シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第五話 邂逅

 九州の某所、人気(ひとけ)のない倉庫の中、大勢の黒服に囲まれて、一人の男性がイスに座らされていた。

 

「ミスター・ハインツ。私も無茶を言うわけじゃないんですよ」

 ラメ付きの服にサングラス、腕には高級そうな金時計を付けた、いかにもヤクザ風味の男がそう切り出す。

「私はあなたの絵の大ファンでしてねぇ。一枚、たった一枚でいいんです。どうか私の為に絵を描いてほしいのですよ」

 口角を釣り上げてそうのたまう破滅雲(ハメウン)組の組長、瀬見 権助(せみ  ごんすけ)。九州の新興勢力のヤクザであり、また渡世の掟に外れまくった外道を平気で成す、悪党の中の悪党でもある。

 

 彼は部下がネットから拾い上げた情報から、行方不明だった名画家ミケール・ハインツの来日を知っていた。一応九州の空港に部下を張り付かせていた所、今朝一番の便で発見し、確保監禁に成功していたというわけだ。

 

「あなたはVIPだ。もちろん望むものは何でも用意する、報酬もしっかりお支払いしましょう」

 紳士然とした態度でそう語る瀬見だが、そもそも人を誘拐しておいて言うセリフでもない。

 

「私は、私の意志の赴くままにしか筆は取らん、断る!」

 

 ハインツがそう吐き出したのに反応して、周囲のチンピラ共が声を荒げる。

「こらぁキサン! 組長が優しゅうしとっぎ、何つけあがっとんじゃ!!」

「下手にでとりゃ調子のりくさって、ヤキ入れたろかいコラァ!」

 

「やめんか馬鹿者!」

 瀬見の一喝で大人しくなる有象無象。勿論これも予定調和で、いわゆるアメとムチで懐柔しようとする、ヤクザのお約束の手口だ。

 

「私もかりそめにも九州男児、約束は絶対に守ります。一枚、ただ一枚描いてくれりゃあいい」

 ヒザに手をつき、ヤクザ流の礼を尽くして続ける瀬見。

「多少手を抜いてくれても構わない。あんたの作品であることが証明できりゃあそれでいいんだ、どうかこのケチな男に、あんたの才能を恵んでくだされや」

 

 

 ――ハッ、九州男児が聞いて呆れるね――

 

 突然、倉庫に男の声が響き渡る。ヤクザ共が「誰だ」「どっから」と周囲を見回す。

 

 ――あらよっ、と――

 

 その声とともに、倉庫の天井に吊るされたロープから、まるでターザンのように弧を描いて降りてくる男の姿があった。

 

「アーアア~、なんちて、ね」

 

 ドゴドゴッ!

 

 両足の裏でチンピラ二人の顔面にキックをお見舞いし、それをブレーキにして地面にしゅたっ、と着地する男。

 

「な、なんやオノレは!」

「どこから来た、見張りはどうしたあぁぁっ!」

 

「あ、見張りのみんなは寝てるみたいねぇ。いかんなぁ寝不足は」

 おどけてそう言う大柄な男、シティハンター冴羽 獠(さえば りょう)。フン、と息をつき、周囲の荒くれ者どもを冷めた目で見まわす。

 

「お、親分! 見張りがみんなノされてます!!」

 出入り口から外に出た男が、部屋の中に向かってそう叫ぶ、周囲には十人からの見張りを配置していたが、それが全員やられた……この男に、か?

 

「九州男児ってのはそんな濁り切った目をしてはいないよ。そう、あの(とし)ちゃんみたく真っすぐでないとね」

 ここに来る前に出会った怪盗キャッツアイの瞳の婚約者、内海俊夫は福岡の出身だ。彼を九州男児の見本とするなら、今ここにいる連中など比べるべくもないほどの小物だ。

 

「てめぇ、ここから生きて出られると……」

 周囲の面々がドスやピストルを取り出し獠に向ける。が、瀬見はそれを手で制して獠に一歩詰め寄る。

 

「なかなかの度胸と腕っぷしだな。どうだいアンタ、ウチの組にこねぇかい?」

 

「ジョーダンでしょ? お前らみたいなくされヤクザのお仲間なんてゴメンだね」

 おどけて返す獠に、周囲のチンピラが「このガキャア!」と激高する。が、瀬見はそれでも獠に対して態度を変えない……目に見えて怒りの血管は浮き上がっているけど。

 

「わざわざこんな所に飛び込んできた目的はなんだい? どっかの組のヒットマンてわけでもあるまい。アンタも狙いはこのハインツ氏かね?」

「お! さっすが組長さん。話が早いわー」

 

 その返しに瀬見はふむ、と襟を正して言葉を続ける。

「どこのモンかは知らんが、ミスターハインツは我々が予約済みだ。どうだい、彼が一枚絵を描くまで待ってはもらえんかね」

 その言葉に周囲のチンピラ共も、座らされているハインツも目を丸くする。せっかく確保したハインツに対して欲が無さすぎなんじゃないですかい? と。

 

「お前の魂胆はミエミエだがね。ハインツに絵を描かせてそれを発表する、それをエサにして怪盗『キャッツ・アイ』をおびき寄せ、彼女らを捕らえて逆にハインツの絵すべてを手に入れようっていうんだろ?」

 

 その言葉に瀬見がぎょっ! とした顔になる。逆に周囲のチンピラ共は「おお!」「さすが組長」などと今更感心している……報連相(ほうれんそう)しないタイプの組織だなぁと呆れる獠。

 

「そこまで知っているとは……やむを得んな、殺れ!」

 

 そう瀬見が言った瞬間、倉庫に轟音と火花が散り乱れる!

