「釘崎いいいいいいい!ごめん、遅くなった!」
本当、最高のタイミングだよ!
「今更何をしに来た、小僧!」
拘束から脱し、片腕を両面宿儺が悠仁に向ける。斬撃の雨を両腕で受け止めながら、悠仁が真っ直ぐに突撃する。習得した反転術式により耐久力を上げたのを見た両面宿儺は、辟易としながら斬撃の量を増やす。
止まらない。そうだ、此奴らは決して折れない。百折不撓の魂を持っている。何故こんなにも俺を苛立たせるのだ、小僧は。
暴風が吹き荒れる。
役者は出揃った。
「『龍鱗』『反発』『番の流星』」
「──小僧」
聞き覚えのある詠唱。しかし、それを唱えたのは一人の若い術師だった。
悠仁が、パン、と穿血を放つように掌を揃え、その手のひらをハサミのように少しずらす。それと同時に、巨大な裁ち鋏がその手に握られる。
「『龍鱗』『反発』『番の流星』」
両面宿儺が祓詞を紡ぐ。
繰り出されるのは、世界を断つ斬撃。不味い。今の私は恵の魂を賦活するのに全てを注いでいて動けない。悠仁も、多分あの鋏に全てを込めている。
「悠仁!」
死──
ガクン。両面宿儺の体勢が崩れ、僅かに照準がズレた。悠仁の足元をすり抜けていった斬撃が、後方の街を悉く破壊する。
「──また、貴様か、虫ケラ風情が!」
あぁ、本当に...本当に可愛いよ、お前は!
片腕が落ち、来ていた鎧も粉砕され、胸にも大きな切り傷がある。しかし、式神は完全に破壊されない限り動きを止めない。ニタニタと笑う式神が、両面宿儺の背後の瓦礫の中から飛び出し、その足を崩していた。
自分が生み出した呪いに一手を詰められるって、なかなかに因果なものじゃない?
呪いの王両面宿儺に、緊張が走る。
──縛りを、否ッ!
その思考が纏まるよりも早く。
「行け、悠仁!」
虎杖悠仁は
「応っ!」
呪いの王の命に、王手をかけた。
「戻ってこい、伏黒ぉおおおおおお!」
パチン、鋏が糸を断ち切った。
呪いの王と伏黒恵の縁が断ち切られ、その魂が分離を始める。
「そうよ、さっさと戻ってきなさい、恵」
切れた糸を結び直す。縁を結ぶ。切れた糸を、何度だって結び直す。
今度は切れないように、もっと強く。離さないように。
♦︎
闇の中に手を伸ばす。
ずっと、闇の中で漂っていた。闇の中で藻搔いていた。有り得たかもしれない幻想を見せる闇の中で藻搔いていた。心を折ろうとする悪趣味な夢の中で藻搔いていた。
そこに、光が差し込んだ。そこから差し込まれた、二人の腕を掴んだ。
「あー、どれぐらい寝てた?」
「んー、1ヶ月とちょっとかな?よく戻ってきたわね、恵」
「色々話したいことはあるけど...やれるか?伏黒」
「当然だ」
両面宿儺の魂が、伏黒恵の体から弾き出される。同じような状態の時、万はそのまま存在を薄れさせ、死を待つばかりとなった。では、両面宿儺の場合は?
「認めよう。小僧──虎杖悠仁。今のお前は、俺が喰らうに値すると!」
肉体を失いながらも、その覇気は健在。指という呪力源。即仏身という肉。それを元に、呪いの王は即興で自身の魂を呪物化し、肉体を持って現世に留まった。
呪力は殆ど尽き掛け。でも──下手したら、恵の肉体の時よりも呪力出力は上がっているかもしれないわね。簡単には終わらせてくれないってわけね。でも、不思議。まるで負ける気がしない。だって、2人がいるから。
「俺の十種影法術はもうボロボロだ。お前が全部使い果たしたからな...だが、戦う手段はまだ残っている。俺自身が魔虚羅になることだ!」
恵の頭に法陣が現れる。魔虚羅の法陣。それが意味するのは、完全な循環と適応。敵なら厄介だけど、味方ならこれほど頼りになる能力もないわね。
「ケヒッ...ケヒヒッ!あぁ、いいだろう!こんなにも心が躍ったのは初めてだ!」
「『簪・三千世界』!」
両面宿儺の体を覆い尽くすように隆起した影から釘が雨のようの降り注ぎ、それに隠れるようにして悠仁が飛び出し、解を纏った腕を叩きつける。
「『超新星』!!」
影の力を借りて圧縮した血液を、両面宿儺の腹で爆発的に炸裂させる。更に、血液が触れた場所から妙な模様が現れて、体を腐食させる。
──これは、九相図の!
