裏であった原作とほぼ変わらない戦いは省略します。
前回の作者は髙羽の術式の影響を受けてとんでもないミスをする反逆者でしたが今回の作者は完璧で幸福です。
「屈辱や、ありえへん...!」
「ま、別にそのまま祓っても良かったのだけど...」
人間だった頃の体が生える前の段階、亀の甲羅を背負った頭蓋骨のような見た目の呪霊だった頃の直哉が、私の前に倒れ伏している。
「しかも、女に組み敷かれとる...最悪や...!」
いずれ訪れるであろう『羂索』との決戦。そのために少しでも戦力が必要だ。
これが傀儡使いだったり式神使いだったら共鳴りで数を減らせるんだけど、羂索の場合そうは行かない。一体一体が別個の呪霊だから、個体間の繋がりが薄い。
九十九さんと脹相が天元の警備にあたっている。もちろん、羂索に負けるとは思っていないが、逃げられる可能性は十二分にある。過去1000年以上生き延びてきた化け物だ。天元曰く、過去に2度、『六眼』持ちの術師に敗北しつつも逃げ延びているらしい。
それに、だ。
──いつか悠仁と宿儺を引き剥がす時。その時は五条悟が目覚めていても、その力は借りられない。だから。
確実に近い未来に訪れるだろう両面宿儺との決戦。その時までに、力をつける必要がある。
切り札は幾つかある。まだ誰にも見せていない切り札が。
「レジィ、だったか。すまない。協力感謝する。俺一人じゃキツかった」
「ん、いいよ、別に。強い術師に恩を売れたと思えばね」
呼び出した櫛で髪の毛を整えながら、レジィは空を見上げる。
「ねぇ、レジィ。貴方は私たちの側につく気はないの?いずれ落ちる爆弾に対処するためにも、協力した方が吉じゃない?」
「んー、俺はただの野次馬だからなぁ」
瓦礫の上に腰掛け、具現化させたミネラルウォータを飲んでいたレジィが、同じく具現化したペットボトル飲料を私たちに投げ渡しながらそう答える。
「別に俺は羂索と仲良しこよし、って訳じゃない。というかアイツほど術師らしい術師もそういないよね。だからって、殺したいほどかって言われるとそれはNO。あくまで中立さ」
手をひらひらと振りながらレジィが、追いかけてきていた二人の術師と合流する。
「ま、いつか大きく動いた時。その時は手伝うかもね、そっちの方が面白くなりそうだから」
最後に、とレシートを燃やすと、恵と私の体が回復する。
「都内最高級五つ星ホテルの領収書さ。まぁ、せいぜい道化となって踊ってくれや」
「は、私の知らないところで死ぬんじゃねえぞ。あと、非術師殺すようだったら次は敵だからな」
分かってるって、そう言った後。レジィ達が去る。
レジィ達の姿が見えなくなった後、コガネが、レジィから40点が譲渡されたと通告する。
「は、素直じゃないやつ」
貰った飲み物を飲み干し、投げ捨てる。
そして、空を見上げる。
「ねぇ恵」
「あぁ、釘崎」
目配せをしあう。気づいたみたいね。
The、天使と言った雰囲気の翼を背に生やした女性。
しかも頭に天使の輪っかまである。「見ればわかる」って天元は言ってたけど、そういうことか。そういうことなのね!
「あぁ、運命の人。先を越されてしまったのですね...うぅ...私が先に好きだったのに...」
「おい、何かとんでもない勘違いが生まれている気がするぞ!」
「いいから追うわよ、空ならコイツが一番早い!捕まりなさい恵!」
恵を抱え、式神に飛び乗る。
重っ、と言う声は聞こえなかったことにする。
「式神使いが荒いんや!!!」
「軽いわね、恵。ちゃんと食べてる?」
「食べてるぞ。と言うか釘崎の方は大丈夫なのか?食べた側から吹き飛ばされて消滅してないか?」
「高カロリーのものを食べても太らないと考えればまぁ...?」
完全には治らず、ところどころ引き攣ったような跡が残る腕を見る。
ま、死んでないなら大丈夫でしょ。
♦︎
一方その頃他の結界内では。
仙台結界にて
石流龍、烏鷺亨子、ドルゥヴ・ラクダワラ、黒沐死による四すくみが成立し、膠着しつつあったここでの戦いも遂に決着を迎えようとしていた。
現代の人外。特級術師『乙骨憂太』の手によって。
「『グラニテブラスト』」
「一回だけですよ」
男が笑う。人生を締めくくる、最高のデザートに歓喜する。
その熱い眼差しに溶かされた心が、それに答えたいと叫ぶ。
特級呪術師『乙骨憂太』。
3名の歴戦の術師、特級呪霊による四すくみを破壊。その全てに悉く勝利する。
乙骨憂太『190点』を獲得。
桜島結界にて
そこに集った過去の術師たちは、目撃する。現代の異能を、『東堂葵』の世界を!
