野球の話が何故ミステリーに……?? 自分でもこれがよく分からない。
犯人の予想を感想に書くのは勘弁してください。
すぐにばれて死んでしまいます。
取調室。
ドラマ以外では目にする事のなかったであろう場所に入夏は座っていた。
灰色一色の壁は無機質な冷たさを感じさせる。
時刻は……午後9時30分を指している。
「ではあなたは、被害者とあの場所で会う約束をしていたと」
取り調べ担当の警官、
「はい。……自分が着いた頃には、既にあの状況でした」
「その約束を誰かに言いふらしたりしたとか、そういう事は無いですか?」
「ありません。連絡が来たのも当日ですし、メッセージが来てからは人と接する事も無かったので」
思ったよりも警察の人は冷静で、あくまでも入夏を発見者として扱ってくれている。
今頃、世間はどうなっているだろうか。
もしかしたらニュースで自分の事が報じられているのかもしれない。
「あの、事故という可能性はないんですか?」
「……あぁ、私共も最初はそう思ったんですがね。確か入夏さんが応急処置をした後頭部の傷、あれは階段を転げて出来た傷じゃなく、誰かに殴られたような傷だったんですよ。ちょうど手に持てるほどの鈍器で殴ったような傷です」
入夏は視線を落とす。
やはり、彼女は襲われたのか。
「彼女の容態は大丈夫なんでしょうか?」
「今のところは予断を許さない状況です。いつ意識を取り戻すかどうか……」
「俺はどうすれば疑いが晴れますか?」
「……お気の毒ですが、完全に疑いを取り除くのは難しいと思います。もし何もやっていないとしても、あの時間帯に現場に訪れていたのはあなた、被害者と会う約束をしていたのもあなた。目撃者でもいれば話は別ですが、今のところそういった情報も集まっていないですし。まぁ、現在情報を募っていますから、もしかすると何かを知っている人物が来るかもしれないですね。ただ、来るかどうかは正直なところ、私達にも分からないのでなんとも」
「桐生さん!」
「失礼。なんだ
若い男が勢いよく取調室のドアを開く。
桐生と呼ばれたその男は不機嫌そうに用事を聞く。
木本が何やら小声で桐生に耳打ちをする。
どういう話なのかは分からないが、桐生が大きく目を見開いたことからただ事でない事は分かった。
二人は部屋から出て話し込む。
数分すると、息を整えた桐生が再び取り調べ室に入ってきた。
「……目撃者が現れました」
「え?」
「正確には目撃者じゃない。近くを車で通りがかった人間が『音』を聞いたそうです。何かを殴るような音、それから転がり落ちる音を。その時刻にあなたは現場を訪れていない。駐車場の記録に残っている。つまるところ、犯人という疑いはほとんど晴れたといっても良いでしょう。情報の提供、誠に感謝いたします」
桐生は一転して頭を下げる。
来てほしいとは思っていたが、本当に来るとは思っていなかった。
このタイミングは、入夏からしても都合が良すぎる気さえする。
入夏もどこか釈然としないまま、取り調べ室を後にすることになった。
◇
警察署を出ると、夜は先ほどよりも強く雪が降っていた。
困ったな、こんなところで釈放されても。
ほぼほぼ連行される形で来たから、どうやって帰ろうか。
バスも本数が少ないだろうし。
そんな事を考えていた入夏の前を車が横切り、そして停車する。
「や、入夏君。困っているなら乗っていくかい?」
「……
千葉ドルフィンズのOBである彼が何故この場所にいるのか入夏には分からなかった。
「どうしてここに」
「うーん……結果としては、君を助けに?」
「……まさか」
「そ、僕が目撃者。目視してはいないんだけどね。あぁ、断っておくけど音を聞いたのは本当の事だからね! 被害者も、君の状況もここに来て話をしてから聞かされたものだし!」
「疑ってないです」
「嘘だぁ。僕だって話を聞いて出来過ぎだとは思ったんだよ。ま、乗りなよ。大変だったろう? 送っていくよ」
よく状況は分からないが、入夏は角田の厚意に甘える事にした。
この気候と時刻で意地を張るのはやめておいた方がいい。
車に乗り込むと、エンジン音の後車が走り出す。
少し古い型なのか、普段入夏が乗っている車よりも音量が大きい。
「それにしても、今日は散々な一日だったね」
「え。あぁ……」
そう言われて、入夏は今日の事を振り返る。
今夜の事が無ければ、充実した日だったはずなのだがどうしてこうなったのか。
「倒れていたのは佐藤さんだったんだろう? 彼女は良い記者だったのに……ねぇ、入夏君はさ。どうして彼女が襲われたんだと思う?」
どうして?
