2章のまとめと3章の触り。
物語は最終章へ。
誰かのため息が聞こえる。
アドレナリンが切れたからか、気分も徐々に落ち着く。
戦闘の熱狂は冷め、現実を直視する時間が来た。
家入がタバコをふかす。吸っているの初めてみたな、と虎杖悠仁は思う。
多くの術師の治癒を終えて、疲労困憊といった様子だ。同じく円鹿でサポートしていた伏黒恵もだ。
一応反転術式のアウトプットが多少なりともできるはずの釘崎野薔薇は今九十九由基達と外出中だ。
「ほい、ハーゲンダッツ。渋谷がやばいって聞いた突入前のタイミングでドルに変えておいて助かったわー。五条悟味だ、食え」
「うげ、それ聞いたら一気に食べる気失せた」
「このアイスは五条先生の犠牲でできているのか...」
外から帰ってきた釘崎野薔薇と西宮桃、九十九由基がアイスのカップを投げ渡す。
「まぁ、いつ食べてもハーゲンダッツは美味しいけどね」
10/31。ハロウィンの渋谷で起きた未曾有の呪術テロ。
特級の中でも飛び抜けた力を持つ漏瑚、陀艮、真人。降霊術師により再びこの世に舞い降りた天与の暴君。
──23区はほぼ壊滅。官房長官含めた総理代理全員が安否不明。
そして、現代最強の術師を封印し、高専術師相手にたった二人で勝利を収めた化け物。
夏油傑の中に潜む化け物。史上最悪の術師『加茂憲倫』にしておそらくは他の名も持つ人外。
──放たれた呪霊の数は、1000万は下らない
首都東京は完全に陥落した。
まさしく今の東京は『人外魔境』。
「さて、これからどうするべきか。死滅回游への対応も含めてね」
偽夏油によって始められた、『死滅回游』。
北海道を除く日本全土に10ヶ所展開された結界内部での殺し合い。
「とりあえず、私と加茂、東堂は加茂家へ全力で向かうわ。東京発関西行きの呪霊便よ」
「ま、1000万体もいるんだ。移動に便利な呪霊の一匹や2匹はいるわな」
「個人とはいえ、仮にも加茂家だ。総監部が完全に傀儡にされる前に動かなければ」
──政治的空白。それも文字通りの。米中露、どこも妙な動きをしている。
たった1日。たった1日で全てがひっくり返った。
「呪霊の存在を公表。思い切ったな」
「俺が死刑なのはわかるけど、釘崎もか」
「冷静に考えたら、呪霊操術使いでもないのに特級複数使役は気が気じゃないわな。やまたのおろちとか、首3本しか持ってけなかったけどあれ1匹で都市一個壊滅させられるレベルだしね。花御は言わずもがな」
呪術総監部より通達
一、夏油傑生存の事実を確認。同人に対して再度の死刑を宣告する
二、五条悟を渋谷事変共同正犯として呪術界から永久追放。かつ封印を解く行為も罪と決定する
三、夜蛾正道を五条悟と夏油傑を唆し、渋谷事変を起こしたとして死罪を認定する
四、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し。速やかな死刑の執行を決定する
五、虎杖悠仁の死刑執行役として、特級術師乙骨憂太を任命する
六、釘崎野薔薇を特級術師に任命。但し、虎杖悠仁の死刑執行に協力しなかった場合これを取り消し、死罪を認定する
「特級認定おめでとう、釘崎野薔薇。これで君もこっち側だ。どう?国家転覆してく?」
「そんな駆けつけ三杯みたいなノリで国家転覆提案しないでよ!?勘弁してよ、九十九さん」
「というかさぁ。これ完全に総監部、私のこと舐めてるでしょ。ばっかだなー。そんなこと言われて私が従う様に見えるのかしらね?」
アホらしい、と首を振る。
「俺は夜蛾学長の救出に向かう。多少の呪術的封印なら魔虚羅の剣で破壊できる」
「俺は脹相と東京内に残存する呪霊の殲滅だな」
「ブラザーのことは任せたぞ『お兄ちゃん』」
「任せておけ『ブラザー』」
こんなやりとりがあったのが、一昨日のこと。
そして今日、全ての用を済ませた全員が一旦集まる。京都校の面々は九十九由基の仲間によって向こうまで送り届けられたので、東堂と加茂も向こうに置いてきた。
お陰で帰りは随分と早かったわね、なんて考えながらソファにどかっと座る。滅茶苦茶に疲れた。この三日間の労働量、特に初日。おかしいでしょ。特級案件と何連戦させられたのよ。
陀艮→フィジギフ→漏瑚→宿儺→真人→偽夏油(と特級呪霊の愉快な仲間たちと氷使い)→置き土産の指喰った特級呪霊。
そしてその後に放出された呪霊を殲滅して、関西まで飛んで、そこでまた偽夏油とエンカして、少し戦って離脱して、そしてまた戻ってくると。
どうなってんのかしらねこの過密スケジュール!?過労死するわよ!?何回か心臓止まってるわよ!?
