共鳴りとは──魂の振動(大嘘)   作:美味しいラムネ

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大変申し訳ございません。多忙のため、暫くは更新が遅くなりそうです。
リハビリのため今回は短めです。


渋谷事変⑨─変身─

 

 「マレーシア、そうだな...マレーシア...クアンタンがいい」

 

 譫言のように七海が呟く。

 焦点の合わない()()が忙しなく動く。

 

 ...疲れた。疲れたな。そう、疲れたんだ。

 もう、充分やったさ。

 

 なのに。

 灰原が、北を指差す。

 

 逃げて、逃げたくせに。

 やり甲斐なんて、曖昧な理由で戻ってきて。

 

 そんな私に、まだ、働けと言うのですね。

 

 あゝ、残業は糞だ。労働は糞だ。

 

 「...なみさん、七海さん!」

 

 真希さんが、私を背負い駆け出そうとしていた。

 

 「ぶわっはっは、七海一級術師。顔は咄嗟に鉈で守ったんだ、死にはせんだろ」

 

 「...直毘人さん」

 

 何故生きているのかが不思議なほどだった。

 全身が炭化し、もう助からないことが分かる。

 

 「おいジジィ、お前、こんな状態になってまで酒飲むか」

 

 「ん?あぁ、どうせ死ぬからな。最期に、な。ほら、行け行け。七海一級術師。お前はまだ間に合う」

 

 ぐいと酒をあおり、ひらひらと手を振る。

 

 「...ジジィ」

 

 「お、そうだそうだ。真依に伝えておけ。『次の禪院家当主は、十種影法術の使い手だ』、とな!」

 

 「...マジか」

 

 大声で笑う直毘人さんの姿がぐんぐんと遠ざかる。

 助かったと言う事実を何処か遠くから眺めながら、暗い空を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 「兎にも角にも、先ずは五条先生の救出に向かうぞ」

 

 悠仁がそう言い、一先ずは真希パイセン達がいるはずの、先ほどまで陀艮と戦っていた場所まで戻る。

 

 「なっ」

 

 そこには、人型の灰と、墓標の様に突き立てられた游雲だけがあった。

 あの灰は、多分...直毘人特別一級術師ね。漏瑚にやられたわね。真希パイセンや、七海さんはどうなったのかしら。

 

 游雲を回収し、そっと直毘人の遺体を横たえ、短い黙祷の後、立ち去る。

 

 

 「真希先輩や、ナナミンがどうなったかはわかんねぇ、生きて逃げ切ったと信じて先へ進むしかねえんだ」

 

 「...そうだな」

 

 今の悠仁は、進み続けるしかない。止まればそこで折れてしまいそう。両面宿儺、何が史上最強の術師だ。いつか、お前だけを殺してやる。使えるものは、何でも使ってやるわよ。

 

 「五条悟(ゴジョセン)がいるのはこの先ね。さて、どんな見張りがいるのやら」

 

 階段を降りる。

 静かな駅の中に、かつ、かつと地面を足が叩く音だけが響き渡る。

 

 今の渋谷は正に人外魔境。今日だけで一体どれだけの特級クラスと打ち合ってきたのやら。

 

 「次は何が出るのかしらね?芦屋道満?平将門?もう何が出ても驚かないわよ?」

 

 すんなりと五条悟の元へ行ける筈がない。それはわかっている。

 最大限の警戒を保ちつつ、最高速で五条悟の元へと向かう。

 

 視界の端、何かが動いた気がした。

 

 「!...『簪』!」

 

 釘が何かに突き刺さる。

 

 「何だ、鼠か」

 

 ドブネズミの腹に釘が突き刺さり、くたり、と倒れている。

 まぁ、都会だしこんなこともあるわよ...いえ、待って。

 

 何故、()()()()()()が複数の魂を持っている?

 

 「『多重魂・撥体』!」

 

 ネズミの体が爆発的に大きくなり、中から歯茎を剥き出しにガチガチと歯を鳴らす、私を丸呑みできそうなほどに肥大化した顔が飛び出す。

 

 なるほど。

 懐で休眠状態だった式神が活性化する。

 

 なるほどなぁ!

