シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第一話 依頼1

 フランス、シーニュ地方の田舎町。

 

 古びた公園のベンチで、ひとりの初老の男が腰かけたまま、()()()()()待っていた。

 懐から年代物の懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 

「もう、時間だな……やはり、噂は噂であったか」

 

 男は溜め息を一つこぼして顔を上げ、ベンチから立ち上がり――

 背後にたたずむ男の気配に、ようやく気付いた。

 

「あ、あなたは……あなたが、ゴルゴ13(サーティーン)!?」

 

 男が動揺するのも無理はない。背後にいたのは長身で体格もがっちりとした、いかにも強者然としたたたずまいに加え、まるでカミソリのように鋭利な眼光を放っていた。

 そのすさまじい存在感にもかかわらず、今の今までそこに立っている事に気付きもしなかったのだ。彼を()()()()()のにもかかわらず、である。

 

 

「お会いできて光栄です、よくぞ来てくださった……」

 そう言って一歩踏み出し、握手の右手を差し出す。だが相手は決して手を動かそうとせず、その眼光を光らせて睨み据える。

 

「し、失礼しました。貴方は利き腕を人に預けないのでしたな、ゴルゴ13」

 

 裏の世界最高峰のテロリスト、ゴルゴ13。彼に対しては様々な『ルール』がある。

 そのうちの一つが、彼は決して握手を行わないということだ。彼は利き腕を他人に預けることを嫌い、その事に対して相手がどんな素人であろうとも徹底する事にしている。

 

 だが、それは依頼人の彼に対する()()()()の手段として、一度だけ許されるタブーでもあるのだ。もし手を差し出して握り返して来たならば、それは偽物であるという事なのだから。

 

 そして、ゴルゴ13以外の誰も知らない事であるが、それは彼にとって依頼人の人となりを知るための手がかりでもある。その人物の手の平を見れば、歩んできた人生が明白に読み取れるからだ。

 

 その初老の男の手の平は、ゴルゴ13にとって信頼に値する、との確信を得たようだ。

 

「用件を、聞こうか」

 

 姿勢を崩さず、その男に相対するゴルゴ13。その立ち姿には相変わらず、一分のスキも無かった――

 

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 日本、東京、新宿駅東改札口。そこにはひとつの伝言板が設置されている。

 

 時代遅れなその黒板の前で、ひとりの女性が文字を見つめつつ、感動に打ち震えて涙を流していた。

 

 ――XYZ――

 

「い、依頼、だわ……これが、私たちの……最後の、希望っ」

 

 彼女の名は槙村 香(まきむら かおり)。この新宿に本拠を置く裏の仕事人(スイーパー)『シティハンター』のアシスタントである。

 そしてこの伝言板に『XYZ』の文字を記すことが、シティハンターへの依頼のサインとなるのだ。文字通りXYZ(あとがない)人が、最後にすがる微かな希望として。

 

 だが、ここに至って後が無いのは、そのシティハンターの方だったりするのだが。

 

「こ、これで……家賃が払える、ガスを、水道を、止められずに済むのねっ!」

 はらはらと涙を流しながら伝言板の文字を追う香に、通行人がいぶかしげな顔をしつつ通り過ぎて行くが、彼女にとってもうそんな体裁なんかどうでもよかった。

 

 このところ仕事の依頼はめっきり減っていて、貯金もとうの昔に使い果たしている。その上シティハンターの実行者、冴羽 獠(さえば りょう)が依頼人の女性にちょっかいを出しまくるせいで、依頼料から慰謝料を引かれたり、依頼人から契約を切られた挙句、悪評まで広められてますます依頼が来なくなっているのだ。

 

 このままでは住まいを追い出され、路上生活すらやむなき所まで来ていた。彼女が久々の依頼にむせび泣くのもむべなるかな。

 

「う……でもこれって、女の人の字、よね」

 

 文字を追っていくうちに、その柔らかい筆跡が女性のそれである事を確信する。これは下手をすればまた獠がもっこり癖を出して依頼人に襲いかかり、最悪キャンセルされる未来すらあり得る。

「い、いやでも、流石に獠だって、今の状況で仕事を無くすような真似は……」

 

 気を取り直して冷静になり、この依頼を受けた獠の未来を想像する……

 

(もこもこも~っこり もっこりちゃ~ん、さぁさぁ一発やりましょうねぇ~)

(きゃあぁぁぁー! チカン、変態! もうこんな人お断りですっ!)

 

 ごぉっ! と新宿駅東口に業火が燃え上がる。使命感と衣食住の確保に燃える香が周囲に撒き散らしたオーラが、通行人をまるで蜘蛛の子のように蹴散らしていく!

 

(これは私が……なんとしても獠のもっこりを封じなければっ!!!!)

