しかし同時に、〝存在しない”ことを証明できた者などいない。
空想の産物――それにしては遥か昔の文献には当然の存在のように書かれているものもあるのだ。
ことに偉大なる航路……疑うべきは常識のほうなのだ。
嘲笑、暴力――
エリオは、生まれて初めて見る悪意の嵐を見る。
「このケンカ、絶対に買うな」
ルフィはそれだけを言って、こちらからは一切の手出しをせず、反論さえしない。
ナミは悔しさを滲ませながら悲鳴を上げる。それでもルフィたちは一向に顔色さえ変えない。
殴られ、蹴られ、酒をぶっかけられ、嘲笑われ…それでもルフィたちは苦しそうな顔さえ見せない。
エリオは今までにかつて見たこともない悪意悪意悪意――どうしてこんなことができるのか、と声を大にして叫びたかった。
ストラーダを掲げて黙らせてやりたかった。しかしそれすらルフィは黙って腕を抑えて制した。
――こっちから手を出すな。このケンカだけは絶対に買うな。
こちらを一度だけ一瞥し、またもベラミーに向かって立つ。
彼らの行動がエリオには理解できなかった。
ここまで嘲笑され、傷つけられ、夢すら嗤われて、なぜここまで平然としていられるんだろう。
それが不思議でならなかった。だが同時に、彼らの眼差しにエリオは喉を鳴らし、反論する言葉を失う。
結果、一方的な暴力に飽きたベラミー一味から追い出されるように、ナミはルフィを引っ張り、エリオはゾロを引きずる形で店を出た。
ナミが悔しさで歯を食いしばり、エリオがルフィの意図を把握できずに複雑な顔をしていたその時
「何を悔しがるんだねーちゃんにボーズ…さっきの戦いはそいつらの勝ちだぜ」
「え…?」
「あんたさっきの…」
そこには先ほど店主の前でルフィと張り合っていた巨漢が座り込んでいた。
ゼハハハハ、ここのチェリーパイはやっぱり最高だ、と道の真ん中で先ほど買ったパイを頬張っている。
「おめェの啖呵も大したもんだったぞ!肝っ玉の据わった女だ!小僧、おめェもチビのくせによく暴発を堪えられたな!ゼハハハ」
エリオはこの男が何を言っているか理解できない。自分が堪えられたのはルフィが制したからだ。
もし自分一人だったらどうだったかはわからない。いや――
仮にもし、自分ならどうする?自分の大切な人が嗤われているなら容赦なく拳を振るえるかもしれない。反論したかもしれない。
だけど――
「〝アイツら”のいう新時代ってのは、クソだ」
ルフィが立ち上がり、男に向く。ゾロは視線だけを合わせた。
「海賊が夢を見る時代が終わるだって…!?えェ!?オイ!ゼハハハハ」
豪快に腕を広げる。
「人の夢は!終わらねェ!! そうだろ!?」
ルフィは無言のままだ。エリオはそんなルフィと男を交互に見る。
「人をしのぐってのも楽じゃねェ!笑われていこうじゃねえか!
