シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第四話 ハインツ捕獲大作戦

「さ~て、んじゃハインツお父さんをとっ捕まえに行くとしますか」

 喫茶『キャッツ・アイ』を後にした獠が、香と共に自分のアパートに止めてあった愛車、ミニクーパーに乗り込んでそう宣言する。

 

「って、アテでもあるの?」

 香の疑問はもっともだ。ハインツがいつ来日するのか、それとももう来ていたりするのか、そもそもどの空港から来るのかすら分かっていないのだ。

 加えてハインツは長い間行方不明だった人物だ。昔の写真で顔認証するにしても正確さは疑問である。

 

 その上、億という価値の絵を描く画家と言う立場上、拉致誘拐の被害に遭いやすい人物でもある。本人も何者かに狙われている事を察して変装している可能性も高い。もしそうであれば、見つけ出すのは至難の業だ。

 

「ま、蛇の道はヘビ、ってね」

 自信ありげにそう言って車を発進させる。香はそんな獠をジト目で見つつ、(まーた、この秘密主義者は)と心で悪態をつく。

 

 が、車の進む先を見て、彼女にも何となく予想がついてきた。やがて車は東京とは思えないほどの立派な邸宅の前で止まる。その門の大看板には、今時珍しい文字が躍っていた。

 

 ”関東吉祥組”

 

「そうか、綾子さん!」

「そーゆーコト」

 

 この組は関東でも『最後の侠客』と呼ばれた正統派の極道の組であり、その組長の奥さんである芹澤綾子が未亡人となった時、獠たちがシティハンターとして敵対組織からその身を守ったという縁があった。

 

 当時美術大学に通っていた綾子。今は若頭だった政一と結婚し、組の運営は彼に任せて、自分は油絵を描き続けていた。

 無き主人への思いの込められた絵。そして未来へ向けて歩き出す意思のこもった絵は絵画の世界でも評判となり、一流とはいかなくても、それなりの値段の付く絵を描く画家として名を馳せ始めていたのだ。

 

 

「お久しぶりです、冴羽さん」

 客間に通された獠と香は、芹澤夫妻(政一は養子扱い)に出迎えられ、出されたお茶など気軽にすすりつつ、再会を懐かしんでいた。

「しかし大したもんだ。綾子さんの絵はあちこちで見るけど、ずっとレベルが上がっているよ」

「そーそー、なんかこう絵が生き生きしてるって言うか、絵が躍ってるように見えるものね」

 

「これも全て冴羽さん達のお陰でやす」

 政一が正座したまま頭を下げると、獠はふふん、と笑って彼に顔を近づけ、彼をうりうりとヒジでコネる。

「うまくやりやがったなぁ政ちゃーん、競争率厳しい綾子ちゃんしっかりゲットしちゃってさぁ」

「あ、あはは……組全員で()()()()()()()()()()()とかやりやして」

 

「「へ……?」」

 その言葉に呆然とする獠と香の後ろを、なんかカラスがアホーアホーと鳴きながら通過した気がした。

 

 綾子が「本当にもう」と嘆いて息をつく。彼女には秘密裏に行われた『姉さん争奪トーナメント』は、決勝戦の政一とスキンヘッドの銀の戦いの最中に彼女にばれ、全員そろって大目玉をくらったらしい。

 

 が、それが綾子の決意を固めた。件の一件以来彼女は獠へ思いを寄せていたが、香の存在もあり届かぬ願いである事を知っていた。そんな宙ぶらりんな態度がこの吉祥組の内部で騒動を起こした事を自覚した彼女は、政一に正式に結婚を申し込み、跡目を継いでもらっていた、というわけだ。

 

「それで、今日はいかなる御用でしょうか」

 極道の姉さんの顔に戻った綾子が、まっすぐな目で獠達に問うてくる。それに応えて獠は襟を正し、彼女に質問を投げかけた。

 

「ミケール・ハインツ。その名をご存知かな?」

 その言葉に綾子がはっ、と目を見張って、ごくりと唾を飲み込む。

「もちろん知っています……今や伝説的な画家で、多くの画商や金持ちが彼の絵を求めています」

 

 ただでさえ高値のつく彼の絵は、そのほぼ全てが『キャッツ・アイ』という怪盗に盗まれたこともあり、その値は天井知らずに跳ね上がっていた。彼の贋作も多く出回り、下書き程度の捨てられた絵すら数百万の値が付くほどだったのだ。