 

 「真人かぁ!よくもまぁ、私たちの前に顔出せたなぁ!!」

 

 「あはあははは!!酷い顔じゃないか、自分の魂でも汚されたか?えぇ?甘ぇ覚悟で戦場に出てくるからそうなるんだよ!」

 

 ハンマーの様に振り下ろされた証明写真機ボックスを金槌で受け止め、腹を蹴り飛ばす。ボックスの中からは肉の塊が溢れ、私に迫ると同時に明確な形を持つ。

 

 「へあ!『幾魂異性体』!」

 

 改造人間、通常とは違う。魂を掛け合わせた感じか?

 改造人間の強さは、どう足掻いても一級には届かない。なら、

 

 「こいつごとぶん殴るっ...!?」

 

 相手の拳をガードし、カウンターを叩き込もうとした瞬間。 

 想定外の衝撃に体が吹き飛ぶ。

 

 「ぐっ...攻撃力への偏重か、考えたわね!」

 

 5体の幾魂異性体が私に、3体が恵に飛びかかる。さらに、私たちを分断する様に大量の改造人間が。

 悍ましい。一体何人犠牲になったんだ。

 

 「虫ケラ!やれ!」

 

 游雲を握った少年院の特級呪霊が通常の改造人間を薙ぎ倒し、私は幾魂異性体に平打ちを浴びせ破壊する。

 やっぱり、耐久性はそうでもないみたいね。

 

 「こっちは大丈夫だ、それよりも虎杖を!」

 

 恵も、式神を使って改造人間に対処している。

 領域を展開するほどの呪力は残ってない...あまり無茶はさせられないわね。

 

 そして、悠仁は。

 駅の中に、大量に「見た目は普通の人間」が流れ込んでくる。

 

 「外に化け物が!」

 

 「助けてくれ!」

 

 「お前、“ジュジュツシ”なんだろ!助けてくれよ!」

 

 違う、あれはダメだ。

 改造人間が邪魔で前に進めない。

 

 

 

 「あ、ダメダメ、ダメだよ、白けちゃうだろ?」

 

 真人を殴りつけようとした私を、もう一人の真人が止める。

 どこから現れた分身。いや違う、これも本体、どういうことなの!?

 

 「『共鳴り』!」

 

 触れられた腕を介して呪力を流し込み魂を傷つける。

 同時に真人の無為転変が、私の魂に触れる。

 

 互いに、傷ついた魂を修復し、睨み合う。

 共鳴りが、他の個体には影響していない。何をした。

 

 「自分の魂なら治せるんだよ」

 

 「全部本体で、全部別人さ!対策しないわけないだろう!」

 

 真人は、この日のために、この瞬間の為に対策を施してきた。

 より多くの改造人間を。より強い改造人間を。そして、自分の魂を分割し、増大。自分自身の、本物の魂を複製。さらにそれを弄り、見かけは同一人物だが、魂としては別人。そんな分身を作り出すことに成功していた。

 

 ちっ、こいつを倒さなきゃ先には進めないか。

 

 ぱん、真人が手を叩くと、改造人間の軍隊があちこちから這い出る。それを迎えうつのは、呪霊の式神の軍隊。

 

 「人間の軍隊と、呪霊の軍隊の決戦か!しかも、大将は真逆、こんな皮肉なことってないんじゃないかなぁ!」

 

 あぁ、駄目だ、くそ!間に合わねえ。恵も同じくもう一体の本体に足止めされている。

 

 「悠仁、それはもう...人間じゃねえ!」

 

 

 

 

 「こ、こっちに来ちゃダメだ!今こっちには、真人っていうスゲー危ない奴がいて...!」

 

 小学生程の大きさの人間が、悠仁の体に触れる。

 

 「早く、早く助けてくれないから...ホラ、コンナコトニナッチャッタ!!」

 

 普通の見た目をしていた人間たちが、何かに切り裂かれたかの様にバラバラになる。

 その全てが、笑っていた。

 

 「お前がやったんだ」

 

 「お前のせいだ」

 

 それらの肉塊が、一気に膨れ上がる。

 槍となった人形が、悠仁の体を穿つ。悪趣味なことに、他の改造人間とは違って、流れる体液は赤く、真っ白な骨のような突起が飛び出している。

 それが、人であると思い知らせる様に。

 

 ケラケラと真人が笑う。

 呪いが笑う。

 

 飛び出してきた改造人間を殴ろうとして、悠仁の顔が歪む。

 

 「お前は」

 

 人間でできた指揮棒を振るう。

 それを合図に改造人間達が進軍する。

 

 「どうして、お前は」 

 

 幾人もの肉体が混じり合い、一つの巨大なミミズの様になって地中を突き破る。肉の触手をうち払い、異性体の足を掴み、フルスイング。

 

