天才打者の忘れ形見   作:通りすがりの猫好き

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3戦目です。
開幕戦シリーズは次の水曜の更新も含めてひと段落します


OPENIG DAY③ 北海道パイレーツVS大阪ビクトリーズ①

『明日、予告通り先発する』

『だからたまにはリアルタイムで見ろよ、親父』

 

 試合の数時間前。

 一向に既読表示のつかないメッセージが表示されたスマートフォンを閉じて、奥戸場(おくとば)(そら)は一つ息を吐いた。

 別に、いつもの事だ。

 落ち込むわけじゃないし、そんな事をしている場合じゃない。

 父・奥戸場(おくとば)大地(だいち)は自分の事を気にかけてくれないわけではない。

 ただそれでも、父は海外で活躍した経歴のある元サッカー選手だ。

 今でも奥戸場という名字を聞けば自分よりも父親の方が先に予測変換に引っかかる。

 現役を引退した今となっても父は忙しい。

 子供じゃないんだ。

 すぐに反応してくれないことくらい分かる。

 

『いいのか?』

 

 幻聴に聞こえるそれは、元パイレーツのOB兼・亡霊の斑鳩(いかるが)(かすみ)の声だった。

 斑鳩の肉体は既に墓の下だ。これが最初に聞こえた時は自らの精神状態を疑うほどだった。

 結果的に馴染んで気にならなくなったが、結局のところ原理はよく分からない。

 まぁ害をなすわけじゃないから大丈夫でしょ!

 それに、ファンタジーに登場する死霊使い(ネクロマンサー)みたいで格好いいし。

 

「いいですよ、別に。慣れた事なんで」

 

『それもあるけど。今日の開幕投手の事についてだよ。当たり前だけど、開幕戦を勝つ事は簡単じゃないぞ。それに、今日の相手は……』

 

「深瀬さんですよね。知ってますよ。開幕投手に関しては自分から志願した事です。確かに勝てる場面で勝って、数を積み重ねていくことも大事ですけど。それって結局、試練から逃げているだけなんじゃないかって思うんですよね。あ、でも実力差なんて無いとか自惚(うぬぼ)れた事を言うつもりはないですよ。けど、シーズンを通して1勝くらい報いてやろうとは思っていますとも。それでこそ、『記憶に残る選手』でしょ?」

 

 プロになってから今まで、ずっと考えていた。

 どこまで実績を積み重ねれば、どこまで逃げる事ができれば『奥戸場大地の息子』ではなく、『奥戸場宙』として見てもらえるのだろうか。

 その理由が、昨季のオフで何となく分かった気がした。

 父は逃げなかった。挑戦し続けた。新しい道を開き、示し続けた。

 父は誇りだ。誰に何を言われようともそれは変わらない。

 けど俺は、俺の人生を歩みたい。

 これは復讐であり、己のための戦いである。

 自分の内心の自由を、自分だけの道を見つけるための戦いなのだ。

 

「いつも強がってますけど、これは本心です」

 

『……今の子っていうのは、結構分かりづらいタイプの負けず嫌いが多いんだね』

 

「ははっ、褒め言葉として受け取ります」

 

 対戦相手の先発投手は深瀬(ふかせ)和仁(かずひと)

 ()()()()()()()()と形容されたOB・大城(おおしろ)氷雨(ひさめ)の後を様々な方面で引き継ぐ、恐らく日本球界最強の投手。

 昨季は直接対決(マッチアップ)で一度も勝てなかったが、今日こそ勝つ。

 勝って俺は、「奥戸場宙」を手に入れる。

 

 スターティングラインナップ

 

 北海道パイレーツ

 1番 ピッチャー   奥戸場宙

 2番 ショート    芽張(めばる)憲治(けんじ)

 3番 ライト     宇坪(うつぼ)蘭太郎(らんたろう)

 4番 ファースト   レアンドロ・モリーニョ

 5番 サード     (かぶと)大将(ひろまさ)

 6番 レフト     グリン・トッド

 7番 セカンド    晴天(せいてん)(登録名のため姓は省略)

