起こりうる現実である。
物理学者ウイリー=ガロン
――とある偉大なる航路
「空から」
「……」
「ガレオン船…!?」
「……!?」
「何で」
麦わら帽子を被った骸骨の海賊旗を上げる帆船、ゴーイングメリー号。それを支配する麦わらの一味。
彼らは今起こった現実が信じられない、とばかりに目を丸くした。
何かが天から降ってきて、雨かと思い空を見たら、降ってきたのはメリー号の何十倍もありそうな巨大なガレオン船だったからだ。
突然の異常事態に一味は自分たちの船を守るために必死で動き、あるいは夢かと思い目を瞑って更に目を開け、
現実であることを認識して慌てふためく者もいる。
とにかく彼らは必死だった。一切の常識が通用しないこの偉大なる航路で、それでも信じがたい状況を乗り越えるために。
☆
「野郎ども!上に舵をとれ!」
「上舵いっぱーい!」
船長である麦わら帽子の少年、モンキー・D・ルフィは上に指をさして叫んだ。
すぐにロビンに口を封じられた直後、降ってきたガレオン船を見つめた。
「おいウソップ!あの船を調べよう。何かわかるかもしんねえぞ」
「おっけーいキャプテン!」
周りがとめる前に腕を伸ばし、二人で乗り込んだ。
船はひっくり返った状態で降ってきて、そして沈んだため、動ける範囲が酷く少ない。今もどんどん浸水していってる。
(空島だってよ!?聞いたこともねえ!これはすっげえ冒険の匂いがするぞ!)
ルフィはそれだけの考えでどんどん船を見回っていく。ウソップは逆方向から調べているようだ。
まだ浸水していない部屋を開ける。部屋中を見回したルフィは机の上の紙を見て真っ先に飛びついた。
「これは、海図!」
古ぼけた海図を広げた。スカイピアと書かれていて、一つの島を指しているようだ。
それを握りしめ、部屋を出ようとして、ふと気づいた。
「なんだあの部屋?光ってるぞ?」
この部屋には繋がっている奥の部屋があるようだ。それだけならなんともないが、部屋から光が漏れている。
好奇心旺盛なルフィがそれを放置するはずもなく、ドアノブを手にかけて開けようとしたが、錆びているのか開かなかった。
すぐさま扉を蹴飛ばして中に乗り込む。そこでルフィは驚きに目を見開いた。
青みがかかった短髪の少女と赤い髪の少年が倒れていたのだ。死体ではなく完全に生きている状態で。
光っていたのは少年が握っている宝玉だ。ルフィが部屋に乗り込んだと同時に光が消えていった。
「おいお前ら!大丈夫か!?」
声をかけ、体を揺さぶるが反応がない。ルフィは二人を小脇に抱えて部屋を飛び出した。
外ではウソップが待っていた。
「ルフィ!そろそろ沈むぞ!早く脱出を…ってなんだそいつら?」
「話は後だ!とりあえずこの二人をチョッパーに診せるぞ!」
「お、おいおい大丈夫かよ。そんな得体の知れない奴らを船に乗せるなんて…って話は最後まで聞けェ!」
ウソップの断末魔が響く中ルフィは一顧だにせず二人を片腕で抱えて腕を伸ばしてメリー号に飛び乗った。
☆
――ここは…?
エリオは揺れる感覚の中で目が覚めた。
床は木製で、不定期に揺れている。なんだろう?
目を開けて最初に見たものは、オレンジ色の髪をした恐らくフェイトと同じくらいの年齢の女性だった。
「チョッパー。こっちは目が覚めたわよ」
恐らく初めて見る人の聞きなれない声。
身体はどこも痛くない。異常はないようだ。エリオはむくりと身体を起こす。
――ここは…船?