「えー、悪い知らせがあるけどどうする?」
「俺は良い知らせが一個あるな」
「俺も良い知らせがあるぞ」
悠仁と恵の顔を見つめる。
いいなぁ。私も良い知らせがあればなぁ。あ、一個あったわ。どさくさに紛れて加茂家から呪具何個か持ってきたわね。平気平気!次期当主の許可あったし!どうせ加茂(倫)はいつか消すし!
「...じゃあ私から行くわね。えーっとね...上層部、完全に陥落してました!!!!!!終わり、閉廷!!マジでどうなってんのよ、この数日で!!!!!敵が優秀なの!?味方が無能なの!?ねぇ!?」
加茂憲紀と話した内容としてはこうだ。
渋谷事変、その主犯が故人とはいえ加茂家の人間なら、総監部の中核派となる保守派は傀儡と化しているかもしれない。しかし、通達の一、で夏油傑の肉体が危機に陥ってる以上、一枚岩ではなく、全員が傀儡になっている訳ではないと考えた。
傀儡になっていないまだまともな方と連絡を取ろうと、加茂家へ向かい、また残った加茂家の権力を利用しようとし──
一手遅かった。
通達の一、それは餌だった。罠だった。
『自身の家の失墜を防ごうと、五条悟の封印解除に動こうとした、本当にごく一部の五条家の術師』
『渋谷事変の詳細を聞き、流石に権力がどうとか言ってられない、と五条悟を解放し夏油傑の中身を殺そうと画策した者』
『権力は欲しいが、その権力を振るうべき呪術界そのものがなくなっては敵わんと事態の平定に動いた者』
『傀儡となった面子を呪詛師に与した者として消し、合法的に自身の権力を拡大しようとした者』
それらをはじめ、夏油傑の息のかかっていない総監部の面々。
全員、まとめて一網打尽にされていた。
えー、終わりですね。頭完全に敵に押さえられていますわ!拙いですわよ!!
...冷静に考えると、二級術師に平気で一級相当の依頼渡しまくってた相手だし、はなから信用なかったわね。
「まぁ、その話を電話で釘崎から聞いていたおかげで間に合った。夜蛾学長を救出できた。ついでに日下部さんがパンダ先輩を。そもそも守るべき規則側が死んでいる以上、それを守った果てに秩序はない、とか言って楽巌寺学長がこっちについた」
よかった。間に合ったみたいね。
あの二人がいるなら、まぁ全部終わった後に『呪術界壊滅で世界終焉!』みたいなことにはならなそうね。
「俺は、乙骨先輩と合流できた。滅茶苦茶強かったぞあの人」
──一回殺された、っていうのは言わない方がいいんだろうな
そう考えながら、虎杖悠仁は髪の毛を指でくるくると回す。
乙骨憂太。もう一人の特級。百鬼夜行を収束させた人外の一人。
確かにそれは良い知らせね。九十九由基に乙骨憂太。今こちらの戦力として数えられる特級は二人もいる。
「釘崎入れたら三人だな!!」
「だから私は特級じゃないわよ!私は三人一緒に一級になりたいのよ!」
思わず大声で叫び、テレビ前のソファに腰掛けていたパンダ先輩が生暖かい目を向けてくる。上野動物園に送るわよ?夜蛾学長は色々なところへ忙しそうに電話を掛けているようね。
一瞬の沈黙ののち、恵が口を開く。
「すまない、ここで私情を挟むようだが、助けて欲しい相手がいる」
「呪術を与えられた者達の殺し合い“死滅回游”。それに、津美紀も巻き込まれている。頼む、皆の力が必要だ」
とん、と恵の背中を叩く。
「「当然」」
「ふむ、と、なると君たちが死滅回游に参加するのはほぼ決定かな?」
九十九由基が口を挟む。
「だったら、今すぐにでも天元と接触しよう。基本現に干渉しない天元だが、六眼が封印された今なら接触も可能だろう」
「そこで加茂憲倫...いや、京都校のあいつと混ざるから偽夏油でいいか。偽夏油の具体的な目的と、偽夏油が所持している獄門疆の封印の解き方。できれば死滅回游を破綻させる裏技的方法もないか知りたい。1000年以上生きている術師なんだろう、100年すら生きてないのに裏技見つけまくっているRTA走者みたいな奴がここにいる。あり得ない話じゃない」
「誰がRTA走者だ」
無視された、悲しい。
悲しいので悠仁の口にポテチを差し込む。湿気ってるわねこれ!