「ふん!は!ほっ!」
拍手を鳴らすたび、一人、また一人と呪術師が倒されてゆく。
「さて、ブラザーの魂の友の為にも点を稼がなくてはな」
東堂葵。彼はかっぱ風の男と相撲を組み仲を深め、刀を求める剣豪と死合いに望み、結界内での頂点へ駆け上がりつつあった。
似たもの同士、波長があったのだろうかと考察しながら、頭を二つ持つ犬型の呪霊を加茂は両断する。
加茂もまた、赤血操術を駆使し、危険な呪霊を狩り続ける。
仲間が戦うのは、自分の灰の上でいい。覚悟を決めた男。その術式が無慈悲に呪霊を刈り取る。
イレギュラーの乱入もない桜島結界は、無事に平定へと向かっていた。
東堂葵、加茂憲紀。合わせて87点獲得。
東京第二結界にて
「俺の役目は、“天使”の捜索と交渉。戦闘は秤に任せるつもりが、まさかこんなやり方で剥がされるとは」
「しかも!」
目の前の相手。相当な手練だ。
パンダは心の中で呟く。速く、重く、べらぼうに強い。逃げれそうにもない。すまん、まさみち。
「パンダ殴るんじゃねえよ、動物愛護団体が黙ってないぞこのヤロー!」
「は、テメェみたいなパンダがいるかよ!」
ゴリラのように筋骨隆々とした状態へ変化したパンダの拳と、帯電した棒がぶつかる。
互いに防御不能の攻撃。電気の特性を持った呪力を纏った拳と、振動を内部まで伝える拳。
「悪くないな」
「オマエ、鹿紫雲一だろ?逃してくれたりしない?」
虎杖悠仁の説得により仲間となった秤金次。先輩である彼と共に東京第二結界に侵入し、そこにいる天使を捜索して説得する。ついでに100点も稼ぐ。そのために突入した二人。しかし、転送時の仕組みによりいきなり分断されてしまった。
そして、天使を探しつつ秤と合流しようとした側から、絶死の強敵と出会ってしまった。
「無理!」
だと思ったよ、そう吐き捨てながら掬い上げるように拳を放つ。
アッパーを寸前で回避され、雷鳴の如き蹴りが顔面に当たる。そのまま吹き飛ばされ、コンテナに体がめり込む。
稲妻のように速い。
伏黒の鵺と同じ、呪力が電気のような性質を持ち、奴自身が常に帯電している。
強い、あまりにも。過去の術師、想像以上──!
「弱い、弱すぎる」
腕が引きちぎられ、そのままの勢いで首をもがれそうになる。
引きちぎられた、綿の漏れる腕の断面を鹿紫雲の顔面に突き出す。
「メカ丸、って奴がいてさ。見舞いに行くって約束したっきり、会えずじまい」
腕の断面から、砲身が現れる。
「ま、付き合いがあった訳じゃない。でもさ、わかるんだよ」
アイツは、ただ、普通に生きたかっただけ。友達と並び立ちたかっただけ。高専を裏切り、最後には羂索と真人に敗れた。
アイツが残した、あるデータファイル。
傀儡に関する研究結果を記したデータ。三輪に託され、共有された彼が生きた証。
「『
自分の実力不足は悟っていた。
だから、まさみちに無理を言って改造して貰った。呪骸の俺だから詰め込むことができた武装。
「俺たちは呪術師だからな」
例え死んでも、生きた記録は繋がれていく。お前の呪いは俺が貰ってやるよ。
呪力の砲撃をもろに喰らった。これなら多少のダメージは──!
「は、取り消す。お前、少し良いな!」
煙が晴れた瞬間、そこにいたのはノーダメージで笑う鹿紫雲の姿。
勝とうなんて考えるな、秤が合流するまで時間を稼げ。
「『
片腕の先端が鋭く尖り、勢いよく回転。そこにゴリラの力を乗せる。
あらゆる防御を貫通し、体内を抉り掘り進む一撃。鹿紫雲は棍を槍のように突き出し、そのまま横薙ぎに振るいそれを防ぐ。
まだ核は全て生きている。秤に繋げ、何のために俺はここに立っている。
「『
パンダの顔型の呪力弾が避ける鹿紫雲を追尾し、表面で炸裂。瞬間、弾けた呪力弾の中から綿が湧き出して鹿紫雲を拘束する。
メカ丸が残した、簡易領域弾の理論を応用した呪力の貯蔵弾。呪骸であるパンダ以外には使いこなせないそれは、パンダが使うことで驚異的な呪力ストックを実現していた。
「
背中から生えた大砲と合わせて、束ねる。二重の砲撃は螺旋を描き、拘束された鹿紫雲を穿つ。
更に追撃。数本しか作れなかった切り札をここで切る。
京都校の面々へ残されたメッセージへの反応を見れば、アイツはアイツが思う以上に好かれていたことがわかる。
三輪は泣いていた。
──あらゆる仲間、俺たち全員で呪術師なんだ。俺たちが生きている限り。メカ丸が真に敗北することはない!!
