天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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この度はたくさんの評価をいただき、ありがとうございます。
評価や感想、大事に受け止めてこの作品をより良くしていきたいと思います。

これからもどうぞ、お付き合いくださいませ。

また、この回を私は勝手に「リスタート」と捉えています。
展開的にも、書くことへの姿勢としても。
あまり深く考えなくても良いので、「ほーん」と思いながら読んでいただけると幸いです。


1月4日③ 勇名涼の告白

 まず、俺は君に謝らないといけない事がある。

 君は俺の事を信じてついてきてくれた。

 だからこそ、君を。いや、君だけじゃない。

 全ての野球人を裏切るような行為をしてしまった事を謝らないといけない。

 

 ……謝って許されることじゃないのは分かってる。

 許されたいとは思わない。

 ただ、それでも話すまでに勇気のいる事だったんだ。

 

 入夏君。俺はね。

 過去に八百長をしたんだ。

 

 分かりやすく動揺したね。

 君は表情以上に慌てやすいけど、それでもこれは最大級かな。

 そうだよね。からかっているような話じゃないか。

 ごめん、ちゃんと話すよ。

 

 鴨橋(かもはし)という男がいたんだ。

 プロ野球選手で、才能はまぁ並程度だった。

 けどそれ以上に狡猾で、黒いコネクションがあった。

 ヤクザとか、そういう裏社会との繋がりがね。

 経緯はよく知らないけど、とにかくそういう事があったのは事実だ。

 

 彼がチーム内だけじゃなく球界内で何をしていたのか。

 話の流れから分かる通り、八百長を取り仕切っていた。

 自分は把握しきれていないけど、他の球団の色んな人に声をかけて八百長を持ちかけていたんだ。

 ご丁寧に断れない相手に断れない理由をつけてね。

 人数は分からないけど、多分かなりの人数が関わった。

 

 それで、まぁ。

 俺も誘われたんだよ。

 え? 断れない理由があったんじゃないか?

 言ったっけそんな事。

 あぁ、言ったかも。

 でも理由なんて今はどうでもいいんだよ。

 だって君、理由を知ったら俺に同情するかもしれないでしょ?

 君は自分には厳しいけど、人には優しいからね。

 まぁ、優しさの方向性がちょっと違うような気はするけど。

 1年近い付き合いだもん、それくらいは分かるよ。

 さっきこれは言ったかもしれないけど俺はさ、許されたくないし、同情されたくないんだよ。

 どれだけの理由があっても罪は罪。

 そこから逃げたくはない。……ちょっと前まで話す事から逃げてたんだけどね。

 でも君のおかげと言うか、誰かが傷ついて初めて言わないとと思った。

 自分勝手だよね。

 それにぶっちゃけた話、俺ってプライド高いのよ。

 分かる? 分かっちゃうか、1年近い付き合いだもんね。

 だって中途半端に分かったようなしぐさをされても腹が立つだけじゃん!

 

 で、結局俺は罪を犯した。

 そのことを報道されていないのは君の反応を見れば分かるけど、それでも分かる人間には分かったみたい。

 対戦相手の大城(おおしろ)なんてさ、こっちの胸倉を掴んで殴ろうとまでしてきたんだよ。

 あいつそんなに熱血じゃないのにさ、柄じゃないな、とか思っちゃったよ。

 そう考えるとリークされなかったのが不思議だよね。

 なんでなんだろう。

 

 で、紆余曲折あって俺は死んだってワケ。

 そんな怒んないでよ、確かに俺の話に信憑性が無いのは事実だけどさ。

 死ぬ前の話は本当に覚えてないの。

 これは本当!

 未練だって死ぬ前の記憶が無いからさ、これだろうなっていうのはあったけど変わってるかもしれないじゃん?

 あぁ、そう。話はもう一つあるんだった。

 君が一番聞きたいのは、俺の未練だよね。

 

 そうだよねぇ、でも難しいんだよねぇ。

 こう、何て言うの? モラトリアムってやつ?

 説明するのが難しいけど、君に協力するって決めたからね。

 とりあえず頑張ってみるよ。

 

 野球をしていて、君にとって調子が良いのはどんな時? 何を感じて、何が見える?

