更新が遅れて申し訳ないです
前日の戦闘の余波で、未だ釘崎野薔薇、虎杖悠仁共に就寝中の頃。
脹相、獄門疆・裏を持って帰還。
それとすれ違う様に、特級呪術師乙骨憂太、一級術師東堂葵が薨星宮へ現着。
その時には、もう遅かった。
「そうか...」
東堂葵が、恐らく師が最後に解き放ったであろう術の跡を眺める。死体さえ残らなかった。特級術師と九相図、天元が協力してなお届かなかった。
『凰輪』を拾い上げ、東堂葵が呟く。『後は託された』、と。
「僕と九十九さんで残るべきだった。...想像以上だった、仮にもこの事件の首謀者だ、僕たちの物差しで測ったのがそもそも間違い...!」
悔しそうに乙骨が壁を殴る。
特級二人掛かりなら、まだなんとかなったかもしれない、と。
「でも、獄門疆・裏だけは守り切った。まだ、希望は残ってる」
──始めはうまく行っていたんだ
脹相は語る。
互いに術式は明かされていた。条件はイーブンだった。むしろ、呪霊操術で呼び出した呪霊が役に立たない分、こちらが有利だった。
♦︎
「なるほどねぇ」
──質量が術式であることは知っていた、けど。まさか概念さえ無視するレベルとはね!
展開した高位の呪霊が一撃で破壊されたのを見た羂索は、完全に呪霊が消失する前にうずまきへ変換して、撃ち放つ。
『隠れよ』
うずまきが、空性結界の歪みに飲まれ、消失する。
羂索が結界術の達人だとしても、天元の大規模な結界には及ばない。一時的に、日本中に張り巡らされた結界術の補助術式に割いていたリソースを全て羂索との戦いに注ぎ込んだ天元は、発動したうずまきを『隠す』ことで無力化。
「やるじゃないか、引きこもりが。声だけじゃなく、本体も出てきたらどうだい?九十九由基にだけ働かせてないで」
『人を引きニート扱いするんじゃあない!』
即座に脳内で術理を組み立て、天元の結界に対応。
もう二度と同じ手は使えない。だが。
『それでいい』
私はあくまで端役にすぎない。長く生きすぎた経験を焚べ、一撃だ、一撃でも九十九由基が攻撃するための隙を生み出す。
『意地の一つや二つ、見せるさ。そうでなければ』
今まで私の術式の犠牲になった、あの子たちに申し訳が立たない!
楽になどなるものか。千年の遅れを取り戻せ。今からでも、北へ歩み出すには遅くない。
気配を隠された九十九由基が、羂索の頭部へ踵落としを放つ。
それを重力を弄ることで威力を低減し、クロスした両腕で受け止める。
「僅かに、遅れたな?」
「本当、つくづく獅子だな...!」
片腕がひしゃげ、半ばから折れた羂索が忌々しそうに呟く。
互いに近接戦闘、術式共に最高レベル。互いに早期の決着をつけたい中、しかし戦いは硬直する。
「しかしまぁ」
「本当に」
「「面倒だ」」
九十九由基の蹴りが羂索の腹に刺さり、空性結界に綻びが出るほどの距離まで蹴り飛ばされる。
「まぁでも。互いの術式が煙たいのに領域を展開しないのは、領域の押し合いに自信がないって言っているようなものでしょ」
誘い込んだつもりなんだろうけどさ。
『不味い、この領域は閉じていない!』
天元。私はね、君と違って、この千年の間。全力でこの世界に存在し続けてきたんだ。
「あの時の擬似領域は、この時のためか!」
星の怒りの一撃を避けた羂索が、領域を展開する。
展開されたのは、閉じない領域。あの時展開された領域は閉じていた。故に、だ。羂索といえども閉じない領域は使えないと勘違いしていた。
『必中効果範囲の縁を外殻と仮定して、私の空性結界ごと消す!』
一千年の意地を見せ、初見の技である『閉じない領域』にも対応して見せた。さらに、九十九由紀もほぼ無傷。これにはある小細工が関係していた。