まず見たのは船であること、そして見知らぬ年上の人たち。
「君、大丈夫?あの船の中にいたけど、一体どうしたの?」
親身になって聞いてくる女性にエリオは戸惑う。
――一体どうなっているんだ?さっきまで山岳地帯にいたのに、いつの間にか海にいるなんて。
混乱するエリオに追い打ちをかけるように、今度は麦わら帽子を被った男性がエリオの顔を覗き込む。
「起きたのか。おい大丈夫か?」
無造作に聞いてくるその男性に何故か不快感などは覚えなかったが、いまいち状況が把握できないエリオはとりあえず答えた。
「あ、はい、大丈夫です」
「そっか。ならいいや」
にんまりを笑顔を作った麦わら帽子の男性。今度はオレンジ色の女性が聞いてきた。
「ねえ君、どうしてあの船の中で倒れていたの?見た限り健康そうだけど、あの船の中にいたらただじゃすまないでしょ?」
「あの船…?どの船です?」
「ほら、あそこに沈もうとしているガレオン船よ」
「…?」
質問の内容が分からずオウム返しに聞いたエリオに、女性は指をさした。
そこには沈み続けている帆船があった。大部分は沈んでしまっているがとりあえず確認はできた。
そしてエリオはようやく例の宝玉――ロストロギアを握りしめていることに気が付いた。
それを見たエリオは一時考え、そして声を出した。
「す、すいません。ちょっといいですか?」
「何?」
「ま、まず失礼ですがお名前をなんと言いますか?」
「私?ナミよ」
「僕はエリオ、エリオ・モンディアルです。ちょっと聞きたいことがあるんですが…ここはどこです?」
☆
(確かこれが光った時に次元振動が起きていた…だとするともしかして)
エリオは握りしめていた宝玉をじっと睨む。
まず確認できたことを整理してみる。
ここは偉大なる航路という海であること。
当然のことながらそんな海はミッドチルダには存在せず、つまりここはミッドチルダでもなければ管理世界でもない。
ここは管理外世界であること。自分が完全に知らない土地であるということだ。
そしてここに来た原因はまず間違いなくこのロストロギアだろう。
その折をナミを始めそこにいた者たちに説明した。
「そんなことが…!?」
「おいおい空島の次は異世界かよ」
「聞いたことないわね…」
「すげェなおい!よーし舵を異世界に切れ!」
「いやできねーよ」
反応は様々だったが、頭ごなしに否定する者がいないのを見てエリオは意外に思った。
管理外世界で(管理局のことはぼかしたが)この手の話は信じてもらえないらしいと聞かされていたエリオである。
「あの…僕が言うのもなんですが…信じるんですか?」
そこで長身の黒髪をした女性が答えた。
「信じるというか、寧ろその方が可能性としてはありだと思うわ」
「え…それってどういうことです?えーと」
「ニコ・ロビンよ」
ロビンと名乗った女性はふわりと微笑み、話を続けた。
「この海では疑うべきなのはまず自分の中にある常識よ。それにあのガレオン船は200年は彷徨い続けていたのよ?
その船の中に二人の子が元気な状態でいられるわけがないわ」
「200年…え、ちょっと待ってください。〝二人”?僕の他に誰かいたんですか!?」
「ええ、そうよ」
エリオが完全に思慮外のことで焦った。よく考えたらあの場にはスバルとキャロも近くにいた。同じく飛ばされた可能性はある。
血相を変えたエリオに今度はナミが答えた。
「もう一人のほうは今チョッパーが診てるわ。ほらあっち」
ナミが指をさした方向にエリオは視線を移す。すると倒れたスバルともこもこしてる何かがいた。
「スバルさん!」
すぐさま駆け寄ったエリオはスバルの顔色を見た。目はまだ覚ましていないが、呼吸は整っている。生きてはいるだろう。
するとそばから声がした。
「この子はスバルっていうのか。安心しろ。少し頭を打っただけだ。すぐ目を覚ますさ」
「あ、ありがとうございます――って」
声の主に礼を言って気が付いた。さっきの帽子を被ったもこもこがこちらを向いて喋っている。
「た、狸?」
「狸じゃねえ!おれは、トナカイだ!」
トナカイを名乗るもこもこ生物に目を丸くする。フリードなどで奇怪な生物は見慣れているつもりだったが、
明らかに人に見えない生物が人間の言葉を話すのには流石に驚いた。
後ろからナミがからかうような声をかけた。
「初め見たらびっくりするわよね~。まあチョッパーはこう見えてもうちの船医なのよ」
「あ、えと、すみません」
「まあいいけどよ。それよりこの子は大丈夫だ、直に目を覚ますさ」
「う、うぅん…」
いう通りスバルは目を覚まし、身体を起こした。そして周りを見渡し、エリオを見た。
「…あれ、エリオ?ここどこ?」
「スバルさん…実は僕たち」
「お、もう一人のほうも目を覚ましたみてェだな!」
船首にいた麦わら帽子の少年がこちらに気づいて跳んできた。
「まだこっちの自己紹介が済んでないな。オレはルフィ!海賊王になる男だ!」
麦わら帽子の少年――モンキー・D・ルフィが胸を張って宣言した。
(海賊王って…)
(…何?)
