記憶は段々おぼろげになってますが、恐ろしい夢だったことは覚えています。
人的被害ゼロとはいえ、どうして役所の倉庫に突っ込んだんだろう?
なんで親戚が責任を被ろうとしてるんだろう?
夢というのは支離滅裂ですね
ドルフィンズの8番打者・
スコアは1対3。
千葉ドルフィンズは今シーズンの開幕戦を黒星でスタートする事となった。
新入団選手もそれぞれ初出場を果たした。
安里は初出塁こそならなかったが、プロとしての第一歩を踏みしめていた。
新助っ人のポンズは今日は三振一つ、快音は出なかった。
「今日は負けたが、シーズンはまだ始まったばかりだ! 今日の負けを含め、課題は洗い出せたはずだ。それぞれが負けた原因を考え、次の試合で活かせるようにしよう!」
試合後の軽いミーティングで監督の
スコアだけ切り取ればあと一歩、といった形だ。
しかし試合内容はマッハトレインズの鮮やかな戦略の前に撃沈した。
こういった展開で言えばマッハトレインズの右に出るチームは恐らくない。
入夏の頭の中には8回での最終打席、
いつもなら自分への苛立ちを抑えながら帰る準備をしているところなのだが、今日の心境は何かおかしかった。
言葉で表示するならポワポワするというか、心のどこかに納得感が生まれたような感じなのだ。
「……話しかけるんだったら早い方がいいんじゃない?」
「分かってるっすよ! 入夏ー、大丈夫か?」
何やら小声で話した後、
そのすぐそばには鳥居がやや呆れ顔で立っていた。
「大丈夫って、何がだ?」
「あ、いやー。もし何も気にしてないんだったらいいんだけどな? 本当に余計なお世話だって言うんならそれでいいんだけどな? 8回のチャンスで打てなかったことを気にしてるんじゃないかなって。……そうっすよね鳥居さん!」
「そこでどうして俺に振るんだ。まぁ、つまるところ万田も心配なんだよ。君は考えすぎる癖があるからな。チームの支柱である君が下手に引きずるとチームにも影響が出る」
「……そうか、俺。いつも考えすぎているように見えてたのか。よく分からないけど、今は何故か落ち着いてる。本当なら悔しくて仕方がないような状況のはずなのに?」
「何故か? そりゃなんというか、不思議な話だな」
「そうだよな。おかしな話だと俺も思う。でも、三間さんとのあの最後の投球で」
―――あのボールに手を出さなかったのは正解だったって、そう思うんだ。
その時入夏は自らがどんな表情をしていたのか、確認する術がなかった。
ただ、今までにチームメイトに対して見せた表情でなかった事は、二人の顔色を見れば何となく分かった。
「……なるほど。君にしては珍しい感覚だが、そういうボールもあるな」
少しの沈黙ののち、鳥居がぽつりと呟く。
確かにこういったケース
たとえ良い結果を残したボールでも、それが原因でバッティングの調子を崩してしまう事はある。
プロ野球はポストシーズンを除けば、基本的に長期戦だ。
その日1日で結果を出すことも重要だが、勝ちを積み重ねていくことがより重要視されている。
そういった意味で、あのボールは正真正銘入夏の事を
「それにしても、そのボールを瞬時に悟るとはね……。普通はシーズンを振り返ったり、不調になった時に原因を考えるものだけど。去年の経験のおかげで、直感ってものが身に着いたのかもしれないな」
「直感??」
「えっいいなー! それって要するに必殺技みたいじゃん!!」
必殺技という単語に、それまで大人しかった万田が飛びつく。
「必殺技ではないような気がする。どちらかと言うとパッシブスキルのような……」
「「ぱっしぶ??」」
「分からないならいい。とにかく俺は、その直感が正解だったことを願うのみだよ」
「そうそう! まだここから試合はあるんだからさ、取り返してしまえばいいんだよ! 俺らだって打つんだしな!」
「ありがとう。これから結果を出せるように努力する」
スマホの通知音が鳴る。
それが自分のものからだと気付いた入夏は、二人にことわりを入れてスマホを手に取って相手を確認する。
思考と動きが一瞬、本当に一瞬だが完全に停止した。
『
スマホの文字がどこか無機質にすら感じる。
今、目を覚まさない彼女からの連絡?
疑問と不安に襲われながら、入夏は恐る恐る着信に出た。
「もしもし」
「入夏さんですか?」
聞きなれた声がスマホから流れた。
いつもの
「佐藤さん? 本当に……佐藤さんなんですか?」
『はい。あはは……事情はまだよく吞み込めていないんですけど、随分ご心配とご迷惑をおかけしたようで』
◇
聞いたところによると、彼女が目を覚ましたのはつい数日前の事らしい。
数か月意識を取り戻さない状態だったために、体を起こす事だけでも相当の苦労がかかったという。
それでも医療のおかげで何とか人と話を出来る状態にまで回復し、許可を貰えば携帯電話で通話する事も可能になったという。
『こんな夜分にすみません。でも、試合が終わる時間帯じゃないと入夏さんも通話できないかと思いまして』
「充分です。あなたが、生きて。こうして話を出来るだけでも、もう。俺にとっては充分すぎるくらいです。……本当に、本当に目を覚ましてくれてよかった」
そう言うと、彼女は困ったように笑った。
「それで、あの。倒れた原因について覚えている事はありますか?」
『あー、それがですね。私も意識を取り戻したばかりで、意識の無かった期間が長かっただけに記憶が混濁してるんですよね。こう、周りの反応を見て「
「……そうですか。すみません、起きたばかりの体に負担をかけるような事を聞いてしまって」
『ただ、一つだけ眠っていた時に感じていたことがありまして。ずっと意識が暗闇の底にいる中で、何というか……「悲しい」ような感情だけがぽつんと取り残されていたような……』
「『悲しい』、ですか?」
『あぁ、あははー! こんな話を聞いて何の役に立つんだって話ですよねー!? すみませんすみません忘れてください!!』
「いえ、ありがとうございます。俺にとっては今あなたとお話が出来るだけでも嬉しいです。お見舞いの品を今度改めてお送りしますね」
『あぁもう本当にごめんなさい! お気遣いなく!!』
では、と挨拶をして入夏は通話を切った。
生きていた。彼女が、本当に。
……良かった。
『そうか。彼女は意識を取り戻したか。ひとまず俺も安心したよ』
勇名さん。
―――なに?
ちゃんと、いや。もっと。
頑張ります。
自分にとって恩に報いるっていうのは、多分そういう事だから。
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