『帳』という結界がある。呪力に優れない補助監督でも使用可能な結界であり、外部から内部の出来事を覆い隠す力があるものだ。そして、その能力は天元の結界によって底上げされている。この天元の結界がなければ、補助監督にこの結界をまともに運用することは出来ない。この、天元による結界術の底上げ。それを全て一時的に九十九由基に注ぎ込んだ。これにより、結界術の一種である簡易領域の効果も増大。
元星漿体、その因果故に可能な荒技。あちらが同化するのではなく、逆にこちら側から力を預ける因果の逆転。
「引きこもりが、意地を見せたか。天元!」
顔面を、超質量を纏った拳が揺らす。
息もつかせぬ無呼吸連打。息継ぎの間に生まれる弛緩を捨て去った、ただひたすらに固く重い殴打の壁。
「離さねえよ。お前が死ぬまで、殴り続ける!」
脚を砕き、転びそうになった瞬間。全力で振りかぶった拳を、撃ち放つ。砲丸投げのようなフォームから放たれた拳骨が、顔面を殴り飛ばす。鼻血が吹き出し、歯が折れ飛ぶ中、羂索が口を動かす。
「解放」
羂索が何かを呟いた...?呪言、呪詛、あらゆる可能性が否定される。術式は焼き切れている筈。...いや、違う。
「結界術か!」
天元の術理を応用された。無限回廊構造になった結界をポケットの中に生成。そこにあらかじめスタックさせておいたうずまきを解き放ったか。
「すでに解き放たれた術式は、術式が焼き切れていようが消えないからね」
だが、躱した。
切り札も破り、術式が焼き切れたこのタイミング。避ける手段などないと思っていた。
九十九由基の体を業火が包み込む。
「術式が焼き切れれば、結界に付与した術式だけじゃなく,全ての術式が使用不能になる。でも、それに対する対抗策は真人が教えてくれてね」
あらかじめうずまきで抽出しておいた術式を、呪霊玉の応用で固形化。ストックしておいたそれを領域使用後に食べることで、その術式だけは使用可能になる、という拡張術式。
ちなみに味は呪霊玉以上にクソ不味いけどね、と羂索が笑う。
「最悪四つ目の術式ぐらいあり得ると思ったけどさ...でも、んな即興の術式が効くかよ!」
九十九由基の術式、その本質。術式対象の概念、その内包と外延にすら収まらないほどの圧倒的質量。それは、概念すら無視する。
「そりゃ、即興の術式ならね」
新たな術式が取り出される。
羂索が掌印を組むと、台風の如き暴風が吹き荒れる。
「『極ノ番』ならどうかな?忘れたのかい?私は複数の体を渡ってきたんだよ?」
千年以上、多くの術師を渡り歩いてきた。無論、その体の術式は全て極めてきた。故に、取り出された術式は全て極ノ番として放たれる。
忘れるな、目の前にいるのは。千年以上生きた呪術師だ。
あらゆる呪いにも、あらゆる外敵にも、あらゆる病にも屈せず、己が理想のために邁進し続けた呪術の歴史の体現者。
「確か、この技は...戦時中に乗っ取った相手の肉体で極めたものだったかな?」
暗き雷が九十九由基の左目を穿ち、火炎旋風が体を打ち上げる。
無尽蔵。どれほどの択があるのか。まるで見当もつかない。
「だったら、正面から突破するだけ!」
「木」「火」「土」「金」「水」。五行の全てを突破する。質量は、突き詰めれば全てを凌駕する。
殴り合え、術師同士の戦い。最後に物を言うのは、肉体の強度だ。
「はは、わかるかい!九十九由基!自身の全力を出せる相手との戦いは、やはり楽しいものだ!」
自己の計画が破綻しそうであってなお、ワクワクが止まらない。
質量を付与された結界が、私の体を押しつぶそうとする。
結界の構造を解析。核に私の呪力を流しこみ、崩壊させる。
「『抜刀』」
凰輪を刀と定義。薄く纏わせた呪力で空気を蹴り、鞭のようにしならせた凰輪が脇腹を抉り取る。
(浅い、うまく踏み込めなかった...!)