聞いたことのない単語に、エリオとスバルの頭にクエスチョンマークが躍った。
☆
スバルとエリオは、ナミとロビンから聞いた情報をとにかく今の自分たちの立ち位置を含めて整理した。
まずこの世界は管理外世界なこと。つまり自分たちは次元放浪者であること。
理由はエリオが持っていたロストロギアの影響と見て間違いないだろう。
今はこのロストロギアの宝玉の光は収まっている。暴発の危険性はないと見ていい。
再度魔力を込めて向こう側に帰れないかと思ったが、未知数すぎる上にロストロギア指定を受けた代物である以上リスクが大きすぎる。
特にこの船を、下手すると世界を巻き込みかねない。そう判断して方法を断念した。
エリオとスバルは結局管理局側から何かアクションが来ることを期待して、帰る方法を考えるのを中断した。
次元振動を起こして移動した以上、痕跡を辿るのは容易なことである。後はなのはやフェイトたちに託すしかない。
そして今度はこちらの世界の事と、助けてくれた船員たちだ。
麦わら帽子を被った少年、モンキー・D・ルフィ。彼がこの船の船長である。
次にエリオが一番最初に接触したオレンジ色の髪の女性がナミ。航海士である。
長身の黒い髪をした女性がニコ・ロビン。考古学者。
もこもこした頭身の低い生物がトニートニー・チョッパー。船医でフリードのように大きくなったり小さくなったりする能力を持っているらしい。
緑色の髪をした男がロロノア・ゾロ。三本の刀を持っている。
金髪でぐるぐる眉毛のサンジ。コック。
そして鼻の長い男がウソップ。狙撃手である。
彼らが海賊と聞かされた時には驚いたが、同時に自分たちが思っている海賊とはなんだかイメージが違う。
とても略奪行為をしそうな〝賊”には見えず、寧ろなのはやフェイトに通じる優しささえ感じた。
とにもかくにも何も知らない世界でうかつに動くのを嫌った二人は、その海賊団にしばらく身を預けようとしたが――
☆
「ナ、ナミさん…さっきの一体何なんですか…!」
「私が聞きたいわよ!」
エリオが荒い息をつき、スバルも同じく肩で息をしている。ナミを始め一味は全員疲れたように座り込んでいる。
一言で状況を説明するなら、想像を遥かに超えたハプニングの連続だった。
空島(この時点で既に眉唾物)なる島に行くべく沈んだガレオン船を調査するべく、一味は海底に潜った。
するとマシラ海賊団なる沈んだガレオン船を引き揚げようとした海賊団と接触した。
刺激せず事なきを得ようとした一味だが、そこから驚愕の事態が続く。
まるで聖王のゆりかごを一飲みに出来そうなほど巨大なウミガメに遭遇。
その後突然の夜が来て、極めつけは巨大なカメがまるで普通サイズのように映るほどの巨人たちが三人。
何かの言葉を発する前にスバルとエリオと一味は、一目散にその海域から退避した。
一味は平静さを取り戻し(何気なく一緒に乗ってたマシラを蹴り飛ばし)、海底から引き揚げた残骸を調べた。
ナミは空への手がかりなど何もないのを憤慨した。錆びた鎧に武器に食器その他、空への有益な情報になりそうなものは何もない。
それでも引き続きエリオとスバルは残骸を漁ってみた。
宝玉が乗っていたガレオン船なのだ。何かしらの情報がつかめるかもしれない。
ただ待っているだけよりも何かしてるほうがいいと思ったからだ。
「二人とも何やってんだ?」
緑髪の剣士、ゾロが声をかけた。
「僕たちをこの世界に飛ばした宝石を持っていた船ですから、調べれば何かあるかもしれないと思って」
「んー、でもこれじゃわかんないかなぁ。古ぼけた武器や鎧に骸骨だけだもん」
手に取ってちょっと指で突っつくだけですぐ穴が開く鎧を放り出して、スバルは体を伸ばす。
サンジが片手にたこ焼きもって厨房から出てきた。
「おーいスバルちゃん。レディ限定かつてないたこ焼きできたよォ~♡」
「え、いいの?ありがとう!」
スバルはサンジから差し出されたたこ焼きを手に取り、頬張る。とても美味しかった。
そこでしばらく黙っていたゾロが重々しく口を開いた。
「おい二人とも、ちょっといいか?」
スバルはたこ焼きを持つ手を止め、エリオは漁っていた残骸から手を離した。
こちらを向いた二人組に対し、ゾロは続けた。
「ちょっとごたごたがあってそれどころじゃなかったんだ。だが状況が落ち着いたからこそ聞かせてもらう。
お前らは一体どこから来たんだ?お前らは何者だ?」
「「……」」
一瞬黙った二人。そういえばこちらの状況を把握するためにいろいろ聞いたが、こっちのことは殆ど話していないことに気が付いた。
基本的に管理外世界で自分たちの素性は秘密なのだ。おいそれと話すわけにもいかない。
だが、黙ってこちらを見るゾロを誤魔化せそうな気がしない
スバルとエリオはすぐさま念話を繋ぐ。
(エリオ…どうする?話しちゃう?なんだか信頼できそうな人たちだけど)
(スバルさん…でもまずくないですか?管理局のことを他の世界に知られるのは)
(すぐに帰れそうな感じじゃないし、かといってここから逃げられそうにないし、何よりこの世界は訳が分からないし)
(そうですね。緊急時ですし、ケースバイケースです)
意を決した二人は、口を開く。
「これから話すことは、他言無用でお願いできますか?広く知られるととっても困るんです」
「かまわねェ。他には絶対に喋らねェよ」
「ありがと。じゃ、私たちが来た世界の事なんだけど――」
☆
空島の針路をとるために情報を集めるべくジャヤへ針路をとった麦わらの一味。
その一味は全員目を丸くして二人の話を聞いていた。
ミッドチルダという世界から飛んできたこと。ガレオン船の宝玉の力で飛ばされたこと。
そして魔法を使って戦う生業であること。ここで敢えて管理局の名前は伏せた。
一味が特に食いついたのは、魔法の部分だった。
「おめェら魔法が使えるのか!?すっげぇ!」
「魔法…そんな技術がある世界なんて」
「ほんっと今日は次から次へと…」
ルフィたちは目を輝かせ、ナミは頭を抱えた。
「どんなことができるんだ!?みせてくれよ!」
「「俺も俺も~」」
ルフィ、ウソップ、チョッパーが肩を組みつつ催促してきた。
エリオとスバルは顔を見合わせた。
(どうする?見せちゃう?)
