空の冒険   作:もみの木

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己の行動に罪を感じた時、人は最も弱くなる。
それこそ、迷える子羊――


神の裁き

「私たちハメられたんだわ!あのお婆さん言ったじゃない『通っていい』って!それで通ったら『不法入国』!?詐欺よこんなの!?」

「全くだぜ。――まああそこでダメだと言われててもどうせ力づくで通っていただろうってことは置いといてよ」

「お黙り!」

「いや通るんですか!?」

 

ホワイトベレーを名乗る空の刑事組織を撃退した一同。

彼らの言い分は、「不法入国」をしたとされる九名の者たちを捕えに来た、ということだ。勿論この九名は麦わらの一味のことである。

当然のことながら「通っていい」と言われたから通っただけの彼らにしてみれば理不尽極まりない言いがかりである。

更に入国費の十倍の額の罰金を払えばいいと言われ、余りの額に戻ってきたナミが反発し、事態は一気に変わる。

武力をもって制圧しようとしたホワイトベレーを苦も無く撃退し、同時にこれで空島へのれっきとした犯行となった。

ともかくこれで空の国からお尋ね者になった一味は早めにこの場を離れることを選んだ。

 

「おっさん、飯一品残らず全部持って行っていいか」

「ええもちろんどうぞ」

「サンジ、弁当!」

「抜け目ねえな」

「そういえばあたし、こっちに来てまだ何も食べてないなぁ」

「そういやそうだったな。スバルちゃんの分も弁当作っておいてやるよ」

「ありがとう!」

 

ウソップは備品をもらいに行き、ルフィとスバルとサンジは弁当をこしらえるために家のほうに向かった。

彼らの後ろ姿を見たナミは恐怖に顔を青ざめている。

 

「あいつら本気で行くつもりだわ!本当に怖いのよ!」

「知るかよ。どっちでもいいからオレに当たるな」

 

ゾロは船に上ると同時に昼寝を始めた。

 

「ねえロビン、二人でルフィを倒さない!?」

「無理よ」

「もう!せめてスバルがいてくれれば少しはわかってもらえるのに!」

「あの……何かあったんですか?」

 

嘆いてるナミにエリオが話しかけた。途端ナミは新しい協力者を得たような笑顔でエリオに寄った。

そのテンションにエリオは少しタジタジになった。

 

「エリオ!エリオならわかってくれるわよね!」

「……何をですか?」

「神よ神!あの島!本当に怖いんだから」

「何があったんですか?」

「あの島で、人追われてて、そしたらドーンって、ドーンって!」

「……」

 

あまりに抽象的かつ乱暴な言い回しに曖昧な笑みを浮かべながら、エリオはその島のある方角を見つめた。

先ほど一味と一緒に食事をしていた時に感じた、雷の力。電気変換資質を持つエリオだからこそ感じ取れた力。

逆にいうとかなり距離があるというのに感じられたほど巨大な力。

ナミとスバルが見たものが分からないが、これほど取り乱している以上その力を間近で見たのだろう。

それでもエリオはその場を収める方向で動いた。

 

「まあ、乗せてもらっている僕が船長のルフィさんに意見するのもおかしな話ですし、従うしかないと思いますよ」

「酷い!味方がまた一人……うわっ」

 

突如、船が不規則に揺れた。いや、動いた。後ろ向きに。

 

「ちょっと待って!何これ!?」

「アアアアアアアアア!?」

「エビ……!?」

 

エリオは船の下を覗き込んだ。

船が動いているのではなく、巨大なエビが船を持ち上げているのだ。額にGODと書かれている以上、野生の物ではない。

昼寝から飛び起きたゾロが素早く指示を出す。

 

「オレたちをどこかに連れていく気だ!全員船から飛び降りろ!まだ間に合う!」

「船を持って行かれたらどうするんだ!?」

「オレが残る!」

「待ってください!もう間に合いません!後ろを見てください!」

「何!?――チィッ、用意周到なこった」

 

後ろから大型空魚が牙をむき出しにしながら襲い掛かってきている。飛び込んだところで餌食になるだけだろう。

 

「手が込んでますね。ということは」

「恐らくもう始まってるのね」

「天の裁き…か。上等じゃねえか」

「じゃあ、またあの島に!?」

 

ゴーイングメリー号は運ばれていく。先は白く、まだ見えない。

 

 

「あいつら……どこ行ったんだ?」

「恐らくアッパーヤードの北東、生贄の祭壇です」

 