 「そうだ、もっと壊れろ、何度だって、何度だって殺してやるよ、虎杖悠仁!」

 

 爆発的に膨張する肉と壁に押し潰されそうになった瞬間、脚を肉に押し付け、壁に手を添える。

 無理やり隙間を空けると同時に、衝撃で壁が割れる。向こう側へ飛び込むと同時に、改札機が次々と薙ぎ倒され、それらが肉に吸い込まれると、矢の様に放たれる。

 

 先端が掘削機となった肉の列車が、内部に異性体を積み込んだ状態で走り出し、虎杖悠仁の腹に突き刺さりながら地上へ向かう。

 肉の柱が地中から突き出す。

 

 地上。周囲の風景が変わる。

 打ち上げられ、都会の夜闇を切りながら地面へ飛び込む。

 途中でひっぺがした看板に呪力をこめ、肉の掘削機を両断。内部から飛び出してきた異性体に逕庭拳を叩き込み、倒れた体を他の異性体目掛けて投げ飛ばす。

 

 「どうしてお前は、そんなにも人の命を弄ぶことができるんだ!」

 

 真人の顔面に逕庭拳が当たると同時のクロスカウンター。

 真人の拳が黒く染まる。

 

 「指折り数えてさぁ!困り顔で殺せば満足か!?えぇ!?」

 

 虎杖悠仁の腹に、黒い閃光が叩き込まれる。

 馬乗りになって何度も顔面を殴りつける。

 

 「目ぇ逸らしてんじゃねえよ、お前は俺で、俺はお前なんだよ!」

 

 「お前は、俺が殺す!」

 

 憎悪と呪いが渦巻く。

 虎杖悠仁の黒閃と、真人の黒閃が煌めく。

 

 「上げてこうぜ、虎杖悠仁!!!」

 

 あぁ、もっとだ、もっと。

 あの二人を殺せば、虎杖悠仁の魂は壊れてくれるだろうか。

 

 だと言うのに、あぁ。

 

 「君たちさぁ、何なの?」

 

 仮にも本体の俺と、幾魂異性体達をこの一瞬で刈り尽くしたのか。

 魂も見えない奴もいたのに、どうやったんだか。

 

 

 ♦︎

 

 「...千日手、だな」

 

 「本当にそう思うのかい?」

 

 そうでない事を、伏黒恵は知っている。

 魂が見えない俺は、真人を傷つけられない。

 同じく、壊した側から再生する顎吐達相手に真人も攻めあぐねている。

 

 しかし、俺の場合は、俺自身が真人の無為転変を喰らえば終わりだ。

 

 「ま、俺としても時間稼ぎが目的だからいいんだけどねー」

 

 嘘だな。こいつは俺の死体を虎杖に晒したいはずだ。

 虎杖...俺はお前を助けたことを、微塵も後悔していない。

 

 直ぐに行く。待ってろ。

 

 

 再生する暇もなく、一撃で吹っ飛ばす為には。

 何度も頼ってきたあの一撃を。

 

 極限まで威力を高めた貫牛を。

 

 

 「お前と遭遇してから、ずっと待機させておいたんだ」

 

 

 影の中で加速は終わった。

 ならば、あとは放つだけ。

 

 貫牛が影から飛び出し、真人の体を粉砕する。

 肉片すら残さず、飛び散った肉片が全て電撃に散らされる。

 

 「よし、行くか」

 

 この時、伏黒恵は気づいていなかった。

 肉片が僅かにだが、残っていたことに。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 「言葉を選べよ」

 

 「今際の際だぞ」

 

 釘崎野薔薇が、釘を打ちつける。

 

 片腕の内部から呪力の塊が飛び出し、腕が千切れとぶ。

 あぁ、ゾクゾクする。

 

 どくん、体が脈打つ。

 

 掴んだ、己の魂の本質。

 

 「『無為転変』」

 

 あぁ、そうだ。

 どうすればいいのか、それを教えてくれたのは、釘崎野薔薇。お前だ。

 

 二人がかりの領域展開。

 だったら俺は。三人がかりの無為転変。

 

 「ハッピーバースデイって奴さ」

 

 「今日をお前の命日にしてやるよ」

 

 

 

 






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エイプリル・フールネタで、懐玉時代に釘崎タイムスリップさせた奴書いてたけど一ミリも間に合わなかったよね
需要がありそうならいつか番外編で出します


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