 答えなくていいよ、これはただの問題提起だから。

 俺はさ、鏡を見ているような気分になるの。

 正面に映された鏡のように自分の姿が鮮明に見える。

 だから修正が出来るし、自分の事がはっきりと分かった。

 ただでさえ調子が良いのに絶好調だとそんな感じだから落ちる事を知らなくてね。

 知ってた? 俺、実は4割打者になるかもしれなかったんだよ?

 最強じゃない? 最強だよね。うん、最強だったと思う。

 

 でも、そういうのって一人でなれたわけじゃないんだよね。

 自分にとって成績よりも大事なものがあったからかな、あんまりそっちで悩む事は無かったし。

 対戦する事が好きだったんだよ、とにかく。

 上手投げ、横手投げ、下手投げ、速球派、技巧派、軟投派、左投げ、右投げ。

 そういうの全部関係なく、ただ対戦する事が好きだった。

 まぁ俺は最強だったわけだけど、最初からそうだったわけじゃない。

 負けて、悔しくて、自分の位置を確かめて。

 その過程は全部必要な事だったと思うんだよね。

 

 ただ、楽しみすぎたのかなぁ。

 気がついたら俺は最強で、言っちゃ悪いけど隣に並ぶ奴なんていなくて。

 それでも成績は落ちなかったけど、少しずつおかしくなっていったんだよ。

 

 何て言うのかなぁ、ピントがぶれるような。少しずつ鏡が古く汚れていくみたいな。

 自分がぼやけていくんだよ。

 生まれてこのかた野球ばっかりの人間だったからさ、それ以外に何か無かったのかもなぁ。

 自分の事が段々と分からなくなっていって、でも調子だけは良くて。

 汚れていく鏡をただ見つめる事しか出来なかった。

 日常生活も段々おかしくなってさ、普通の鏡を見ても自分の姿だけが何かぼやけて見えるの。

 髭を剃る時とかめちゃくちゃ苦労したんだから。

 それで、八百長がトドメになっちゃったのかな。

 最後に見えた鏡はもう全くピントが合わなくて。

 普通の鏡に自分が映ることもなくなった。

 俺は、俺だけの事が見えない透明人間になった。

 

 未練って言うと、それなのかなぁと思うんだよ。

 だから自分が成仏するきっかけは、『忘れてしまった自分を思い出す事』。

 これが出来れば、晴れて君は呪いから解放されるってわけだ。

 

 ん、何か思い当たるところがある?

 ……うんうん、俺の写真の画像がぼやけて見える?

 多分それは俺の影響だろうね。

 中途半端に繋がった事で、感覚がリンクしたのかも。

 いや、だとしても君個人が別に困るわけじゃないだろ!? 不便をかけて悪いとは思ってるんだよ、こっちだって!

 え、いや怒ってないよ。逆切れ? してないしてない。

 

 まぁ、そんな所なのかなぁ。

 メモは取った?

 うそうそ、忘れてたら何回でも教えてあげるから。

 思ったよりも厄介でしょ、面倒くさいと思った? 思ったんでしょ、ねぇねぇ。

 まぁ、出来れば俺も自力で何とかしてみるよ。

 ずっと居候っていうのも嫌だしね。

 

 え、何で立つの?

 宣言? 何を? というか今もう夜だよ?

 

 ……。

 …………。

 はは。

 はははっ、何それ。

 君にしては面白い冗談を言うようになったね。

 

 無鉄砲なのは嫌いじゃないよ。

 あー。久々に心から笑えたかもしれない。

 それこそ45年ぶりかもか、中々に壮大な話だね。

 うん、それはそれとしてできるかどうかは別だからほどほどに受け取っておくよ。

 でも、ありがとう。

 その気持ちだけでも、俺は君に会えて良かったと思う。

 

 嘘ばかりついてきたけど、これは本当だよ。

 疑うならそれでもいいけどね。

 




と、いうわけで勇名の告白という回でした。
大体予告通り、そして自分の書きたい事を詰め込めたと思っています。

ところで毎回感想や評価を催促する理由については、活動報告にて説明しようと思っています。

下にリンクを貼っておくので、ご興味があればご覧ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=329274&uid=223726

また、感想をいただくにあたって質問させていただくことがあるかもしれません。
決して問い詰めているわけではなく、その原因を知り、作品を良くしていくための行動である事を何卒ご理解ください。
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