高みを目指せば、出す拳の見つからねェケンカもあるもんだ!」
ゾロは既に背中を向けて歩き出す。大男も「いけるといいな、空島へよ」とだけ残して立ち去る。ルフィも歩き出す。
エリオはわからないことだらけだった。ただ、少しだけ腑に落ちた部分がある。
なぜあれだけの悪意をぶつけられて、平然としていたのだろう。腹が立たないんだろうか。
☆
ゾロとルフィを治療し、ロビンとスバルと合流した一行はモックタウンを離れ、モンブラン・クリケットという男を訪ねるべく出航した。
道中でマシラ海賊団と遭遇し、船が多少損壊したが、目的地に辿り着いた。
倒れたモンブラン・クリケットを治療するべく家に運び込んだ仲間とは別に、船で戻るゾロ。
手持ち不沙汰で昼寝を始めたゾロを、エリオは不思議そうに見つめた。
「ゾロさん」
「んぁ?」
こっちを見ずに目を閉じたまま返事だけをするゾロ。エリオはそのまま聞いてみた。
「さっきのモックタウンでの喧嘩、なんで手を出さなかったんですか?」
「なんだ、そんなこと気にしてたのか」
相変わらず体制を変えず、ぼやくゾロ。
「お前もナミみたいにぶっ飛ばしちまえばよかったって思ってんのか?あの女、最初はケンカするなって言ってたくせに勝手な奴だ」
「……でも、ナミさんのいうこともわかります」
エリオは続ける。
「あれはどう見てもあの海賊たちのほうがおかしいです。やり返せばいい、とまでは言うつもりはないですが、抵抗くらいすべきです」
「……」
「なのに、何もしないなんて相手はエスカレートするだけです。怪我させられて、バカにされて、こっちは散々じゃないですか」
その時の光景を脳裏に甦らせたせいか、エリオの口調に悔しさが混じったのをゾロは感じた。
エリオとしてもナミみたいにやり返せ、とまでは思わなくとも、あそこまで一方的にやられるなんて考えられない。
だからこそルフィとゾロの考え方が理解できない。納得がいかない。
ゾロはむくりと身体を起こす。
「エリオ」
「……はい」
「お前、ケンカしたことあるか?」
「……え?」
エリオは一瞬ゾロが何を言ったかわからなかった。
「えっと……ケンカですか?」
生まれてこの方、ケンカというものをしたことがない。
多少の意見の対立くらいはあっても、誰かと暴力や暴言をぶつけ合うことなど全くなかった。
明確な目的をもって敵と戦ったことはあっても、そう言った経験はないのだ。
「ない…です」
「そうか」
ゾロは首を鳴らす。
「ケンカってのは相手が目の前に立ちはだかって初めてケンカって呼ぶんだ。あいつらは別に俺たちの前に立ちはだかったわけじゃない。
殴り合っても同情しか残らねえなんて虚しいだけだろ」
「それは――」
ゾロの答えにエリオは反射的に出そうとした言葉を詰まらせた。
その答えが少しだけわかった気がする。それは――ほんの少し前に似たような光景を見たことがあるからだ。
フェイト――自分の母親代わりの女性だ。
かつてエリオは親に捨てられ、自分の出生に絶望し、目に映ったもの全てを傷つけようとするほど荒れていた。
そんな自分から攻撃を受けても、フェイトは黙って自分を抱きしめた。
そうだ。かつての自分が別にフェイトの前に立ちはだかったわけではないように、あの海賊団はルフィたちに立ちはだかったわけじゃない。
違うのは暴力の理由と、救う対象にあったかどうかだけ。
出す拳が見つからない――それはつまり、力をもって付き合う必要があるかどうか、目の前に立って邪魔をしているかどうか。
「結局オレたちが我慢してれば終わるのさ。つまんねえことに付き合う必要はねえ」
「…だったら、もし自分だけじゃなくて仲間にも手を出そうとしたときはどうするんですか?」
この時初めて、ゾロの瞳から峻険な光が走った。
「だったら話は別だ。オレたちにケンカを売ったならキッチリ買うまでだ」