不可視の小型の結界が邪魔になり、威力が乗り切らない。
決めきれなかった以上、反撃が来る。
「極ノ番──」
圧縮された氷塊が、彗星として落下する。
取った、勝利の寸前の一瞬の緩み。
羂索は失念していた。先に始末していた脹相の存在を。
九十九との一対一に持ち込めたと勘違いしていた。
「親殺しいきまぁす!!」
翅王の翼が、羂索の体を包み込む。瞬間、翅王の先端から全身を貫くようにして穿血を発動。
更に頭部目掛けて腕を構える。
「ドンマイ!」
頭蓋骨が穿血に合わせて回転し、衝撃と威力が全て散らされる。
反撃に蹴り飛ばされた脹相の体がゴム毬のように跳ねる。
間髪入れず、九十九由基の拳が放たれる。
焦ってるな、九十九由基。そりゃそうだ。だって
「『うずまき』」
私の術式はもう癒えた。
重力の力で極限まで圧縮したうずまきが、九十九由基の体を襲う。
「やはり予想通りだ。「星の怒り」で君自身は質量を感じないということは、密度は上がっても君自身の強度は上がらない」
これで、チェックメイトだ。
あまりにも長い時間を生きた。その中で、幾度となく武術を学ぶ機会もあったはずだ。
「ごっ...!」
古流武術と呼ばれる世界の、容赦なく急所を抉る突きが、最新の武術であるボクシングの神速の右ストレートが。古今東西、呪術だけでなく武術さえも一級品。
うずまきで開いた腹の傷が広がる。失血死が早いか、脳を砕かれるが早いか。
「『穿血』」
「おいおい?言ったじゃないか。親である私に君の毒は...!」
ガクン、と羂索が膝をつく。
心臓に鋭い痛み。血栓症か。穿血の中に、固形化した血液を混ぜておいたな。
呪力を流し込み、それを排除する。
「助かるぜお兄ちゃん!!」
攻守が反転する。掴んだこのチャンス。これを無駄にするな。
呼び出された呪霊を悉く破壊する。全ての術理を置き去りにする。
殴り続けろ、腕が折れようが、拳が軋もうが。
「おいおい、5G...通常の五倍の重力だぞ!?よく動けるね、君!」
重さ、それ即ち破壊力。
自分の術式に殺されろ、羂索。
特大のうずまきが全身を焼く。反転術式を回さなければ遠くない未来に死ぬ程の重傷。
「治せよ」
「治さねえよ!」
普通はそんなホイホイ腕とか生やせないんだよ!と叫びながら凰輪を地面に叩きつける。瞬間、大地が砕けた。一瞬の浮遊感。その後、世界が落下を始める。
「どんな馬鹿力だよ!」
「てめえの術式が重かったからな!」
落ちながら殴り合う。肉がぶつかり合う音なのか、これが。
相手の視線を、相手の筋肉の動きを。動き出す前の一瞬の気の起こりを。読み切れ。
「千年、これでも先輩なんだ」
九十九由基が競り負ける。地面に叩きつけられ、受け身は取ったものの折れた肋骨が肺に突き刺さり、吐血する。
ぜいぜいとした喘鳴が聞こえる。
「こっちだ、加茂憲倫──
「天元」
『あぁ』
超新星を放とうとした脹相の体が、結界の外へ弾き出される。始めから決めていた。こうなった時、どうするかは。
呪いとしての君は死んだ。生きろ。今度は人として。
そろそろ潮時だ。流石に強いなぁ。
追撃の一撃で、体が両断される。死んだ。否。
「おいおい」
驚愕で目を見開く。上半身だけになってもなお、コイツは生きている。
「そこは死んどけよ、人間として」
「まぁ、弟子が待ってるんでね──!」
特級としての意地。師としての意地。
こんなところで死んでられるか。さぁ、これが私の、最後の一撃だ。重力も、質量も。時間も、その全ては突き詰めれば。
それは、光さえ逃さない究極の歪み。宇宙に開いた黒い穴。
「ブラックホールか、だが!」
「あぁ、術式反転だろ?対策済みだよ!」
ミルフィーユ状に、究極の質量と、虚無の質量を重ね合わせる。複雑化された構造は、その矛盾故に世界を崩壊させる。
「おい、天元!死ぬ気で保たせろよ!」
『当然だ!』
道連れだ、全ては後に託した。だったら、呪いは全て私があの世へ持っていく。
「一緒に死のうぜ?
肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべ、九十九由基が叫ぶ。
「──ならばこちらも、同じ技で、行かせてもらおう!」
崩壊した星の残骸。星が最後に宇宙へ残す呪い。『コラプサー』。質量を突き詰めた先にその技があるのなら、重力を突き詰めた先にだってその技はある。羂索は悟った。術式反転での対策は不可能。ならば、純粋な出力勝負しかない。
(体内を領域とし、出力を底上げ。さらに呪霊から抽出した重力の術式を上乗せすれば!)
『...そうか。『重力』の方が術式反転だった、というわけか。ならば、その質量にも納得がいく』
半死半生、しかし、最後に立っていたのは羂索だった。
「実際、驚いたよ。この千年の中でも、上澄だった。良い余興だったよ、天元」
手をかざす。天元の体がノイズと共に消えゆく。
「まぁ、黄泉から見てるといいさ。星の子よ。我が友よ」
因果の中心、天元は堕ちた。因果の残り火、最後にして最強の六眼もいずれ消え去る。番の流星は再び相見えた。千年の呪いが廻り集い、ついに収束を始めた。
天元の因果は潰え、新たな呪術の世界が始まる。1,001年目の夜明けは近い。
「新たなる呪いの因果の始まり
──『呪術廻戦』の始まりを」
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
九十九由基、原作で両断されても普通に動いて一矢報いようとしたんですよね。もう一人の両断された人は動けなかったけど
つまり耐久力に関しては特級最強は九十九由基なんだろうか
本誌読みました!やったあああああ!!!魅せてくれたな虎杖悠仁!