 

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「やっほー、美樹ちゅわぁん。そろそろ海ちゃん見捨てて、俺と組まなぁい? もちろんもっこり込みで、デヘヘヘヘ」

 

 新宿の喫茶店『キャッツ・アイ』にて。ウェイトレスの女性にヨダレを垂れ流しながら体をクネクネさせてアプローチしているその人物こそ、誰あろうシティハンター、冴羽獠である。

 

「組みません! まったく、香さんも大変ね」

 お盆で獠の顔面をクリーンヒットさせつつそう嘆く。それに応えて店長の伊集院隼人(通称『(ファルコン)』または『海坊主』)も、その巨躯をゆるめて溜め息一つ吐き、こう続ける。

「香から聞いてるぞ。いよいよアパートを追い出されかねないそうだな。それでまだナンパとはいい身分だなぁおい」

「だーかーらぁ、美樹ちゃんとココで一緒にお仕事すれば万事解決なのよぉ。さぁさぁ美樹さん、ボキといっぱt」

 

 どごおぉぉぉん!

 

「そろそろ来る頃だと思ってたわ」

「お約束のタイミングだな、香」

 

 獠はハエタタキに潰されたゴキブリのように、香の振り下ろした巨大ハンマーの下に埋まっていた。

 

 

「まったく、この万年もっこり男は……それより獠、依頼よ依頼!」

 

 

 客のいない喫茶店が「おお!」と色めき立つ。獠たちにとって久々の、そしてまさに救いの手ともいえる依頼。海坊主たちも獠はともかく香には「やったね」「よかったな」と表情をほころばせる。

 

「あぁん? 依頼かぁ~。でもどーせ香が受けたって事は、依頼人は男なんじゃねぇの~?」

 ハンマーの下敷きになったまま遼が不満気にそう毒づく。彼にとっては依頼人が美人か否かで仕事へのモチベーションが大きく上下するのだ。むろん下心()()()思惑で。

 

「お生憎様。今回は女性の依頼人よ。でも手ぇ出したらわ・か・っ・て・る・ん・で・し・ょ・う・ね!」

 顔面を巨大化させて獠に凄む香。背景に仁王像でも浮かび上がるかのようなその剣幕に、獠も思わず小さくなって「は、はいぃ」と汗を飛ばす。

 

 やれやれ、とアイコンタクトして喫茶店の仕事に戻る海坊主と美樹。香は何度かここを依頼人との打ち合わせの場所として使っているので、おそらく今回もそうしたのだろう。

 

 元々彼らもスィーパーの仕事をしている、いわば獠たちとは商売敵の関係ではある。でも香は彼らを大変信頼していて、公私共にここをよく会合の場所に使っていた。

 そのおかげでこの喫茶店にも少しづつ常連客が付いて来ていたのだ。いわば香の営業活動によって、この閑古鳥の喫茶店もなんとかやって行けているという、持ちつ持たれつの関係になっているので、彼らも特にピリピリせず大目に見ているという訳である。

 

 

「約束の時間は午後3時……そろそろ来るわね」

 香が時計を確認してそう発したまさにその時、ドアがカランカランと音を立て、ひとりの女性が店内に入って来た。サングラスで目元を隠してはいるが、そのゆるくウェーブのかかった黒髪をなびかせて歩く妖艶なプロポーションを一目見れば、彼女が美人である事は疑いないであろう。

 

「シティーハンターさん、ね」

 そう発する美女。彼女が依頼人、間違いない!

 

「あ、はじめまして。どうぞこちらに……」

「うっひょー! サーイコーのもっこりちゅわあぁ~ん!」

 香が挨拶をしようとした瞬間、獠が股間のもっこりを全開にしながら、その女性にダイブしていた。

 

「あ、獠! こらぁっ!」

 慌てて止めようとするがもう遅かった。今まさに獠はその美女に向かってジャンピングダイブし、抱き着く瞬間だったのだから。

 

 べちょん!

「ぶっ!」

 

 次の瞬間、獠は顔面から床に激突していた。そしてそれと入れ代わるように、その美女の体がまるで人魚の遊泳のように宙を舞い、しなやかに体をひるがえしながら、ふわりと地面に着地して、そのまま流れるようにカウンターの椅子に腰かけた。

 

「お久しぶり、香さん」

 サングラスを取ってそう発する美女。予想以上の美しさに一瞬息を飲むが、その印象の強さゆえに彼女が知った顔である事を思い出させた。

 

「あ、あなた……泪さん!?」

 

 来生 泪(きすぎ るい)。この喫茶店の大家であり、大富豪の実業家。

 

 そして彼女()には裏の顔がある。数年前まで妹の瞳、愛と共になんと泥棒家業をやっていたと言うのだ。レオタードを身に纏って夜の街を駆け抜ける泥棒猫『キャッツ・アイ』が一時新聞を賑わせたのは、野次馬には幻のアイドルとして、警察には悩みの恥部として記憶に残っている。

 

 

「改めてご挨拶させていただくわ。来生 泪です。シティハンターにお仕事をお願いします」

 

 

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