エリオはその眼光に心を突かれた。
やはりこの人たちは自分が知っている賊とは違う。海賊を名乗っているのに、こんなに人間ができていて、器が大きい。
興味が湧いてくる。この人たちのことをもっと知りたい。エリオの中でそんな思いが膨れ上がってきた。
我知らず口から声が滑る。
「ゾロさん。僕と――一騎打ちをしてくれませんか?」
目を閉じていたゾロが目を丸くしてこちらを見る。そしてすぐに面白そうにエリオを眺めた。
「真剣しかねえが、それでも構わねェか?」
☆
一味がモンブラン・ノーランドから空島絡みの話をしている間に、少し離れたところにエリオとゾロは向かい合った。
エリオは既にバリアジャケットを装備し、ストラーダを両手で構えた。
対するゾロは、三本の刀を抜く。白い刀は口で咥えた。
「三本…ですか?」
「珍しいか?オレァ三刀流なんだ」
(あんなふうにして、剣を振れるのだろうか)
「船じゃ相手を使った稽古なんてできねェからなァ」
ゾロは嬉しそうに笑う。ゾロのいう通り、初めて見る構えにエリオは驚きつつも、冷静に足を踏み出す。
稽古とゾロは言っているが、エリオとしてはゾロが、しいてはこの一味の真価を見てみたいという思惑がある。稽古のつもりではいかない。
『サンダー・レイジ』
先手必勝といわんばかりにエリオは大きく振りかぶった。その軌跡を描いた金色の斬撃がゾロに向かって飛ぶ。
「ヘェ…〝飛ぶ斬撃”か。面白ェ技だな」
ゾロは難なく一刀を元に斬撃を真っ二つに切り捨てた。エリオはその隙を見逃さず、
『ソニック・ムーヴ』
音速となりゾロの背後に回り、死角から突きをみまう。
シグナムなどの歴戦の猛者相手にはこの手の単純なやり方など通用しないが、大抵の相手はこれで片が付く。
ゾロならまずどう対処するか――エリオは目を見開いた。
「高速移動の技か、魔術師ってのは中々面白ェな」
エリオとストラーダの突きを右腕の刀一本で受け止めた。軽々と。
そのまま跳ね飛ばすこともせず力を使わないで受け流し、改めてエリオに向き直った。
「エリオ。魔術師ってのはみんなそんなもんなのか?」
「魔術師ではなく魔導士です。あと、僕みたいな近接戦闘型を騎士、と呼んでます」
「騎士、か。悪くねェ」
「向こうには、僕よりもっと強い人たちがいっぱいいます。僕は、あの人たちに追いつきたいんです」
「そうか。じゃあその力、もっと見せてみろよ」
ゾロはどっしり構える。こちらのどんな攻撃をも受け止めてしまいそうな安定感を臭わせて。
エリオもこれ以上喋らない。不意打ちが通用しなかった以上、真っ向からぶつかるのみ。
一気に踏み出す。身体を極限まで前に倒し――
『ソニック・ムーヴ』
そのまま突っ込む。ゾロはそのまま刀を振り下ろす。
刹那、刀が届く間合いの寸前で、エリオは空に飛び上る。
低い姿勢のまま突っ込み迎撃させ、速さにものを言わせて上から奇襲をかける。
相手が大柄で速度がないと不可能なフェイク――幼いながらも考えているエリオにゾロはにやりと笑った。
そのまま両手ががら空きになったゾロに対し、エリオは渾身の突きを繰り出し――止められた。
「……なっ!?」
「言っただろ。オレァ三刀流ってなァ」
口で咥えていた刀だけでエリオのストラーダを受け止めたのだ。エリオは愕然とする。
体重と速度と魔力強化による一撃必倒の突き。それを咥えた刀だけで受け止めてしまったのだ。
恐るべき顎の力と首の筋肉だ。普通なら顎が壊れて刀など弾き飛ばされてしまうだろうに。
余りの力の差にそのまま吹き飛ばされたエリオは尻餅をついてしまった。目の前で起こったことが信じられず、足に力が入らない。
ゾロは刀を収めてエリオに手を差し出す。
「楽しかったぜ。〝騎士”」
「は、はい」
完敗したというのに悔しさが湧き上がらない。それよりもゾロという一人の剣士に対する敬意が増した。
