シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第二話 依頼の全容

「はいはいはい! 迷子の犬猫探しから要人警護まで、どんな事でもシティハンターにお任せください!!」

「ご安心を泪さん。この私のベッドでの護衛はまさに鉄壁です、さぁさぁ安心して熱い夜を……」

 

 香が目に『¥』の文字を、獠がハートマークを浮かび上がらせて泪にずいっ、と迫る。無論その直後、香と美樹のツインビームハンマーが獠を叩き飛ばしたのは言うまでもない。

 

「このもっこり大魔王! 上客中の上客になにやってんのよ!!」

「ウチの大家さんに手を出したら許しませんからね、冴羽さん!」

 

 ハンマーを持ったまま、壁に埋まってる獠にそう吐き捨てる香と美樹。香にとって大富豪である泪からの依頼はまさに清貧からの救い主であり、美樹にとってもファルコンとの夢の生活であるこの喫茶店を続けていくのに、オーナーである彼女の身の安全は絶対条件である。

 

 修理代はいいのかしら、と壁に埋まった獠を見て泪が嘆く。彼女にとっては店を破壊されて迷惑ではあるのだが、まぁ普通にロケットランチャーを撃ち込まれたりする店なんで、気にしても仕方ないのだが。

 

「えー、こほん。それでは気を取り直して、依頼内容を説明させてもらっていいかしら?」

「あ、はいっ! お騒がせしましたぁっ!」

 ハンマーを仕舞い(どこに?)、泪に対してかしこまる香。カベから抜け出してきた獠も、鼻血とバンソーコーを顔中に張り付けたまま、その隣に座る。

 

「まず、これを見てください」

 

 差し出されたのは一枚の新聞の切り抜きだった。外国のそれらしく、アルファベットが羅列されてはいるが、記事自体も小さく文字も少なめで、そう大きく取り上げられているニュースではなさそうだ。

 

 香は解読に自信が無いのか、文字を眺めるにとどまっているが、獠の方はアゴに手を当ててその文章を読み取っていく。

 

「ドイツ語だな……なになに? 幻の画家、ミケール・ハインツ。東京で個展を開催、か」

 

 そう発した瞬間、背を向けていた海坊主と美樹が弾けるように振り返った。その名前には重要な覚えがあったからだ。

「ハインツ! 見つかったんですか!?」

「オーナーのお父上! ずっと探しておられた方が……」

 

 え、え? と困惑する香。それを見て泪は、深刻な顔で解説を始める。

 

 ミケール・ハインツ。ドイツの高名な画家であり、泪、瞳、愛の父でもある人物。もう長年行方知れずで、彼の居所を知るために三人娘は怪盗「キャッツ・アイ」となり、ハインツの絵やゆかりの物を盗み続けることで、彼がいつか名乗り出てくる事を待ち続けていたのだ。

 

 しかし彼の絵をすべて回収した後でも、ハインツが名乗り出てくることは、ついになかった。

 

「ふーん。でも本人とは限らないんじゃないかな? フェイクニュースの匂いがぷんぷんするぜ」

「ちょ、ちょっと獠! そんな希望を折るようなコト」

「香、残念だがありがちなコトだ。画家っていうのはゼロから金を生み出す金の卵、裏社会の連中も悪しきにつけよく彼らを利用する。ハインツ氏が長年行方不明だったのも、どうせそんな絡みだろう」

 

 獠の言葉に愕然とする香。海坊主も美樹もその後ろで神妙な顔をしている。

 

「じゃ、じゃあ、この記事もなにか、ハインツさんの名前を利用して、悪だくみを?」

 獠以下三名がさもあろう、と頷く。が、ただ一人、泪だけがその意見に首を横に振る。

 

「私達もそう思って、その予定の会場に忍び込んでみたの。つい5日前の話よ」

 泪いわく、会場はこの新宿にある古いビルの三階だそうだ。もちろんまだ何の準備も始められておらず、空き家となったそのスペースには何もなかった。だが……

 

