動力があるわけでもない。地面があるわけでもない。
そんな摩訶不思議な世界を、この海では当然の物のように扱う者たちもいる。
雲の上にて
「おい!みんな見てみろよ!船の外っ!!」
全員が倒れている中、船長のルフィがまず声を上げた。
ノックアップストリームによって積帝雲に突っ込んだゴーイングメリー号フライングモデル。
その辿り着いた先が――一面真っ白な白世界だった。
スバルとエリオは勿論、麦わらの一味と全員が目を丸くした。
まさにお伽噺ですらないような夢ですら見ない一面真っ白な世界。雪国でもここまで白い光景にはならないだろう。
雲とは水蒸気の塊――物体が乗ることができるなどありえない。
だが確かに乗っているのだ。この白い海に、船が。
「どういう原理かわからないけれど……つまりこれが、雲の海ってわけね」
ナミが現状を確認し、結論を出した。
「見て、ログポースはまだこの上を指しているわ」
「ということは、ここはまだ積帝雲の中層って言ったところかしら」
「まだ、上があるってことなんですか?」
エリオは頭上を見上げた。一面とは言ったが当然上も青空が見えず真っ白だ。
上に行ける手段があるかはともかく、〝島”はまだ上のほうにあるということだろう。
その時、ウソップが船から海に飛び込んだ。
「どうしたんですか?」
「ウソップの奴がさっそくこの海で泳いでみようってよ。ったく得体が知れない海だってのに」
サンジが呆れたようにぼやいた。
しばらく経っても、ウソップは上がってこない。一同が心配そうな顔になり、スバルが代弁する。
「どうしたんだろう。おぼれたのかな」
「ねえ……ちょっと待って」
先ほどまで座っていたロビンが焦ったように汗をかきつつ、ウソップが飛び込んだところを眺めた。
「上空に飛んでいるのよね……だとして、この海に〝海底”なんてあるのかしら」
一同は血相を変えた。
「まさか…!」
そもそも雲に底など存在するはずがない。あるとして――そこから自分たちは突き破ったのだ。
ならば――
「あの野郎!雲から落ちたのか!」
「だから言ったんだあのバカ!」
「ウソップ―っ!」
ルフィが無我夢中で腕を伸ばそうとする。
「待ってルフィ!あたしも一緒に!」
スバルがバリアジャケットを見に包み、ルフィの腕に捕まる。
海面から全く海の中が窺えず視界が悪すぎる中、あてずっぽうで腕を伸ばすより、ある程度感知できる自分を飛ばしたほうがいい。
ウソップは魔導士ではないから感知がやりづらいが、何もないよりははるかにましだ。
説明する時間も惜しかったし。ルフィも説明を求めなかった。すぐさまスバルの捕まった腕を勢いよく雲の海に伸ばした。
「頼むぞスバル!」
「わかった!」
ルフィの伸びる腕に捕まりながら凄い勢いで雲の中を突っ切るスバル。
予想通り、いや予想以上に視界が悪すぎる。その割に抵抗が本来の水より遥かに少なく、勢いよく突っ切れる。
だがウソップの姿はどこにもない。やはり落ちてしまったのか?
しばらくすると雲をついに突き抜けた。そこはノックアップストリームで飛び込む前の積帝雲の下の、上空だった。
すぐさまスバルは見回してウソップを探した。すると悲鳴を上げながら落下していってる。
「相棒!」
『ウィングロード』
すぐさま青いウィングロードがウソップまで伸び、スバルも走る。見事キャッチし、脇に抱えて戻ろうとした時、スバルは気が付いた。
ルフィの腕が伸び切っていたため、戻り始めている。
ゴムの特性を持った能力ならば当然のことだろうが、タイミングが悪すぎた。
急いで戻りルフィの手に捕まろうとして、手を伸ばし、掴めなかった。このままじゃ――
一瞬絶望しそうになったスバルの腕を掴む手があった。
「これは…?」
ルフィの手ではない。ルフィの腕から生えた手だ。よく見るとルフィの手首に目が付いている。
更に何本も生えて、スバルを掴む力が強固なものになった。この能力はモックタウンでスバルが見たロビンの力だ。
スバルもロビンの手を強く握り返す。ルフィの戻る腕に連なる形でスバルも引っ張られた。
雲の中を戻る中、スバルの体に絡みつく太いものがあった。
(な、なにこれ!?)