「どうかな?天元に前へ進む意思があるとは思えないけどね」
こうして、天元へ高専術師達が接触する。
聞かされた、死滅回游の目的。そして五条悟封印解除の手段。獄門疆の裏と、天使の存在。
再び物語が動き出す。呪いが廻り出す。
幾千年の呪いの輪が、中心へ向かって渦を巻く。廻り集いし呪術師の戦いが幕を開ける。
♦︎
恵くん。あいつが直接来るとは思わんやん。
五条悟解放を企てた謀反者として、恵、真依、真希を誅殺する。
禪院家に直接乗り込んできた時は好機だと思った。
禪院家当主になるのは俺や。そのためにもここで摘み取る。
まず、先に侵入していた真依を捕え、二つを待ち構えていた扇のオジさんが雑に処理された。魔虚羅の剣で首スパーン飛んでたわ。まぁ扇弱いし当然だわな。娘の前でいいとこ無しで瞬殺されたらしいのは笑えるわ。
甚壱は動かなかった。全財産を恵くんに譲り渡すのは気に入らないが、向こうについた方がより多くの利益を生める可能性が高いと踏んだんやな。
五条悟を入れれば特級術師四人と関係があり、*1加茂家次期当主との関係も深く、仮に伏黒恵が当主となればこれまで以上に禪院家の力は増す。
損益を考え、伏黒恵と交渉し財産を分与してもらう方が吉だと考えたのだろう。
同行していたあの式神。樹木の精霊という雰囲気を感じる人形の式神と、ニタニタと笑い、手に三節棍の呪具を持った人形の式神。でも、これらは恵のやない。
右手に正の剣を持った、歴代のどの当主も調伏できなかった最強の式神、魔虚羅。
扇の首を持ったそいつの威容に、駆けつけた躯倶留隊の誰も動けなかった。
腹が立つ。
小賢しい考えしやがって。
あの時は乙骨くんに邪魔されてできんかったが、恵くんは俺が殺す。
禪院直哉が東京へ足を進める。
今度こそ、東京へ戻った伏黒恵を殺すために。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
かっぱ「相撲しようぜ!相撲したら仲間になるぜ!」
刀を返しておじさん「刀を返して」
加茂憲紀「実家に帰ったら憲倫に家乗っ取られていた上に東堂&釘崎vs憲輪が軽く戦ったせいで物理的に実家が消えた」
没になったネタ
禪院扇は焦っていた。
出来損ないの娘を殺す、ただそれだけのはずだった。
禪院真依。その手に持つ武器が問題だった。
M134機関銃。通称ミニガン。毎分2000-6000発の7.62mm弾が吐き出される現代兵器。弾薬箱を背負った真衣は、殺人人形。ばら撒かれる致死の弾丸を炎の刃で受け止める。
腐っても一級の実力を持つ男。鉄の雨を溶かし尽くし──かなり限界で、多少は被弾する──足元に転がってきた球体に気づく。中から鉄片が散らばる。グレネードか!
そしてもう一つ。真依がガスマスクをつけたとなると──毒ガスか!
「舐めるな──」
次の瞬間、扇の意識が消滅する。
頭蓋を破壊したのは、組屋鞣造の傑作、呪具「竜骨」。受けた呪力と衝撃を溜め込む刃に溜め込まれたエネルギーは、暇だった九十九由基が小さい擬似ブラックホール一個分ぐらいは込めたことでほぼ限界ギリギリ。
真希が振るった刀。その攻撃を受けたのだ。
頭部は柘榴のように弾け飛ぶ。
ついでに侵入してきた躯倶留隊は全員ロケランで吹き飛ばされた。
呪術廻戦─完─