シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第十二話 全ての真実

――ガッチイィイィィィィィーーーン――

 

「また、この音!」

「これは……銃弾と銃弾が衝突する音! 間違いない、銃弾の口づけ(バレットキッス)だ!」

 海坊主がビルのたもとから天を仰ぎながら、二度目の金属音でその正体を看破する。

「バレットキッス?」

「中米の傭兵どもがやっていた処刑法だ。裏切り者や敵兵をペアで捕らえて、お互いの銃弾を正面衝突させるように撃ち合いをさせる……ハズれりゃ当然どちらか、あるいは両方とも死ぬ、タチの悪いリンチの一種だ!」

 

 美樹の質問に吐き出すように答える海坊主。元々は紛争地帯の銃撃戦で、たまたま激突した銃弾が、まるでディープキスの唇や舌のように鉛が絡まっていることから考案された、ロシアンルーレットなど比較にならないほどの危険なゲーム。

 

「そんな無茶苦茶な!?」

「そうだ。だが、あの二人なら、あるいは……ケッ!」

 

 思わず語気荒く吐き出す海坊主。目の見えない自分には決して再現できないデスゲームに踏み込んでいる二人に、思わず憤りを感じて。

 

――ギュイイィィィィィーーーン――

 

「さ……三回目っ!?」

「あの……化け物どもめ!!」

 

 その時だった。一台のミニクーパーがそのビルに到着し、中から一人の女性が勢いよく飛び出してきたのは。

「海坊主さん、美樹さん、獠は?」

「香さん!」

 

 獠のパートナーである香が連絡を受けて到着する。彼女は一刻も早く獠の元へ駆けつけるべく、二人に現状説明を求める。

「ヤツらは……上だ。だが今は行くな!」

「どうしてっ!」

 立ちはだかる海坊主に香が抗議し、その剣幕に負けない勢いで言葉の圧をかける。

 

「奴は今、決闘の最中だ! お前が行けば奴の集中を乱す!」

 今、獠とゴルゴがやっているのは、極めて繊細な集中力が求められる勝負だ。香がそこに現れれば、ヤツの集中が乱れてしまう可能性が極めて高い。

 

「決闘、ですって……?」

「ああ。銃弾の口づけ(バレットキッス)、銃弾同士を激突させる狂気の決闘だ。分かるな、お前も獠のパートナーなら、奴を信じて待て!」

「分かった……じゃあ」

 

 ふ、と張った気を和らげた香を見て、海坊主は安堵して警戒の姿勢を解いた……その瞬間!

「じゃあ、なおさら行かなきゃならないでしょうが! 獠おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 海坊主の脇をすり抜けて、階段へ向けて突進する香。「んなっ!?」という顔をした彼と美樹を置き去りにして、土煙を上げて階段を駆け上がっていく。

 

 後に残された美樹と海坊主は、その口をあんぐり、と開けたまま固まっていた。

 

――ギャリイィィィィィーーーン――

 

 その時、四発目の銃弾の口づけの音が、夜のビル内に響き渡る。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「あと……二発っ!」

 

 獠が全身に冷や汗をかき、顔面蒼白になりながらも愛銃のパイソンの引き金に指をかける。

 相手の呼吸を読み、それに合わせて引き金の芯を引き絞る。そして相手と寸分たがわぬ弾道で、相手と完全に同時に弾丸に点火しない限りこの勝負は続かない。俺かゴルゴのどちらか、あるいは両方が交錯した銃弾に顔面を打ち抜かれて終わるのだ。

 

(なんという、男よ)

 ゴルゴもまた全身に戦慄と発汗を感じながら、高ぶる感情を必死にコントロールしていた。あくまでこの勝負は自分から仕掛けたものなれば、あくまで『冴羽の銃撃に()()()()()()()』のでなくてはならない。

 それを差し引いても、この男の精神力、そして技量は異常だ。今まで出会ったどの強者たちよりも上を行く……死神と揶揄される自分に、まるでその死神の鎌を喉元にあてがわれるようなプレッシャーが襲う。

 

 グッ、と、両者の引き金に力が籠る。そして次の瞬間!

 

 ――ビギイィィィィーーーン――

 ごとっ。

 

 5発目の銃弾の絡み合いが、戦慄の衝撃音と、妙に落ち着いた落下音をその場に鳴らした。

 

 

 もはや極限状態で勝負に集中していた二人。そこに予想だにしない人物の声が響き渡り、彼らの精神を現実に引き戻す。

 

「獠ーーーっ!!!」

 本階段の出口から現れた香が、そこにいた。

 

「か、香……馬鹿ッ! どうして来た、引っ込んでろッ!」

 獠が思わず怒鳴りつける。今はこの死神と生き死にのやりとりの最中だ、そこにお前が来たらどうなるか……海坊主は何をやっていた!?

 

 精神が乱れる。こんな状態で次を、最後の一発を当てられるのか!

 いや、もし奴が香を人質に取ったら……それでも甘い。俺の動揺を誘う為に香を射殺したりしたら……マズい!!!