「脇の押し入れになっている所で、一枚の絵を見つけたの。梱包されていて、外国からの配送物シールが貼られていたわ……ドイツからの、ね。その時に撮ったのがこの写真の絵」

 

 彼女はカバンから一枚の写真を取り出し、テーブルに置く。

 

「初めて見る絵だけど、間違いなく父の、ハインツの絵よ。鑑定眼のある愛が確認したから間違いないわ!」

 

 そこに映っていたのは三人の天使の絵だった。だがその表情はどこか困惑した、または怯えている様子で、他の画家が描く天使の名画とは違った何かを感じさせる。

 

「これって……泪さんたち三人じゃ」

 香の嘆きに、こく、と頷く泪。その三人の天使は、幼いながらもどこか泪、瞳、愛の三姉妹によく似ていた。これをハインツが描いたと考えるなら、彼はまだ確かに存命で、そしてその場所で本当に彼の個展が開かれる可能性は高い。

 

「彼女らが怯えているのは、何らかのメッセージ、かな」

 

 この絵が先行して会場に送られている事、彼女たちが怪盗キャッツ・アイで、記事を見てここに潜入することを予想していた事。それらがハインツの、あるいは何者かの目論見だとしたら、この絵は彼女たちに何かを訴える伝言であるのかもしれない。もちろん、ただの偶然である可能性も否定はできないが。

 

「じゃ、じゃあ、それも込みで、私たちに確認をするのが依頼?」

「ええ。この記事や会場、そしてこの絵を手掛かりに、ハインツを探し出してほしいの。そして、私達三人のもとに連れてきてほしい……それが、貴方たちに対する依頼」

 

 泪が目を潤ませてそう告げる。彼女たちにとっては悲願であった父との再会。その手掛かりを手繰るまたとない機会に、シティハンターへの助力を頼んだという事だろう。

 さっき獠が言った通り、大金を産む画家には悪党が付きまとうものだ。その排除も込みの依頼ということか。

 

「分かりました、お任せください。ねっ、りょーう!」

「フッ、親子の感動の対面など、俺にかかれば簡単なことです……ですから……」

 その反応に香がぴくっ! とコメカミを引きつらせる。

 

「まずは前払いアーンド前祝いに、もっこりいっぱつぅ~!」

「シリアスを持続せんかーいっ!!」

 

 どっがあぁぁぁぁん!!

 

 香が出した釣り鐘棒付き巨大モーニングスター『こんぺいとう13号』が、獠と喫茶店の壁を豪快にサンドイッチしていた。西側の壁が目も当てられないほどひび割れを走らせてる。

 

(ホントにこれ、どこから出したのかしら)

 泪はただ、その光景を呆然と見届けるだけだった。この二人って……?

 

 

「あ、あの……これってかなり大仕事ですよね。申し上げにくいのですが、依頼料の方が、結構……」

 香が媚びるような顔でそう切り出す。事実、どこにいるかもわからない人の捜索と、絡んでくる悪党の排除。経費だけでも相当な額になる……あとここの壁の弁償も含めれば、とても今の手持ちでは受けられない。最悪借金して受けなければならず、依頼料を確約できなければこの仕事は厳しい。

 

「ボキはもっこり一発でOKですけどね、げへへへへ」

 ミイラ男のようにホータイだらけになっても獠は通常営業である。日本刀でツッコミかけた香だが、それを差し手で止める泪。

 

「大丈夫、依頼料は前金でお払いします。現金で二千万円。足りますか?」

 

「「に、にせんまんえんっ!?」」

 

 香と獠がかつてない高額依頼に目を丸くする。いくら悲願の父との再会がかかるとはいえ、そこまで奮発していいの? と少し引く香。

 

「あと冴羽さん。一夜のお相手がお望みなら、叶えて差し上げてもよくってよ」

「「ええええええっ!?」」

 今度は海坊主たちも含めて驚きの声を上げる。なんと獠と一発してもいいなどとは、今までにない破格の報酬だ。

 

