共鳴りとは──魂の振動(大嘘)   作:美味しいラムネ

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 前話の途中から、you say run 流すとちょうどいいタイミングで盛り上がる...筈。作品違うけど





幼魚と逆罰②

 

 

 

 

 

「「領域展開──『嵌合暗翳庭』」」

 

「領域展開──『自閉円頓裹』」

 

 

 

 

 領域の押し合いが、始まる。

 

 

 「ぐ、ぎ、あぁ!」

 

 世界と世界が、お互いの生得領域が、自己の存在そのものがぶつかり合う。

 「領域展開」。術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する、呪術の極致。

 

 二つの異界が現を塗り潰す。

 

 「あは、あはははははは!」

 

 特級呪霊──真人とは異なり、釘崎も伏黒も、本来ならこの領域(ステージ)までは到達していない。

 仮に無理やり領域を展開したとしても『嵌合暗翳庭』は、現時点では十種影法術の潜在能力を120%引き出すだけのものでしかなかったはずだ。

 

 しかし、今展開された領域は、紛れもなく本物の『閉じた領域』。領域を展開するための、現実世界にスケールの異なる擬似空間を生み出すプロセスと、外郭の展開維持を釘崎に任せることで、完全な領域が展開される。

 

 

 

 

 

 恵の額から汗が流れる。噛み締めた唇からは血が流れ、必死に相手の領域に争っているのがわかる。 

 

 あぁ、くそ。今直ぐにでも手放してしまいたい。

 私の体から勢いよく呪力が引っ張られ、恐ろしいほどの虚脱感が体を襲う。

 

 立っていられない、ガクガクと足が震える。

 無茶な手段をとったせいか、魂がギチギチと音を立てて軋むのがわかる。

 

 恵も、私も相手の領域に押し負けないようにするので精一杯。

 このまま押し合いを続ければ、いつか限界が来る。

 

 でも、私たちには仲間がいる、友がいる!

 ああそうだ、私たちは、ただダチが敵を倒すのを信じるだけ。これが自分の役割。それを全うするだけ!

 

 必中効果が中和され、致死の空間でなくなった領域を、悠仁が走る。

 

 それが、群がるようにして現れた人型に押し留められる。

 

 ──この土壇場で、さらに術式の解釈を広げるか!

 

 相手の領域の内部から次々と呪霊の姿を模した分身が溢れ出す。

 まずい、あれだけの数がいれば、いつ術式を食らってもおかしくはない。

 幾ら必中がないとはいえ、触れれば術式は発動する。

 

 ...いや、違う!

 

 「悠仁、七海!そいつは、触れても術式が発動しない!」

 

 分身はただの案山子。注意するべきは、本体のみ。

 

 「!応!!」

 

 「了解。...私はこいつにダメージを与えられません。露払いは私がします。虎杖くんは、本体を。」

 

 七海が鉈を奮い、悠仁に群がる分身を両断し、穿ち、投げ飛ばす。

 それでも数が多い...ッ!

 

 私の式神も分身を攻撃するが、それでも一向に数は減らない。

 

 「ぐ、あぁ!釘崎、もっと呪力を、寄越せ...っ!」

 

 恵と私の魂が再度同調する。

 私たちの領域の内部から、玉犬の群れが、大蛇の、蝦蟇の、鵺の群れが溢れて、分身達を押し留める。

 

 互いに限界ギリギリだ。あと少しの衝撃で、溢れてしまってもおかしくはない状態。

 

 「虎杖くん、任せましたよ」

 

 七海が悠仁の道を切り開く

 

 「行け、虎杖!

 

 恵の術式が、悠仁の背中を後押しする。

 

 

 

 

 

 「悠仁、ぶちかませええええええ!