巻き付いたそれも一緒に引っ張り上げられる。そのまま雲の海を脱出し、巻き付いたものを見て、驚愕した。
超巨大なタコと、ウミヘビだ。
☆
引き揚げられたスバルを見て、一同は歓声を上げ、一瞬で悲鳴に変わった。
「よし上がっ……いやああああああああ!」
「何かついてきてるぞ!」
「スバルたちを食う気だ!」
戻ってきたスバルがすぐさま船に着地した。ウソップをチョッパーのほうに持っていく。
「チョッパー!ウソップをお願い!」
「ギャアアアアアア…お、おう、任せろ!」
悲鳴を上げていたチョッパーがウソップの治療を始める。
代わりにゾロとエリオが前に出る。
「そうビビるもんでもないだろ……エリオ!長い奴を頼むぞ!」
「はい!」
今にも船に手(足)を伸ばそうとするタコにゾロが切りかかった。
すると、風船が割れるかのように足がもげる。
「なんだこりゃ!」
驚くゾロを見て、エリオは目の前の巨大ウミヘビを見る。今にもこちらに噛みついてきそうだ。
『ソニック・ムーブ』
ひょいとかわして、真下を素通りさせる。そのままエリオは空中で腰だめに構えた。
「紫電一閃!」
雷撃を込めた拳を振り下ろした。電撃を浴びた巨大ウミヘビは雄たけびをあげてノびた。
船に着地したエリオは、その時感じた身体の異変に気が付いた。
(なんだ……疲れてる?)
何でもない攻防だったはず。機動六課での訓練メニューを長くこなしてきた自分がこの程度で疲れを感じるはずがない。
ゾロのほうを見やると、彼もまたただ一撃を見舞っただけなのに息を切らしていた。
嫌な予感を感じたエリオに畳みかけるように、ウソップを寝かせた後双眼鏡で海を眺めて板チョッパーが悲鳴を上げた。
「チョッパーどうした?」
「牛が四角く雲を走ってこっちに来るから、大変だ~~~!」
「わかんねぇおちつけ」
「なーに言ってんだ」
「ちょっと待って!みんなあっち誰かが近づいてる!」
スバルが先ほどまでチョッパーが眺めていた方角を指さした。すると仮面を被った何者かがこちらに襲い掛かってくる。
猛スピードで雲の海を走り、片手にはバズーカ砲を持っている。明らかに戦う気満々だ。
そいつは一言だけ喋った。
「排除する」
やる気らしい。一味は臨戦態勢に入る。
エリオもストラーダを構えた。やはり妙に体が重い。だがそうはいってはおれない。
仮面の男は船についた途端、とても軽い動きでこちらに向かってくる。対処できる速度――なのに身体が何故かついてこれない。
エリオはそのままなすすべもなくストラーダごと蹴り飛ばされた。
「エリオ!」
スバルとサンジがこちらに向かおうとして、同じく仮面の男に蹴り飛ばされる。
ゾロもルフィも同じく腕を振るうことさえなくあっけなく蹴倒された。
相も変わらず軽い動きで船を離れ、バズーカ砲の方向をこちらに向けようとして、それを何者かに邪魔された。
「何!?今度は誰!?」
すっかり涙目のナミのその言葉に答えるかのように軽やかに船の上に着地した者が答えた。
「ウ~~~ム、吾輩、空の騎士!」
槍を持ち、甲冑に身をまとった老人だった。
☆
仮面の男が退いていくのを見届けた老人がこちらを向き、質問した。
「おぬしら、青海人か?」
「なにそれ?あなたは誰?」
「吾輩は空の騎士。青海人とは雲下に住む者の総称だ。つまり青い海から上ってきたのか」
「ああ、そうだ」
ルフィが答える。
「そうか…ならば仕方あるまい。ここは青海の遥か7000mの上空にある白海。
更にこの海の上層にある白々海に至っては一万mにも至っているのだ。通常の青海人では身体が持つまい」
嘆かわしそうに空の騎士が言う。
なるほど、ならば身体が妙に疲れていたのもわかる。空気が薄いのだ。それほどの上空にいて身体が普通通りに動くはずがない。
エリオは拳を握り、そして開く。
するとルフィが呼吸を整えているかのように息を吸い込む。
「よ~し……だんだん慣れてきたぞ」
「そうだな。さっきよりだいぶ楽になってきた」
「いやいやいやいや、ありえん」
こうして空の騎士と名乗る老人との交渉(?)が進み、何故か一度だけ助けを求められるように話がまとまっていった。