 8番 キャッチャー  田西(たにし)重春(しげはる)

 9番 センター    矢守(やもり)(けん)

 

 大阪ビクトリーズ

 1番 ショート    根古(ねご)権太(ごんた)

 2番 ライト     達磨(だるま)(ぎょう)

 3番 センター    番場(ばんば)朱鶴(しゅかく)

 4番 ファースト   羽場(うば)大悟(だいご)

 5番 サード      ブラッド・ロドン

 6番 キャッチャー  穂立(ほだて)(じん)

 7番 指名打者     ニコラス・スタンバーグ

 8番 レフト     山田(やまだ)(はる)

 9番 セカンド    虎尾(とらお)修一郎(しゅういちろう)

 先発投手 深瀬(ふかせ)和仁(かずひと)

 

 プレーボールの声を聞いたのは、マウンドの上ではなく、打席の上であった。

 普段だと負担を考えて投手の日と野手の日を使い分けていたが、今日だけは志願して出場させてもらった。

 今から戦う事になる深瀬がどんな投手なのか、改めて確認しておきたかったからだ。

 深瀬は昨年に続いて2度目の開幕投手。

 2回目だとある程度慣れてくるのか、落ち着き払っているように見える。

 

 初球、挨拶だと言わんばかりの低め真っ直ぐに全く手が出ず1ストライク。

 2球目はスライダーが早く変化してワンバウンドし、ボールとなる。

 1ボール1ストライクのカウントは、仕掛けるにはうってつけだ。

 甘く入ったら打ちに行く。

 五感のうちの視覚に意識を集中させ、ボールを待つ。

 来い、来い、来い!

 3球目、深瀬が投げたボールは上方向にすっぽ抜けた―――はずだった。

 

(―――は?)

 

 暴投と思われたボールは急激に()()()()()ような変化を見せ、ストライクゾーンに収まる。

 打席に立つ奥戸場は一瞬呆気に取られていた。

 深瀬の決め球(ウイニングショット)、スプリットか?

 いや、それにしては軌道が山なりだった。

 ……カーブだ。

 スプリットの他に、このボールを大きく進化させてきたのだ。

 決め球の他に、並の投手なら必殺技とも呼べるようなボールへと進化させてくるとは。

 つくづくこの男は現役日本一と呼ばれるだけの投手なのだと思い知らされる。

 結局この打席はカーブに意識を引っ張られた結果、4球目のストレートに対して振り遅れて空振り三振。

 2番の芽張に対してもストレートとカーブのみで見逃し三振に打ち取る。

 

 ここまで決め球のスプリットは一球も使っていない。

 投球フォームが大きく変わったわけではなく、オープン戦でもスプリットのキレは健在だった。

 なので恐らく、使えなかったのではなく()()()()使()()()()()()のだろう。

 しかし3番の宇坪さんはパイレーツの中でも打者として秀でた選手だ。

 流石に使わないわけにはいかないはずだ。

 

 その初球、大きく縦に変化したボールに対して宇坪のバットが出た。

 当たり損ないの叩きつけるような打球が一塁方向へと転がっていく。

 判定はファール。

 当てこそできたものの、あの宇坪さんでも当てるので手一杯のようなボール。

 スプリットも昨季から据え置きというわけにはいかないらしい。

 フルカウントからストレートを捉えるも、外野はほとんど定位置から動かない場所でボールを捕球して3アウト。

 

「宇坪さん、さっきの打席はどうでした?」

 

 ベンチへと引き下がって守備交代に備える宇坪に奥戸場は声をかける。

 

「どうもこうも、去年以上かもな。情けない事を言うようで申し訳ないが、今日の試合は1点を取り合う展開になりそうだ。深瀬には圧倒的な力があるが、お前も良い投手であることに違いはない。切り替えて投げてくれよ」

 

 投手用のグラブを手に取り、奥戸場は微笑む。

 

「分かりました、ありがとうございます。踏ん張ってプレーしますんで、1点でも多くとりましょう。生憎、切り替えるのは大得意なので」

 

 

