共鳴りとは──魂の振動(大嘘)   作:美味しいラムネ

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次の投稿は、諸事情により23か24になります、申し訳ないです


渋谷事変③─赫鱗─

 

 

 何者かにより、ビルの屋上から叩き落とされた猪野を虎杖は受け止める。

 

 「大丈夫じゃねえけど、死んじゃいない。伏黒、猪野さんを頼む」

 

 伏黒が呼び出した円鹿が、猪野の体を治癒する。ある程度容態が安定してきたところで治癒を止める。

 残酷だが、余計な呪力を浪費している暇はない。ここで損耗している猪野を即座に起こすのと、自身の呪力を大量に消費することを天秤にかけると、治癒するメリットは少ない。

 自分以外に治癒役がいないのなら、前者を選んだだろうが、幸い、家入さんが来ている。そこまで連れて行けばいいだろう。

 

 「わかった。すぐに戻る」

 

 「よし、じゃあ上のやつちょっと殴ってくる」

 

 「抑えろ、虎杖。俺たちの最優先事項は」

 

 「五条先生、だな。...わかった。俺は先に駅に向かう」

 

 虎杖は伏黒の言葉を聞いて考え直す。それに、猪野さんを倒せるだけの呪詛師ならある程度、強者特有の気配がある筈だが、それもない。恐らく既に離脱したのだろうな、と考える。

 

 「虎杖。...直ぐに追いつく」

 

 「はは、心配すんなって!!死なねえよ、だって、約束したからな」

 

 こつん、と二人は拳をぶつけ、それぞれの行くべき場所へ向かう。

 伏黒恵は猪野を連れて家入硝子の元へ、虎杖悠仁は五条悟の元へと向かう。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 駅のホームへと侵入した虎杖悠仁は、違和感を覚える。

 駅の中に大勢閉じ込められているはずの人が一人もいない。

 

 言い知れない不気味さを覚えながらも、駆ける。

 エスカレーターを一息に飛び降り、その先で漸く人影を見つけた。

 

 二つ結びの独特な髪型に、鼻には横一直線の刺青。

 その無気力そうな顔は、虎杖悠仁を認識すると殺意に染まる。

 

 「虎杖悠仁...弟の、仇っ!」

 

 両手を重ね合わせ、前に突き出すその体勢に、見覚えがあった。

 避けることが出来たのは、偶々だろう。

 

 『穿血』

 

 京都校の、細目のあいつの技だ。

 特級との戦闘で何度か見たその技の初速は、音速を超える。

 

 真紅の光線が、空間を切り裂く。

 紙一重で回避した虎杖は、2発目は撃たせまいと前に駆ける。直後、何かが唸る音がする。

 

 頬に浅い切り傷。

 外れた穿血が空中で軌道を変えると、そのまま虎杖の体を追尾する。

 

 鞭のようにしなる穿血が、駅の案内板を切り裂き落下する。

 直後、男の手から第二射が放たれ、既に腕から離れた第一射と挟み込む様にして虎杖を追い詰める。

 

 ──こいつ、強い

 

 呪霊換算なら、特級クラス。呪術師としてなら、一級の上澄み。

 

 第二射の直撃をなんとか避けるが、左腕の正面を浅く削られる。

 一射目と二射目で速度が異なることが、回避を難しくする──いや待て、初速は同じだったはず。何故速度が変わっているんだ?

 

 そうか!初速が速いだけで、その後追尾し始めるころには、速度が半分以下に落ちているんだ。なら、怖くはない。見てから回避できる。

 

 地面に落ちていた空き缶を全力で投擲する。

 ただの空き缶でも、虎杖悠仁の手にかかれば凶悪な凶器に早変わりする。弾丸の様に放たれた金属が、血液に切り裂かれ、男の両脇に分かれて吹き飛ぶ。

 

 「『蝕爛腐術・『朽』』」

 

 あれは、八十八橋のっ──!

