そして物語は始まりへ
「助けてあげようか?真人」
いかにも「私は善人です」という優しい笑みを浮かべる、袈裟姿の男が真人に手を差し伸べる。
その記録は何度も読んだ。だから知っている。私の式神術の、精神的な意味での師匠。
史上最悪の呪詛師『夏油傑』。
強いな。十万か、百万か。内にどれだけの呪いを秘めているのか。
「邪魔すんじゃねえよ、夏油。
「おやおや、心外だなぁ?助けてあげようというのに」
夏油が真人に手を向ける。
瞬間、体の半分近くが崩壊していた真人が自身の体を再構築。
肥大化させた両腕を、ハンマーの様にして夏油傑目掛けて叩きつける。
「仲間割れ...?なのか?」
夏油は呼び出した呪霊でその攻撃を防ぐと、真人の体の一部がその手の中に引っ張られ、しかし途中でそれは断ち切られる。
「成る程、少し読み違えたかな?」
「は、知ってたさ。俺は、お前たちから生まれたんだから」
呪霊操術の能力は知っている。
なるほど、なんとなく掴めてきたわね。多分、この夏油の皮を被った誰かは、真人をはなから手中に収めるために徒党を組んでいたと言ったところでしょうね。
恵もそれに気づいた様ね。
「虎杖、お前は真人を取り込まれる前に祓え!俺たちで五条先生は取り戻す!」
「応!」
向かってくる悠仁を見て、真人が獰猛に笑う。
「虎杖悠仁は俺が殺す、邪魔すんじゃねえよ、夏油!」
「困るなぁ、そういう勝手なことをされると」
呪霊操術、その強さは手数の多さ。
夏油傑が指を鳴らせば、地面から一瞬にして千の呪霊の軍隊が溢れ出す。
「極ノ番──
「『多重魂──
夏油傑が二級呪霊を取り出し、真人が最後の改造人間のストックを取り出す。
──『うずまき』」
──撥体』」
これが、二級呪霊が生み出せる一撃なのか。
押し寄せる肉の波を破壊し尽くし、真人の半身を吹き飛ばす。
「これで終わりだよ」
真人の体が渦を巻き、球体と化す。
真人と一瞬目が合う。
『せいぜい足掻けよ、そして呪われて死ね』
うずまきに吹き飛ばされ、私の目の前に吹き飛んできた肉塊を、式神に喰わせる。
それがお前の遺言か。
祓うべき対象が消えた瞬間、すぐさま悠仁は方向を変え、夏油傑目掛けて拳を放つ。
「これで互いに真人を入手したわけだ。まぁ、スペアができたと考えれば”アリ“かな?ま、もう必要ないけどね」
「五条先生を、返せ!!」
「鯰が地震と結びつけられたのは江戸中期。地中の鯰が動くことで、地震が起きると信じられていたんだ」
突然、悠仁が転ぶ。
「子供の想像力とは馬鹿にならない。理科室の人体模型。その不死性は目を見張るものがある」
呼び出した人体模型の拳を、悠仁がクロスした腕で防ぐ。
瞬間、感じる重み。こいつ、半端な呪霊じゃ──
魔虚羅と、少年院の特級呪霊が、挟み込む様にして夏油傑に剣と棍を振るう。
「実はね、君たちには期待していたんだ。その魔虚羅の偽物も、その式神も、普通じゃあり得ない。イレギュラーさ」
地中から突き出した石の柱に退魔の剣は阻まれ、大亀の甲羅に棍は防がれる。瞬間、空から降り注ぐ業火に式神たちは包まれ、そこから脱出する。
「その退魔の剣は厄介だが、ならば物理的障壁で防げばいい。ぬりかべに玄武。炎を放ったのは朱雀だ」
これが強み。あらゆる状況に対応し、あらゆる自体を打破できる呪霊の数。しかも、その質も高い!