「ぬはーっ! やっぱ泪さんほどのお方は見る目が違う。んじゃ早速~」

 飛びかかろうとした獠の包帯を香と美樹がひっつかみ、左右に引っ張ってその体を締め上げる。

「泪さん、いけません。もっと自分を大事にしないと!」

 

「まったくだ。こんな男に操をささげるなど、人生最大の汚点になりますぞ」

 海坊主がオーナーの泪を気遣ってそう詰め寄る。だが彼女は髪の毛を書き上げるポースの後で、ハムのように締め上げられる獠に正対してこう告げた。

 

「冴羽さんと寝るにあたって条件が二つあります。まず一つ目、この報酬は後払い、つまり依頼完遂の後にお支払いするということ」

 

「ダメですって泪さん。二千万円も頂ければ十分ですって」

「でも、そのほうが冴羽さんもやる気出るでしょ?」

 香が止めようとするが、泪はさらっとそれを流す。獠もそれに答えて満面の笑顔でうんうんと頷く……タフよねぇ、とこぼす泪。

 

「そしてもうひとつ。パートナー、つまり香さんの許可を取ること、それが条件です」

 

 え!? と固まる一同。なるほど、獠が客ともっこりする許可なんて香が出すわけもない。その時は誰もがそう思ったのだが……

 

「安心して香さん。私と彼の逢瀬は一夜限りのこと。決して彼と恋仲になることも、結ばれることもないわ」

 

 全員の空気が固まる。この人は……本気で獠と寝てもいい、と言っているのだ。

 

「私にとって今回の依頼は、そこまでする価値のあることなの」

 

 長年探し続けてきた父親との出会い。それを成すために泥棒までしてきた、協力者の永石さんに何度も大金と手間をかけた。いわば泪のここまでの人生の集大成ともいえる懸案なのだ。

 

 その意志の強さに一堂、しばし沈黙する。

 

 

「でも、納得がいきません!」

 沈黙を破ったのは美樹だった。明らかに嫌悪感をまき散らして泪に問い詰める。

 

「そんな依頼ならファルコンに頼めばいいじゃないですか。どうして冴羽さんに? 自分の貞操をささげてまで!」

 

 そう、海坊主も獠に劣らぬ一流のスィーパーである。彼に依頼すれば美樹とともにきっと彼女の期待に応えられるだろう。ましてや二人にとって泪は恩人、その恩を返すいいチャンスなのに。

 

「そりゃボキのほーが。海ちゃんより頼れるからでしょ~、主にベッドの中で」

「やかましい!」

 ボンレスハムになっても懲りない獠の顔をパコン! と1tハンマーで叩く香。

 確かに美樹の言い分にも一理ある。だが、ここで依頼を海坊主さんに搔っ攫われたら、シティハンターは財政難から廃業の危機に陥ってしまう。なのでなんとか獠を抑え、美樹さんの機嫌を直したいところだが……

 

 

「冴羽さんにお願いする理由、それをこれからお話します」

 

 泪はより一層深刻な表情で、カバンから別の封筒を取り出した。その表情はいよいよ切羽詰まった、恐怖すら内包したような色を浮かべている。

 

「永石さんの協力で、この新聞記事の日以降の日本に入国する人をチェックし続けていました。そして4日前、この写真が成田の監視カメラに映ったんです!」

 客のいない店内で、なぜか周囲を警戒しながら封筒を開ける。そして……引き出された写真には、ひとりの男性が映し出されていた。

 

 顔の緩んでいた獠が、そして美樹が、その写真の男を見て一瞬で表情を変える。獠はぴりっ! と緊張の色を走らせて、美樹は恐れに愕然とした色を浮かべて……

 

()()()13(サーティーン)、か!」

 

 裏の世界でも知らぬ者の無い超一流のテロリスト。国家組織を相手取り、あらゆる狙撃を成功させて来た、誰もがモンスターとまで称するまさに『死神』の姿だ。

 

「彼の経路をたどってみたけど、フランスからドイツ、そしてアメリカ経由で日本に来てるわ。この新聞記事を見て行動を起こしたとしたら、日程がぴったり一致するのよ」

 