パガヤの言うことをまとめるとこうだ。

まず先ほどの5人と船は生贄の祭壇に贈られた。生贄という名前だが実際は人質ということで、実際に裁かれるのはここにいる四人ということ。

祭壇へは島を回り込むことが、島全体を張り巡らしている雲の川に阻まれてできず、正面から雲の川を渡っていくしかないということ。

試練と称して、実力者揃いの四人の神官の相手をしなくてはならないこと。

そして神・エネルが存在すること――。

 

一味が出発の準備を始め、コニスが外に出た時、スバルは中に残っているパガヤに尋ねた。

 

「パガヤさん、ちょっといいですか?」

「はい、どうしましたか?」

「神・エネルってどういう人物なんですか?」

 

作業をしていたパガヤの手がピタッと止まった。

 

「全能な方です。このスカイピアをまとめる神であらせられます」

「……」

 

パガヤの顔色は特に変わらなかったが、多少こわばっていたのをスバルは見た。それ以上は何も言わず、家の外に出た。

アッパーヤードでナミと共に見た、あの光、間違いなくその神の力に違いない。

魔力は一切感じなかった。恐らくこの世界の特有の能力、つまり悪魔の実の能力だとみていいだろう。

ホワイトベレーの人たちがその存在を知っていた。きっと間違いない。

 

ただスバルの中で、あの光には恐怖ではなく反発を覚えた。それは彼女自身の過去に少し似ていた光景だからだ。

絶望の中を照らす希望の光。かつて自分の進むべき道を示してくれた、あの高町なのはの光。

あの光は自分だけではなく、多くの人の希望の光として、不屈の光として、人を照らした。

だがあのアッパーヤードに降り注いだ光の力は状況は似ていたのに本質は全く逆の物だった。絶望を無に帰す無慈悲な光。

それがスバルの心のしこりとして残ってた。

 

「おーいスバル、行くぞー」

「すぐ行く」

 

スバルは荷物を抱えて飛び出した。

 

 

スカイピアの繁華街、ラブリー通りを闊歩する一味。

住民たちは明らかに不安そうな顔をしつつ避けていってる。

おかげで活気あるように見える繁華街も一味が通った後だけ妙に静かになっている。

 

「ナァ……オレたち完全にさけられてねえか?」

「あァ……もうオレたちが犯罪者だって知れ渡っちまってるんだろうよ」

「そうかなァ……」

 

挙動不審になってるウソップに意気消沈としているサンジを見て、スバルは周りを見渡す。

自分たちを恐怖しているならわかる。管理局員としては犯罪者と思われるのは少し引っかかるものがあるが、それは当然の感情だ。

だけどここの空の住人の表情は自分たちではない何かに怯えているような、何か余計なことを言わないように息を潜めているような感じだ。

もし犯罪者を見ているなら、逆に騒ぎになったり、逃げたりといったアクションをとるだろう。

なのにまるでタブーを破らないような慎重さだ。というより、何か悪事に加担しているような後ろめたさか。

そしてスバルが一番気にしているのは、今一味を先導してくれているこの女性――

 

「カラス丸です」

「水鳥ですらねぇ…」

 

船置き場まで来た一味。

 

「出口は2番ゲートです。アッパーヤードににつながる巨大なミルキーロードへ出られるので……そこを通るだけです……」

「コニス……さん」

 

丁寧に説明してくれているコニスが喋り終わったタイミングでスバルがすかさず声をかけた。

 

「は、はい」

「ここを出てからずっとでしたけど……どうしてそんなに、怯えているんですか?」

「……!?」

 

コニスは一瞬震え、顔色が変わった。

 

「そ、そう見えますか……?」

「そういやそうだな……何にビビってんだ?」

「オレたちのこと心配してくれてたのかな~~いじらしいな~~」

「おい。――だけどよ、お前らこそ大丈夫なのか、町の連中明らかにオレらのこと避けてたのに、こんなに丁寧に案内してくれて、

 船まで貸してくれるなんてよ。オレたちと共犯になっちまうんじゃねえか?」

「恐かったのか?だったらオレらだけでよかったのに」

「いえ、いえ……」

 

一向に目を合わせようとしないコニス。過呼吸を起こしてるように呼吸が激しくなっている。

 

「私、違いますよ……!」

 

ようやく絞り出た言葉がそれだった。たったそれだけの言葉。

だが周りで自分たちを傍観していた町の住人たちが一斉にどよめいた。

 

