シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第三話 ゴルゴと協力者たち

 ドイツ、ミュンヘン国際空港。

 そのターミナルにて、たった今飛び立ったばかりの国際便を見送る、一人の男の姿があった。

 

標的(ターゲット)、ミケール・ハインツは予定通り、痕跡を消しながら日本に向かう、か)

 

 見送る男、コードネーム『ゴルゴ13』は、これからの行動に想いを馳せ、超一流のプロとしてやるべき事を組み立てて行く。

 

 彼はすでに標的を補足していた。だが今回の狙撃は極めて複雑に絡まった条件の下で為さなければならない。もし、それらの縛りが一切無ければ、標的が飛行機に乗る前に全て終わっていたであろう。

 

 ゴルゴにとって仕事に貴賎は無い、どのような任務であっても一部の油断もなく完遂する事こそが彼の流儀であり、全てであると言っていい。

 

 だが、今回だけは今までとは比較にならないほどの困難が予想された。複雑な条件をすべて満たすための狙撃は、その条件のどれ一つとっても極めて困難であり、今までにない程の綿密な準備と計画が求められている。

 

 その最たるのは、標的の極めて近くにいるプロ、恐らくは護衛(ボディガード)の人を引き受けるであろう人物の存在だ。

 

(ファルコン)、そして……シティーハンター、か)

 

 今回の依頼に当たり依頼人から得た情報では、標的(ターゲット)ハインツの娘にあたる女性が経営している飲食店に勤務しているのが、北米、中南米で名を馳せた傭兵ファルコン。そしてその喫茶店に出入りしているのが、シティハンターの異名を持つ冴羽獠という凄腕の掃除人(スィーパー)だというのだ。

 

 麻薬組織『ユニオン・テオーペ』を壊滅させ、ラトアニアの精鋭部隊を退けてクーデターを失敗させ、ドミナテック社の陰謀を叩き潰した事にもこの両名が大きく関わっているとの情報も添えられていた。

 

 おそらく標的の狙撃に対して最大の障壁になるであろう二人の、いや二組のプロフェッショナル。彼らの排除を成して狙撃を完遂させる事が出来るのは、このゴルゴ13を置いて他にないであろう。しかも……

 

「まずは、アメリカ、か」

 誰に言うともなくそう嘆いたゴルゴは、きびすを返して別の搭乗口に向かう。この困難な狙撃に対して、必要不可欠な物を手に入れる為に。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 ニューヨーク、とある葬儀屋の看板が掲げられたビルの一階。その中のさらに奥の部屋で、ある職人風情の男が素っ頓狂な声を上げた。

「なんじゃと……本気でこんなもんを、作れると、思ってるのか?」

 裏の銃器製造調整屋(ガン・スミス)、デイブ・マッカートニーは傍らに立つゴルゴ13の依頼を受けて目を丸くし、仕様書を持ったまま思わず一歩後ずさる。

 

「世界一のガン・スミスであるお前に出来ないのなら、誰にも出来ない」

 冷ややかにそう返すゴルコ13に、デイブはやれやれと息をついて、その書類をもう一度眺める。

 

「まぁ、あんたの無茶振りはいつものことじゃ。さて、どうしてくれようかの……」

「明日の朝が期限だ。それまでに頼む」

「な、なんじゃとぉっ!?」

 デイブにしてみればそれはとんでもない無茶振りだ。こんな曲芸みたいな狙撃を実現する銃と弾を、たった一日で()()()作り上げろと言うのだから無理もない。

 

 だが、ゴルゴの方も時間は限られている。約束の狙撃の時までもうあと十日ほどしかない、しかも舞台は日本なので銃が仕上がっても、それを分解して無害な機械のパーツに偽装し、別々の荷物で日本に郵送しなければならないのだ。

 ましてや日本での情報収集、地形や季節からの風向き、新たに建てられたビルから看板一つまで把握しておかなければならない。困難な狙撃に備えて時間はいくらあっても足りないのだ。

 

「相変わらずじゃな……まぁそれに見合う報酬はくれるんだから、やってみるとするか」

 そう言って白紙を机に広げ、ペンを取ってイメージの製図にかかるデイブ。それを見届けたゴルゴは、「明日朝に来る」とだけ残してその部屋を後にした。その声のトーンに「頼む」との音色をしっかりと込めて。

 

 

 翌朝、デイブの店に再びゴルゴが訪れた時、果たしてその銃と弾は完成していた。

 精も根も尽き果てたデイブだが、それでも銃に対する説明を省くわけにはいかない。極めて特殊な作りのその銃器を扱うには、いかにゴルゴといえど十全に知っておかなくてはならないからだ。

 

「ご苦労」

 そう言って札束をデイブの前に積む。それを受け取って「成功を祈っておるよ」とだけ返すと、デイブは札束を抱えたまま机に突っ伏して寝息を立て始めた。

 

(まず、ひとつ)

 ゴルゴは心の中でそう呟いて、その地を、そしてアメリカを後にする。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 日本、成田空港。フライトを終えたゴルゴはターミナルへと降りる途中、税関のカメラをちら、と見上げて心の中で呟いた。

(これで、俺の動きを掴んだか……(ファルコン)、シティーハンター)

 

 空港の監視カメラで自分の姿を捕らえられる事にはもう慣れていた。今までも名うてのハッカーや大企業がこのカメラを使って自分の行動を把握していた事は何度もあり、もはやそれを阻止することが不可能なのは受け入れなければならない。

 

 自分が来日した事が知られれば、当然ターゲットがハインツである事も予想されるだろう。プロとは常に()()()()()を考えてしかるべきだからである。

 果たして向こうの方からアプローチがあるのか、または尾行や監視を寄越すのか、それとも守るべき人物のガードに専念するのか……ここからはお互いの腹の探り合いとなるだろう。