 穿血の触れた部分から激痛が齎される。毒は効かないが、痛みは感じる。

 

 こいつ、二つも術式が使えるのか。

 

 強い。いつも、こんな強敵と戦う時は、隣に仲間がいた。友がいた。

 不安に感じる。怖ささえ覚えてしまいそうになる。

 でも、仲間達は今も何処かで戦っている。後を楽にするためにも。

 

 「お前は俺が祓う...行くぞっ!」

 

 痛みを振り払い、地面を蹴って走る。空気の壁を突き破り、何かが破裂した様な音が鳴る。

 

 『赤鱗躍動』で強化した肉体と、虎杖悠仁の逕庭拳がぶつかる。

 二重の衝撃が齎す破壊力。たたらを踏んだ男の袖を掴み、そのまま投げ飛ばす。そして倒れた男目掛けて左腕を振るおうとした時、その腕を血液の散弾が襲う。

 

 『超新星』

 

 痛みで振り切れなかった拳は、背中から血液をジェットのように吹き出させ、起き上がった男の蹴りに防がれ、今度は自分が転びそうになる。

 驚異的な体幹で転倒を防ぎ、その衝突のエネルギーを楕円形の回転で自身の蹴りに乗せて相手に返す。

 相手の蹴りの威力の乗った一撃が、唸りを上げて顔面に当たる。

 そのまま無防備な腹へ肘打ちを撃ち放つ。

 

 「不味っ...!」

 

 男が肘打ちを喰らい、吹き飛ぶ。しかし、明らかに吹き飛びすぎた。

 あいつ、自分から吹き飛びやがった...!

 

 それに。自身の肘が焼け爛れたようになっていることに気づく。

 殴る直前、蝶の羽の様な血液が割り込んだ。そのせいで、威力の大部分を削がれた。

 

 「『蝕爛腐術・極ノ番・翅王』...これは、壊相の技だ、お前が、お前が殺した──!」

 

 背中から、数十の血液の弾丸が放たれる。

 

 「あぁそうだ、俺が殺した」

 

 その全てが別々の軌道で、しかも追尾する弾、真っ直ぐに飛ぶ弾、ある程度の偏差がかかった軌道で飛ぶ弾と回避が難しい。

 

 しかも、だ。

 

 男の顔が険しくなる。俺を睨み付けながら、腕を構える。

 

 「そうか──ならば覚えておけ!『脹相』!これが、お前を殺して、壊相の仇を取る、兄の名だッ!」

 

 「『穿血──

 

 この微妙な速度の弾の間を、音速の矢が貫く。

 とはいえ、軌道は読みやすい。初撃さえ避ければ──

 

 ──拡散』!!」

 

 速度が落ちたタイミングで、穿血が急に3本へ分裂する。

 しかも、周囲に集まった翅王の血液が凝固し、穿血を再度圧縮、速度が初速近くまで再加速される。

 

 「がっ、ぐっ!」

 

 左腕、それに右の腿が貫かれた。大丈夫。足は動く。

 駅に置かれた自動販売機を持ち上げ、投擲。剣の様に振るわれた穿血により、機械がバラバラに切り裂かれる。

 瞬間、内部から大量の炭酸飲料が漏れ出し、衝撃により容器が破裂する。

 

 瞬間、男──脹相の全身が液体で濡れる。

 一瞬、血液の制御が弱まったような...?

 

 脹相の動きが止まった隙に、ベンチをハンマーの様に持ち上げ、横薙ぎに振るう。

 脹相は吹き飛ばされざまに血液の弾丸を放ち、虎杖は再び持ち上げた自動販売機を盾にする。

 

 まただ、今度は水に触れた瞬間、弾丸の形が崩れかけて威力が弱まった。

 

 血液でできた10を超える数のチャクラムが、楕円を描きながら振るわれる。

 避けたと思ったそれらは、伸ばした穿血に絡め取られ、再び背後から迫る。

 

 これだけ血液を使ってるのに、一向に弱る様子がない。

 失血死はしない、実質使い放題と思った方が良さそうだな。

 