「変……ですよね……試練の「ルート」を丁寧に教えたり、ここまで自ら案内したり……まるであなたたちを誘導したみたい……」

 

ルフィ、ウソップ、サンジ、スバルにはまだコニスが何を言いたいのかよくわからない。

だがその言葉を発した途端、どよめいていた住人たちが一斉にやめろ、と叫び始めた。

それでもこちらと目を合わせようとしない。

そして、膝をくっし、顔を下げたコニスの次に発した言葉が決定的になった。

 

「逃げて……くれませんか……!?」

 

4人はようやく理解した。そして状況が一変した。

住民たちから怒号が上がりやめろ、取り押さえろ、神への冒涜だの騒ぎ始めた。

その言葉を皮切りに、コニスはまるで溜めこんでたようにぶちまけた。

 

「ごめんなさい!あの〝超特急エビ”を呼んだの、私なんですよね……!?」

「!?」

「なんだって!?」

「犯罪者を確認したら、裁きの地に誘導しないと、私たち殺されてしまうから、これが国民の義務なんですよね!

 ごめんなさい!こんなの、おかしいですよね……!何もかも!」

 

この時、スバルの中にあった心のしこりが、強烈な反発となったことを実感した。知らずのうちに拳を握りしめる。

 

(これが〝神”のやり方……!)

 

先ほど自分は、過去になのはの放つ希望の光と、神の放つ絶望の光を、対局の存在と思いつつ合わせて思い浮かべていた。

憎くもなく、それどころか本来犯罪らしいことを何もしていない人たちを、死地に追いやる。

仲良くなった人だろうが、全く知らない人だろうが関係ない、直接的ではないにしろ〝殺す”ことに加担するのだ。

まともな神経ならこんな真似出来るはずがない。余りにも惨い所業だからだ。

そして、その背後にあるのは法などではなく、あのアッパーヤードで見たあの絶望の光。

罪の意識と、絶望の力を使い、人を従わせる、それが〝神”。

だったら次に始まるのは――

 

ルフィはたまらなくなって叫ぶ。

 

「バカヤロー!仕方なかったんだろ!?だったらなんでそれを「「オレたちに言うんだ!!!」」」

「え……!?」

 

コニスはここでようやく、しかし状況を理解できてないような表情で顔を上げた。

 

「相棒!」

『レディ』

 

スバルの反応は早かった。マッハキャリバーを展開し、一気にコニスを抱える。

 

「キャッ!な、なにを!?」

「狙われているのはあたしたちじゃない!あなたなんですよ!?」

 

そのままフルスピードでその場を離れようとした。だが、何もかもが遅い。

光の塊を頭上に見た。確認するまでもない、あの絶望の光だ。大きさまで同じ。本当になのはのディバイン・バスターを彷彿させる。

 

(大きすぎる!こんなの……でも!)

 

それでもスバルはコニスを抱きしめて何とか回避しようと思いっきり跳ぶ。

 

 

一条の光が降り注ぎ、島雲に大きな穴を開けた。

サンジにウソップと周りを見渡し、スバルとコニスがどこに行ったのか探している。

先ほどまでどよめき、騒いでいた町の住人達はまるで逆らえない力に屈したかのように力なくこうべを垂れている。

 

「コニスちゃん!スバルちゃん!どこ行ったんだー!」

「二人とも無事である!」

 

空の騎士、ガン・フォールがコニスとスバルを抱える。

ガン・フォールはスバルを下した。

 

「この娘は吾輩に預けよ。みすみすエネルに狙わせはせぬ。それより――おぬしらはこの国の本心を知った…神の力もな。これよりいかに動く」

 

ルフィは愚問とばかりに鼻息をついて、カラス丸に向かう。

 

「国は関係ねェ。あの島には仲間がいるんだ」

「フム、そうか。幸運あれ」

 

そう言い残して、ガン・フォールは飛び去って行った。コニスを連れて。

残った4人はカラス丸に乗り込み、アッパーヤードを進む。

しばらくして、ウソップがスバルに話しかけた。

 

「スバル、さっきは反応早かったな。どうしたんだ?」

「ごめん……実はナミさんと一緒にアッパーヤードでさっきのを見たんだ」

「だからナミはあんなに嫌がってたのか……オレだっていやだわ」

「だがよ、スバルちゃん。なんかえらくあの後空を睨んでなかったか?」

「そ、そうかな」

 

スバルはぎょっとして誤魔化す。

カラス丸は進む。神の住む土地アッパーヤードへ。

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