共鳴りとは──魂の振動(大嘘)   作:美味しいラムネ

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アンケートは、4:6ぐらいで結構割れました。
だから考えました。どっちも混ぜようって。どっちも混ぜる。そんだけだ。





渋谷事変⑥─霹靂─

 

 

 

 ──宿儺...いや違う!指か!!この渋谷のどこかで、指が解放されたのだ!!

 

 気配の方向。そこへ駆ける。

 高専側が、虎杖悠仁にこの瞬間に喰わせる意味はなんだ。もしや第三勢力の介入か。で、あればそれの最終目的は?

 

 浮かんだそれらの思考を焼き捨て、現場へ駆ける。

 

 女子高生だろうか、その二人が指を喰わせようとしているのを発見し、その腕を焼き尽くす。

 

 「きゃぁっ!」

 

 悲鳴を無視し、器の様子を見る。

 なるほど、まだ食わせた様子は無し、か。たった一本の指でどうするつもりだったのやら。

 いや待て、虎杖悠仁の肉体は明らかに瀕死だ。それを再生させるためか?

 

 今、儂の手には11本の指がある。

 ここで宿儺を目覚めさせるべきか否か...いや、そもそも宿儺が目覚めたところで、味方ではない。

 

 「ふむ。...死んだフリしているところ悪いが、丸わかりだぞ」

 

 どちらかの術式だろうか、殺した筈の二人が生きている。

 しかし、あの怯えよう。そう何度も防げまい。

 端末を儂に向け、何かをしようとはしていたが、焼き尽くす方が速い。

 

 手間をかけさせおって、まぁ良い。思考を整理する良い機会になった。

 

 とりあえず、隣で倒れている脹相を少し離れた場所に移動させるか。一応、本当に一応味方ではある。虎杖悠仁の扱いについては一致しないが、態々ここで見捨てる必要性は皆無だ。

 

 少し離れた位置のベンチに放る。見た感じでは、致命傷は喰らっていない。その内目覚めるだろう。

 

 

 背後に、見知った気配が現れる。

 

 

 「...かつて仕えた主人の気配が溢れたのだ。貴様のことだ、来るとは思っていたぞ、裏梅」

 

 

 おかっぱ頭の、性別不詳の人間が時同じくして現れる。

 未成年にも見えるほどの小柄な、赤混じりの白髪。

 

 「当然だろう。ちっ、この男。一体誰の体だと思っているんだ...」

 

 血みどろになった虎杖悠仁の姿を憎々しげに睨みつける裏梅を横目に、漏瑚は思案する。

 

 ...宿儺を目覚めさせる。その結果訪れるであろう混沌。それの副次的効果で訪れる、呪霊の世界が目的。

 で、あればだ。誰が蘇らせようと関係はないだろう。

 

 ならばどうするか。

 

 「裏梅、儂と縛りを結べ。『きっかり五分が経過するまで、小僧に指を食わせない』という縛りを」

 

 「...良いだろう。ここまでくれば今すぐでも五分でも変わらん。高専生を殺しに行くつもりだな」

 

 「無論。殺す前に儂が宿儺に殺されては堪らんからな」

 

 器と裏梅を置き去りにし、地上へ足を進める。

 待っていろ、花御、陀艮よ。拳を握りしめる。握り締めた拳から漏れたマグマが、地面にぽつり、ぽつりと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 「おい。おい!おい釘崎!そろそろ起きろ!そして俺から離れろ!!」

 

 「んあ?」

 

 寝ぼけ眼を擦り、のそこそと起き上がる。

 ...なんてところで寝ていたんだ私は。瓦礫の山のど真ん中とか。

 生きている自販機を見つけ出し、適当にペットボトルの水を2本買う。一本取って飲み干しながら、もう一本は恵に投げ渡す。

 

 「虫ケラぁ、私どれぐらい寝てた?」

 

 近くの瓦礫に腰掛けていた虫ケラが、5本の指をぱ、っと開いてみせる。5分か。短いけど一度寝たからだいぶ回復したな。上々。

 でも、恵の方は領域も使ったし、呪力量は万全とは言えないわね。領域の再展開は無理そう。

 

 あぁ、もう。すっごく空気淀んでるわね。今の渋谷は魔境よ魔境。1日で既に特級クラスと2連戦よ。

 ...いや待て。この淀みかた、覚えがあるわね。

 

 「え、待って宿儺の指?え?」

 

 「あぁ。寝ていて気づかなかったが、起きた時にはもうこの気配はしていた」

 

 「悠仁が心配ね...行きましょう、気配の元へ。と、言いたいところなんだけど」

 

 宿儺の指の気配が現れた場所から、巨大な気配が迫ってきているのを感じる。

 

 「とりあえず、アレを撒くぞ!」

 

 

 

 「いいや、逃がさんよ」

 

 

 

 体が硬直する。

 此方がコイツを認識すると同時に、コイツも此方を認識していたか。

 

 ソレが歩く。

 大地が焼ける。

 

 ソレが歩く。

 大気が溶ける。

 

 「お前は、あの時の!」

 

 漏瑚、あの時の、頭富士山!

