い打ちかけるなよぉぉぉ」と声が聞こえた。

 




5000字超えちゃった……

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