さっきまで疑いを晴らすことばかり頭にあったから、そんな事を全く考えていなかった。
どうして? どうして? どうして……?
「……分からないです」
「はは、素直なのはいい事だ。どんな些細な事でもいいから想像してごらん? あ、ほら! ここで聞くのは僕しかいないし! どんな推理でも笑わないよ、多分!」
「じゃあ……記者なんで、知ってはいけない情報を知ってしまった、とかですか? あ、そういえばメッセージでも、何か言いたげな様子でした」
「ふむふむ、良い情報じゃないか。いいね、このまま探偵と助手のバディで行こう!」
角田はフィクションかのように楽しんでいる。
近しい人が死の淵をさまよっているというのにこの態度なのは少し嫌だ。
「角田さん。流石に、これは不謹慎なんじゃないですか?」
「でも犯人を見つけたいんでしょ? 疑いの目を晴らすにはそれしかないよね」
「それは。そう、です。けど……」
「正直言ってね、僕も犯人の事は許せないんだ。だからこうして茶化すくらいじゃないと気分が悪くて仕方ない」
角田の声は先ほどまでの軽薄さとは全く違う、鋭く低いものに変わっていた。
「おっと、申し訳ないね。こんな空気にするつもりじゃなかったんだけど。……そういえば彼女、やたらと昔のプロ野球の事に詳しかったな。こういうのはどうだろう? 彼女は過去の事件を探って、何かを知ってしまった。そのため何者かに襲われた」
過去の事件。
彼女が探っていた事件といえば、
「けど、それってかなり前の事件だったりしませんか? 今更誰かを襲うというのは少し違和感が……」
「亡霊なんだろうよ」
短く言い放った角田の言葉に、思わず入夏はどきりとする。
「過去に囚われた亡霊。それが彼女を殺したんじゃないかな」
亡霊?
もしかして、
入夏がこれまでに間接的に戦った今は亡き選手達、もし過去に囚われた亡霊が彼らなら今回の事件にも関わっているのではないか。
……いや、考えすぎだ。ありえない。
少し言葉に敏感になっただけだ。関われるほど近くにいるはずがない。
「お、着いたね。今日は疲れただろうからゆっくり休むといいよ」
「あ。ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「はいよー」
角田の車の姿が遠くなるまで見送り、入夏はようやく我が家へと帰る事ができた。
短い時間だったはずだが、実家に帰ったような安心感がする。
『お、入夏君。ずいぶん遅かったけど何かあった?』
「……疲れました。大変だったんですよ、色々ともう」
『え、なになに? 何があったの?』
「話します。話しますから、驚かないで聞いてください」
入夏は今夜起こった事をそのままに話した。
勇名は相槌を打つ事すらなく、ただ静かに話を聞いているだけだった。
『そうか。そんな事が。災難だったね』
「彼女を襲った犯人は、まだ見つかっていないそうです」
『……分かった。俺も、君に話さないといけない事がある。今までは忘れたつもりではぐらかしてたけど。もし、今回の事件に関係しているならそんな事を言っている場合じゃない。だから、ちゃんと話すよ。過去の自分の犯した罪、そして。勇名涼の持つ未練について』
と、いう事で次回!
勇名の未練が明かされます!!
ちゃんと明かします!!!
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