「ヤツが……ハインツ氏の抹殺を依頼されて来日した、その可能性は確かにあるな」

 海坊主はそう嘆くとともに、この依頼が自分ではなく獠に行ったことの理由を理解した。

 

「え……みんなこの人知ってるの?」

 香だけが事情を知らずにそう聞いてくる。獠はスマキになったまま、真剣な表情で香に返した。

 

「世界的な狙撃者(スナイパー)であり、超一流のテロリストだ。その狙撃は芸術レベルで、この世界の伝説にもなっている」

 

 獠達三人は香に語る。彼らの知る限りのゴルゴ13の離れ業を。

 

 明らかに銃の射程範囲外から山なりの弾道でピンポイント狙撃を成したとか、ビルから落下しながら拳銃で部屋にいる要人を打ち抜いて、特殊な受け身で水面に飛び込んだとか、プールの水を利用して跳弾射撃を実現させたとか、誰に話しても信じないような神業が次々と語られていた。

 

「なるほど、海ちゃんに依頼が行かないわけだな」

 獠の言葉にしゅん、となる美樹。

 

「どういう、こと?」

「ゴルゴ13の仕事は超が付く遠距離狙撃だ。目が見えない海坊主じゃ勝負にならない」

 

 海坊主は失明してなお、その気配の察知力や洞察力で超人的な行動力を持っている。

 だが、その神業もせいぜい数十メートル先までの範囲でしかない。一キロ近く距離を置く遠距離狙撃で相手の気配を察し、スコープも見ずに狙撃するのは、いかに彼と言えど不可能だ。

「しかも相手は超一流だ。狙撃の瞬間まで殺気は完璧に消しているだろうし、な」

 

 確かに、と納得する香。もしそのゴルゴ13って人と狙撃銃を向け合って遠い距離で相対したら……目の見えない海坊主さんじゃ、さすがに敵わないだろう。

 

「じゃ、じゃあ、海坊主さん達にも手伝ってもらったらどう? 狙撃は獠に任せて近距離での戦いを受け持ってもらったら……」

 

「駄目だっ!!」

 今までにない剣幕で怒鳴りつける獠。その勢いに香も思わずびくっ、と反応する。

 

「な、なによ……今までだって海坊主さんに手を貸して貰ったことはあったじゃないの!」

 ふくれっ面で反論する香に、獠はふぅ、と息をついて言葉を返す。

 

「ヤツにはヤツのルールがあるのさ」

 そこで一度言葉を切って、香を正面から見据えてこう続けた。

 

「仕事の現場で()()()()が出くわした時、奴は必ず()()()()()()のさ。それがやつの掟ともいえる流儀だ」

「じゃ、じゃあ……」

 

「ああ。もし本当にゴルゴ13がハインツ氏を狙ってるとしたら、俺か、奴のどちらかは……確実に死ぬ!」

 

 香の背筋にぞっ、としたものが走る。

 

 私達シティハンターにはそんなルールはない。この海坊主さん達とも、獠の旧友であるミックとも上手く付き合っているし、倒してきた同業者だってほとんど殺してなんかいない……まぁボコボコにして警察に引き渡してはきたけど。

 

「本当はゴルゴ13の行動を調べた泪さんだって危ないんだ。ヤツは自分を探る物には容赦しないからな」

「そんな……」

 

 思わずよろめいて一歩後ずさる香。本物の中の本物、その徹底ぶりに、今までにないプレッシャーが彼女を襲う。

 

「だからこんな仕事に()()()()を巻き込むわけにはいかない。だからこそ俺達に依頼して来たんだろう?」

 

 獠が泪にそう問い詰める。彼女はこく、と頷いた後、自虐的にこう続けた。

 

「私にとって、この喫茶店を守ってくれるファルコン夫妻は大事なのよ。少なくとも……シティハンター、貴方達よりは!」

 

 その非情な物言いに、獠は逆にふっ、と笑ってこう返した。

 

 

「なるほどね。俺達は()()()、ってワケか」

 

 

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