 

 次の瞬間には、体が動いていた。

 両手に釘を装填し、交差する様に投げ放つ。それを追う様にして懐に潜りこみ、頭部目掛けての後ろ蹴り。

 

 ずががっ、と音を立てて突き刺さった釘から斬撃が放たれ、頭部を蹴りが揺らす。

 

 「『穿血』!」

 

 腹目掛けて放たれた水のレーザーが漏瑚に触れると、一瞬で水が気化し、爆発する。

 

 「焼けろ」

 

 「恵っ!」

 

 地面が盛り上がり、そこから溶岩が滝の様に溢れ出す。

 恵目掛けて迫るそれの前に立ち塞がり、全身でそれを受け止める。

 

 あぁくっそ、あっつ!しかも痛い!

 

 「私は大丈夫だ、恵!」

 

 口から煙を吐きながら、反転術式を回し、傷を癒す。

 まだ少しヒリヒリと痛む体を動かして、腕を振るう。

 

 「くそ、丸焦げになるところだったわよ!」

 

 いや、実際丸焦げにはなってるんだけどね、と心の中で呟く。

 反撃に放った拳が、黒い火花をあげる。

 

 「ふむ...成る程な」

 

 「『嵌合獣・顎吐』『嚥下獣・灰怒羅』!」

 

 絡みついた影のウツボは、その電撃ごと焼き尽くされ、顎吐がその半身を溶かされながらも、なんとか体を再生させ、喰らいつく。

 

 漏瑚と2体の顎吐、そして私が何十と拳を重ねる。

 一撃ぶつけ合うだけで体が弾け飛び、百を超えたあたりで顎吐が消滅する。

 その余波を受け、近くのビルが一棟崩れ去る。

 メシメシという音と共に、土煙が広がる。

 

 「『火礫獣』よ、征け」

 

 迫り来る灼熱の獣を、共鳴りで連鎖的に破壊する。

 獣を掻い潜り、漏瑚の体に牙を突き立てた狼が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 建物の中に飛ばされた玉犬・渾が、駐車場であったであろう建物の中から呪力を纏わせて車を次々と投擲する。

 その質量の乱打でさえも、焼き切り、受け止める。

 

 だめだな。勝ち筋が見えない。影すらも焼き尽くす高熱。いつまで持つか。

 ...使うか?いや。

 

 「まだ諦めるには早いよな、『簪・平打ち』!」

 

 目の前に迫っていた虫を破壊すると、そこから溢れた閃光と爆音で思わずよろめき、倒れそうになる。

 

 肩で息を切り、漏瑚をキッ、と睨みつける。

 

 

 「やはり、貴様らは厄介だ。特に小娘、貴様は。一度出し抜かれたのだ。もはや加減は一切しない」

 

 悠然と佇む漏瑚の姿は、超越者とでも呼ぶに相応しい。

 かつて人は大地に神を見出し、それを畏れ、敬った。その信仰を向けられるに相応しい威厳が、そこにはあった。

 

 此方の実力を測るのは終いだ、と言わんばかりに円形に周囲を覆う様にして溶岩が迫り上がる。

 

 

 

 「一撃で、一切合切終わらせてやろう。」

 

 漏瑚が呪力を練り上げるに合わせて、大地が揺れ、空が嘶く。

 

 ふわり、漏瑚の体が浮かび上がる。

 

 極ノ番「隕」

 

 

 

 空を、見上げる。

 そこには、星があった。

 

 太陽と見紛うほどの大火球。

 これが、たった一体の呪霊が生み出したものなのか。神の怒りが具現化したとでも言ったほうがまだ説得力がある。

 

 

 「化け物がっ...!」

 

 周囲に迫り上がった溶岩が、そこから這い出る獣の群れが逃げ道を完全に塞いでいる。

 

 「詰み、か...すまない、釘崎。『布瑠部...」

 

 祓詞を唱えようとする恵を、そっと手で制する。

 

 「恵、3秒だ、3秒後、私はあの太陽を堕とす」

 

 「...はぁ!?出来るのか、釘崎」

 

