前回の、釘崎が使える反転術式についてわかりにくい点があったようなので補足。
宿儺、家入レベルでのアウトプットはできないが、他人のちょっとした外傷を回復させるレベルのアウトプットは可能。回復量は少ないが攻撃力はそこそこある、みたいな感じです。
東堂葵達との邂逅から一月後
記録──2018年9月
神奈川県川崎市
キネマシネマ
上映終了後
男子高校生3名の変死体を従業員が発見
死因 頭部変形による
脳圧上昇 呼吸麻痺
♦︎♦︎♦︎
「本当、すげえよな、悠仁は。」
今頃、容疑者である吉野順平の家に上がり込んで、夕食をご馳走になってるであろう悠仁の顔を思い浮かべる。
吉野順平。あいつが犯人...ではなさそうだな。少なくともこんな悪辣なことをできそうなやつじゃなかった。
映画の趣味も合いそうだし。私も悠仁も面白いと思うんだけどなぁ『真・シャークネード 宇宙帝国の逆襲』。恵は宇宙人を見るような眼で見てきたけど。
──「ミミズ人間、2は面白いよな2は!」
「そう!そうなんだよ!2にはちゃんと楽しみ方があるんだよ!!」
「完璧主義の人間が全てを投げ出すまでの感情の動きがエモいんだよなぁーあれ。でも2だけ見るのはナンセンスなんだよ、1という苦行を超えた先にこのカタルシスが待ってるのよ。」
「すまん、釘崎、虎杖。吉野さん。俺にはあんた達が何を言ってるのか全くわからない。」
うん、あいつは悪いやつじゃなさそうだ。
人徳の為せる技、ってやつかな。あの善性が故に、するりと人の繋がりのうちに入り込んで、気づけばかけがえのない友になっていた。
「本当に、そうだな」
目の前に広がる人間だったものを殺しながら恵がそう答える。
あぁ、糞。気分悪い。
キネマシネマにおける男子高校生3名の変死事件。それの調査をするうちにわかったことがある。
間違いなく背後に一級、或いは特級呪霊かそれに相当する呪詛師がいること。そしてそいつの性格は腐った蜜柑よりも汚らしいってこと。
「人間の魂を弄って作った改造人間...クソが。見えてても治せねえ。反転術式でも、『この状態が正常』と魂が書き換えられてる以上どうしようもねえ。」
譫言のように何かを呟く人間だったものの命を刈り取る。
せめて苦しまないよう一撃で。
この業界にいるんだ、いつか人ぐらい殺すことにはなると思っていたが。
「幾ら何でもこれは、あんまりじゃねえか...」
「気負いすぎるな、釘崎。別にお前は神でもなんでもない。全てを救おうなんて考えるな。」
「そう、だな。糞が。絶対に祓ってやる。」
その直後、吉野順平の母親が呪霊に襲われ死亡したという連絡が入った。
嗚呼、糞が。まんまと陽動に引っかかったってわけか、私たちは。
♦︎♦︎♦︎
数時間後
「恵ぃ!道こっちであってるよな!な!」
「合ってる!」
一連の騒動に手掛かりを探そうと、順平の母校である里桜高校へ向かっていた時のこと。
突如として高校を囲うようにして帳が降りた。
「虎杖は帳下ろせねえよな!こりゃ
流石に一般人のいる中で鵺で空中から行くわけにもいかず、オリンピック選手ばりの脚力で道路を駆ける。
「だろうな、首謀者かどうかはわからんが、少なくともあそこにいるのは敵だ!」
悠仁と分断されている時に限って何かしらのイベントが起きている。
なんか妙なんだよな。背後になんかいるのか?...あれか、宿儺の指食ったって噂聞いて、悠仁の体使って何かしでかそうと考えた呪詛師とかか?
帳越しに高校を見つめる。
いくら帳で遮断されてようが、魂の光までは遮れない。
「四階...いや2階に落ちた。順平と...悠仁が?いや、もう一体」
にぃ、と顔が歪む。
見つけた。見つけた見つけた見つけた!!!