「いやはや、夏油傑。あんた呪霊のことも裏切ってたみたいじゃない?随分と、お怒りの様よ?」
花御の繰り出した木の根が大地を隆起させ、音速の鞭となって暴れ回り、内部に多量の巨大海洋生物を秘めた水の竜巻が暴れ回る。
「『無為転変』」
早速だけど、その力、使わせてもらうわよ。
無為転変を施し、強化された式神の軍隊を夏油へ突撃させる。
「ははは!呪霊操術相手に数で勝負か!呪霊の軍隊のぶつかり合い、これは初めてだよ!」
ぶつかり合う式神と呪霊を見て、押し負けるのは私だと直感で察する。花御や陀艮、真人は強い。だが、それ以上に、数が多すぎる。
その影に隠れて、夏油傑目掛けて駆ける。
獄門疆を奪う、それが勝利条件。
「こういうのは...本体を叩く!『簪・平打ち』!」
左腕で簪を放ちながら、右腕で相手の袖を掴む。
簪は弾かれ、掴んだ袖は振り払われ、逆に投げ飛ばされる。
恵の放った穿血に対応するために呪霊を呼び出した隙に腹に拳を叩き込もうとするが防がれる。
コイツ、近接も強い...!
「私はね、君を気に入っていたんだよ。術式の拡張。想像だにしない進化。君の体をスペアにすることも考えたさ」
──でも、その必要は無くなった。
「君は危険だ。だから、敬意を込めて、本気で潰させてもらおう」
瞬間、私の体が宙に浮く。
巨大な骨の腕に掴まれ、空中に投げ飛ばされる。次の瞬間には、巨大な象の化け物に蹴り飛ばされる。
特級仮想怨霊『がしゃどくろ』に『ガネーシャ』。
「あらゆる障害を取り除く、アジアの神の呪いさ。そして、ダメ押しだ」
特級仮想怨霊『Orcus』
「ハデスとも同一視される、ローマ神話の死の神さ」
豚顔の髭を生やした巨人が、両手を握り締めて槌の様にして振るう。
私の内臓を破裂させながら、地面に叩きつける。
学生相手に差し向ける呪霊じゃないでしょ、どれだけ危険視されてるんだか。
「私はさぁ」
がしゃどくろに握りつぶす様に持ち上げられ、再度宙に浮き上がらせられる。
「人の友情を弄ぶ、テメエみたいなのが一番許せないんだよ!!こい、真人!」
無為転変を魂に施す。両の瞳がうっすらと青く染まる。
この状況から逆転する方法はない。そう思ってるんだろ?
その術式の奥義。終着点こそが極ノ番。
だが、ある技術の終着点が一つだなんて、誰が決めた?
今、ガネーシャ、がしゃどくろ、Orcusは一直線に並んだ。
地上では花御の大樹が暴れ回り、陀艮の水が呪霊を蹴散らしている。
そして空いた隙間を縫う様にして魔虚羅と虫ケラが暴れ回り、恵の穿血が夏油を狙撃し、悠仁が呪霊の波をかき分けている。
夏油傑の方は、まだまだ手札があるからか余裕そうだ。現に、無数の一級呪霊や特級呪霊が徐々にこちら側を押しつつある。誰よ特級呪霊が16体って言ったの。こいつが隠し持ってたせいで知らなかったとかかしら?
