タイトルは愛別離苦って書いて「シック」って呼んでください
東京第一コロニー 15日 15:00
「まぁ、軍人やらで騒がしい結界内に突入させるわけにもいかないしな」
予定日より1日遅れての、津美紀の離脱。
その日は妙な胸騒ぎがしていたことを覚えている。
「パラシュートは持たせたけど、それでも不安ね。結界のギリギリまでは真希先輩と、第二コロニーでの戦いが終わって手が空いたパンダ先輩に秤先輩。私たちは、内部で着地に失敗しないように受け止める役。なんで中に入るだけで受け止める役が必要なのかしらね?」
「バグだろ」
それが終われば、あとはなんとかして死滅回游を終わらせる。
五条悟の封印は...申し訳ないけど後数年待ってもらうことになるわね。まだ、堕天を殺せる域に私はいない。
空では来栖が監視、地面では花御がキャッチするための木の根を張り巡らせている。それでダメでも脱兎が受け止める。完璧な体制ね。
「そういえば伏黒は迎えにいかなくてよかったのか?」
「迎えに行くと、結界に入るタイミングでバラバラにされる。だったら内部で待ち構えていきなり合流した方がいい」
「確かに!」
スマホの時計を確認しながら、その時を今か今かと待つ。
「まぁ、そろそろな筈なんだが...」
恵のお姉さん。楽しみね。どんな人なのかしら。やっぱり魔虚羅みたいな人なのかしらね?
目の前に、女性が転送されてくる。
なるほどね。
なるほどねぇ。
「ねぇ、貴女。名前は?」
「いや、釘崎──」
「恵、少しだけお願い。ごめんなさいね、他人に化ける呪霊とか術師とかもいるから、確かめなきゃいけないの。『何か、伏黒の姉しか知らないようなエピソード』は知っている?」
その女は、あぁ、と合点が言った様子で口を開く。
「貴女が釘崎さんね?何度も聞かされたから知っているわよ。そうね、これは中学生の時の話なんだけど──」
「いや、なんか伏黒の黒歴史が赤裸々に語られてるんだけど。公開処刑なんだけど」
来栖がくすくすと笑い、悠仁もあちゃー、と言う顔で額を抑えている。恵は「もう充分だろう」という視線を送ってくる。
えぇ、もう十分ね。
「『簪』」
女目掛けて五寸釘を打ち出す。
防がなければ確実に頭部を貫通する威力を込めて。
「は?」
恵の顔が凍りつく。
突然の凶行。何が起こった──
「...なんでバレたのかしらね?」
「私の目には魂が見えるんだよ?しかも最近は改造したから調子もいい。まぁ、魂に特化した六眼みたいなもんだな」
液体金属の刃が、五寸釘を寸前で受け止めていた。
全員がここで気づく。仮に覚醒型だったとしよう。術式に目覚めたての術師が、しかも一年以上寝たきりだった人間がこの攻撃を受け止められるか?
しかも、津美紀の気配は、こんなに邪悪じゃない。
恵は叫ぶ。
「お前は誰だ!」
「あなたのお姉さんよ!!伏黒恵!!なんてね?」
受肉した者は、器の脳から現代の知識を得る。だから受肉タイプの術師でも、問題なく現代でも行動できる。
なら、器の記憶を読み取り、器本人として振る舞うことも可能。
「私は万。昔の連中にならまだ通じるかもね?」
一か八か。宿儺クラスじゃないなら、あの方法で行けるか?