 

 叫ぶ。心の底から、彼を。私の命をベットした、「虎杖悠仁」という存在を信じているから。

 

 

 ただ一言。

 「ありがとう」と。

 

 託してくれた仲間へ、友へ。

 1人じゃ祓えなかった。1人だったら、順平も、ナナミンも、みんな死んでいたかもしれない。

 

 地面を強く蹴る。

 一歩前へ、目の前の呪霊へ。

 あれは呪いだ。人を呪い、人が恐れ、人を殺す悪意の存在。

 

 ──オマエは強いから人を助けろ。 

  

 祖父の言葉が、頭に反響する。

 俺は今、誰かを助けるために、拳を振るうんだ。

 

 想いを、願いを、託された希望を全て出し切れ。

 拳に、乗せろ。

 

 

 あぁ、そうだ。

 呪霊が笑う。

 此処が最後の瀬戸際。絞り出せ。最後の呪力を。

 

  呪霊の腕が膨張する。樹齢千年の大木のように、大地を流れる濁流のように、荒ぶる大地のように。

 

 

 「呪霊、いや──真人おおおおおおお!

 

 「虎杖、悠仁いいいいいい!!!

 

 

 虎杖悠仁が放った拳。

 それは逕庭拳に非ず。

 無意識のうちについていた癖。時間差でぶつかる呪力。確かに強力だ。しかし、その技に頼るがあまり、虎杖悠仁の拳は呪力の本質から遠ざかっていた。

 

 しかし、

 この瞬間。

 極限まで研ぎ澄まされた虎杖悠仁の拳は  

 

 

 呪力の本質へ、近づいた。

 

 

 『黒閃』

 

 

 拳と呪力のインパクト。その差、計測不能。

 同時と言ってもいいほどの衝突。

 

 歴代の、どんな術師よりも正確に放たれた拳は。

 空間を歪め、肉を穿ち、呪いを断ち。

 

 真人の体を、粉砕した。

 

 

 同時に二つの領域が崩壊して、元の学校の廊下へ投げ出される。

 

 「あ、ぐ、あぁ!」

 

 「はぁ、はぁ、はぁ...ぐっ」

 

 呪霊の拳をもろに喰らった悠仁の体が、教室の扉に叩きつけられる。

 

 それ以上に、真人の食らったダメージは深刻だった。

 体の半分以上を消失させ、それでも真人はなんとか残った翼をはためかせ、脱走を試みる。

 

 「領域の崩壊後は術式が焼き切れている、はずなのに...!」

 

 恵は術式が焼き切れ、私の呪力は尽きかけ。

 七海はちょうど廊下の対角線上にいて間に合いそうもない。悠仁は、自分が拳を振るうと同時に受けたカウンターの反動により動けない。

 

 「待て、逃げるな、クソ呪霊!」

 

 窓から飛び立とうとした真人は

 

 

 

 

 「ごめんなさい、真人さん」

 

 掌印を組み、式神を呼び出す。毒の触手を持った、水母型の式神『澱月』。

 

 クラゲの腕に絡まれ、室内に放り出される。

 送り込まれた毒で、さらに体が崩壊する。

 

 まさか、まさか自分の手駒に噛み付かれるとは。

 虎杖悠仁の心を折るための、それ以外の役割は与えられていない愚者に、真人を信じきっていた愚か者に、最後の一手を詰められるとは!

 

 

 「じゅ、順平ぃいいいいいい!」

 

 

 予想外だったという顔で、真人が叫ぶ。

 逃げたのではなかったのか。いや、違う。一度は逃げた。それでもこいつは戻ってきたのだ。

 

 

 

 はは、やるじゃねえか、やるじゃねえか!順平!

 お前は、やる時にやれる男だったか!ああ、最高だよ、最高に可愛いよ、お前!

 

 ──これで

 

 「終わりだ、真人っ!」

 

 本日2度目の黒閃が、虎杖悠仁の拳から放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱし、と。並の呪霊はおろか、一級を越える呪霊でさえ致命となる一撃は、軽く止められる。

 

 

 「その辺にしてもらおうか、宿儺の器。

 

 「え」

 

 あれは、なんだ。

 いつの間に入ってきた。

 窓を見る。学校の壁が、文字通り、「無くなって」いた。

 

 火があった。山があった。そこには、絶望があった。

 

 怖い。

 

 はは、マジかよ。私らしくもない。

 見ただけで、心が折れかけた。

 

 誰かの唾を飲む音がする。

 気づけなかった。

 よりにもよって、全員が限界ギリギリのこのタイミング。万全の状態でも勝率が一分にも満たなさそうな化け物。

 