 

 今は香よりゴルゴだ。奴は今も俺に銃を向けている、奴から意識を切るな、目を離す……な?

 

 って、そのゴルゴが()()()()()()()()()? どーゆーコト??

 

 奴の目線を追う。香の出て来た本階段から、少しづつ俺の方に目線を泳がせて来る。つまり……()()()()()()()()()()()()()()を見ている?

 ヤバイとは思いつつも、目線を横に向ける。

 

 目の当たりにしたのは、思っていたのと全然違うヤバい状況だった。

 

()()ほっぽっといて、こんな所でなにしとるんじゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 どっごおぉぉぉん!

 香の100tハンマーが、獠をビルの屋上の床にめり込ませた。

 

「ちょ……香たん、シリアスの空気、読んで……」

 

 ハンマーの下敷きになったままそう抗議する獠。が、香はハンマーを持ち上げてくるりと一回転させると、それを肩に担いだまま余った右手で獠の首根っこを引っ掴んで、そのままずるずると引きずって階段に向かう。

 

「空気読むのはアンタの方でしょうが! さっさと仕事に戻らんかい!」

「し、しごと、って……何しゅればいいのよー」

「アンタの仕事は()()()()()()()()()でしょうがっ!」

「へ? ご、護衛って……あのオッチャン、死んだんじゃ」

「生・き・て・る・わ・よ!!」

 

 会話がそこまで続いた所で、二人は階段に達した。そこから香に引きずられたまま、階段を尻もちでバウンドしながら連行されつつ、疑問と抗議と泣き言を交互に吐き出す。

 

「だって、確かに心臓を貫通して! って痛い! はなちて香ちゃぎょえっ! あれで生きてるワケいでっ! だっだっだだだっ! 俺は階段バネ玩具(トムボーイ)じゃねぇぞぉ~~~」

 

 やがてフェードアウトしていく獠の声を聞いて、ゴルゴ13は油断なく佇みつつも、ようやく狂気の決闘の空気から解放される。

 弾かれたM16ライフルを回収する。どうやら事は終わったようだ、後は奴と違う逃走経路(ルート)でこのビルを降り、そのまま姿を消すだけだ。幸いこのビルは工事中で、本階段の他にも作業階段や足場、クレーンのワイヤー等、降りる手立ては複数存在する。

 

 ルートを非常階段に決め、その場を去ろうとして彼は、ふと先程の決着の瞬間を思い出していた。

 シティハンターの片割れである槙村香の乱入と、あの冴羽獠を叩き潰して去っていくその様を思い出して……

 

 彼はほんの一瞬、その口角を、ふっ、と釣り上げた。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「その依頼……()()

 二週間前のフランス、シーニュ地方で、ハインツの依頼の全てを聞いたゴルゴ13は、そう結論を告げた。

 

 その答えを聞いた依頼主、ミケール・ハインツは、がっくりと首を垂れる。

 だがそれは予想された答えではあった。元々が困難を極める難易度の狙撃であるのに加え、自分以外の誰も殺さないという縛りは、現場でプロに出会った時には必ず殺すという彼のルールにも反する。厳格な彼が己に課したルールを破ってまで、危険な任務を引き受けるはずもないのだ。

 ましてターゲットはこの私。殺そうと思えば今すぐにでも出来る。それをせずにわざわざ一番困難なタイミングで殺せなどとは、やはり馬鹿馬鹿しい注文であったようだ。

 

 そしてハインツは依頼時のルールとして、断られた時の理由を聞いてはならない事も知っている。なのでもう彼を頼る事は出来ないのだと、諦めて顔を上げる。

 

 だが、彼はまだそこに居た。どうして? 彼にとってもうビジネスは終了したはずなのに……

 

「ミケール・ハインツ。()()()()()()()()()

 

 ゴルゴのその台詞に固まるハインツ。彼を雇おうとしたのは私のはずだ、だがそれを断られたうえで、逆に彼が私に何を望むと……?

「うかがい、ましょう」

 

「お前には、俺の為に美術界の情報を知らせてもらいたい……その為に、()()()!」

 ざわっ、と戦慄を覚える。その真剣な眼差しに思わず圧倒されながらも、なんとか言葉を返す。

「私に……死ぬな、と?」

 

「そうだ。美術や宝石の世界は()も多い。今の俺にはそちらのコネクションが無い……俺はお前に、その役どころを頼みたい」

 

 ゴルゴは世界最高の狙撃兵である。だが世間の認識はあくまで一匹狼の彼だが、実際には世界中に協力者がいるのだ。

 彼との連絡を繋ぐ者、依頼の為のラジオを流すDJ、今回も世話になった通信技師のショーン・鍛冶屋を始めとするネットワークの達人、世界中にある隠れ家を管理する者たち、そしてデイブを始めとする武器を世話してもらう銃器屋、果ては飛行機やクルーザーを調達するための者達。それらの者達の力があるからこそ、彼は不可能を可能にする狙撃を成し遂げて来たのだ。

 