「喜べ恵。首謀者だ」
「!」
緊急事態だ。
標識を引っこ抜き、棒高跳びの要領で帳の向こう側、あるであろう窓目掛けて全力で飛ぶ。
──「逃げろ順平!!コイツとはどんな関係か知らん!!でも今は逃げてくれ!!頼む!!」
「虎杖くん、落ち着いて!!真人さんは悪い人...じゃ...」
「順平って、君が馬鹿にしている人間の、その次位には馬鹿だから。」
「だから、死ぬんだ
ぶふぉおああ!?」
術式を今ちょうど発動しようとした呪霊が吹き飛ばされ、順平から体が離れる。
悠仁の目の前まで吹き飛ばされた呪霊は、そのまま蹴り飛ばされ再び私の方へ、最後に私に顔面を殴り飛ばされ、歯を何本か飛ばしながら階段下まで吹き飛ぶ。
「グッドイーブニーング!クソ呪霊。間に合ったみたいだね。」
あとを追うようにして飛び込んできた鵺が、ツギハギ顔の呪霊に電撃を浴びせ、不知井底がその身体を縛り付ける。
「クソ映画ファンのよしみだ。逃げな。ここから先は、私たちプロに任せなさい」
「釘崎、伏黒!あれがナナミンの言っていたツギハギ顔の呪霊だ!」
「成程ねぇ。あれが...ふーん。害虫が。何もさせずに祓ってやるよ」
うすら笑いを浮かべた呪霊が、両腕を広げる。肥大化した体は不知井底の拘束を破る。そして瞬時に体が収縮。
そして、視界から消え───
「お、おぉ?」
「害虫駆除、ねぇ。女。これは戦争なんだよ」
『無為転変』
呪霊の掌が、私の魂に触れる。
「まずい、釘崎!!」
悠仁が悲痛な声を上げる。
大丈夫。こいつ、私には絶対勝てないから。
「いま、私の魂に触れたな?」
──なんだ、この女。
真人は、確かに釘崎の魂に触れた。
「この女とあの男の死体を晒して、虎杖悠仁の心を折る。」
その算段だった。
あの七三分けの術師のような、無意識のうちの防壁じゃない。
スパイク状の呪力による防壁。それが真人の腕に突き刺さる。
硬すぎる。最低でも8回は触れなければ突破はできない。
それに、なんだ、なんだこの歪な形の魂は!
「『共鳴り』」
スパイク状の呪力が釘代わりとなり、真人にとって致命的な術式が発動する。
魂へ直接触れた。魂を直視した。
そのあまりにも濃い繋がりが、真人の魂と釘崎を直接繋ぎ、そして。
魂が破壊される。
体内を突き破るようにして棘状の呪力が溢れ、呪霊は膝をつく。
「虎杖!合わせろ!『嚥下獣・灰怒羅』」
動けなくなった瞬間、地面から迫り出してきた大蛇が呪霊の下半身を飲み込み、電撃を纏った牙で噛み付く。
そして無防備になった呪霊の頭蓋目掛けて、虎杖悠仁の渾身の拳が突き刺さる。
あまりにも早すぎる打撃に追いつけなかった呪力が遅れて当たる。それにより生み出される二重のインパクト。
『逕庭拳』
特級呪霊『真人』に訪れる、本日2度目の緊張。
「祓ってやるよ」
虎杖悠仁が、こぅ、と息を吐き出す。
──最悪だ。俺の天敵は、あの女だけじゃない。
体内に別の魂があるが故、虎杖悠仁の拳は魂の輪郭を捉える。
あの男の攻撃からダメージはないが、式神は魂がないが故、無為転変は通用しない。
「ちょーっとこれは...逃げた方が良さそうだね」
甘そうに見える虎杖悠仁のことだ。多少躊躇するかと思い、改造人間を盾にしようとしても、あの男──伏黒恵が割と容赦なく削り取る。
あの男、若い頃に重油塗れのカモメの尻に爆竹突っ込んで遊んでそうだと真人は考える。
窓を突き破り、逃げようとした真人を複眼の式神が殴り飛ばし、突風が真人の体を階段へ叩きつける。
吐きかけられた毒液を払いながら立ち上がる。
「んー?散々無法働いといて、逃げれると思ったのかなぁ?」
不味い。自分と比べれば虫ケラ同然だが、特級呪霊相当の式神。
他の2体は一級相当か。そして全ての窓を覆うように下級の式神。
肥大化させた腕で窓を塞ぐ式神を破壊しようとすれば、
「『玉犬・渾』」
狼男のような屈強な式神が、肥大化した腕を引きちぎる。
式神やあの男からの攻撃にダメージは無いとはいえ、鬱陶しいことこの上ない。
それを壊そうとすれば虎杖の拳が魂を揺らし、女に至っては視線を向けるだけで少量のダメージを魂に送り込んでくる。
その癖視線を向けない訳にもいかない。
「『簪』」
視線を外せばすぐさま釘が足を地面に縫い止め、動きが止まった瞬間を虎杖に刈り取られる。
「あは、あは、あははははは!」
そうだ、逃げようなんて考えるな。
俺は呪霊だ、呪いなんだ!