ここでこいつらごと夏油傑を祓い、均衡を傾ける。
あの時は届かなかった、極ノ番の2。
対人最強の技を、放つ。足りない実力を、無為転変で補う。
『龍鱗』
膨大な呪力の起こりに夏油傑が目を見開く。
無数の呪霊が追加で投入され、私の体を穿つ。それを再生させながら、祓詞を紡ぐ。
『四諦』
『分つ彗星』
簪で打ち出すものは、尖っていればなんでもいい。
両目で、空間そのものを釘の形に切り取り、それを釘だと定義する。
そして、それを全力で打ち出す。
空間そのものを、ズラす。
極ノ番『次元振』
まず、有象無象の呪霊が両断され、直後に特級呪霊たちが一瞬の抵抗ののちに両断される。そのまま直線上の呪霊が全て破壊されて行き。
「なるほどね」
夏油傑の腕が断ち切られる。
次元振は、空間まで術式解釈を拡大しているとはいえ、空間を断ち切るのではなく、空間をズラす都合上、軌道上の存在の強度の影響をモロに受ける。
仮にも特級3体を巻き込んだことにより威力が減衰し、夏油傑の腕が飛ぶ。
再生させる暇なんて与えない。
両断した特級呪霊の体を掴み取り、式神化。すぐに差し向ける。
「君たちが気づいた気配に、私が気づかないとでも思ったかい?」
瞬間、夏油傑を飲み込む矢の雨。それは空中で軌道を変え、夏油傑に殺到する。
同時に、夏油目掛けて唸りを上げながらミサイルが飛来する。
「FGM-148、ジャベリンか!いいね、対術師であれば積極的に現代兵器を使っていくべきだと思うよ!呪力のこもった兵器は、あの鼠の置き土産かな!」
援軍だ。
今、渋谷にいる全術師が。ここが決戦の場だと理解して、集まってきている。
「全員、畳み掛けろおおおおお!!!」
ところでさ、多分リボルバー女だと思うんだけどさ、お前それどこから持ってきた!
「『
あれは、パンダ先輩!そして、後ろにいるのは──!
それを見た虫ケラが、游雲を投げ渡し、それをキャッチした真希パイセンが、全力で游雲を振り下ろす。
「不完全なフィジカルギフテッドに、完全自立型の呪骸か!」
游雲をなんなく受け止め、パンダ先輩の拳は呪霊の壁に阻まれる。
瞬間、夏油傑の腹目掛けて、何処ぞの呪詛師の刀が突撃する。すぐさまそれに持ち替えた真希は一閃。同時に離された游雲を掴み取った虫ケラが、頭部目掛けて全力の一撃。
「無事だったのね、真希パイセン!」
「七海さんは無事だ!」
んもう、最高!
畳み掛ける様に、片腕ながらも東堂が夏油傑目掛けて瓦礫を投げ飛ばし、それに乗った悠仁の逕庭拳が、ついに夏油傑の体を揺らす。
遠距離から放たれた狙撃銃の弾丸を呪霊の膜が防ぎ、それを私の簪が突破する。
あぁ、意識が霞んできた。呪力がなくなりそう。
全身が痛いのかすらもわからない。だいぶ無茶してきたからね。内臓ちゃんと全部あるかしら。
「『穿血』!」
加茂の放った穿血が素手で打ち払われる。その隙に西宮の放った『鎌異断』は、夏油の呼び出した風の呪霊に相殺される。
そして、その呪霊を、恵の穿血が破壊する。
それは散っていった
己が呪術師である理由の為か。
各々が畳み掛ける様にして、己の呪いを吐き出す。
気配を感じた夏油が後ろを振り向くと、そこには抜刀の構えを見せる三輪がいた。
ストラップが風にはためく。
今までの全てと、これからの全てを。この一刀に乗せる。
もう2度と、刀を振るえなくなってもいい。
「『抜刀』!!」
化け物が。
思いをのせた刀が、最も容易く砕かれる。
「そろそろ終わりにしようか」
膨大な呪力の起こり。まずい。
Orucusに夏油の体を包み込ませる。
「三輪、逃げろ!」
『うずまき』
真人を使ったうずまきが、式神を吹き飛ばし、三輪へ迫る。
それを防いだのは、一級術師、日下部篤也。
どうしてわざわざ貴重な特級呪霊をうずまきに...?
確かに威力は高かった。地面に大穴が開く威力は普通なら即死だ。なんであの人防げてるのかしらね!?