東堂が、三輪に言った言葉が脳裏をよぎる。
アイツも、結構良いこと言えるんだな、なんて。
この弾丸は、三輪と真依が骨子を組み立て、まさみちが形にしたとっておき。
──やっと、私も役立たずじゃなくなったんだなぁ
焦げつき、修復されて痕のあるストラップが妙に目についたのを覚えている。
俺はアイツらのことを碌に知らない。だって学校違うし。
でも、だ。呪術師として、メカ丸の想いを背負うことはできる。
「シン・陰流『簡易領域』!」
体に弾丸が突き刺さった瞬間、内部に秘められた簡易領域が炸裂。これならば、電気の壁も、呪力操作による強化も中和して体を吹き飛ばせる。
「へぇ!『彌虚葛籠』の発展系か!」
なのに、なんでまるで効いてないんだよ!
少し嬉しそうに鹿紫雲が笑う。雷神。かつて人が恐れ、神秘を見出した稲妻そのもの。
鹿紫雲の体から、パチパチと電気が漏れる。
鹿紫雲は、電気と同質の自己の呪力を電荷分離する。
打撃と共にプラス電荷を移動させ、自己に蓄えたマイナス電荷を地面方向への放電をキャンセルしつつ、対象へと誘導する。
「少しは楽しめた。でも、まだまだ足りねえな」
この一撃は、領域を展開するまでもなく必中の、大気を炸く稲妻である。
「後輩達の影響かな?」
血を吐いても、心臓を貫かれても、這ってでも前に進む彼女らの姿。
「今の俺は、諦めが悪いんだ!」
簡易領域を、自己を守る盾として展開する。
攻撃を誘導していた電荷を、簡易領域によりシャットアウト。加速は半端に終わり、それでも音速は優に超えている。
だが、必中ではなくなった。奇しくも、領域と同じように簡易領域を展開したことで必中の効果が外される。
「『
攻撃の到達前。速度が乗り切らなかったことで、ほんの少し、ほんの少し動く猶予が生まれる。
右にほんの数ミリ動き、盾を展開。
「へぇ、核は守ったか」
半身を吹き飛ばされながらも、パンダはまだ立っている。
「あんま舐めんなよ。俺の姉ちゃんはシャイガールだから」
目が合ったやつはみんな、照れ殺しだぜ?
パンダの頭部が隆起する。肥大化した体は一つの形を作り出す。
式神や呪骸を作る時、動物を参考にする者は多い。魚にクラゲ、ハダカデバネズミ。これは合理的な判断だ。人間よりも、動物の方が筋力も、敏捷性も、耐久性も優れていることが多い。
しかし、この世界には原生生物よりも強い生物は無数にいる。
陀艮の呼び出したアノマロカリスや、ドルゥヴ・ラクダワラの呼び出した翼竜。それも選択肢としてはアリだ。だが、小さすぎたり、遡りすぎている。
白亜の地球を制覇した最強の生物、恐竜。呪術師はこれこそを真似るべきだったのだ。
「おぉ」
新しいおもちゃを見つけた子供のように、鹿紫雲の顔が輝く。
トリケラトプス。その盾の如き顔面は横幅にして3m弱にも及び、両の角は2m弱。7t以上の重量から放たれる突進は、無双の行進。何者にも邪魔されることなく爆走する。
「『大祓砲』!」
推進装置として砲撃を放ち、突進の速度を増幅。
──二人は、頑張って生きてね?
「姉ちゃん...?」
鹿紫雲と、トリケラトプスの姿が交差する。
次の瞬間、頭部が弾け飛ぶ。肩を僅かに抉りとった、その代償は大きすぎる。
「ま、これで終わり──」
「言っただろ、今の俺は、諦めが悪いんだよ!!」
この弾丸が伝えるのは、呪力じゃない。音だ。
1発だけ製作に成功した最後の切り札。狗巻棘の言霊が秘められた一発。
『止まれ』
一瞬、鹿紫雲の動きが止まる。
「『激振掌』!!!」
あぁ、届かなかった。でも、繋いださ。
膨大な呪力を纏った男が、コンテナを破壊しながら降り立つ。
「秤!!」
秤金次。現代に適合したイレギュラーな術式を繰る彼は、この後に鹿紫雲に勝利。100点を獲得。
そして虎杖悠仁
──日車寛見に勝利。
100点を獲得。
条件は揃った。後は全てを終わらせるだけ。
『ケヒッ...あぁ、その時が楽しみだ』
呪いの王が、邪悪に笑った。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
ゼブラックで本誌のバックナンバー全部読み終わったのでこれで私も本誌勢です。
あと、ここから時間軸が本誌に追いつき始めます。そのため今後公開される新情報と矛盾が生まれる可能性があります。宿儺の本気とか宿儺の本気とか宿儺の本気とか。本当に申し訳ないです。
天使「(脳が破壊される音)」
宿儺「魅せてくれたな伏(以下略」