 「多分、今の私なら。そうしたら、確実に漏瑚にも隙ができる。その間に、全速力で逃げてくれ。それでも無理なら、仕方ない。精々最後まで足掻いてやろうぜ」

 

 「...信じるぞ、釘崎」

 

 「任せろ!」

 

 

 

 すぅ、っと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 理論は完全。技術も、脳への反転術式を理解した今の私にはある。

 

 あとは、気合いで実力を誤魔化すだけ。

 

 「『虚像』

  『収束』

  『湖面の鏡像』」

 

 祓詞を唱え、掌印を結び、舞を舞う。

 あらゆる動作を省略せずに、漸く届く私だけの極ノ番。

 

 

 掌に、ゆっくりと落ちてくる太陽を縮小した虚像が現れる。

 視界にとらえた物体の虚像を作り出し、そこに藁人形と釘を叩き込む。

 共鳴りの発展系。その終着点。

 

 目から血が吹き出し、鼓膜が内側から破ける。

 腹の中から、全力でその術式の名を叫ぶ。

 

 

 

極ノ番『共振』

 

 

 虚像の星に釘を打ち込む。

 

 1秒。何も起こらない。

 誰もが、失敗か。と思った瞬間──

 

 

 星が、砕けた。

 

 使用者に、術式の呪力が逆流する。周囲を囲んでいた溶岩が崩壊し、獣達が死に絶える。

 

 太陽の破片が、尾を引きながら大地へ落下する。

 陽炎の雨を背後に、恵は私をつかんで駆け出そうとする。

 

 「やはり、貴様は──厄介だ」

 

 1発でダメなら、もう1発放てばいいと、漏瑚が腕をあげる。

 あぁ、駄目か。逆流分は、周囲の術式を解除するので殆ど使い果たしたか。

 もう1発は流石に無理。実際、この術式の消費呪力量はそう多くない。でも、成功したのが奇跡みたいなもの。もう一回は行ける気がしない。

 

 それでも、なんとかしなければ、と無理やり呪力を練ろうとする。

 

 その私の腕と、漏瑚の腕を何かが撫でる。

 

 「「ちっ!!」」

 

 私は、何か──おそらくは斬撃──に釘を当て、『簪・平打ち』で相殺しようとし、更に見様見真似の落花の情の応用で術式を中和。それでも半ばまで切り裂かれた手首を反転術式で修復する。

 

 漏瑚は溶岩と黒曜石の壁で斬撃を減衰させ、自身の腕をゲル状に変化させて威力の下がった斬撃を後ろへ透かせる。

 

 

 心底愉快そうに、パチパチと乱入者は手を叩く。

 

 「はっ、悠仁、あんたイメチェンでもした?」

 

 「ふん、つまらん冗談はよせ」

 

 虎杖悠仁の姿をした何か。なるほど、これが──両面宿儺か。

 邪悪に嗤うその気配。アレが悠仁なはずが無いわ。

 

 「なかなかに楽しめたぞ?だが、だがな...ふむ...呪術のなんたるかを、貴様らはまるでわかっていない」

 

 「丁度いい。おい貴様。漏瑚と言ったか?遊んでやろう。貴様らに呪術の何たるかを教えてやる」

 

 「この肉体を傷つけることができれば、お前らについてやろう。手始めに、一人...いや、場合によっては二人を除いて渋谷の全ての人間を根絶させてやってもいい」

 

 傲慢不遜な物言い。

 私がまるで敵わなかった相手に、「無傷で勝利する」という意味合いの発言。

 

 「邪魔をするか...両面宿儺!!」

 

 漏瑚の叫びと共に、周囲の高層ビルが溶岩の腕に破壊され、その瓦礫が溶岩を纏い、流星雨の様に降り注ぐ。

 一発一発が、地面へめり込み、クレーターを作るほどの威力。

 

 そんな破壊の最中にいながら、高らかに両面宿儺は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







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虫ケラ『影の中に潜んで不意打ちしようと思ってたらなんか宿儺に全部ひっくり返された』


楽屋裏の宿儺

 『やばい伏黒恵が死ぬうううううう!!!!!!』
 ※初手の斬撃で腕が飛ぶ様なら、釘崎のことも期待外れだと殺す気満々だった


『共振』

 呪力で、対象のコピーを作り出します。それを起点に共鳴りを使います。生物(呪霊)は対象外。但し、体から離れた術式や式神には有効。術式でも、領域の様に空間そのものが術式、みたいな捉えどころのないものは無理。領域内部の物体は破壊できる。◾️◾️◾️が対人向けだとすれば、共振は対物向けだろうか



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