(はい。ここまで来たら見せておいたほうが得策だと思います)
この海の異常さは既に認識した。自分たちが魔法を使わずに切り抜けられる可能性は0に近いだろう。
見せびらかすものではないが、ある程度世話になる以上は知っておいてもらう必要もある。
スバルとエリオは待機状態のデバイスを片手に掲げた。
「「セット・アップ!!」」
二人は光に包まれ衣装が変わる。
スバルは青い衣装と鉢巻きに大型で重厚な篭手を装備し、インラインスケート型のブーツをはいている。
エリオは赤と白と基調とした衣装で、目につくのは大型の長槍。
変身が終わるとそれまで静まり返っていた一味はどっと大声を上げた。
「「「すっげェーーーーー!!!」」」
「本当に存在するんだ…魔法なんて」
「へェ」
「全くこの海は、常識が信じられないぜ」
「異世界…魔法…興味深いわね」
エリオとスバルは照れ臭そうに顔を赤らめた。
春風が吹く。そろそろジャヤの西海岸が見えてくる頃だ。
☆
――ミッドチルダ
「周辺地域での二人の反応は?」
「今のところ確認できません」
フェイトはため息をつく。
先の事件でロストロギアが暴走、次元振動を起こし、エリオとスバルが巻き込まれた。その報告は六課に激震が走った。
何しろフォワードの二人が行方不明になったのだ。影響がないわけがない。
犯人グループは既に引き渡し済みで、ロストロギアも確保している。今は厳重な保管がされていてその上で解析が進んでいる。
周辺地域で一応の調査をしてみたが、結局二人からの反応はなしだ。元々望み薄だったがやはりがっかりする。
とすると――フェイトは副官のシャーリーに尋ねた。
「シャーリー。例のロストロギアの解析は?」
「少し時間がかかると思います。次元振動と二人の飛ばされた先を特定するには三日はかかるかと」
この時点で分かっていることは、ある程度のエネルギーを使ってどこか特定の世界に転移できるタイプのものであること。
そして大量のエネルギーが消費されるが、そのエネルギーに比例して転移できる質量も増やせることだ。
一歩間違えればとてつもない被害を起こせる極めて危険な代物である。
危険なので運搬中はエネルギーを空っぽの状態にしていたが、恐らく犯人グループが魔力を注ぎ込んだのだろう。
そして捕まえた腹いせに遠隔操作で力を暴走させたのだ。逮捕した犯人たちからも証言を既に得ている。
今の時点では二人を飛ばしたのにエネルギーを使い果たしたようだ。
しかし次元振動の跡を辿れば行先を特定するのは容易だ。兄の力も借りることになるだろう。
「シャーリー、後を任せられる?」
「勿論ですよ。フェイトさんは休んでください」
シャーリーは意気込み、フェイトは副官を頼りに思いながら微笑んだ後、部屋を出た。
外にはキャロとティアナが不安そうな顔で立っていた。
「二人とも…どうしたの?」
「あ、あの…フェイトさん」
「スバルと、エリオは」
「シャーリーに次元振動の跡を追跡してもらってる。二人ともすぐに見つけるよ。大丈夫だから」
フェイトはふわりと微笑んだ。キャロは素直に安堵し、ティアナは今回の一件を悔いているかのように悔しそうに顔を歪める。
フェイト自身も本音で言えば心配で仕方ないが、必要以上に二人を不安がらせるのもよくないと思い、安心させるように気遣った。