虫ケラ相手にここまで苦戦する呪術二次主人公がいただろうか
そして此処まで盛られた虫ケラも未だかつていただろうか
「は、なかなかイケメンになったじゃない」
式神と呪霊が互いに拳をぶつけ、無防備な背中に私が釘を打ち込む。
纏わりつくように、絡みつくように、全身に釘を打ち付ける。
特級呪霊の式神と私によるインファイト、かまいたちによる遠距離からの援護。
呪力を纏わない攻撃から呪霊はダメージを受けないとはいえど、物理的障壁には邪魔されるし、殴られれば吹き飛ぶ。
風の刃により切り落とされた太いパイプが呪霊の攻撃を遮り、切り倒された壁が視界を塞ぐ。
壁を蹴り、天井を蹴り、壁を壊して建造物を武器に、三次元的な戦闘が続く。
投げつけられた瓦礫を壊しながら進む特級呪霊だったが、その動きが急に止まる。
呪力を纏っていない瓦礫の中に隠された、呪力を纏った鉄格子の残骸。ソレは呪霊の腿に突き刺さる。
「『簪』」
腿の肉が弾け飛ぶ。
すぐさま再生させようとするが、その前に接近した式神により、下顎を吹き飛ばされる。
「虫ケラが、ハンバーグにしてやるよ!」
露出した上顎を私は掴み取り、そのまま何度ももう片方の拳を叩きつけ、最後には全力で地面に叩きつける。
コンクリートのタイルが粉砕され、地面が露出した。
「は、術師の戦闘で最後に物を言うのは肉体強度だからな、ソレなりに鍛えてんだよ」
吹き飛んだ口腔を再生させつつ、埃を払いながら呪霊は起き上がる。
特級呪霊の目から油断が消えた。
今までは、甚振るのを愉しんでいた。
それが、どうだ。自分の体を巡る呪力に適応し始めた。特級のなり損ないだった呪霊は、最早私の届く範囲から離れようとしていた。
放たれた呪力の砲撃により、建物の一つが崩壊する。
巻き上げられた粉塵に隠れた呪霊は、位置を変えながら何度も砲撃を繰り返す。
「は、目眩しか。」
んなちゃちい戦法、効かねえんだよ!
魂の光を頼りに、砲撃を避けながら、発射された方向へ釘を放つ。当たった。
いや、当たったけど効いてねえ!
投げつけられた釘を素手で掴み取り、呪霊はソレを握りつぶしてだんご状にすると全力で投擲。
プロ野球選手も真っ青の球速で投げられたボールは、掠っただけの私の右耳を吹き飛ばす。
生暖かい液体が、顔を流れて気持ち悪い。
やべえな、だんだん強くなってる。いつ、領域へ手を伸ばしてもおかしくはない。
簡易領域も、御三家のアレも使えない私じゃそうなりゃ詰む。
「しぃ...!らぁ!」
特級呪霊の体から生み出された式神と、私の殴打を両腕で受け止める。
かまいたちから放たれる風の刃を呪力の放出で相殺すると、私の腕を握りつぶし、そのままヌンチャクのように振り回して地面に叩きつける。
遠心力で眼球に集まった血で、視界が赤く染まる。
「私に...触れるなっ!」
脚を掴んだ腕が、元々ヒビが入っていたこともあり爆散する。
その隙に式神が畳み掛けるように両の拳を嵐のように放つ。
ぼーっとしてうまく働かない脳を捨て、魂を頼りに動く。
殴り、蹴り、掴み、噛みつき、打ち据えろ。
絶叫するような気迫と共に、式神と私はただひたすらに眼前の敵を打ち据える。
肉が弾ける。骨が砕ける。何度砕いても再生する姿に心が折れそうになる。
否。再生には呪力を使う以上、どこかで限界が来るはずだ。
特級呪霊が私の頭を掴み、そのまま頭皮ごと頭の一部を引き剥がす。
頭から血が吹き出す。
「かまいたち、やれ!」
かまいたちに関する伝説の一つ。
ある女が恋人を別の女に奪われた時、怨念を込めて自らの髪を切り落としたことでそれがかまいたちになり、敵の首を切り落としたという逸話。
仮想怨霊であるかまいたちの持つ術式は、それに由来していた。それ故に、主人である釘崎の頭髪が切り落とされたことをキッカケにして術式が発動する。
「『悪禅師の風』」
特級呪霊の左脚が切り落とされ、四つん這いになるようにして特級呪霊は倒れ込む。
切り落とされた脚を喰らうことで強化された式神が倒れた呪霊の右腕を引きちぎり、左肩目掛けて放たれた3本の釘から注ぎ込まれた呪力が、左腕を体から分離させる。
腕を落とした、脚を落とした。
「今しか、無い!」
痛みも、苦しみも。後悔も。全て、全て。2回分の人生の全てを、この金槌に乗せろ!
打撃との誤差、およそ0.0000001秒。呪力が衝突した瞬間、空間が歪み
呪力が黒く、
特級呪霊の胸に亀裂が走り、それは全身に瞬く間に広がる。
頭部を残して、特級呪霊の体が四散する。そう、
呪霊は生物に似て、生物に非ず。頭部だけでも生存が、十二分に可能。呪いを紡ぐ頭を潰さねば、終わりじゃ無い。
ケヒヒ、と呪霊が笑った気がした。
『領域展k─────
ソレに対する対抗策はない。諦める?冗談じゃない!