ゾロはにやりと笑った。
「お前はすげェな。俺がお前くらいの頃はただのバカガキだった。見込みはあると思う。自信を持てよ」
「でも、まけちゃいました」
「オレァ世界一の大剣豪を目指しているからな。こんなとこで負けているわけにはいかねえ」
エリオはゾロを呆然と見つめている。
海賊と名乗っているにも拘らず、やはり彼らをただの犯罪者と見ることができない。まだ知り合ってわずかにしか経っていないが、
それでも彼らのことが分かってきた気がする。
特に今の一騎打ちを通して、彼らの持っているものが自身に誇りを持ち、真摯な思いから得たものだという確証も持てたのだ。
だからエリオは自然と口から疑問がでてきた。
「ゾロさんは」
「ん?」
「ゾロさんは、なんで海賊をやっているんですか?」
エリオの問いに、ゾロは頭をバリバリ書きながら苦笑して答えた。
「最初のきっかけはあのバカ――ルフィに誘われたからだ。一応あいつには命を救われちまったからな。
今この船に乗っている連中もみんな似たようなもんだ。ルフィに助けられたってのもあるが、アイツに惹かれたんだろうな」
「でも、さっきは世界一の大剣豪になるって言ってました」
「アイツがオレを仲間にする時に言ったんだよ。海賊王の部下なら世界一の大剣豪〝くらい”にはなってもらわないとオレが困るってな」
横暴な話だ、とエリオは思った。しかしゾロはそれに対して何の違和感もなく受け入れている。彼らの信頼関係がそれだけでわかる。
大海賊時代、海賊王、ワンピース…管理外世界の事は管理局でも把握し切れていないし自分でも理解が追い付かない。
ただ、そこにいる人たちが全力で生きている人たちのことをもっと知りたいと思えた。
ここは自分のいるべき場所じゃない、いつかは帰らなきゃいけない。それでも学べることは多い。
「話は済んだみてェだな」
ゾロは小屋のほうを見やる。するとクリケットの腰に抱き付いて涙と鼻水で滅茶苦茶になってるウソップが殴られていた。
それを見てゾロはそちらに向かい、エリオも後に続いた。
☆
モンブラン・クリケットと猿山連合の助けを借りることによって、空島へ行くことが決まった。
料理を作っているサンジと酒の場を用意する一同。
その中でスバルも手伝いをしていた。
「スバルちゃん、なんか飲み物いるか?」
「んー、ジュースがあればいいかな」
「おうわかった。後でロビンちゃんに何か欲しい飲み物あったら聞いておいてくれ。野郎どもには適当にビール用意しておくさ」
サンジはそう言って眺望に戻っていった。
一通りの用意を終わらせたスバルは、エリオを連れて一度小屋の外に出た。
「どうしたんですか?スバルさん」
「エリオ…」
スバルは雲一つない夜の空を見上げた。
「あたし、今日の朝にこっちの世界に飛ばされたのに、なんだか物凄くいっぱいのことを経験した気がする」
「……僕もです」
「ティアたち、心配してるかなぁ」
いつも一緒に戦ってきた同僚の顔を思い浮かべる。
「きっと六課の人たちが、僕たちのことを探してるはずです。心配いりませんよ」
エリオはフェイトたちのことを思い浮かべ、心配そうな顔したスバルを励ました。
とは言えエリオの言ってることはわかる。次元転移を起こしたロストロギアは既に回収済みで、転移した場所から解析をすれば、
それほど長い時間をかけずとも自分たちの居所を突き止めることが可能だろう。
管理局では有り触れた技術である上に、精鋭の集まっている機動六課なら造作もないことなのだ。
そう、造作もないことなのだ。だからこそ――
「だから、僕はもう少しあの人たちと一緒に行動しようと思います」
「エリオ?」
スバルがエリオのほうを向く。エリオは苦笑した。
「勿論海賊になるってわけじゃないし、ずっと一緒にいるわけでもありません。でも、あの人たちは、僕が目指すものを持っているような
