勝つさ
そうでしょ?
だって、君たちはさ──
12月24日 新宿
「なぁ、
「あー、わかってるわかってる。大丈夫。僕、最強だからさ、野薔薇」
「はっ。心境の変化かしらね?五条悟。私のこと少し苦手だったでしょ」
薄らと青い瞳と、澄み渡るような青の瞳が交差する。
「あちゃー、バレてたか。生徒にそれ言われちゃあおしまいだよね」
これでも責任を感じていない訳じゃないんだ。悠仁以外だと、多分僕以外は気づけていない。ま、人間辞めちゃうなんて相当だよね。
任されちゃったからね。それに、後も託した。ま、僕って先生だからね。義務は果たすさ。
「じゃあ、やろうか」
負ける気はない。もしもを考える必要なんてない。後に控えた生徒達の顔を思い出す。花だと思っていたけど。本当、正面からぶん殴られた気分だよ。あぁ、そう言えば本当に1発殴られたっけ。
本当、随分と立派になったものだよ。もう、心配はいらない。
術師達に叩かれた背中が熱い。さぁ、やろうか。
大丈夫。僕たち、最強だから。
♦︎
全世界が固唾を飲んで見守っていた。
地球を容易に滅ぼすことができる、「史上最強」と「現代最強」の激突。全人類が固唾を飲んで見守った。
怖気がする沈黙と、異様な熱狂が新宿を包み込む。空を旋回するカラスと、呪いの気配だけが空間を満たす。
その静寂を切り裂いたのは、五条悟の一撃だった。
──宿儺は、あれでも完全復活は出来ていない。目算だけど、効率も考えれば、単純な結界の押し合いになればこちらが確実に勝利できる
とは言え、向こうにはこちらを即死させうる鬼札がある。無下限を空間まで拡大することはできなかった。その上、単純な押し合いに持ち込ませてくれるほど単純な相手でもない。ならばどうするか。
初手で最大火力をぶつけて、速攻で潰す。
呪術を極めることは、引き算を極めること。
この1ヶ月間、用事を済ませる傍らで、五条悟は引き算をさらに極めることに注力した。
「『九綱』『偏光』『烏と声明』『表裏の間』」
歌姫によるブーストを受け、さらにあらゆる動作を省略せずに放つ、230%の虚式『茈』。引き算を極めることで、省略しなかった時との落差が拡大され、非省略時の威力はさらに跳ね上がる。
そして、生成した茈をスタックさせ、さらに背後に『赫』『蒼』を創造する。掌印も、祓詞も、その術式の名を唱えることさえ必要としない、照準を合わせる必要もない。ただあれと思うだけで二つの球体が生まれる。
スタックした230%の茈に、100%の茈を重ねがけする。
「虚式『茈』」
伊地知の結界により気配を覆い隠されていた、五条悟の茈が、完全に不意をつく形で両面宿儺の体を穿つ。
ガコン、法陣が回る音がした。
直線数キロが、たった一撃で塵すら残さずに消滅する。
この一撃を喰らって、生き残る相手など居るはずもない。これを見ていた一般人は皆そう思った。
──「生きてるな」
「生きてるね」
「ここからが、本番」──
術師達は、皆気づいていた。これは開戦の狼煙にすぎないと言うことに。
全身が焦げつき、左半身は欠損。右腕も傷ついた状態の両面宿儺が、不敵に笑う。
円鹿の再生能力に加え、自身の体を鵺の電気と同化させることで全身を再生させる。
「『龍鱗』『反発』『番の流星』」
瞬間、五条悟は飛び出していた。蒼を使った高速移動。これにより一息の間に数キロを詰めた五条悟は、両面宿儺の顔面に目掛けて蒼を纏った拳を叩きつける。
拳が宿儺の体を浅く削り、世界を断つ斬撃が術式ごと五条悟の体を薄く切り裂く。
「やってくれたな、五条悟!」
「勘違いしているみたいだから言っとくけど、そっちが挑戦者だから」
両面宿儺の体から放たれた、万雷を束ねた光線が放たれ、それを受け止めながら五条悟が言い放った。
──「...理論は俺の術式と同じか」
雷神は、この戦いを見ながら拳を握りしめる。鵺の呪力特性を纏うその拡張術式。俺の術式と比べても、洗練されている。──
超至近距離での近接戦闘に移行する。
当たり前のように展延を纏い、直前まで雷の推進力で加速した雷速の乱打。それを五条悟の拳が受け止め、反撃を叩き込む。一瞬で交わした拳は十を越え、百を越え、速度は上がり続け、この世界のどんな高性能なカメラでも追い切れない速度を超えた瞬間、大気が弾ける音と共に両者の体が弾かれたように離れる。
押し勝ったのは、僅差で五条悟だった。拳から血を流しながらも、両面宿儺の方は片腕がひしゃげている。
「...本物の魔虚羅。随分と厄介な能力をしてるね」