そんなの、私らしくない。可愛くないじゃない!!!
黒閃を経験した術師とそうで無い術師では、呪力の本質との距離に雲泥の差がある。一度の死を経験し、今まさに再び死を経験しようとしている彼女。黒閃を決めた高揚により、今まさに呪力の本質に手を伸ばそうとしていた。
確信があった。
今の私なら、出来る。
『反転術式』。負と負をかけあわせ、呪霊にとって猛毒な、正のエネルギーを生み出す絶技。
呪霊の頭部を掴み、そこから縁を辿り、正のエネルギーを注ぎ込む。
さらさらと、呪霊の頭部が灰になって消える。ことん、と指のような何かが落ちる。
同時に、私の式神が全て元の人形になったのを知覚する。
「あーなるほど。ブラフだった、ってわけかぁ...」
呪霊の頭部を消し飛ばす直前、私の心臓も、残った全呪力を込めた砲撃で粉砕されていた。
「あー、治せないな、こりゃ」
肺も持っていかれたのか、ごぽ、と音を立てて口から血が溢れる。
治そうと呪力を練るが、零れ落ちる命に追いつかない。
よろよろと立ち上がり、壁にもたれかけるようにして倒れる。
「最期に、沙織ちゃんに会いたかったな...」
嗚呼、悪くない、人生、だっ...た...
♦︎♦︎♦︎
『ケヒ、ケヒヒヒヒヒ!ああ、嗚呼そうだ小僧!小娘は、貴様が弱いから、貴様の弱さ故に死んだ!!!』
『小僧、あの小娘を治せと?...不愉快だ』
呪いの王は思案する。
小僧はつまらん。あの男は面白い。小僧を囲んでいた呪霊を殲滅した時に見せた術式。あれは面白かった。では、あの小娘は?
不躾にも俺を見ようとした小娘。
はっきり言って、両面宿儺からすればあの呪霊など虫ケラ同然だ。しかし、小娘や小僧では到底勝ち目のない相手だったのも事実。
──ほう
傷が塞がりかけている。不完全ながら、心臓のようなものも出来上がりかけていた。それに、心臓を吹き飛ばされながらもまだ「死んでいない」。無意識のうちに呪力で血流を回しているようだ。
術式は陳腐でつまらない。しかし、先ほどから感じていた呪力の放出は、平安の世で殺した、同一の術式を持った存在とはまるで違う。
単純な興味関心。あの男ほどではないにしろ、面白い。戦闘風景を見ずに死なれるのはつまらないと感じた。
『良い。気が変わった。だが代わりに縛りを結べ。内容は───
♦︎♦︎♦︎
あれ、私生きてる。
此処は、少年院の外、だろうか?
「!あいつは、あいつはどうなったの!?」
起き上がり、すぐさま当たりを見渡す。
生得領域は消えている。なら、祓えた?
心臓はある。体の痛みもすっかり消え、なんなら若干調子がいいぐらいだ。
「釘崎!」
「!!」
二人は無事だったのね。よかった。
「悠仁、恵。ふぅん。殿としての役目は果たせたみたいね、私。」
よっこらしょ、と腰を上げて起き上がる。
娑婆の空気が気持ちいいわね!
「お、おま...釘崎、お前さっきまで、死んでたんだぞ!」
悠仁が、半分泣きそうな顔で私に駆け寄る。
「死んでた、か...。」
恵は腕を組んで、顔を伏せている。
「釘崎。お前嘘ついたな」
「そうでもしなきゃ全員死んでたでしょう?...ごめん。信じきれなかった」
「いや...お前が悪いんじゃない」
むしろ、悪いのは──そう続けようとした恵の唇に指を当てて、その先を止めさせる。
「ソレを言ったら、私もそうよ。今の実力に胡座かいてた」
あぁ、くっそ。相手に気を利かせるとか、私らしくもない。
「それにしても、なんで私、生き返ったのかなぁ?悠仁、恵。あんたら反転術式使えたっけ?実は伊地知さんが超優秀とか?」
「いや、それが...宿儺が治した」
両面宿儺。スクナの指スクナの指っていうから、スクナはスクナでも少名毘古那神だったらよかったんだけど、平安最悪の鬼神、両面宿儺の方だからなぁ。間違いなく私を治すときに何かしらの縛りを悠仁に結ばせてるに違いない。
あぁ、くっそ。
純粋な、純善な悠仁の笑いを思い浮かべる。
何を契ったかは知らないが、相当重いもん背負わせたんだろうな、私。
嗚呼、糞が。
拳を握り締める。特級のなり損ない相手に苦戦するんじゃダメだ。せめて、あれぐらいなら一瞬で祓えるように。
仮に両面宿儺が、悠仁に業を背負わせようとするなら、ソレを止められるように。ダチに借りがあるままじゃ、楽しく生きられない。
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見ただけで正のエネルギーを送り込む無法。