気がしたんです。もっといろんなことを経験して、立派な騎士になるためにも、学べることはいっぱいあると思います」
モックタウンで見た彼らの姿、目指す高み、自信に満ちた立ち姿と実力――エリオが憧れていたものを全て持っていた。
そんな彼らがエリオにはとても輝いて見えて、羨ましかった。
恐らくそんなに一緒にいられる時間はないだろう。だからこそ、学べるものは学びたい。
エリオの言葉を聞いて、今度はスバルが苦笑する。
「あたしも。ちょっと無茶してティアに怒られるかもしれないけど」
見ず知らずの人間を快く受け入れてくれた麦わらの一味。彼らが悪人にはどうしても思えなかった。
それにこの世界は自分の知らないもので満ち溢れている。好奇心が刺激されたのだ。
どうせ今すぐには戻れないし、逆にいつまでも滞在できない。ならこの状況を楽しむのも悪くない。
「おーいスバル―エリオ―、宴やるぞー!」
小屋からルフィが駆け寄ってきた。
「ルフィ」「ルフィさん」
「んあ?なんだ?」
「「しばらくお世話になります」」
スバルとエリオが揃って頭を下げた。一瞬目を丸くしたルフィだが、すぐに大声で笑った。
「なーにかしこまってんだ。オレたちもう仲間だろ」
有無を言わさずルフィが二人の腕を引っ張った。
☆
――惨劇、そう呼ぶとしか言いようのない光景。
サウスバードと呼ばれる鳥を捕まえに麦わらの一味とエリオスバルがその場を離れていた時にそれは起こった。
マシラとショウジョウ、クリケットは重体に、小屋と船は破壊され、金塊は奪われた。
置き土産とばかりにベニヤ板に塗りつけられたマーク。昼間ルフィ達と出会ったベラミー一味のマークだ。
状況を把握するのは容易かった。酷く単純で――惨たらしかった。
(どうしてこんな酷いことが――)
エリオは怒りに拳を握る。スバルも眉間に皺を寄せ歯軋りした。
相手は海賊、こんな略奪行為を行うなんて意外にも感じないだろう。
ロビンは言っていた。ルフィみたいな海賊がまれであって大部分の海賊がこれなのだ。
それでも、こんな惨状を見せつけられて、心が静まるわけがない。
「朝までには戻る」
こちらからでは表情が窺えず、だが声色に怒気を込めたルフィが指を鳴らし、海岸に沿って走り始めた。
「あたしもいく!」
「僕も行きます!」
ルフィの姿に反射的に奏したのか、スバルとエリオもその後に続いた。
「待って二人とも!時間がないって言ってるでしょ!」
「行かせてやれよ、ルフィが遅れないためにも必要かもしれねェし、心配はねえだろ」
「そうだぜナミさん、ルフィ一人じゃどっか寄り道して遅れるかもしれねェ。そっちのほうが困る」
ナミが制止の声を上げたがゾロとサンジに宥められ、彼らの言い分もわかるので制止をやめた。
振り返るとロビンが三人が飛んでいった方向を未だに見つめている。
「あの子たち…きっとまっすぐ育ってこれたのね。目に純粋に正義感だけを映してたわ」
☆
海岸線を疾走して行ってるルフィにバリアジャケットをまとったスバルとエリオはようやく追いついた。
「お前ら、どうしたんだ?」
「僕たちも行きます!連れていってください!」
勢いよくエリオは返した。
「いいよ一人で」
「ダメです!あのベラミーたちはクリケットさんたちを襲って大事な金塊を奪い取ったんだ!こんなことを許していいはずがないんだ!」
「だからあたしはあの海賊たちに――」
「スバル、エリオ」
彼らの声を遮って、ルフィが言う。
「ベラミーをぶっ飛ばすのはオレだ。手を出すなよ」
スバルとエリオは息を詰まらせて次の言葉が出せなかった。ルフィはそれ以上こちらを見ずに前だけを見た。
☆
モックタウンに到着した三人はすぐに高い建物の屋根に陣取り、ルフィが大声でベラミーを呼び出す。
すぐさま酒場からベラミーが姿を現した。すぐにバネバネの力でひとっとびに屋根に飛び乗った。