地盤を削りながら放たれた特大の解を、影の中に潜り込んで回避する。次の瞬間、両腕に鉄塔を一本ずつ持った私が飛び出して、釘代わりに投げつける。
その先頭に乗った恵が、両手に持った刀型の呪具を宿儺の肩に叩きつける。
「ちっ、ここまで弱らせても一級呪具の刃すらも通らないか...が、これならどうだ?」
両面宿儺の腹を打ち据えたのは、游雲の一撃。私の振るう遠心力を乗せた棍の一撃は、黒い火花と共にその脇腹を抉り取る。
同時に、体の一部を分離させて放った簪ごと、私の半身が吹き飛ばされる。幾ら呪いの王とはいえ、何処から、こんな威力が?
呪霊としての要素を、命中する寸前で半身に集中させることで、即死を免れる。
「やはり、やはり貴様は素晴らしいぞ」
黒閃。それを呪いの王が決めた。考えうる中で最悪?いや、全然。
あとコンマ1秒遅ければ死んでいた。でも、死ななきゃ終わりじゃない。まだまだ。
「釘崎っ!」
「私に構うな、やれっ!」
陀艮と花御の放った水と大樹の激流が、呪いの王を打ち上げる。それを追うように、恵に上へ投げ飛ばされた悠仁が跳ぶ。
うちの悠仁はね、素手なら誰にも負けないのよ?
落下しながら、2人は何度も殴り合う。同時に放たれる解の応酬が、残った街の残骸を更に細かく裁断する。
黒い火花が、綺羅星のように空で弾ける。互いに何発も、何発も叩き込み続ける。
「『共鳴り』!」
「『穿血』!」
残穢を辿って放たれた共鳴りをにより、両面宿儺の体内から針状の呪力が溢れ、鋭い水の奔流が、その頭部を射抜く。
僅かに揺らいだ体勢、その隙を見逃すはずもなく。悠仁の拳が頭部を捉え、地面へ呪いの王を叩きつける。
──今だ
──今しかない
「う、おぉあああああああ!!!」
両手を握りしめ、その呪いに終止符を打とうと駆ける。確実に回避も、解も間に合わない。
「なっ」
どこからともなく割り込んだ呪霊が、その身を犠牲に拳を受け止めてしまった。
誰かが、「いや、保険の一つや二つ、用意しているでしょ」と笑った気がした。
『泳者による死滅回遊への総則追加が行われました──』
内容は、天元による人類の超重複同化の発動権は、
同時に、両面宿儺の手には、禍々しい呪力の玉が握られていた。
私の目が──魂を捉えるその目と、五条悟から借りた目がそれの正体を捉える。両面宿儺が虐殺した世界中の軍人の魂が漏らした呪力の塊。
それを喰らった途端、両面宿儺の気配が禍々しいものへと変化する。
「本来ならば、この術は使いたくはなかったのだがな」
そして、その呪力の半分以上が、2本の武器へと変化する。
『神武解』に『飛天』。両面宿儺の手で更なる改造が加えられた2本の特級呪具が、構築術式によって生み出された。
「あの指ね」
万の指の副次効果かしらね。
悠仁目掛けて放たれた解を、私の解で弾く。
神武解が振るわれると雷が降り注ぎ、飛天が振るわれると同時に暴風が直線上に地面を抉り取った。
両腕をクロスするようにして槍の一撃を受け切った悠仁が私の前まで吹き飛ばされる。それを抱き止めたあと、宿儺目掛けて呪力の砲弾を放つ。
間違いない、効いている。量は多いが、無理やり回復した分質は悪いのだろう。回復された?いや、手札を切らせた。確実に追い詰めている。隠し札だったであろう構築術式も、外付けの呪力リソースも切らせた。反転術式が回復する様子もない。
「鵺は消えたが、その力はまだ生きている」