 1回の裏、ビクトリーズの攻撃が始まる。

 まず打席に入ったのは常勝軍団が誇る切り込み隊長・根古だ。

 昨季は打撃タイトルこそ無冠に終わったが、打率・安打数・盗塁数でいずれもTOP5に入るほどの実力者だ。

 打撃では良い意味で()()がない。

 相手投手によって器用なバッティングが出来る上、長打も打てる万能打者だ。

 打席で対決するにも厄介、出塁させればもっと厄介な選手だ。

 

 キャッチャーの田西のサインに頷き、奥戸場は投球フォームへと入る。

 極限まで体で左手を隠す事を意識して指からボールを離す。

 ボールは思い通りのやや変化する軌道を描いてキャッチャーミットへと突き刺さる。

 球審がストライクを告げた。

 根古は驚くというより「ほーん」というような、ある意味セオリーに対して無関心な表情を見せた。

 そりゃ、開幕投手は先発投手にとっては花形だし。

 先頭打者に対しては正々堂々の真っ向勝負をするのが理想なんだろうけど。

 どっちかというと自分は投球術でかく乱する事が得意なもので。

 変化球を意識させたところでストレートを投げ込むと、上手く球種で押し込む事が出来た。

 センターへの平凡なフライでまずアウトを1つ奪う。

 

 続く2番の達磨は右方向へ流すようなバッティングが得意。

 なのでセカンドの晴天には一塁ベースよりに守ってもらい、外角のカーブで守備の網に引っかけさせて2アウト。

 3番の番場には3ボール1ストライクから際どいコースの変化球を見極められ四球で出塁されたが、4番の羽場に対してはインコースへの執拗な攻めを続けて内野フライに打ち取る。

 ここまでは想定通りの試合運びが出来ている。

 理想通りではないが、粘れ。劣勢になっても踏ん張る事を忘れるな。

 粘り続ければきっと、チームはそれに応えてくれる。

 

 2回の表は三者凡退で攻撃を終え、その回の裏。

 5番のロドンにライトの頭を越えるツーベースヒットを打たれて先制のピンチを迎えたものの、6番の穂立迅はショートへのゴロに打ち取りランナーは動けず。

 7番スタンバーグは左投手があまり得意ではないのか、スライダーを試し試しに投げてみたらあっさりと三振してくれた。

 8番の山田は下位打線ながらも打力があり油断できないバッターだ。

 2アウトなので打球が飛べば自動的にスタートするとはいってもランナーは鈍足。 

 外野の前に落ちる打球なら牽制できる可能性が高いので、守備は定位置のまま。

 監督たちもこっちの意図を汲んでくれて助かるよ。単打は割り切る。

 

 初球、小さく曲がるツーシームでストライクを奪い1ストライク。

 待ち方やボールの反応から見ても直球を狙っていたのだろう。

 打ってくれれば仕留められたのに。

 今度はカーブ。

 深瀬ほどではないが、カーブにはそこそこ自信がある。

 これを山田は見送って2ストライク。

 使える手札は全部使う。

 際どいコースへと投げる事を続け、最後はカーブを詰まらせてサードへのポップフライに打ち取った。

 

 ふぅ、開幕戦ってかなり体力使うんだな。

 どこかで援護点を貰えればいいけれど。

 そんな思いも虚しく3回表の攻撃も三者凡退。

 

 その裏。

 先頭の9番の虎尾。

 初球から狙っていたのか、やや甘く入ったストレートをフルスイングされた。

 乾いた音が、その場に居る選手の誰もに結果を確信させた。

 走る必要などない、と言わんばかりの余裕を持って虎尾が走り出す。

 打球は綺麗な放物線を描き、外野手が一歩も追わないホームランに。

 思わず、左手が膝をつき、がっくりと項垂れるように中腰になってしまう。

 試合が動くのは、あまりにもあっさりだった。




奥戸場はかなりイメージしやすいキャラクターなので書いていて楽しいです。
今回は選手一人の心情に寄り添った形の形式にしております。

この話が終わったらどの形式が気に入ったかのアンケートも取ろうと思っておりますので、ご協力いただけると幸いです
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