「あれが……悪魔の実……!」
これまで見たこともない奇怪な能力にスバルとエリオは目を細めた。ルフィを表情を変えない。
ベラミーは厭らしい表情でこちらを視線で嘗め回す
「今お前の噂をしてたとこだ…今度はガキ2匹なんて連れてなんか用かァ?」
「クリケットさんの金塊を返せ!」
スバルが威勢よく叫び構えた。くっくとベラミーは笑う。
「返す…?返すも何も、あれはオレが海賊として奪ったんだ。同じ海賊のお前らにとやかく言われる筋合いはねェはずだぞ?」
「何をぬけぬけと……!」
エリオが勢いに任せて踏み込もうとしたのをルフィが手で制した。激情に震えるエリオとスバルとは違い、ルフィは一切表情を変えない。
「あるさ…おっさんはオレの友達だ。だから俺が奪い返すんだ!」
まるで最高のギャグでも聞いたかのように片手で腹を抱えてベラミーは笑い出した。
「ハハッハハハッハハハハ!聞くがお前、戦闘ができるのか!?パンチの打ち方を知っているのか!?ハハハハハハッハ!
てめェみてェな腰抜けに何ができる!昼間みてェに怯えて突っ立っていても俺からは何も奪えやしねェんだぜ臆病者が!!」
「何を!ルフィさんはお前なんか相手にしていないだけだ!」
ベラミーの中傷に耐え切れずエリオがストラーダをベラミーに突き付けた。だがそれすらもルフィは制する。
「ルフィさん……!」
「エリオ、手を出すなって言ったはずだぞ。こいつをぶっ飛ばすのは、オレだ」
「でも…!」
「ほお…オレをぶっ飛ばす、だと?」
こちらを舐め切ったようなニヤケ顔のベラミーがこちらを覗き込む。ルフィはまだ表情を変えず答えた。
「そうだ。昼間の事は別の話だ」
「ハハッハハ!そうか…一体何が違うんだ!?じゃあ今度は、二度とその生意気な口を聞けねェようにしてやる!」
突如屋根が吹っ飛んだ。
ベラミーが蹴り飛ばすかのように跳躍した衝撃で建物の一部が吹き飛ばされたのだ。
エリオは慌てて崩れた態勢を立て直し、スバルは身を低くして横に飛びすがり、ベラミーの次の動きを見た。
一瞬の出来事だった。ベラミーが別の建物に飛び移ってきた時には弾丸のようにルフィに突っ込んでいく。
ルフィは回避するべくその場から飛びすがり、そのまま地上に頭から落下していく。
「ルフィさん!」
「エリオ、早く降りよう!ルフィが…え?」
無事に飛び降りたスバルとエリオはルフィの落ちた場所を見て驚いた。
ルフィが何事もなく立ち上がったのだ。あの速度、あの高さから、頭から落下して。
高いところから下衆じみた声が響く。
「ハハッハ!その程度で死んでいちゃァショーが盛り上がらねェぜ!〝スプリング・ホッパー”!!」
ベラミーの姿が掻き消えた。と同時に、町中が銃弾でも浴びたかのような爆音と衝撃が走った。
姿が見えなくなるほどの速さで飛び跳ね、攻撃に転じればどこからでも一瞬で終わらせられるだろう。
エリオは冷や汗をかきながらストラーダを下段に構え、相手の動きを探る。
スピード勝負なら負ける気は全くないが、初速というものがある。最高速度を保ち続けているベラミーの隙をつくのは難しい。
後手に回ってしまった以上、相手の攻撃をかいくぐり、凌ぎ、反撃するしかない。
スバルはシューティングアーツの構えをとり、相手の攻撃を探る。
持ち前の防御力がベラミーにどこまで通じるかわからないが、あんな奴の一撃にやられるわけにはいかない。
スピードはエリオもいる。一度受け止めてしまえばこちらが勝つ。
船医をむき出しにする2人をよそに、ルフィは前に出てまたも二人を制した。今度は何も言わない。
「友達だって!?ハハッハッハハハハ!」
跳び回るベラミーが更に卑しい声を上げた。四方八方から声がする。
「そういやおめェらもあのジジイもサルどもも同類だな!何が黄金郷!何が空島!笑わせるんじゃねェ!
