シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第十一話 弾丸の口づけ(バレットキッス)

 

 夕焼けに染まる新宿の裏路地にて。一人の男がビルの隙間に潜り込んで背中を壁に預けながら、己の状況を分析する。

 

(振り切れん……ここまで、とはな)

 息をついて心でそう嘆くゴルゴ13。あの狙撃から半日、彼は冴羽獠(シティハンター)の敷いた包囲網に捕らえられ、この新宿を抜け出せないでいた。

 本来、ゴルゴが仕事を終えた後はすみやかに現場を去るのが通常だ。だが今回は至近距離狙撃だった事もあって、ボディガードの冴羽や(ファルコン)の追撃から逃れなければならなかった。

 

 それが困難な事は、以前下見に来た時から気付いていた。冴羽はこの街の裏の顔役でもあり、普段自分が逃走経路に使っている日蔭道にこそ監視が集中してしまっていた。

 風俗街、モーテル、浮浪者のたまり場、果ては下水道まで、冴羽の指示を受けた多くの者達の『目』が、自分を捉えて報告されてしまう。

 治安の悪い国ならば、それらの者を射殺して姿をくらませる事も可能だろう。だがここは日本の首都、東京だ。そんな所で次々と射殺死体を作り上げるなど自分の首を絞めるだけだ。ましてこの依頼は標的以外、誰も殺さない縛りがあるのだ。

 

都会の狩人(シティハンター)、か、よく言ったものだ)

 奴がボディガードをしていた時も相当の力量を感じさせたが、今ハンターとして自分を追跡、狩猟しようと動いている奴は、まるで水を得た魚のようだ。

 

 加えて表の逃走経路、つまり一般人に紛れて逃げる方法も封じられている。そこかしこで時間不相応な取り締まりや、パトロールの警察官が目立っている。おそらく奴は警察上層部にもパイプを持っているのだろう……その徹底した包囲網は、まさにこの新宿と言う街そのものが、自分を追い詰めているかのように思えた。

 

 そしてゴルゴは、自分が奴に()()()()に追い詰められている事にも気づいていた。包囲や警戒の網が、そちらの方向だけほんの少し薄いのに気付いているからだ。

 つまり奴は自分をその場所に追い詰めて、そこで決着をつけるつもりなのだろう。折しも陽も落ちかかる時間帯、今まで使えなかった銃器もいくらかは使いやすくなる。

 

 彼は決意した。このまま勝ち目のない鬼ごっこを続けるよりは、奴の誘いに乗る事で逆転を図るしかない、と。

 

 新宿の片隅にある建設中のビル。立ち入り禁止のロープで囲われたその敷地に入り込むと、罠の気配を十分に警戒しながら、そのビル内に入っていく――

 

      ◇           ◇           ◇    

 

(やっこ)さん、やっとご招待に応じてくれたぞ”

 海坊主からスマホで連絡を受け、標的であるゴルゴ13が目標のビルに入ったことを知った冴羽獠が、ふんと鼻を鳴らして言葉を返す。

「ふん。あのゴルゴがか? 違うな、誘っているんだよ、奴の方からな」

 あの超一流の男なら、こっちがあのビルに追い込もうとしているのは察しているはずだ。にもかかわらず飛び込んでくれたのは、奴からの決着を付けようという意志の表れでもあるだろう。

 

「望むところだ。海坊主、俺が入ったら()()()()()()()!」

”フン! ……死ぬなよ。香が悲しむ”

「女を泣かせるのは嫌いで、ね」

 

 パイソンを抜いてビル内に足を踏み入れる。世界は紅に染まり、仕事帰りの人たちの雑踏が銃声を、夕焼けの赤が血の色を隠すだろう。さぁ、決着の時だ!

 

 カツン! とビル内に足を踏み入れる。まだ所々に鉄骨が剥き出しになっているそのビルは、外からの狙撃がやりやすくなっている。なので奴が俺を迎え撃つならば……

「屋上、だよな、やっぱ」

 

 最初っから想定していた事ではある。十三階あるこのビルの屋上なら風も強く、銃撃戦の音を散らしてくれるだろう。

 また、上がってしまえば逃げ場はない。ともに世界一を謳われる狙撃兵(スナイパー)掃除屋(スィーパー)がケリをつけるには相応しい舞台だろう。

 

 カンカンカン、と足音を立てて工事の足場階段を上がっていく。奴もこちらの狙いを察しているだろう、不意打ちや奇襲なんてヤボな真似はしてこないはずだ。

(どこか、俺と似ているのかもな……だが!)

 決意を固め、最上階から屋上への階段に手をかけ、パイソンを握りしめてその身を屋上へと躍らせる。

 

(美女に涙を流させるヤツは、許さんっ!!)

 

 

 屋上に躍り出た獠は、そのまま真っすぐ貯水タンクに向き直る。工事中のビルゆえに、資材搬入用のクレーンや簡易トイレ、フォークリフトなど隠れる所はいくつもあるのだが、彼はその一点に狙いを絞っている。

 

「安心しな、狙撃で狙う奴なんざいないさ。そんなヤボはさせないよ!」

 獠が貯水タンクにゴルゴが隠れている事を確信しているのは、そのタンクの影が唯一、四方のどこからも狙撃を許さない死角になっているからだ。超一流のスナイパーならば、自分がどこにいたら狙われるかなど当然察するだろう。ならば奴が身を隠す所はここしかない、という訳だ。

 

「!!」

 

 獠に緊張が走る。目の前の貯水タンクから今まさに殺気と気配が湧きたったからだ。銃を構えて、奴が飛び出すその瞬間を狙う!