でも、今が好機。
うずまきの余波で、かなりの数の低級呪霊が吹き飛んだ。
『言いたいことは色々あります。ですが、今はこう言わせて貰いましょう。私たちを舐めた代償を払ってもらおうか、夏油』
夏油の体目掛けて先を尖らせた木の根が殺到し、それを壁型の呪霊が防ぐ。
「君たちを奪われたのは失敗談だったね。まぁ、漏瑚がいないのは不幸中の幸いかな?私も欲しかったんだけどね」
ぞくり。
この場にいる全ての術師が直感する。『化け物』が一人。まだ控えている。
陀艮の鉄砲水が炸裂する寸前、世界の全てが凍りつく。
一瞬にして、一面が銀世界に染まる。
「『氷凝呪法・霜凪』!!」
回避できたのは私と花御。魔虚羅に守られた恵。
あとは飛行している西宮と直感で避けた東堂。あとは遠くにいる真衣かしらね。
「氷の術式、それもなんてハイレベルな!!」
倒すべき敵が増えただけだ。やることは変わらない!
加茂が咄嗟に両腕の周りの氷を溶かして、穿血の構えを取る。
「「「穿血」」」
三条の穿血が、乱入者目掛けて発射され──まって三条!?あと一人誰!?
「な、アイツ!」
「え、なにあれ敵なの、というか誰!?」
「そういうことか、加茂憲倫!!」
「え、私!?」
男──脹相が叫ぶ。
新たなる乱入者。一つ言わせてもらってもいいかしら。
「お前誰だよ!!!」
「やっと気づいた様だね」
いかにも「因縁の対決」!みたいなことになってるけど、事情何も知らないわよ?でも、多分あれ...八十八橋のアイツらの家族か何かね。
「多分だけど、あの偽夏油、色んな相手騙していたみたいね」
加茂憲倫。加茂家の汚点。黒幕としては妥当ね。
ま、それがわかったところで関係ない。一応、味方が増えたと考えていいのかしら?
「違う!俺は脹相。虎杖悠仁のお兄ちゃんだ!!」
どんな穿血よりも、速く、強い...!
片腕を再生する暇など与えない、畳み掛ける様にして脹相が夏油傑へ挑み掛かる。
「なら私たちは、氷使いを潰す!」
瞬時に穿血で空いた穴を再生させた氷使いが、再び地面から勢いよく氷の柱を突き出させる。
空からは先の尖った霰が降り注ぐ。
花御の根を盾に、前へ。
大丈夫、コイツ...漏瑚と比べたら、1000倍マシだ!
「おい、釘崎野薔薇」
「なにかしら、東堂?」
氷塊を釘で壊すと同時に、遠距離から狙撃銃の弾丸が飛来する。
しかし、それは氷の腕に防がれる。
「俺の腕を治してくれ。俺一人、ただ突っ立っているわけにはいかない」
「...はっきり言って、私は他人の魂を治すのが苦手よ。真人の力を借りて魂をこねくり回して、無理やり腕が生えている状態に持っていくことしかできない。魂の総量は減ったままだから大分無茶することになるわよ、それでもいい?」
「構わん!」
「...がしゃどくろ、ガネーシャ。花御と共に時間を稼ぎなさい」
魔虚羅と虫ケラは、残った一級以上の呪霊の掃討にあてている。
合流されれば再度均衡が崩れかねない。
脹相がどれぐらいできるか、それが問題。夏油傑に大量の呪霊を呼び出す隙を、腕を癒す隙を与えてはいけない。
東堂の腕が再生した様に見える。
だが、あくまで見せかけだ。
「それでも、俺の『不義遊戯』は再生した、ならば問題ない」
「この程度のことが、ブラザーの前で」
東堂が叫ぶ。
「無理するなよ、疲れてるんだろう?」
夏油目掛けて超新星を放った脹相が叫ぶ。
「それが弟の前で」
「「命を張らない理由になるか!!」」
拍手が響き、東堂の拳が夏油に命中する。
「九十九由基の弟子か...面倒な...!」
「俺たちは、虎杖悠仁の、
ゴリラ先輩が言う。
「なぁ悠仁、お前変なフェロモンでも出てるんじゃねえか?」
「...本当にそんな気がしてきた」
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偽夏油(あれ?なんか強くね?)
宿儺「裏梅えええええ!!!伏黒恵は殺すなあああ!!!」
不義遊戯で獄門疆って奪えるんだろうか