夢見る時代は終わったんだ!海賊の恥さらしどもがァ!!」
夢を見る時代は終わった…?その言葉にスバルとエリオは強い反発を覚えた。彼らもまた、夢のために走ってきたからだ!
自然と拳の力が入る。そこで初めてルフィが表情を変えた。
何を映しているかわからないような虚のような目でため息をつき、指を鳴らす。
「パンチの打ち方を知ってるかって…?」
「あばよ!麦わら――」
☆
最初はルフィに向かうベラミーを止めるべく動こうとしたエリオ。
最初はルフィを討とうとするベラミーと叩き落とすべく拳を振るおうとしたスバル。
間に合わなかった。――否、必要なかった。
全ては一瞬のうちに決まった。
風の音だけが強く響く静寂。そこにいた一同はルフィを除いて状況が理解できなかった。
大男はハイエナのベラミー。懸賞金5500万の大型ルーキーで、たった今までショーと称してルフィに必殺の一撃をくれようとした海賊。
その男が倒れている。横っ面に拳の跡を残して。
そして、その拳の跡と全く同じ形をした拳から自分のものではない血を滴らせる麦わらの少年。
実に単純でありながら、ベラミーの海賊団には現実として受け入れきれなかった状況。
「……は!おい…冗談はよせよベラミー……!ナァ……!」
副船長のサーキースが明らかに狼狽えた様子で訴えかけた。倒れているベラミーに。
喋っている間に現実が理解でき初めて、だんだん声色に余裕がなくなってきた。
「……からかってんだろ…?何とか言えよ!オイ!サァ…立ち上がっていつもの〝ショー”を見せてくれよ!ベラミー!
お前は5500万の大型ルーキーだぞ!」
もはや何の意味もない必死な言葉が静かなモックタウンに響く。
そんな言葉を無視してスバルとエリオは呆然とルフィを見つめていた。
「す、すごい…!」
「ルフィ凄い!今のどうやったの!?」
殆ど憧れの視線をルフィに注いだ二人。ルフィは何でもなさそうな様子でずれた麦わら帽子を直した。
あんな芸当は自分たちには無理だ。超高速でどこから突っ込んでくるかわからない相手を一発の拳だけで沈めるなど、常識技ではない。
あの速度で移動する相手よりも速く自分に届く寸前に一撃で仕留めるパワーを持って拳を振り下ろす。
下手をすれば六課の隊長たちですら不可能な芸当だ。
それを難なくやり、特に誇る様子も見せず、ごく当たり前のようにふるまうルフィに対して、二人の中で敬意が込みあがった。
「そんなことより今はおっさんの金塊が先だろ」
「「あ…」」
そこまで言って二人は最優先事項を思い出した。改めてベラミー海賊団に向き直った。取り乱した連中はぎょっとしてこちらを見る。
「おっさんの金塊、返せよ」
モックタウンについてから一度も変えなかった声色でルフィは言った。
一同は一斉に一目散に逃げ出した。悲鳴を上げ、中には転びながらもその場を離れようとする。
視界からいなくなったルフィたちは聞くのをあきらめ、奴らが出てきた酒場に入っていった。
金塊はすぐに見つかった。まるで戦利品のように酒台に置いていて、包まっている袋が酒臭い。
「お、あったあった」
ルフィはそれの中身を空け、金塊が入っていることを確認して、すぐさま背負った。
酒場を出たルフィたちはモックタウンを離れるべく歩き出す。
「待てェ!麦わらァ!」
背中から震え交じりの怒号が聞こえた。エリオとスバルはぎょっと振り返ったが、ルフィは頓着せず歩き続ける。