魂の結びつきも、あの体を使った戦闘経験がないからまだ手遅れじゃない。だったら。
「せっかくタダで100点が貰えそうだったんだもの。移動可能になった時点で跳んでも良かったんだけど、ちょっと欲張りすぎたかしらね?」
背中から虫の羽が生える。飛んで逃げるつもりか。
「なんで...!」
恵の顔が、困惑と絶望、悲しみや怒りがごちゃ混ぜになった顔で、振り絞るようにして叫ぶ。
「恵、任せろ。割り込むんじゃねえぞ」
「は?」
こいつ一回分ならまだ保つか。
「初めてはやっぱり宿儺がいいじゃない?ふふ、見つけた、見つけた!!そんなところにいるなんて!」
悠仁の魂の向こう側を見つめている。狂ったように笑う。
予行練習にしてやるよ。現代の術師舐めんじゃねえぞ。
「『無為転変』」
魂に触れる。
無理やり引き剥がそうとする術式に魂が抵抗する。そして、私の体が万の生得領域へと引き摺り込まれる。
ある世界線において、呪霊『真人』が領域を使った時。両面宿儺の魂に触れた彼は、彼の逆鱗に触れ生得領域内部で切り刻まれた。
そう、『強者の魂』に触れることはそれだけでリスクが伴う。
真人の式神にヒビが入ったことを知覚し、形代に戻してしまう。
「はー、ほんと。テンション下がるわ。クソ女。初めては宿儺って言ったよね?」
昆虫の脳と神経がぶら下がる、真っ白な平野へと飛ばされる。
必中効果は、この中で再度領域を展開しなければ発動しないが、バフは最大限乗る。その上、侵入者が仮に領域を展開しても、相手の生得領域に押しつぶされる。
相手にとって圧倒的有利な空間で相手を殺すことで、体から相手を引き剥がす。
液体金属が湧き立ち、刃が空を割いて突撃する。
構築術式、それは燃費のあまりの悪さから一般的に外れ術式とされていた。しかし、万が使う構築術式。それは現代の術師のそれを遥かに凌駕していた。
「『簪・平打ち』」
迫り来る刃を、刺突と斬撃が細断する。
細切れにされた液体金属を見て、万が叫ぶ。
「その斬撃は──!貴女、貴女!!宿儺とどういう関係なのよ、あの男の中にいるのはわかっていたけど、どういうことよ!!」
「ほら、テンション上がってよかったじゃない?」
煽るようにして、あえて釘に乗せずに斬撃を放つ。
威力は低い。模造品にしかすぎないとはいえ、『近くにいる相手が』使えば勘違いするだろう。
使えるものは勘違いだろうとなんでも使うさ。相手の世界で戦うんだ。出し惜しみなんてできやしない。
殺意を持って私を見たな。
殺意、嫉妬、憎悪。それは信頼や友情よりも簡単に抱くことができる感情で──そして、魂との結びつきが強い。
しかも、今私は万の生得領域の中。言い換えれば魂の中にいるということになる。
「『共鳴り』」
殺意を込めて、とびっきりのウィンクを。
その繋がりをたどり、反転術式を液体金属へ注ぎ込む。
「液体金属の制御が離れた...なるほどね。流していた私の呪力を反転術式で中和して消したのか」
「構築術式、燃費悪いでしょ?辛いんじゃない?」
一歩踏み込み、頭部への後ろ蹴り。振り向きざまに釘を放つ。
呼び出した花御が嘲笑う大樹の種子を散弾銃のように撃ち放つ。
「がっ...!」
燃費悪いとはいえ、再構築の1度や2度、出来るか!それが自身の生得領域なら尚更。
細く収束した液体金属の柱が私の体を隈なく貫く。
大事な血管がいくつも破れる。同時に体が固定される。
「呪力を吸収して集中する種子。まぁ、多少厄介ね」
ぶちぶちと体から引き剥がしながら万は分離させていた液体金属を剣型へ変化させ、その切先を突撃させる。
「貴女、本当に人間?」
「私を人として扱ってくれるダチがいる限り、私は人間よ」
液体金属の柱の拘束を、全力で前に踏み込むことで突破する。反転術式で破壊すれば、液体に戻った金属が体内に取り込まれる可能性があった。固形物なら分離できるけど、毒は少し呪力効率が悪い。
圧力で折れた金属の柱が体内を蹂躙する。それを吐き出しながら、体を再生。血塗れの腕で剣を弾く。