六眼が、宿儺の頭上の法陣の出所を見抜く。八握剣異戒神将魔虚羅。かつての六眼と無下限の抱き合わせを殺した最強の式神。実のところ、高専側が本物の魔虚羅を見るのは初めてだった。その見た目と能力の一旦は把握できていたが、詳細までは誰も知らなかった。
──「でも、なんで五条先生は無下限を解除したんだ?」──
その能力は完全なる適応。故に、五条悟は無下限を纏わせずに、単純な呪力強化で殴り合う必要があった。展延の使用中は適応の進行が止まる。しかし、そもそも展延を一瞬で出し入れしている以上、止まっていない瞬間に触れてしまい、適応が起動してしまう可能性がある。その上、纏った呪力に適応されては無意味。故に、拳の肉を守る薄皮一枚。その下に呪力を纏わせることで直接の接触は無しに、火力を出すことを可能にした。
お陰で、拳は血みどろだかそれは問題ない。ま、この程度反転で直せるしね。
「術式順転『蒼』」
術式により周囲の高層ビル群を引き寄せ、それを大質量の巨石として両面宿儺へ投擲する。その速度は赫の反発により加速して、両面宿儺が祓詞を唱えるよりも速く建物を倒壊させる。
ごう、と両面宿儺が叫ぶ。その口から放たれた電気の呪力は、建物を超高温状態へ熱し、プラズマ状態へ崩壊させる。
同時に、満象の質量を付与することで圧力を何倍にも膨れ上がらせた掌の、閉じた五指一本一本から穿血が放たれる。
「随分と器用なことするよね」
衝突の瞬間だけ無下限を発動し、飛び込んできた宿儺に触れられるよりも速くその体に赫で吹き飛ばしたマンションの壁をぶつけることで僅かにずらす。
「随分と、不意打ちを当てられたことが嬉しいらしいな。五条悟」
六眼は、両面宿儺の使っている拡張術式が、普通の──いや、強者と呼ばれる人間の身でさえ耐えられないものであることを見抜いている。しかし、両面宿儺であれば間違いなく耐えられることも同様に見抜いている。
「『滅諦』『圧縮』『枯死せし恒星』」
六眼が、その呪力の揺らぎを感知する。
理解しろ、現代の術師達よ。呪いの王にとっては、世界さえも己が術式に敗れる弱者にすぎないと言うことを。
領域?いや、あの術式の発動は領域の展開より僅かに速い、そして発動された時点で領域は展開できなくなる。ならばどうするか。
「拡張術式『界圧』」
世界に、重さが付与される。
「シン・陰流『簡易領域』」
五条悟が簡易領域を展開した次の瞬間には、簡易領域を挟んだ外の空間数十メートル範囲のすべての物体が、全方位から数キロトンの重圧を受けたかのように潰れる。
──「十種影法術の拡張術式による、能力の付与。それを、世界にまで広げたってわけね...理屈としてはわかるわ。自分の持った呪具に付与できる時点で、仮に世界そのものを己のものと仮定できるだけの実力と呪術センスがあれば可能。場合によっては、他人に付与するより簡単まであるわね」──
五条悟の簡易領域の外部数十メートル。その世界には満象の重量が貼り付けられ、その重さで全てが圧縮されて潰される。
簡易領域の展開が一歩遅れていれば、五条悟といえどもそこそこのダメージは受けていただろう。
実際、指が潰れている。無理に領域を展開しようとしていれば、展開自体が阻害されていた可能性もある。
「まぁ、世界を巻き込んでいようがいまいが、「存在する質量」風情が、「存在しない質量」に勝てる、って思ってるわけ?」
次の瞬間、五条悟が簡易領域を飛び出す。同時に、周囲の重圧が消える。
「余程の自信。そこでその選択を取れるか」
移動や妨害に使用した赫や蒼。その全てを無理やり待機させ、それを今重ね合わせる。無数の小型の茈が放たれ、それを喰らった反動で重圧空間は崩壊した。
無論、省略に次ぐ省略。既に展開されてから秒数が立っていたことも合わせると、威力は通常の半分以下。それでも、その攻撃を放ったのが五条悟であると言うこの一点だけで、呪いの王にさえ通用する一撃へ昇華される。
小型の茈の衝撃で打ち上げられた両面宿儺目掛けて、五条悟の拳が振るわれる。それは両面宿儺の拳とぶつかると、発生した衝撃波は一瞬にして東京全土へ広がり、なんの呪力的強化もされていない窓ガラス程度であれば悉くが割れ、周囲1キロ圏内の建物であれば一部の強靭な建物を除き基礎を残して吹き飛ぶ。
「あっつ!え、何?宿儺、お前風邪ひいてんじゃねえの?」
雷を纏っていない方の拳であった。熱い。ぶつかって最初に感じた感想はそれだった。まるで、体内に地獄の炎でも隠しているかのような...?