 

「もし、彼がまだ生きているとしたら……彼を拉致して囲う()()に心当たりはあるかい? 拉致を実行できる力も込みでね」

「ハインツが、生きている? だと、したら……」

 

 蛇の道は蛇とはよく言ったもので、裏の勢力図をよく知るこの吉祥組なら、ハインツの存在をかぎつけて囲おうとする者や、逆に市場の価値の変動を恐れて消そうとする組織も知っているだろう。もしかするとその中に、あのゴルゴ13を雇った組織もあるかもしれない。

 

 

 しばし政一や幹部らと協議し合った後、その結果を獠たちに伝える綾子。

「東北の角妖夢(かくようむ)組、中部地方の名狼派(なろうぱ)一家、九州の破滅雲(ハメウン)組、関西一円に勢力を持つ愚連隊組織 有不和(あるふわ)。こんな所です」

「どれもあくどい連中でさぁ、くれぐれも気を付けて下さいよ」

 

 資料を受け取った獠は「ふぅん」とそれをぴらぴらさせて一息つく。

「ありがとさん、助かるよ」

 それを聞いた香は、あまり有難味の無さそうな獠の態度から察する。今言った組織では多分、ゴルゴ13を雇うに値しない小物だと踏んでいるのだろう。

 あのユニオン・テオーペやラトアニアの部隊を相手取った時、そして喫茶『キャッツ・アイ』でゴルゴの名を聞いた時とは違う、どこか弛緩した空気というか「当てが外れた」というような顔をしているのが見て取れたからだ。

 

「さて、久々に会えたんだし、どうですか、お礼も兼ねて僕と今夜一発……」

 節操もなく綾子の手を取って迫る獠。周囲の全員ががたがたっ! と殺気立って立ち上がり、ハンマーや日本刀を突きつけて獠を取り囲む。

「あ、あはは~。軽い冗談だってばぁ」

「ホント、緊張感の持続しない男だわ、コイツ」

 

 結局獠の暴走もそれ以上は無く、書類を持ったままお暇することになった。

「ハインツの絵がもし見られるなら、是非声をかけて下さい」

「ああ、約束するよ~ん」

 

 彼女に新宿でのハインツの個展の事は話していない。あのゴルゴが、そして彼を雇う程の組織が関わっているなら、これ以上巻き込むわけにはいかないのだ。

 

「ね、獠。結局その情報って役に立つの?」

「もちろん。綾子さんが教えてくれたんだ、()()()()()()()さ」

 

 

 ミニクーパーが街を走る。次に到着したのはやはり香にとってもお馴染みの場所だった。

 獠にとって恩人であり、スケベの師匠ともいえる医者、『教授』の異名で呼ばれる本名不明のお爺さんの邸宅だ。

 

「教授の家……ここでも何か情報を?」

「まぁね、仕上げを御覧じろ」

 

 入り口の門をくぐるや否や、金髪の男が身をひるがえして香に飛び掛かって来る。同時に獠が、その男の後ろにいる女性にもっこりダイブをかます……

「カオリぃ~、おれに会いに来てくれたんだねぇ~!」

「やっほー、かずえさ~ん。おひさしぶりに一発ぅ~」

 

 ずががどぉんっ!

 

 香とかずえのダブル百トンハンマーが美しいXの航跡を描き、金髪男(ミック)と獠を重ね餅にプレスした。

「ほんっと、相変わらず苦労するわね、香さん」

「かずえさんもね。いっそまたあのもっこり止め打っといたほうがいいんじゃない?

「「怖い事言うなぁっ!」」

 

 教授のアシスタントの名取かずえと、かつての獠のパートナー、ミック・エンジェル。ふたりは教授の弟子と居候としてここに住んでいる。

 ミックはアメリカ版の獠という表現がぴったり当てはまるもっこり男で、同時に凄腕のスィーパーでもあったが、ユニオンとの戦いで悪魔の薬、エンジェルダストを投与され、かつての腕前を失っていた。それでもそこいらの暴漢などひとひねりする実力はあるのだが。

 

「ほっほ、相変わらず脇が甘いのう」

 ぞわわわっ! と香が身震いする。いつの間にか彼女の背後に位置した老人が、その尻をなでまわしていたからだ。

 

「ええかげんんにせんかいっ!」

 かくして教授の家の庭に、三つのハンマーに潰されたスケベ男のオブジェが出来上がった。

 