 

 ばっ! と横っ飛びで現れたゴルゴ13が、そのM-16ライフルの銃口を獠に……

 

 ガアァァァァーーーン!

 

 獠のパイソンが火を噴き、ゴルゴの持つライフルを吹き飛ばす。だが、その瞬間に獠は戦慄を覚えた!

「ライフルは、オトリかっ!」

 ゴルゴの右手には拳銃が握られていた。そう、奴はライフルの撃鉄に指をかけてはいなかったのだ。

 

 ズキュウゥゥゥーーーン!

 

 ゴルゴの銃が放たれる。が、獠は超人的な反射神経で身をかわし、その銃弾は彼の頬をかすめるにとどまった。だが姿勢保持の余裕は無く、そのまま倒れ込むように本階段の影に身を隠すのが精一杯だ。ゴルゴもまた転がりながらフォークリフトの影に身を潜めていた。

 

(ずっと持っていたM16を、まさかこんな形で使って来るとはな)

 逃走時から不自然だった。身を隠すならライフルは捨てて行けばいいのだ、持っていても重さに加えて目立つのもあっていい事は無い。最初はそれからアシが付くのを恐れているのかとも思ったが、この時の為に持ち続けていたのか!

 

 身を隠しながら相手の気配を探る。と、向こうでかすかな音を聞いた。あれはリボルバーに弾を込める音だ……たった一発撃っただけでもう補充とは、万全な事だなと思いつつ、遼も予備の弾丸を取り出して、さっき撃ったヤッキョウを取り出し、開いたスペースに装弾する。

 

 その作業が終わった時だった。壁の向こうにいるゴルゴが、フォークリフトの影から出て来た気配を感じた! 何だ、何を考えている?

 

 壁の影からわずかに目を出して様子を伺う。果たしてゴルゴはその姿をさらして、こちらにコツ、コツ、と近づいて来る。

(何を考えている? その気になればいつでも奴の体を撃ち抜ける状態じゃないか……)

 

 やがてゴルゴは、獠が隠れる本階段の壁から10mほどの所で停止した。油断なく拳銃を構え、()()()()()()()()()()

 

「貴様っ! どういうつもりだっ!!」

 獠も影から出てその身を晒す。勿論銃はしっかりと相手に向け、その脳天を撃ち抜かんとの意思を、理性で辛うじて抑え込みながら。

 

「銃を抜いている以上、早打ち勝負(クィックドロウ)をしたい、ってワケでもなさそうだな」

 お互いの銃をホルスターに収め、抜いて撃つ速さを競うクィックドロウ。銃での決闘では定番の勝負だが、銃を自分に向けて固まっているゴルゴにその意思が無い事は明らかだ。なら一体?

 

弾丸の口づけ(バレットキッス)……」

 ゴルゴが表情を変えずにそう告げる。それを聞いた獠は一瞬目を丸くし、そして口角を吊り上げて、銃をゴルゴに突きつけてこう返す。

「お前……イカれてるな!」

 

 頬に冷たい汗が流れる。奴が仕掛けてきた勝負は、もうほとんど狂気のレベルの決闘法だ。だが……この男となら、その勝負!

「面白いじゃあないか。いいぜ……受けて立つ!」

 

 二人が拳銃を目線の高さに構えて対峙する。

 

 折しも日没間近、獠の背中には紅に染まる夕日が、まるで彼の燃える闘志のように揺らいでいる。

 ゴルゴの背中には、昇ったばかりの満月が、大きく青く輝く。月光を背負った死神が、あくまで冷徹な目で照準を合わせ、相手の呼吸を図る!

 

 ズキュ(ゥゥゥン)

 ガアァ(ァァァン)

 

 両者の銃が同時に火を噴く。だがその銃声は、同時に発生した強烈な金属音によって、瞬時にかき消された!

 

 ――ギキイィィィィィーーーン――

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「痛ッ! な、なんだ、今の音は!」

「なにこれ……嫌な音」

 ビルの下にいた海坊主が、突然上から響いた金属音に思わず耳を塞ぐ。パートナーの美樹もまた、その異音を聞いて戦慄を覚える。

 聞いたこともないような甲高い、まるで鉄パイプに銃弾をかすらせたような、いや、もっと()()()()()()()()()が、事態の異常さを予感させる。

 

「なんだ? 今何か聞こえた?」

「なんか耳鳴りがしたような……」

 ただの通行人も、その音に思わず反応する。銃声すらも聞こえないこの状況で、まるで人が聞き取れるギリギリの高オクターブ音であるかのように、普通の人の耳にまで届く。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 その音の発生地、冴羽獠とゴルゴ13の中間地点に、ひとつの鉛の塊がごとっ、と落ちる。

 それは今まさに発射された二人の鉛弾が、寸分狂わぬ位置とタイミングで正面衝突し、()()()()()()()となって合体したものだった。

 

「まず……ひとつ!」

 二人のリボルバーの弾丸は六発。あと五回、この二人はこの神業ともいえる銃撃のゲームをクリアしなければならないのだ。

 

 弾丸の口づけ(バレットキッス)。至近距離で全く同時に銃弾を発射し、そのお互いを激突させ、濃厚なキスのように絡まり合った鉛の塊を生み出す、死と狂気の遊戯。

 

 

 

 シティハンターとゴルゴ13が、雌雄を決するまで、あと最大で、銃弾五発――

 

 




多数の評価ありがとうございます。

いやぁ、何か催促したみたいで申し訳ないw
(あからさまに催促じゃろがい!)
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