スパークスとの2戦目。
初回に3点を先制され追いかける形となり、9回の裏。
1点差にまでこぎつけ、ランナーは一塁。
マウンドには先発として通算100勝以上をあげたクローザー・
対するドルフィンズは9番の
カウント1ボール、宇那木が投じた勢いのある真っすぐを捉えた。
打球はライト方向へ高く上がる。
打ってすぐに全力疾走をする柴。
顔をしかめて打球の方向を見つめる宇那木。
次第に大きくなる歓声。
柴がガッツポーズを挙げる。
値千金の代打逆転サヨナラツーランホームラン。
ホームベース手前でヘルメットを投げ、手荒い歓迎を受けながらサヨナラのホームを踏んだ。
……あともう一打席欲しかったな。
賑やかな選手たちの陰で入夏はそう思ったが、勝ったので言わないことにした。
3戦目は前日の勢いそのままドルフィンズ有利に進む。
初回に2番・
終盤には
投げては先発の瀧が低めに集める投球できっちりと6回を投げ1失点にまとめる。
終始リードを崩さないまま、ドルフィンズが試合を制した。
一方で悲しいニュースもあった。
二軍で調整を続けていた
大卒で入団し活躍する事15年。
通算で1300安打を達成し、決めた盗塁の数は297。
ドルフィンズを長きにわたり支えてきたスピードスターだった。
しかし去年のオープン戦で舘と接触し大怪我をして以降、一軍に昇格することは叶わなかった。
引退会見の場で記者にインタビューを受け、こう語った。
「どんな事にも終わりはやってくる。自分はそれが突然だったけど、悔いはない」
終始亀津は笑顔だった。
会見の最後にはサプライズで涙ぐむ舘から花束が手渡され、抱擁を交わしていた。
引退試合は今シーズン最終戦、ホーム球場で行われるようだ。
亀津がどんな事を考えて引退を決意したのか、その内側を知る事は出来ない。
本当は後悔だってあるのかもしれない。
けれど少なくとも、舘に対してはもう一切のわだかまりはないのだろうと入夏は思った。
◇
続いての試合はさいたま森林スタジアムでのフィッシャーズの三連戦。
一番警戒すべきなのはやはり4番の
ここまでホームラン数は依然トップ。
チームの主砲として十二分に力を発揮している。
そして、彼もまた伝説のOBに憑りつかれている人物だ。
強力打線が相手という事もあって、乱打戦も想定しなければならない。
そうなればチームの起爆剤としてこれまで以上に入夏の力は求められるだろう。
普段のバッティング練習にも力が入る。
勇名と細かい修正をしながら、快音と共にボールを飛ばす。
「いい放物線だ」
最後の一球を完璧に打ち終えると、誰かの声が聞こえてきた。
気付くといつのまにか金師がぎりぎり声が聞こえるくらいの距離で立っていた。
「だが、私に言わせればオリジナリティが足りない。悲しき事だ」
少し浮ついていた気分はすぐに叩き落された。
なんだオリジナリティって。
ホームランにそんなものないだろう。
いきなり「足りない」と言われ入夏の眉間にしわが寄る。
「あの、足りないってなんですか」
「君のスイングはいたく機械的だ。正確なスイングは確かにほれぼれする。だが、その先が無い。ただ正答を出すだけで、表現力には欠けている」
「欠けているって……。じゃあ、あなたは自分が出来ているって思ってるんですか」
「出来るとも」
あまりにも自然に出てきた物言いに、入夏は唖然とする。
「怒りも喜びも楽しさも、そして悲しみも乗せられるもの全部をこめて放物線を描いて見せる」
ぞわり、と背筋が震えた。
これが、本塁打王の感性なのか。
言っている事はよく分からないが、自信は伝わってくる。
「では試合で会おう」と言って金師はベンチ裏へと引き下がっていく。
言いたいことだけ言って帰っていったなあの人。
とりあえず時間はまだあるからスイングを確認しておこう。
……さっきの言葉が妙に気になって集中できない。
結局入夏は練習を終えるまで悶々とした感情を抱くことになった。
◇
えーっと、ここのトイレはどこだったか。
やや駆け足で入夏は球場内をうろついていた。
アウェーの球場はたまに現在地が分かりづらくなるのがキズだ。
とりあえずこの球場、今シーズンでの試合はこの三連戦が最後だから、また忘れるかもしれない。
あ、見つけた。
ささっと入って入夏はユニフォームのズボンに手を付け、用を足す。
(……それにしても)
『オリジナリティが足りない』
先ほどの金師の言葉を思い出す。
何か具体的なもの、例えば筋力だとかが足りないと言われるのはまだ分かる。
だけど。
―――オリジナリティって一体なんなんだ?
分からない。
本人に改めて聞くのもなんか違う気がする。
気にしないように努めるしかないか。
手を洗い、ハンカチに手をつけながらふと視線を落とす。
トイレを挟んだ壁からは顔が覗いていた。
「……」
『…………』
「オワアアアア!!??」
『what!!??』
「な、何ですか貴方は! 警備員を呼びますよ!? いや、この場合除霊師!? 塩谷に頼めばいいのか!?」
『ちょっと待て待て少年! 俺だよ、サーモン! タイラー・サーモンだよ!!』
「え??」
入夏が投げつけようと振り上げたハンカチを握り直す。
確かに、以前会ったタイラー・サーモンと同じ声色がする。
「……何でこんなところにいるんですか。勘弁してくださいよ、ジャンプスケアとか本当に苦手なんですから」
『うむ! なんだか悩む人の声が聞こえてな! つられるまま来てみれば、まぁこのように悲鳴を上げられたというわけだ!』
「ばっちいな……」
『そんな事よりもミスター入夏! 俺に何か聞きたい事があるんじゃないか!?』
聞きたいこと? そんなの別に……。
いや、あるわ。
「じゃあ一つお聞きします。ホームランにオリジナルとかってあるんですか?」
『ふーむ。良い事を聞くなぁ。かつてアラセに指導した時の事を思い出すよ』
アラセとは、金師の下の名前である。
「え、待ってくださいよ。じゃあもしかして」
『そうだ。彼にその概念を教えたのは俺だ。金師は荒れるような激情を持ちながらそれを抑える悪癖があったからな。我慢するなと指導したのだが……』
「抑えるのが悪癖なんですか?」
『当たり前だ、感情を抑えて何になる! 人は感情があるから不完全で愚かで、そして愛おしいのだ! だから俺はありのままを表現しろと言ったまでの事。そうはいっても契約更改であそこまで粘る奴は初めて見たが……アメリカでももっといい感じに落としどころを見つけるというのに』
「えーっと、つまりどういう事ですか」
『金師の考えていること全ては分からないため断言はできないが、多分君は打つことで手一杯なんじゃないか? アラセはそこを見抜いて、指摘した』
う、と入夏は声に詰まる。
今シーズン、もっと言えばこれまでの打撃は食らいつくので精一杯だった。
成績を残したい、一軍で生き残りたい。
打撃はそのための手段にすぎなかった。
「……ただ打つだけじゃなくて、そのさらに上があるって言うんですか」
『上、というとそれは違う気もしてくるな。こう打とう、という方針でもない。打撃を通して「自分はこんな人間です」と周りが分かるのが理想なんだ』
「それはすごい話ですね」
『あ、あんまりピンと来てないな! さてはまだ
「それは……気が向いたらという方向で」
『はっはっは! 正直でよろしい!』
◇
『あー、入夏君おかえり。なんかあったの?』
「……いえ、芸術家気質って見かけによらないんだなと」
この試合、金師は宣言通りホームランを打つ活躍を見せた。
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