 それはまるで火山の、山の。人の畏れを、恐れを体現したかのような呪霊。蛇神のような紛い物とは違う。それはまるで──

 

 

 ──本物の、『神』のような。

 

 

 「お前は...五条先生にボコボコにされてた頭富士山!」

 

 悠仁が叫ぶ。

 あ、それでか。明らかに呪力量が少ないし、なんか体も「ついさっきまで首だけだったけど無理やり直してきました」みたいな感じでスッカスカだったのは。

 

 それでも、勝てねえな。

 

 「儂は漏瑚だ!!」

 

 ぽー、と頭と両耳から蒸気が溢れ出る。

 

 七海が起き上がり、鉈を構えて牽制するが、本人も勝ち目などないことは気づいているのだろう。

 順平も水母を盾になるように配置して私たちを守ろうとするが、あの程度じゃどうしようもない。術師なりたての少年には荷が重すぎる。

 

 

 「ちっ、術式は焼き切れてる...魔虚羅も呼べねえ」

 

 おい。

 

 「おい馬鹿恵。布留部由良るつもりか?それ私らも死ぬだろ。あれか、死ぬ時は一緒だよ?的なノリか?...まぁ、私に任せとけ。悠仁のおかげで、生き残る可能性が出てきた。今度は嘘じゃねえ」

 

 2人がかりで領域展開をした影響か。

 恵の術式は焼き切れたが、恵の呪力はほとんど失われていない。

 私の呪力は尽きかけだが、私の術式は焼き切れていない。

 

 ...それに、いざとなれば。

 腰のポーチを撫でる。

 

 

 「ふん、真人。お前らが儂の頭をサッカーボールにしていなければ、もう少し早く再生できていたんだがなぁ」

 

 「はは、いやぁごめんごめん、助かったよ」

 

 「お前()」か。特級呪霊が徒党組んでるとか、どんな悪夢だよ。

 

 火山頭の呪霊──漏瑚が、悠仁の腕から真人を引き剥がし、腕の中に抱える。

 

 「さて、ついでだ。宿儺の器以外は焼き尽くして──」

 

 

 漏瑚の腕に火球が生まれた、その瞬間、漏瑚の動きが止まる。

 何か恐ろしいものに睨みつけられたような。

 

 何が原因かわからないが、チャンスだ。

 

 

 

 「さて、術式の開示と行こうじゃないか!」

 

 

 釘崎野薔薇が立ち上がる。

 全員の生存を賭けた、一か八かの大勝負。

 

 釘崎野薔薇の横に、人型の式神が現れる。

 白髪に、目隠しをした長身の男性。傲慢不遜、それを体現したかのような男の気配。

 

 「五条...五条悟!?」

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 「五条...五条悟!?」

 

 火山の呪霊──漏瑚の思考が一旦止まる。

 目の前にいるのは、紛れもなく五条悟。いや、まて。呪力量は精々2級呪霊程度しかない。

 

 「ふん。なるほど、小娘。ハッタリか。儂も舐められたものだな。」

 

 「ハッタリねぇ...」

 

 「くくっ...そうか、そうだな、そうかもなぁ!でも、そっちの呪霊は戦ってて知ってるんじゃないか?私の式神は、呪力量は元になった存在の量によって決まるが、どれだけ呪力量が少なくとも、術式や素の肉体スペックは耐久力以外変わらないってなぁ!」

 

 こくり、と真人が頷く。

 

 「...たとえそれが本当に五条悟の力を持った式神であっても、その程度の呪力量で儂をどうにかできるとでも?」

 

 「できちゃうんだなぁ、これが!なぁ、漏瑚。お前歳は幾つだ?長生きしてるなら、これも知ってるんじゃないか?」

 

 

 擬似再現:呪霊操術・極ノ番『うずまき』

 

 「去年に起きた、新宿・京都百鬼夜行。何かの参考になるんじゃないかとその資料を読んでるうちに、見つけたんだよ。操作する呪霊を圧縮し、弾丸として撃ち放つ呪霊操術の切り札。」

 

 「それを私の式神で再現できないかと思ってさ。そしたら出来た。しかも、これはオリジナルのうずまきを超えている。式神の呪力ではなく『術式を圧縮』して撃ち放つ」

 

 五条悟の姿をした式神が、渦を巻きながら一つの弾丸と化す。

 

 「たとえばそこの真人の式神にこれを使えば、数秒の領域展開ぐらいはできるし、この五条悟の式神で行えば、どうなっちゃうんだろうなぁ!?」

 

 「漏瑚、いくら瀕死とはいえ、てめえをこれで倒せるなんて微塵も思っちゃいない。だがなぁ、術式の開示で威力が底上げされたこれを」

 

 

 ──そこの真人は耐えられるかな?