そして空の騎士が去っていった。
「結局何も教えてくれなかったわ」
「振出に戻ったな」
結局一同は状況を打破するべく船を進めて上に上がれる場所を探そうという意見でまとまった。
微妙に手持ち部沙汰になったエリオはゾロに尋ねた。
「ゾロさん」
「どうしたエリオ」
「僕まだこの空気の薄さに慣れなくて…なにかコツ、ないですか?」
「なんだそんなことか」
「あ、あたしも聞きたい!」
スバルも食いついた。サンジがからかう。
「よせよせ。どうせこのマリモのことだ、筋肉で何とかするとか言い出すんだろ。参考になりゃしねえ」
「うるせェ」
「どんな風にやるの?」
「どんな風にっていうか…まず空気が薄いことを意識することだな」
ゾロが拳を握る。
「単純だがまずはそこからだ。水も慌てて飲むと喉を詰まらせるだろ。同じように身体を動かすには酸素がいる。
そいつを身体の中でコントロールするようなイメージを持てばいい」
「コントロール…?」
「酸素の消費に合わせて、身体をどんな風に動かすかのイメージを作ればいい。後は慣れだ。早い話が〝呼吸を知る”ことだな」
「呼吸を知る……」
「難しいかもしんねえな。実際オレもつい最近までよくわからなかった。だがな、ある意味戦闘行動の奥義みたいなもんだ。
どんなものにも呼吸ってものがある。無機物にもな。だがまずは自分の呼吸を知ることだ。そうすれば他の呼吸もわかるようになる。
時間がたてばある程度は慣れるだろうが、空気の薄さ自体は変わらねェからな。どう動けばいいかわかってくるだろ。
言葉ではこれ以上説明しにくいな。あとは自分で考えて慣れるこった」
そういってゾロは立ち上がった。取り残されたエリオとスバルは顔を見合わせた。
今の話がどういう意味なのか、よくわからなかった。空気の薄いことを認識するのはいいが、呼吸そのものを知れとは。
だが、六課でも聞かなかったことを二人は強く噛み締めた。
しばらくすると雲の滝が見えてきた。そこには巨大な門もあった。
「HEAVENZ'S GATE…〝天国の門”だと……」
「縁起でもねえ……まるで死にに行くようなもんじゃねえか」
「……いや案外オレらもう全員死んでるんじゃねえか?」
「ははっそうか、ならこのおかしな世界にも納得がいく」
「ええ!?オレ達死んだのか!?」
「確かにその方が納得はいくかも……まだ死にたくないけど」
「僕もです」
「おいあそこ、誰か出てくるぞ!」
ウソップが門番の側面を指さす。すると羽をつけた老婆がカメラを持ってこちらを撮っている。
「観光かい?それとも戦争かい?まあどちらでもいいさ。ここを通りたければ一人10億エレクトル置いて行きな。それが法律」
法外な額に聞いたことのない通貨で入国料を提示した。
「え、えと、もしお金がなかったら……?」
「通っていいよ」
「そうだよな~っていいのかよ!」
ウソップが突っ込む。入国料をせしめておいて通っていいとはどういうことだろうか。
すると老婆は何やら含みがある物言いで続けた。
「それに、通らなくてもいいよ。あたしは門番でも衛兵でもない、アンタたちの意思を、聞くだけ」
「……?まあいいや。じゃあ行くぞオレ達は空島に!金はねェけど通るぞばあさん!」
「そうかい。――9人でいいんだね」
老婆がそう言った途端、下から巨大なエビがゴーイングメリー号を持ち上げた。
「うお、なんか出てきた!動き出したぞ!」
「滝を登るつもりか!まだまだ上に続いてる!」
「どうなってんだこりゃ!雲が帯状になって川みてェだ!」
「とても自然でできたようには見えないわ」
「自然じゃねえだろこんなもん!」
「こんな世界があるなんて……!」
「空ってすごいですね!」
「ヤッホー!」
一味は勢いよく上層めがけて突っ切っていった。
☆
「天国の門」監視官アマゾンより
全能なる〝神”及び神官各位
神の国〝スカイピア”への不法入国者九名
〝神の裁き”にかけられたし
デバイスは日本語で統一しようと思います。
英語にしようかと思ったけれどワンピースの世界は基本世界共通だし変だと思ったので。