全身に薄く電気を纏った恵が駆ける。そうだ、鵺の力を纏った状態なら、雷に強い耐性がある。それに。
ガコン、法陣が回転する。恐らく、2回で雷に適応できるだろう。
「やはり厄介な能力だ」
ならば、と雨のように降らせていた雷を一点に集中して、目も眩む光線として撃ち放った。耐性を貫くほどに強大な一撃。しかし、再び法陣が回転した瞬間、雷で受けた傷が再生を始めた。
「ほう?不完全な適応...あぁ、魔虚羅は既に破壊されているからか。つくづく運がない」
しかし、顔に僅かな火傷が残った恵を見て、その欠点を理解した宿儺が、畳み掛けるように斬撃を放った。
ここで恵が大ダメージを受けるのは不味い。いくら円鹿の力があるとはいえ限度がある。なら、私が代わりに受ければいい。結んだ縁を辿って、共鳴りの応用でその傷を私に移す。
「術式反転『大祓』...やってみたら意外とできるものね」
全身に走る鋭い痛み。もうなれたもんよ。
「釘崎...お前まさか!...虎杖、さっさと終わらせるぞ」
「あぁ。当然!」
残された鵺の力を使った雷と、神武解の雷が荒れ狂い、一撃で岩盤ごと捲り上げる異常な火力を持って飛天から横凪に暴風が放たれる。
「ちっ、風が強すぎるな。しかも、適応されないように足元の地面にだけ当たるように工夫までされてるな」
今厄介なのは、飛天の方。
槍としてのリーチの長さもさることながら、その威力に風の範囲が広すぎる。
「人工物相手なら、こっちの出番ってわけよ。悠仁!」
悠仁が私のことを抱き抱えながら飛び回る。瞬間、ギリギリで世界を断つ斬撃を回避できた。そのまま、回避は悠仁に任せて詠唱を続ける。
「『虚像』『収束』『湖面の鏡像』」
材質を理解し、構造を理解し、その全てを悉く破壊する。
「極ノ番『共振』」
どっと疲れた気がした。連発はできない。暫く冷却が必要ね、これ。
あぁ、そうだ。今までの全てを出しきれ。そうでなければ死ぬだけだ。
「行って、悠仁」
槍が崩壊し、守りが一つ消えた両面宿儺目掛けて、2人がかけた。それを援護するように簪を放つ。
弾かれ、防がれ、打ち据えられても。それでももう一度。何度でも喰らいつく。
呪いの王は強大だ。何度術をぶつけても、それを上回る一撃を放ってくる。けど、負ける気はしない。
──羂索の保険が発動して、戦いは一気に宿儺の優勢になった。が、それは同時に乙骨憂太の成功を意味する。
「これで終わってくれるなよ?」
予備動作無しの世界を断つ斬撃が、2人をすり抜けて私の膝から下を吹き飛ばした。倒れ込む瞬間、追撃の解と雷が放たれた。
パァン、と拍手がなる。
「祇園精舎の鐘の声──」
それは、入れ替わりで現れた小石に命中する。
不義遊戯の鼓動が聞こえた。更に、彼方から穿血が飛来する。
「本当、頼りになる奴だよ。東堂は」
ニヤリ、と笑って悠仁が両面宿儺に拳を叩きつける。
「領域展開」
乙骨憂太の声が聞こえた。そう、ここからは総力戦だ。私達は、私達じゃなく、全員で呪術師なんだ。私たちだけで戦っているんじゃないんだ。見せつけてやれ、私たちの強さを、強かさを。
「現代術師、舐めんじゃないわよ」
「『真贋相愛』」
「ごめん、みんな。遅くなった」
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
総力戦。前作主人公と主人公の共闘って熱いですよね。好きです。
Q.どうして恵は領域を出さないの?
A.さっきまで宿儺が入っていたせいで脳へのダメージが大きいから