どこまでも本能に忠実に
自由に
呪い
呪われようか!
体を縮め、全方位に向けて鋭く尖らせた体を放つ。
それを呪術師達が打ち払おうとする間に魂を練り上げ、今度は鎖状に組み替えた腕の先端から、勢いよくドリルのように回転する拳を放つ。
──より洗練された、殺すためのインスピレーションを、体現しろ!
風の刃に根本から切り落とされた羽を再度生やし、地面に落ちた体の一部を起点に肉の槍を放つ。
「ころころ形を変えやがる。締めや投げからの組み立ては考えない方がいいか?」
肉の槍を掴み取り、逆に投げ返しながら虎杖悠仁が言う。
「形を変えるなら、その度に叩き壊すまでだ」
「形を変えようが魂はそこにあり続けるからねぇ!どうやら、私たちこいつの天敵みたいねえ!」
私の蹴りが、ツギハギ顔の顎を揺らす。上に向いた顔目掛けて悠仁が手刀を叩き込み、そのまま眼球を抉り取る。
飛び散った肉片めがけて形代を投げつけ、そこに釘を打ちつける。
「『共鳴り』!」
十数の形代から呪力が注ぎ込まれ、呪霊の右肩が弾け飛ぶ。
口から吐き出された改造人間を恵が吹き飛ばし、無防備な喉目掛けて悠仁の逕庭拳が突き刺さる。
まだ死なねえか。やっぱ特級はタフだなぁ!
倒れ込んだ呪霊が起きあがろうとした瞬間、式神の口から砲撃が放たれ、体から分離して放たれた肉の弾丸は毒液に溶かされる。
「へ、流石害虫。ゴキブリに改名したらどうだ?」
でも、もう1人増えたらきついんじゃねえの?
呪霊の背後、教室の中から1人の男が飛び込み、呪霊の体を7:3に切りつける。
「!ナナミン!」
「...なんだ!ピンピンしてるじゃん七三術師!」
全身を不知井底の下に封じられながら、呪霊は無邪気に叫ぶ。
「あぁ、ああ!でもこれは不味いかもなぁ!」
七海さんの斬撃と悠仁の打撃、相手の動きを制限するように私が呪力を送り込み、時には2人ごと巻き込むように正の呪力を放つ。
回復量はたかが知れてるが、呪霊に対しては猛毒。
逃げようとすれば風の刃が足を裂き、人型の式神が殴り飛ばす。
翼は蛇神の毒液と鵺の電撃に落とされ、不定期に絡みつく不知井底が呪霊のリズムを崩す。
両腕が吹き飛ばされるも、呪霊は直ぐに両腕を再生する。
「恵!」
不知井底の舌が、切り飛ばされた腕を掴み取る。
受け取った腕を式神に打ちつける。
「へぇ、あんた。真人っていうんだ。」
ゆらり、式神が真人の姿となって起き上がる。
「あぁ、そうか」
自身の使う術式と同じ術式は、自身には効果が薄い。それでも魂に直接ダメージを与える手段が増えた。
そこそこ強い前衛も増え、改造人間のストックももう無い。
あぁ、なんて新鮮なインスピレーションだ。
自然に笑みが漏れる。
これが、これが死か。
今なら───
強烈な呪力の気配。
伏黒恵と、釘崎野薔薇はそれを感じ取った。
「まさか、領域...ッ!?」
そうだ、相手は特級だ。「使えても」おかしくはなかった!
簡易領域のような対抗手段はない。七海さんも、一級術師とはいえ領域までは使えない。
伏黒恵の頭をよぎったのは、姉と、友人達の姿。
──ねぇ恵。呪力の本質ってなんだと思う?
そうだ。
そうだった。自由に、もっと自由に、術式の解釈を広げろ!
「恵!外殻は私が受け持つ!不完全でいい、やるぞ!」
釘崎野薔薇。
彼女はできるかどうかなんて考えもしなかった。
共鳴りは、体の一部や五感のような縁を辿って相手に呪力を送り込む。
なら、他の何かを。魂同士の縁を辿って、別の何かを送ることもできるのではないか、と。
伏黒恵、その術式に同調する。
式神術をそれなりの練度で修めていたことが幸いしたのか。
互いの魂の相互補完。
限界を超えた部分を私が補い、領域の内部を恵が補う。
「あとは頼んだわよ、悠仁、七海!!」
──できるよね
一か八か、2人がかりの
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なんかすごい伸びたし、感想もいっぱいで嬉しいです。
羂索「あかん真人死ぬぅ!いけ、漏瑚君に決めた!」
漏瑚 (ついさっきまで首だけだったんだけどな、という顔)