 だが美術品、特に絵画の世界には、そういう協力者がいなかった。そしてそのせいで一度、ゴルゴの狙撃の姿勢をスケッチされた絵が世間に晒された事があった。

 もしこの世界にも彼の協力者がいたならば、あれほど長く自分の狙撃の姿をさらす事など無かったであろう。

 そんな経験もあり、彼は絵画の世界の協力者を欲していた。だが彼の眼鏡に叶うには、嘘偽りのない真摯さと、絵画の世界の奥に踏み込めるだけの実力の両方が必要だったのだ。

 

 そしてその資格を持つ者が、いままさに目の前にいる。

 

「受けてくれるなら、()()()()()()()()()を叶えてやろう。()()()()()()()()として」

 

 つまり今後()()()ゴルゴのために働くなら、望み通り娘達の前でお前を()()()()()()()、と言うのだ。

 

「偽装殺人を、成す、と?」

「そうだ。俺の狙撃によってお前は死ぬ、あくまで見せかけだけ、だ」

 

 ゴルゴの掟、仕事の最中に同業者とかち合ったなら必ず決着をつける。例えシティハンターでもファルコンでもだ。

 だが、()()()()()()()その限りではない。これから行う計画は、あくまでハインツを雇う為の()()()()()()、ならば彼の望みである『自分以外の誰も殺さない』という縛りを叶えることが出来るのだ。

 

「ですが……あのプロたちを相手に、果たして騙せるのでしょうか」

「それはお前が心配する事ではない。聞きたいのはイエスかノーか、だ」

 

 しばしの間の後、ハインツはゴルゴ13に、ゆっくりと頭を下げた。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「こりゃあまた……とんでもない注文じゃのう」

 アメリカ、ニューヨークの葬儀屋の地下室で、銃器製造調整屋(ガン・スミス)のデイブ・マッカートニーは、ゴルゴ13が置いていったいつもながらの無茶な注文に思わずそう嘆いた。

 

 自分に無理なら誰にも出来ない、などと言われればさすがに無下にも出来まい。なにしろこの男の仕事もまた無茶なものばかりなのだ。ならその仕事の道具の作り手が泣きを入れる訳にはいかんと言うもんじゃ。

 

 いつもなら注文された道具を作るだけで、その用途は特に詮索しない。だが今回の依頼は、その用途も一目瞭然だ。

 

『心臓を胸から背中に貫通させて、それで()()()()銃と弾を作れ』

「さて、どうしたもんかのう……」

 

 

 翌朝、彼が徹夜でこしらえた銃と弾を、訪れたゴルゴに渡しつつ、その説明をする。

「この弾丸が特殊でな、表面はカプセル状になっとる。相手の胸に命中すると、皮を突き破った段階で表面は粉砕され、中にある三日月状の弾丸が弧を描いて心臓の周りを半周し、反対側に出て来る作りになっておる」

 デイブが作ったのは、通常弾の中にまるで日本のスナック菓子『柿の種』のような弾丸が仕込んである弾だった。相手の心臓の真上に命中したこの弾は、そのまま心臓を器用に避けて、反対側に貫通する仕掛けがしてあった。

 

 もしその狙撃を目の当りにしたら、戦場で銃器を持って戦う者ほど、つまりプロであればあるほど、その人物が心臓を撃ち抜かれたと錯覚するだろう。

 

「この赤い印を左側に向けて装填してくれ。それなら心臓をよけつつ、肺の隙間を抜けるはずじゃ。まぁ肺の方は保証の限りではないがの」

「と、言う事は……」

「そうじゃ。方向を固定するために、このM-16にはライフリングがされとらん。以前のように羽根を仕込むこともできん。なので射程はせいぜい15mってところじゃ」

 

 銃の筒の内側には通常、ライフリングと言われる螺旋の溝がある、この溝で撃ち出された弾丸はキリモミ回転をしながら、高精度な直進で飛んで行けるものなのだ。

 

 だが、今回の狙撃は心臓を迂回した弾丸が、外に出ないように体を通り抜けて貫通しなければならない。なのでライフリングを切るとどの方向に弾が飛び出すか分からなくなる。

 

 そして、ライフシングを切っていない銃は直進性が極めて悪くなり、射程がすさまじく短くなる。野球で例えるならライフリングのある球はジャイロボールで、無い球は回転の無いフォークボールのように迷走をしてしまうからだ。

 

 つまり、今回の狙撃は至近距離でないと不可能、という事になる。

 

「ご苦労」

 そう言ってデイブの店を後にするゴルゴ13。これで彼が狙う狙撃、その条件の全てが揃った事になる。

 

 だが、代わりに難易度は今までにない程の困難さだ。ハインツを娘の前で殺したように見せ、なおかつ敵の追撃を()()()()()()振り切らなければならない。奴らのテリトリーの真っただ中で!

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 ビルの階段を降りきった彼、ゴルゴ13は、珍しく今回の仕事、いや報酬の支払いの余韻を少しだけ感じていた。

 

 もうこの街に、自分を包囲しようとする気配はない。彼はここからいつも通り、まるで夜の闇に溶け込むように、姿を消すのであった――

 

 

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