 

 舞台となるであろう新宿の街を一通り見て回った後、夜を待ってとある高層ビルの上の方にあるバーに入り、部屋の一番奥のテーブルでグラスを傾けつつ、その夜景を見下ろす。

(思った以上に複雑な街だ……ここを奴らがホームグラウンドにしているなら……)

 

 さすがに今日着いたばかりで、彼らが自分を認識しているとは思わない。空港の監視カメラをハッキングして自分の姿を見つけるにしても、一便で何百人もいる乗客をチェックするにはそれなりの時間と労力を要する。まして国際線は日に何度も往復しているし、成田の他にも日本には国際空港が複数あるからだ。

 

 それでも最悪を想定して新宿の街を歩いてみたが、さすがに尾行の気配は感じられず、自分に対しても特別視した目線は皆無だった。

 

 反面、街の人々に対しての、特にシティハンターに対しての認識度は相当高かった。特に風俗方面の娼婦や店員、いかにも癖のありそうな商売をしている輩などが『獠ちゃん』『もっこり男』『新宿の種馬』などと称して冴羽の事を語っていたのは印象的だった。

 同じプロでも、世間に対するアプローチは全く違うタイプのようだ。

 

(やはり、ここには長くは居られんな)

 人は石垣、人は城。この日本に伝わることわざの通り、まさにここはシティハンターにとって本拠地と言えるだろう。単に地形や建物、風向きだけではなく、ここに住む人間の多くが奴の協力者になるのだとしたら、その防御はまさに鉄壁であろう。

 

 一度この地を離れ、狙撃の時にだけ舞い戻るのが最善の方法のようだ。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 翌日、ゴルゴは神奈川の公園にある男を呼び出していた。システムセキュリティの専門家であり、ゴルゴの助手の一人でもあるショーン・鍛冶屋だ。

 

「今から……さすがに無茶です。その人、変装してる可能性大なんでしょ? いくら今の顔認証システムが優れているからって……」

 ゴルゴが彼に依頼したのは、ほどなく来日するであろうターゲット、ミケール・ハインツの居場所の把握であった。名うてのハッカーの鍛冶屋の手腕で、自分が認識されているように空港のカメラでハインツを見つけ出せ、というのだ。

 

 だが、彼が言うのは顔認証も必ずしも正確ではない。彼の優れたプログラムで照合しようにも、適合者が複数出る事は避けられないそうだ。空港のカメラが遠方からの映像でしか無いのも、それが不可能な一因となっている。

 

「顔のみではない、『手』でも認証しろ」

「え……手?」

「ハインツは画家だ。その手には顔以上に物を言う特徴がある、それを顔と合わせて照合すれば、より目標を絞れるはずだ」

 

 ゴルゴの習慣の一つ。握手はしないが、その際に差し出された手の平を見て、相手の人生をある程度は想像する眼力がある。利き手の指に出来たタコを見れば、その人物が画家かどうかを絞る事は可能だ、というのだ。

 

「あ、貴方と言う人は……わかりました、やってみます!」

 鍛冶屋は唾をごくりと飲んだ後、ゴルゴに対してそう返す。なんという着眼点、そして自分に対する信頼を感じ、それに応えんとする意識がふつふつと湧き上がっていくのを心から実感した。

 

 幾人もの画家の写真を集め、その手の特徴をプログラムに組み込み、顔認証と合わせてハインツを割り出す!

 俺がやらねば、それは誰にも出来ないだろうから。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 その日の午後、ゴルゴは北軽井沢の、とある古い神社を訪れていた。社の裏手にある住居の戸を軽くノックすると、中から神主姿の老人がぬっ、と現れた。

「お待ちしておりました。用意は出来ております」

 そう言って納屋の方に向かう老人。ゴルゴもまたゆっくりとした足取りでその神主に付いていく。やがて納屋の扉が開けられると、中から一台の白いスポーツカーが現れた。

 

「こちらがキーでございます。名義は私になっておりますので、どうぞご自由にお使い下され。必要な荷物も中に用意して御座います」

「うむ、ご苦労」

 

 ゴルゴはどこの国でも、あまり公共交通機関は使用しなかった。なので各国に車を用意して移動手段として使う事が多かった。

 以前はスーパーカー然とした高級車を使う事が多かったが、最近は発覚を恐れてか、使用する車のグレードを落としている。高級車は泥棒などに狙われやすく、そこから自分のアシがつくのを恐れたからだ。

 

 とはいえ追跡や逃亡に際して、ある程度の運動性能は必須だ。また荒事に備えてある程度頑丈さが求められる。多少の銃撃で動かなくなるようなデリケートな車ではものの役には立たない。

 

 この家はゴルゴの隠れ家の一つだ。神主は実はただの管理者であり、ゴルゴへのつなぎ役としての協力者でもある。そんな彼にゴルゴは、今回の日本での活動の為の車を調達してもらっていたのだ。

 

 日本車ではあるのだが、実質はアメリカで設計されたその車は外側のボディが厚く頑丈で、またスポーツクーペであるにも関わらずFF車なので、最悪後輪を撃ち抜かれても走り続けることが出来る。走行性能に関しても折り紙付き、とはいかないが、普通にカー・チェイスをこなす程度の性能は備えている。

 

「数日後に荷物が届く、受け取りを頼む」

「承りました」

 そう言葉を交わして、ゴルゴはその地を離れる。

 

 孤独なスナイパー、ゴルゴ13.だがその実、彼に力を貸す者は多い。

 

 果たして彼らの献身が、どういう結果をもたらすのか。それはまだ、誰にも分らない――

 

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