「本当、こんな奴を宿儺が気に入ったかもしれないってのが、本当にムカつく...!」
平安の術師、万。その宿儺への愛はもはや狂気に近い。
寂しい目──と万は思っている──をした彼を見た時、心を奪われた。彼に愛を教えるのは私だと。
方法も、理論も御廚子のそれに近い。でも。
こんな、活力に満ちた切り口は、彼の物じゃない。
生得領域内の
それを液体金属を限界まで薄めることで構築した金属の竜巻がぶつかり、対消滅する。
「ま、折角補充できたしね」
パイナップル型の球体を三つ投擲。万に当たったそれから鉄片が飛散する。その全てが簪の発動源となり、幾つかは皮膚に突き刺さる。
あぁ、だめだ。これも偽物だ。万は叫ぶ。
その憎悪に呼応して、万の体が肉の鎧に覆われる。その鎧は虫の鎧。
仮に昆虫を人間と同じ大きさに拡大すれば。それに勝てる生物は殆ど存在しない。千里を渡る蝶々。自身の何十倍もの大きさの物体を持ち上げる蟻。カエルやトカゲさえも捕食してしまうカマキリ。
万は確信していた。構築術師の極み、それは肉の鎧だと。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
それを体現した彼女は、平安の猛者の中でも強者と呼ぶに相応しい。烏鷺率いる日月星進隊と並ぶ藤氏直属征伐部隊「五虚将」を返り討ちにする程である。
マッハを超える速度で繰り出される、3トンを超える重さの打撃。その尻から生える蜂の針からは自身の呪力を毒のようにして打ち込む。
完全に一個の術師として完結した強さ。
中距離は液体金属でカバーし、近距離は怪力無双の虫の鎧が潰す。
釣り竿を持った呪霊の式神が釣り糸で体を縛ろうと糸を繰り、背に顔の生えた魚の群れがそれを追う。背中から羽の生えた獅子が噛みつき、熊のような式神が爪を振るう。
巨大魚も、獅子も、熊も。どのような生物も虫には敵わない。
「『がしゃどくろ』」
小山ほどの大きさがある骸骨がその掌で蟲の鎧を掬い上げる。
その骨の腕をバキバキと打ち破り、背骨を駆け上がった万は、頭蓋を砕きがしゃどくろを破壊する。
仮にも特級なんだけどな。羂索、あんたもっといい呪霊連れてきなさいよ!それはそれで困るけど!!
「ま、本命はこっちだけどね」
式神の消滅前。砕けた骨が全て槍の様に万へ全方位から殺到する。肋骨や大腿骨、その全てが巨人サイズ。
「『簪・三千世界』」
強度の少しでも薄いところを。呪力強化が間に合わない速度で、全方位から削り取る。
もう一手。形代を取り出す。
「バルカナイズド何ちゃらって奴ね。『朱雀』」
取り出した五寸釘3本に焔を纏わせる。釘を握る腕が焼け焦げる匂いがする。筋肉が強張る。
「『簪・綾目』」
虫タイプには炎が有効、って思ったんだけどね。
一本は液体金属に呑まれ、もう一本は傾斜をつけた甲殻を上手いこと当てて弾かれる。
「本当、唯の友達の姉、言ってしまえばほぼ他人。そこまで本気になれるかしら?」
液体金属の腕が首を締め付ける。窒息するより速く正のエネルギーを流し込み、制御を失わせる。その直後、数トンを超える打撃が、防御した腕の上から胸骨を粉砕。骨の破片が肺に突き刺さり、口から血が漏れる。
ゼェゼェと息を吐きながら、胸部を再生させる。そろそろキツイわね。
砕かれた二の腕を修正。腰から一級呪具『打出』を取り出し、命中する寸前に巨大化。距離感を狂わせることで胸へクリーンヒットする。
手放した内出を木の根が掴み取り、最大化されたそれが縦にふるわれる。さらに上着の裏に背負っていた游雲を取り出し、顔面を横薙ぎに殴りつける。
殴りつけざまに手放したそれを少年院の特級呪霊が掴み取り、私のストレートと游雲の一撃が同時に決まる。
黒い火花が舞い、黒光りする金属の飛沫が皮膚に当たる。
「えぇ、そうね。それは愛。愛よ!貴女も愛に狂ってる。惚れてるんでしょう?わかるわよ。貴女は私と同じよ!」
頭部の鎧を壊され、顔をあらわにした万が叫ぶ。
世界は私に試練を与えるのね、宿儺に逢う前に、私に試練を!