「まだ俺がいるだろうが!かかってこい!俺たちが夢見がちなバカに負けるわけねえ!テメェどこに行く気だ!」
サ―キースが大きなナイフを抱えてこちらに走り出した。スバルとエリオは構える。
そこでルフィが言った。
「スバル、エリオ、オレの〝ベラミーとの”ケンカは終わった。好きにしていいぞ」
サ―キースが大型ナイフを大きく振りかぶった。
「ビッグチョップ!!」
先ほどのベラミーに比べたらよほど大したことない相手だ。何より相手はビビっている。この程度、魔法を使うまでもなかった。
拳一つだけでその場を収めたルフィのように。
シグナムやゾロに比べたら拙い得物の使い方だ――そう思ったエリオはすれ違うように突きを見舞う。
金属どうしがかすり、回転を続けていたサ―キースの体制がわずかにずれた。――それだけで十分だった。
スバルはリボルバーナックルを動かさず、大胆に踏み込み、脇腹に拳をつく。振動拳の要領でヒットと同時に止め、体中に衝撃を与える。
「かはっ……!?」
たまらず身体をくの字に折り曲げて脂汗を額にびっしり浮かべたサ―キース。そんな相手にスバルは凍えるような声をだした。
「人の夢を嗤うような奴は、あたしは絶対に許さない」
拳をひっこめる。同時に腹を抱えて苦しみだすサ―キース。
そこでふとルフィがこちらを見た。
「どこに行くかだって?決まってんだろ。空だ」
☆
空への出発には間に合った。
時間があるし虫取りに行こう、と言い出すルフィを、時間が迫っているとスバルとエリオが引っ張った。
ゴーイングメリー号が改造され、猿山連合軍は待機状態、準備は万端だった。
船に乗り込み、そのまま順調に空の旅が始まった。途中で多少のごたごたはあったが、それはまた別の話。
ノックアップストリーム。
それが空への道だ。海から爆発するかのように空へと突き上げる海流の名前だ。
その突き上げる海流と爆発的に吹く上昇気流によって飛ぶ船。航海士ナミの腕前で成せた奇跡だ。
スバルは目の前で起きている現実がにわかに信じられない。何もかもが自分の常識を全て覆す出来事だ。
今も、何千年と姿を変えない超巨大な大雲に突入しようとしている。あの上に何があるのかわからない。
だが、またも自分の常識をひっくり返す出来事が起こるのは間違いないだろう。
「エリオ!私たち、すっごい世界に飛ばされたね!」
「はい!」
エリオは勢いよく返した。
こちらの世界に来たのが昨日の朝なのに、これまで生きてきた10数年からでは考えられないような出来事が起きた。
常識から疑う魔の海グランドライン。
海賊が支配する時代、大海賊時代。
夢を追い求める海賊に、嘲笑う海賊。
毎日を必死で生き、人情溢れた麦わら海賊団。
そしてルフィの器の大きさ――
何もかもが六課でも味わえなかった摩訶不思議な体験ばかりだった。
六課が自分たちを見つけてくれるのを待つしか帰る方法はない。だけど、もう少しでいいからこの人たちと一緒にいたい。そして、この人たちが見たものを共有したい。
間違いなく自分たちのかけがえのない経験になる。
スバルとエリオは無邪気に突っ込んでいってる雲を見上げているルフィの背中を見た。
前の投稿が一か月前だと…
もう面倒かつアクション薄目で面白くないんでジャヤ編はこの話までで終わりにしました。次回からはメインの空島編です。
相変わらず不定期なので今後ともよろしくお願いします。
キャラが微妙に合ってないかもしれないので一度なのはsts見直して修正しようか思案中。