 

 

 本来なら、漏瑚はこんな馬鹿正直に小娘の術式の開示を聞く義理もなかった。

 しかし、動けなかった。宿儺の器の内部から放たれるプレッシャー。「お前何してくれてんだよ」と言わんばかりの殺気。

 漏瑚の頭に、夏油の言葉が思い出される。

「高専生の中に、宿儺の地雷がいる可能性が高い」と。

 

 

 (ふむ。ここで小娘の発言をブラフだと切り捨て、全員殺すのは簡単だが。)

 

 今の自分は領域展開すら怪しい程に消耗している。それでも殺し尽くすのは簡単だが、その間に真人が殺される可能性は十二分にある。

 ここに花御もいるならば話は別だったのだろうが、花御は現在別件のために損耗はできないからと連れてはこられなかった。

 

 

 「命拾いしたな、小娘」

 

 真人を連れて、漏瑚は撤退することを選択する。

 

 「へ、賢い選択どーも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漏瑚と真人の姿が地平の彼方へと消えてゆく。オリジナルを倒せなかったことで真人の式神が休眠状態に入る。

 

 ばたん、と全身の力を抜き、地面に倒れ伏す。

 

 「あは、はははっ!」

 

 おかしいことなんてないはずなのに、笑いが止まらない。

 あぁ、生き残った。祓えはしなかったが、それでも、ダチは誰1人として欠けちゃいない。

 

 「騙してやったぜ、特級呪霊」

 

 「すげえな、釘崎。お前あんなこともできたのか。」

 

 悠仁が起き上がり、私のことを支えながら起き上がらせる。

 

 「あぁ、あれね。うん。あんなことできるわけねえよ。そもそも私の式神は呪霊限定だ。というかそもそもどうやって五条悟の体組織入手するんだよ。あとまじで五条悟の式神使えたら今頃私は特級だよ」

 

 五条悟の姿をした式神、あれは五条悟ではない。

 他人に化けることができる能力を持った二級呪霊、その式神だ。

 

 「つまり」

 

 「うん、ブラフ。命を賭けた騙し合いだね。そもそも『擬似再現:呪霊操術・極ノ番『うずまき』』ってなんだよ、私の式神、そんな便利なもんじゃないから。呪力で適当に式神の形いじってそれっぽく見せただけだから。」

 

 あー、びびったびびった、と手で顔を扇ぎながら教室の椅子に腰を下ろす。

 

 「まぁ、ハッタリが効かなくても切り札はまだあったしな。なぁ、恵。今回、私は死んでない。」

 

 な、嘘じゃなかっただろう?

 

 くらり、として視界がチカチカと明滅する。

 

 「あー、悪い。私ちょっと寝るわ。事後処理、頼んだ...ぞ...」

 

 「ちょ、おい釘崎!」

 

 「あとわんちゃん別の特級呪霊が追撃に来るかもしれないから五条先生呼んでくれ」

 

 「ちょ、釘崎、釘崎ーー!!」

 

 

 おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 








感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!

...なんか日刊一桁分でないこの作品?
読者の皆様、本当にありがとうございます!!感想もいっぱいで嬉しいです


Q.切り札って?

A.あぁ、本編中では出番のない切り札さ。だれでも禪院直哉マシーン。頭に拳銃を突きつけて、ペルソナぁ!って言いながら(言う必要はない)呪力が全くこもってない弾丸を放つだけ。

みんな忘れているかもしれませんが、虎杖悠仁は主人公なんですよ


「さすがだ、ブラザー。まさか俺に会う前に黒閃を決めるとは」
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