 脹相の真上の掲示板を、投擲したタイルで叩き落とし、それを対処している間に懐へ飛び込む。

 距離を詰めることと引き換えに、脇腹を浅く抉られる。

 

 「はぁっ!」

 

 叫び声と共に放たれた拳は、まるで穿血の如く音速へ迫る。

 虎杖悠仁、その驚異的な身体能力から放たれる拳は、何もしなくてもアスリートのそれを凌駕する。そして、無意識のうちに片方の拳を鞘の様に見立て、放った拳。

 鞘代わりの拳の内側に満たされた呪力は、刀の役割を果たす拳を加速させる。

 仕組みとしては、『シン陰流・簡易領域『抜刀』』に同じ。

 異なる点は、カウンターでは無いため待ちがないこと、簡易領域としての機能はないため、両足を地につく必要がないこと。

 

 鞘代わりの拳内の呪力に押し出され、加速した拳は、鞘から出る頃には既に最高速へ至っている。

 

 故に、気づいた時にはもう回避できない。

 ぱぁん、と拳が空気の層を突き破る音は、音速を超えた証拠。マッハの拳が、脹相の体を縦に切り裂く様に振るわれる。

 

 しかし、虎杖悠仁の拳が音速ならば、脹相の穿血も音速。

 5発目のタイミングで、穿血が横合いから拳を貫いた。

 

 脹相が口から血を吐き、虎杖が片腕を破壊された痛みで顔を歪める。

 両者が、間合いを掴みかねて一瞬硬直する。

 

 「どういう状況ダ!」

 

 戦況が動く、声がした。

 

 「メカ丸!!お前今まで何して」

 

 「すまん省エネモードダ!!なるほド。脹相か。加茂と同じ術式の使い手ダナ」

 

 「充電は大事だからな、ってそうじゃなくて。なぁメカ丸。この辺りに、水が大量に、持続的に出る...シャワー室的なところってあるか?」

 

 「シャワー室はないガ...丁度イイ。同じ事を考えていた所ダ。水で血は崩せるカラナ」

 

 「すまん、理屈はよくわからん」

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 虎杖悠仁が、憎き仇が走り出した。

 逃げるつもりか?いや、そうではない。誘導されている?

 

 そこにあるのはトイレとエレベーター。比較的避けやすい地上へ移動するつもりか?あの身体能力ならば、扉を破壊して、壁を蹴って移動するぐらいは余裕だろう。

 

 ならば、逃げる隙を与えなければいい。

 穿血に回していた血液を翅王に回す。数を増した誘導弾が壁を曲がり、向こう側にいる虎杖悠仁に殺到する。

 

 さぁ、袋小路に追い詰めた。

 飛び込みはしない。罠の三つや四つ仕掛けられていると考えるのが普通だ。油断はするな。

 こちらは、左右に広いこの場所から、穿血で狙撃していれば──

 

 

 「何ダ?来ないのカ??弟と似て、弱虫なんだナ」

 

 待て、挑発に乗るな!という血塗の声が脳内に響く。

 しかし、ここまでコケにされて黙っているわけにはいかないっ!

 

 限界まで数を増やした誘導弾を撃ち放ち、間髪入れずに、トイレへ逃げ込んだ虎杖悠仁目掛けて、苅祓を放つ。

 

 そのまま、追撃すべく穿血を放ち、トイレ内部を滅茶苦茶に荒らし回る。

 そのタイミングで、壊れた拳を盾に、個室から虎杖悠仁が飛び出す。同時に、スプリンクラーが、そして絶たれた配管から水が溢れ出す。

 

 

 虎杖悠仁は、液体を被った際の血液の反応を見て、伏黒恵から聞いた、加茂憲紀の戦いを思い出していた。

 理屈は覚えていないが、水で血液の制御を奪える。

 

 この瞬間、両名は。

 術式無し、拳のみ。

 己が肉体のみでの戦いを、強いられることとなった。

 

 