 

 バンバンバンバァン! バンバンッ!

 

 獠のコルトパイソンが火を噴き、チンピラ共が持っていた銃やドスがすべて弾き飛ばされる。

「な……」

 

 愕然とする一同をよそに獠はハインツを立たせ、「ささ、参りましょうか」と出口に向けて誘導しようとする。

 

「さっ、させる、かぁっ!!」

 瀬見が懐から拳銃を取り出し獠に向ける。今コイツは六発全弾撃ち尽くした。ならば今なら、と。

 

「あー、アンタらもさっさと出た方がいいな」

 振り向きつつ笑顔で獠がそう言った瞬間、その倉庫全体がずずん! と揺れた。

 

 ぎぎぎ、めきめきめきめき……

 

「そ、倉庫が、潰れてくるうぅぅぅぅ!」

「ヒイィィィィィ、に、逃げろおぉぉぉ」

 なんとこの倉庫が倒壊を始めた。これは外にいる香の仕込みで、銃撃の音を合図に仕掛けた発破を発動させる算段だったのだ。彼女のトラップは海坊主の直伝であり、どの程度の火薬でどこを爆破すれば、ほどよい勢いで倉庫をぺしゃんこにするなど簡単なことだった。

 

 どっしゃあぁぁぁぁん

 

 獠とハインツが脱出した直後、まるでダンボールで作った小屋が折りたたまれるように倉庫が潰れ、ホコリが舞い上がる。

 しばし後に煙が晴れると、後には資材に潰されたハメウン組の連中の足や腕がガレキの隙間から生えて、ぴくぴくと痙攣している。うんまぁ全員命に別状はなさそうだ。

 

「き、貴様……一体何者、だっ」

 ほうほうの体で上半身だけゴキブリのように這い出てきた瀬見が、頭に派手にホコリをかぶったままそう悪態をつく。

 その彼を斜に見下ろして、獠は一言こう告げる。

 

「シティハンター、冴羽獠。ま、九州じゃ知名度低い、かな?」

 

 そのセリフに瀬見をはじめ、埋まっているチンピラや這い出てきた輩の顔が一斉に青くなる。

「あ、あの……シティハンター!! あんた、がっ!?」

 

 新興勢力の破滅雲(ハメウン)組。今時の若い者が多いこの組にあって、シティハンターの名は畏怖の象徴として知れ渡っていた。東京を根城にしているハズだったが、まさか九州まで……

 

「んじゃまたねー。あ、結構派手に倒壊したから、おまわりさんが来る前に帰った方がいいよー」

 そう言ってハインツ、香とともにミニクーパーに乗り込んでトンズラかます獠。瀬見たちは「あ、待て、せめて出してくれ……ちょとおぉぉぉ!」などと叫びながら、ほどなく聞こえてくるパトカーのサイレンに絶望を感じていた。

 

 まぁ奴らの持ち倉庫なんで、せいぜい監督不行届きを注意されるくらいだろうが。あ、銃やドス転がってたから結局アウトだわ。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「確保、したか」

 その様を双眼鏡で見つめる一人の男がいた。彼は獠とは全くの別アプローチからハインツをさらった組織を割り出し、この場所を突き止めていたが、そこに現れた一組の男女を見て、事の成り行きを見守っていた。

(動いたのはシティハンターの方か……)

 彼、ゴルゴ13は心で呟いた。やはり難敵がターゲットのボディガードに付いた、自分の狙撃を果たすには彼らにどう対処するかが最大の障壁になりそうだ。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「ミケール・ハインツさん、ですね。私たちは東京で何でも屋を営んでいます、『シティハンター』です。貴方のご息女のご依頼でお迎えに上がりました」

 福岡のホテルの一室にチェックインした後、香がハインツに用件を伝える。彼を確保した今、あとは一刻も早く泪たちのところに送り届けるだけだ。

 

 本音を言えばさっさと飛行機で東京にひとっ飛びしたい所だが、冴羽獠は飛行恐怖症で航空機やヘリなどに乗ることが出来ない。なので愛車ミニクーパーでわざわざ九州まで送迎に来ていたのだ。

 まぁハインツがあの狙撃手『ゴルゴ13』に狙われている可能性を考えると、飛行機よりも自由度の高い車の方が対処しやすいのも確かだが。

 