 

「それで、今日はどんな用事じゃ?」

 気を取り直して家に入り、パソコンをカタカタしながら教授が聞いて来る。彼は世界中のあらゆる情報が覗ける天才的なハッカーで、獠も度々このじいさんの能力を利用させてもらっている。

 

「日本の空港のカメラのハックを頼む。ある人物を特定したくてね」

 そう言って一枚の写真を教授に渡す獠。

「ミケール・ハインツ、世界的な画家だ。もっとも写真は二十年以上前のものだがね」

 ほー、と息をついて呆れる教授。つまりこの写真の二十年後の顔をCGで作り上げ、その上で空港のカメラで顔認証しろと言っているのだ。教授以外の人間にはとんでもない無茶振りである。

 

「まぁ、やってみるかの」

 そう言って別のソフトを起動すると、そのハインツの写真をスキャンしてから成長、老化のフィルターをかけ、今の彼の顔を作り上げていく。

「しばらく待っておれ。何パターンかこしらえてみるでな」

 

 教授が仕事をしている間、獠とミックはテラスにもたれながら佇んでいる。やがてミックが向き直り、言いたかった話を切り出した。

「なぁ獠。今回のお前の相手……あのゴルゴ13か!?」

「情報が早いな。確定したわけじゃないがね」

 ミックはゴルゴが日本に来ている事を知っていた。日常的にハッキングをしている教授が四日前、偶然にも成田でその姿を捕らえたのだ。

 

「だとしたら? 今のポンコツのお前に出番はないぜ」

「フン……死ぬなよ。死んだら俺がカオリを貰っちゃうぜ」

「ほんっと、モノ好きだなお前は」

 

「ほ~う、詳しく聞こうじゃありませんか」

 後ろでハンマーを構えて炎のオーラを発する香とかずえに、二人が大量に冷や汗を流した後、二度目のハンマーの下のお餅になったのは言うまでもない。

 

 

「こりんのう、お前さん達は」

 タンコブとバンソーコーだらけになった獠とミックを見て教授がやれやれと息をつく。その彼の頭にもさっきのタンコブが付いているのは見えないことにしているようだ。

 

「ほれ、出来たぞい。何パターンかあるが、いずれもワシの顔認証ソフトでどうにかなるわい」

 現在のハインツの顔写真を何パターンか獠に渡す。彼を保護する時にはこのデータが何よりの手がかりになるだろう。

 

「さて教授、もうひと仕事頼めるかな?」

「なんじゃい、この老人を酷使しおってからに」

 それを聞いた香もまた(まだあるの?)という顔をする。獠はさっき吉祥組で貰った書類を懐から出すと、ニヤリと口角を吊り上げてこう発した。

 

「コイツらに噂を広めて欲しい。あのハインツが復活して、来日する、とね」

 

「え、えええっ!? ちょ、ちょっと獠! 何考えてんのっ!」

 困惑する香。さっき綾子から聞いた悪党どもは、ハインツの存在を知ったら嬉々として誘拐しかねない危険な存在だ。そんな連中にわざわざ情報を流すなんて……

 

「だぁってさぁ~、日本中のどこの国際空港から来るか分かんないんでしょぉ? だったら彼らに保護して貰ってさぁ、引き渡して貰えばいいじゃな~い」

「なるほどな。例え空港のカメラで捕らえたとしても、そこに出向くまでにハインツがドロンしてたら意味が無い。そうさせない為に悪党どもに身柄を確保して貰っておく、というワケか」

 ミックの言葉に「せいかーい」とピースサインを見せる獠。

 

「で、でも危険じゃない、万一ハインツ氏が殺されたりケガでもしたら……」

「画家の体を傷つけるバカはいないさ。名画を描いてほしいのならね」

 

 あ、と息を飲む。確かにハインツに絵を描かせて金儲けを企む輩が、そのハインツを傷つける訳が無い。ケガで絵が描けなくなったら意味が無いのだから。

 

「あんた……ハナっからそれが目当てで綾子さんの所に行ったわね……この悪党」

 

 

 翌日。喫茶『キャッツ・アイ』に戻った二人を出迎えたのは、美樹の他に泪、瞳、愛の三姉妹、そして刑事の野上冴子だった。まぁ海坊主と三姉妹の執事の永石ほかもいるのだが、遼のもっこりフィルターに男は映らない。

 