 「おおおおおおお!」

 

 残った片腕で、足で、全身を使い。

 超至近距離、限界まで接近した超近接戦闘。己のエゴとエゴのぶつけ合い。

 倒れてたまるかと、脹相は自身の血液を高速で循環させ、赤鱗躍動の性能を高める。

 全身が高熱を帯び、辺りが気化した水で曇る。

 

 弟の仇を取るため、体内で呪力を循環させ、限界を超えた力を引き出す。負担を度外視した術式の使用は、間違いなく死へのリスクを上げる。しかし、それでも目の前の敵相手に出し惜しみすれば、あっけなく殺される。

 

 鞭の様にしなる虎杖の腕を潜るようにして避け、己の拳は蹴りによって相殺される。

 

 肉と肉がぶつかる音が弾ける。

 会話はない。ただひたすらに、互いの力をぶつけ合うのみ。

 

 腸相は、そして虎杖は、互いに更なる一手を選び取る。

 

 「『超新星──一点集中』」

 

 血栓症のリスクを度外視し、表面を固形化した血液で覆い、この状況での体外での血液操作を可能にした。

 そして、今まで以上の圧力をかけることに成功し、同じ圧縮度で、大きさは3倍の百斂を三つ作り出す。

 それらを混ぜ合わせ、本来なら散弾のように撃ち放つ超新星のエネルギーを一点に集め、周辺へ、爆発的に放出。

 

 そこにあったはずのトイレは消し飛び、部屋そのものが消滅する。

 スプリンクラーごと部屋が消し飛び、水が部屋を満たすことは無くなる。

 

 勿論、自爆覚悟で放った一撃だ。

 虎杖悠仁へのダメージは勿論、自身へのダメージも大きい。

 

 虎杖悠仁は、超新星に気づいた瞬間、妨害は不能と判断。

 ならば、あれを放った直後の気の緩み。あの攻撃を耐え抜いて、カウンターを狙う。

 

 瞬間、爆風が全身を喰らおうと迫る。

 全身に薄く呪力を回すのではなく、分厚い壁の様に。

 

 そして、意識が飛びかけながらも耐え抜いた虎杖悠仁は、穿血を放とうとした脹相の腹へ

 

 ()()()()()()黒閃を放った。

 

 「いいや...いいや、まだだ!」

 

 咄嗟に展開した、ブヨブヨとした材質の血液の鎧が、何とか拳の威力を軽減し、意識をギリギリで保つ。

 

 「『穿血』!」

 

 「『黒閃』!」

 

 黒い火花と、血液の弾丸が拮抗する。

 拳を抉る血流と、血流を引き裂く拳がぶつかり合う。

 

 誰の血かわからない飛沫が飛び散る。

 

 「ここで...」

 

 「こんなところで」

 

 

 「「倒れるわけにはいかねえんだ!」のだ!!」

 

 

 その男は弟の為、その少年は友のため。

 最後の力を振り絞る。

 

 脹相は、このままではジリ貧と判断。ならば、拳を喰らってでも...!

 穿血が下に外れ、虎杖の内臓を滅茶苦茶に掻き乱す。

 それと同時に、虎杖の拳が脹相の胸に当たり──

 

 

 「ごめん、釘崎。伏黒。約束、守れそうにない...」

 

 「すまない、血塗。一人にして、しまうな...」

 

 意識が暗転する直前、脹相の脳内には、存在しない記憶が流れていた。

 今のは、何だ...?

 

 

 

 







感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!

味方が強くなる→敵も強くなる、というか暫定ラスボスが強くなるバグ。
血塗は安全な場所で待機中。


ここが強化されたよ脹相くん

蝕爛腐術(本物)

仇討ちだけではなく、守るべきもの(血塗)のための戦いでもある。弟を守るお兄ちゃんは最強なんだ

Q.宿儺指一本少ないけど大丈夫?

A.さぁ?


Q.お兄ちゃん何でその術式使えるの?

A.お兄ちゃんだから
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