万の手により、液体金属が形を変える。
『真球』だ。実現が不可能とされている物体。設置面積が存在せず、無限の圧力を生む、触れることさえ叶わない究極の物体。
あぁ、本当面倒くさい。暴力も性格も。
それに、強い。本当。相手に有利な場所で戦わなきゃいけないのも最悪。でも、『越えなきゃいけない相手』を考えれば。まだまだだ。
「うへぇ、面倒くさいタイプだよコイツ...本当、失礼だな。友愛だよ」
「『虚像』
『収束』
『湖面の鏡像』」
私が祓詞を紡ぎ、万が掌印を組む。
来るか。生得領域内での領域の展開。下手したら術式が焼き切れないぐらい覚悟したほうがいいわね。
「領域展開」
『
展開された効果は、究極の物体である真球への必中の付与。
触れることができない物体、で、あれば。落花の情での迎撃は限りなく不可能に近い。
生成される虚像のクオリティを下げる。100%から99.
しかし、真球が相手である以上、そうしなければ釘が刺さらない。
「極ノ番『共振』」
そして、再現した簡易領域で一瞬抵抗している間に、2発目の共振を放つ。真球でない部分が、ほんの一部でもできた。修復される前のコンマ1秒で、そこに叩き込む。
「あの時は、2発目に対応できなかった。だから、もう2度と。もう2度と、負けないために──!」
真球と万の繋がりをたどり、肉の鎧さえも破壊する。
しかし、領域は残った。当然だ。元々無限に広がる生得領域の内部にいるのだ。領域の強度も跳ね上がり、此処ならば誰でも閉じない領域を──望まずとも──使える。
「勝った、私の愛が!」
瞬間、万の体が分断される。
何が起きた、そう言って振り返ろうとした時には下半身が消えていた。
「なんやねん。これで終わりか、つまらんなぁ」
「あらかじめ、直哉を加速させていたの。遠方にばら撒かれた釘とか、他の式神で気づかなかったでしょ」
マッハ4、それを防ぎ切れるだけの強度はもう残っていなかった。
生得領域が崩壊し、津美紀の体から万が分離される。
あぁ、本当疲れた。でも、これで恵も安心できるでしょ。
意識を失い,倒れ込んだ津美紀を支える。
大丈夫、寝ているだけ。分離された万は今にも消えそうだ。
視界が現世へと戻る。現世では多分3分も経ってないわね。
瞬間、気配。周囲を見渡す。
「ククッ...面倒な女は死んだか」
存在が希薄になった万を一瞥した後、宿儺が言う
「釘崎野薔薇。『お前のせいだ』。せいぜい噛み締めろ」
声にならない声が出る。
──お、おま...釘崎、お前さっきまで、死んでたんだぞ!
──いや、それが...宿儺が治した
──何を契ったかは知らないが、相当重いもん背負わせたんだろうな、私
隣のビルで血を流している悠仁。気絶した来栖。じゃあ目の前にいるのは。
あぁ、そうか。
「ほう?やる気か?あまり失望させるなよ?」
『解』と『解』がぶつかり合い、甲高い音を立てた。
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九十九由基と羂索戦、どれぐらい需要あるんだろうか
神武解「あれ?俺は?」
追記: 津美紀は生存しています。分離された万は消えかけ、という意味です