「うっひょー、三人で俺のもっこりをお出迎えしてくれたのねぇん」

 ダイブする獠の上から、なんと鉄の檻が降って来て、そのまま彼を捕らえて地面に着地した。哀れ檻の中に閉じ込められたもっこり獣を見て、三姉妹の末娘、愛がころころと笑う。

「あはははは、ひっかかったー」

 この檻の仕込みはもちろん海坊主である。遼の行動パターンを予測した上で、三姉妹に最適な位置に立っていて貰っていたのだ。

 

「姉さん……ホントに大丈夫? この人」

 次女の瞳が、牢の中の獠をジト目で見て呆れたように呟く。後ろでは香が「申し訳ございません」と呆れながら頭を下げる。

 

 と、その瞳の前に、一人の長髪の男がずい、と立ちはだかって、牢の中の獠と相対する。獠よりやや背が低く、体格も一回り劣るが、その立ち姿には確かに訓練された様子が伺えた。

 

「シティハンター、冴羽獠さん、ですね」

 その挨拶に、獠はふふんと鼻をすすりながら返す。

「そういや、次女の瞳さんには婚約者がいたんだっけな。確か……」

内海 敏夫(うつみ としお)です。初めまして」

 

 獠とは明らかに空気の違う真面目オーラを纏ったその男は、獠を舐め回すように見て取ると、その肩を落としてふぅ、と息をついて……

「どうか、瞳たちを父親に、ミケール・ハインツに会わせてやってください」

 深々と、頭を下げた。

 

 今でこそ辞職しているものの、彼も元はれっきとした刑事である。人物をじっくりと吟味すれば、その力量は手に取るように理解できる。

 この冴羽獠という男が、自分などより遥かに優れた実力の持ち主と言う事はすぐに理解できた……まぁ、人格的な事はわからないが。

 

「彼は私と一緒に三人のガードを担当するわ。こっちは任せて」

 冴子がそう続く。そう、ハインツが標的になっているなら、その娘たちは最悪人質になるケースもある。

 彼女の願いである父娘の対面は、親であるハインツだけではなく三人の娘の安全も保障されて初めて実現するのだ。

 

「ああ、スマンな冴子」

 そうクールに返す獠。実は彼女に三姉妹の護衛を頼んだのは獠自身だ。いかにテロリストのゴルゴ13とはいえ、現役警察官の冴子を殺す事はまずないだろう。それをやってしまうと、いかに各国公認のスナイパーの彼でも指名手配犯になるのは避けられないからだ。

 

「カッコつけて言ってるけど、オリの中の動物状態じゃ自慢にならないわよ」

 香の冷静なツッコミが炸裂し、愛がまず「ぷっ」と吹き出し、それを契機に店中が爆笑に包まれた。なんともしまらない絵面だが、それでこそシティハンターらしかった。

 

 と、獠の携帯が着信を知らせる。それを耳に当て、電話の先の声――教授の言葉を耳にする。

「分かった。佐賀国際空港か! 感謝する」

 そう言って電話を切り、香に向かって檄を飛ばす。

 

「行くぞ、九州だ! 破滅雲(ハメウン)組の縄張り内だっ!!」

「あ、うんっ!」

 

 獠の激に香が応える。ハインツがついに来日した、その場所は国際線としてはローカルな経路である佐賀着の便だ。

 教授が流した情報によって、破滅雲(ハメウン)組の連中が彼を早速押さえにかかっているだろう。あとはその本部に出向いてハインツをぶん取ってここに連れて来るだけだ!

 

……

 

「ねぇ海ちゃーん、早く出してぇ~~」

 

 頑丈さを重視して作られたこの釣り天井式の檻、そう簡単には開けられなくなっている。鉄格子にかじりついて情けない声を出す獠を見て、全員が盛大にため息をついた。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 名古屋市のとある駐車場に止められた一台の白いスポーツカー。そのカーラジオのローカル番組が、どこか不自然な内容のアナウンスをする。

 

――佐賀県名物のイカが13バイ水揚げされたと、鍛冶屋さんからのリポートでした――

 

 運転席に座っていたゴルゴ13がラジオを切り、情報提供者の鍛冶屋に心の中で礼を言う。

 

(佐賀か!)

 

 ギアをゴクッと入れ、車を発進させる。手近な高速に乗り、ハインツが上陸した九州へと向かう。

 

 

 シティハンターとゴルゴ13。

 共に九州へ、ハインツの元へと向かう――

 

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