「お前のほうこそ病に侵されているのではないか?」
再び宿儺との打ち合いが再開される。頬を殴り、腕を捻り上げ、首を突き、拳が掠り合う。
──何故だ。どうして宿儺は式神を呼び出さない?
式神の能力だけを使い続けている。これが一番の謎だ。破壊されれば付与もできなくなるから?否。合成獣がいる。無下限を突破できないから?否。逆に言えば、無下限を使わせて適応を進めさせることができる。
領域を展開できるのは、5...いや、完全復活できていないことを考えると6回だな。この回数内に勝負を決め切らないと、適応される。
...領域展開中しか式神を呼べないようにする縛り、か?何かしらの縛りの元に式神を使っている可能性もある。もしくは、式神の特性を活かして、領域展開の寸前に大量召喚、術式が焼き切れた間のつなぎにする、とかかな?
二人の化け物が移動するたびに、街は崩壊する。これを何処か他人事のように眺めていた人々は、戦いが現実離れするのと反比例するように、徐々に現実だと理解し始める。発生した恐れは渦をまき、東京の空で渦を巻く。
両面宿儺の解により、水道管がことごとく切り裂かれ、貯水槽の内部から水が溢れ出す。
「『穿血』」
集められた水が沸騰する。沸騰した熱湯の濁流が、五条悟を押し流そうと迫る。自身が放った穿血を追うように宿儺は駆け、五条悟の腹に捌を叩き込む。
「勘違いするなよ、五条悟。お前は名前もない多少生きのいい魚にすぎない。その鱗を剥ぎ取り、料理する。ただそれだけのことよ」
「そっちこそ、呪いの王なんて呼ばれて勘違いしてるんじゃない?言っておくけど、今の時代、君風情が王になれるとは思わない方がいいよ?」
五条悟が、そうあれかしと願っただけで、つい先ほど両面宿儺に切り倒された、30階建以上の高さの高層マンションが引力に引き寄せられる。それは規格外の槍となって呪いの王の心の臓を貫かんと超音速で放たれる。
「『龍鱗』『反発』『番の流星』」
大きい、重い。最も単純で、最もわかりやすい恐怖だ。そして、呪いの王には無縁の物でもある。
現世界に縛られた恐怖なぞ、なんの障壁にもなり得ない。
「ケヒヒッ。適応を嫌ったか、所詮はその程度の男ということよ」
「あれ、最初に倒したのお前だし実質お前がやったって事でよくね?」
簡易領域『抜刀』にも似た神速の五条悟の手刀が、両面宿儺の額を切り裂く。刀はない。刀がないのに、何を抜刀すると言うのか。普通ならそうであろう。しかし、五条悟だけは例外だ。刀よりも、己の五体の方が剛い。
──「決まった、いいのが入った!」──
五条悟の蹴りが、両面宿儺の顎を掠め、揺らした。脳がシェイクされ、僅かにふらついた両面宿儺の腹部へ赫をぶつけ、その反動で吹き飛びながら、そこへ蒼をぶつける。
自身は術式で吹き飛びながら、無意識のうちに踏み止まろうとしてしまった相手にだけ、茈の衝撃が余す事なくぶつかる。
ボルテージは上がり続ける。
戦いがより激しさを増し、同じ術師でさえも理解できない領域へ突入する。
ここまでは前哨戦。それは互いも認識していた事だ。
適応前に、全てを終わらせる。適応はあくまでサブプラン。全てを悉く叩き切るのみ。
ならばどうするか。決まっている。己の世界をぶつけ合うのみ。
どちらが先に始めたのか。戦いは次のフェーズへと移行する。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
初めから次元斬があるからスタートから大分違います...が、詠唱のある解を、初めから知っている致命の一撃を喰らってあげるほど六眼の性能は低くないし、五条悟も甘くはないです。
一言。脹相ーーーー!!!!!