「娘たち、の……?」

「ええ。みなさんあなたとの再会を心待ちにしていますよ」

 長年姿を消していたハインツ。実の兄の組織に監禁されていた彼は、幼い二人娘と生き別れになっていた。まして三人目の末娘とは生まれる前に引き離され、その顔すらまだ見たこともなかったのだ。

 当然、彼女たちに会いたい。そして彼女らを長年世話してくれた親友である永石にも。だが……

 

「申し訳ない。今すぐに娘たちに、会うわけにはいかない」

「え、それって……どういう?」

 訝しがる香に、ハインツは顔を上げ、意を決した表情でこう続けた。

「五日後、東京で私の個展が開催される。その日までは、娘と会うわけにはいかんのだ」

 

「なーんか、ワケあり、って顔だな」

 言葉に詰まった香に代わって、獠が軽い口調でそう告げる。

「どうして! 話してくれませんか。私たちにできることなら何でもしますから」

 そう詰め寄る香にも、ハインツは首を振って拒むだけだった。

 

 心当たりはもちろんある。あの三姉妹や永石すら知らなかった個展の開催、そこに先行して送られていた一枚の三人の天使の絵、そしてゴルゴ13や裏の組織に付け狙われる立場……彼が何者かに()()()()()()()()()()()()()()()()のでは、と思うのは当然のことだ。

 

「んじゃ、五日後ならいーわけね」

 獠がにかっ、と笑って陽気に告げる。香は「え、そんな悠長な」という顔で振り向くが、そこにはニヘラ~とスケベ顔をしたりょうの顔があった。あ、これは……

「んじゃ博多美人と遊んでこよ~っと。香ちゃーん、ハインツのガードおねがいねえぇぇぇぇ~」

 

 香が止める間もなく、どびゅうんと土煙を上げてホテルから脱出する獠。

「えええっ! ちょ、ちょっと獠、こらあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 時すでに遅し。すでに獠の姿は無く、舞い上がった煙が漂うばかりであった……

 

 

「ったくもう、あのバカ! すごい腕の殺し屋に狙われてるってのに、緊張感のない!!」

 本来なら飛んで行って百トンハンマーをぶちかましたい所だが、護衛対象のハインツ氏の元を離れるわけにはいかない。自分にハインツ氏を押し付けておいて、私の邪魔の入らないところでナンパや風俗遊びをするつもりだ……やられた。

 

「ふふ、貴方も気苦労が絶えませんね」

 背中からハインツに声を掛けられ、「まぁ、いつもこんなんです」と苦笑いして返す香。

「失礼ですけど、お名前をうかがっても?」

「あ! すみません。私は槇村香。そしてあのもっこり男が冴羽獠です」

 シティハンターというチーム名を名乗ってはいたが、肝心の自分たちの名前を名乗り忘れていた失礼を詫び、頭を下げながら自己紹介する。

 

「槇村さん、ひとつ貴方にお伺いしたいことがあります」

 深刻な表情に戻ってそう問うハインツ。香も彼の真剣を感じて居住まいを正し「はい」と答えて言葉を待つ。この護衛に対して、何か知っていることを話してくれそうな流れを感じて。

 

「あなたにとって、『父親』とは、どういう存在ですか?」

 問われたのは予想外の言葉だった。だが一呼吸おいて、彼の心の不安を垣間見た気がしていた。思えば彼女の娘さんたちは自分と同世代だ、彼女らをほっぽり出して行方不明だった彼が、娘たちと再会することへの不安があるのだろうか。

 

「私の父は刑事でした。でも、私が子供の頃に殉職して……以来、兄が私の父替わりで」

「そ、それは! 大変失礼なことを聞いた。どうか許していただきたい!」

 香の言葉を遮り、イスに座ったまま体を直角に折り曲げて謝罪するハインツ。

「あ、いえいえ、お気になさらないでください。私は気にしてませんから」

 

 香の家庭の事情は相当に特殊なものだ。()()()父親は殺人犯で、逃亡中に事故を起こして死亡してしまっていた。残された犯人の娘である香を不憫に思った担当の刑事がそのまま育ての親になったが、その彼も事件ですでに亡くなっている。

 

 それ以来、ずっと兄と二人暮らしで過ごしていたが、その兄も近年、麻薬組織『ユニオン・テオーペ』の手にかかり落命してしまった。そしてその時の兄のパートナーこそがシティハンター、冴羽獠その人だったのだ。

 

 もっとも香には、誰も全ての真実を話してはいないのだが。

 

「私の父や兄、肉親は生に恵まれませんでした。でも、もし生きているなら、もう一度会いたいと思います」

「そう、ですか……」

 ふっと息をつくハインツに、香はやれやれと肩を落とす。この真面目そうなヒトがあの三人と会ったらきっと泣くんだろうなぁ、なんて思いつつ。

 

 そういやあの(バカ)も父親には相当恵まれなかったなぁ。実の父じゃないとはいえ、殺し合いまでする羽目になったんだから。

 

「槇村さん、貴方に、()()()()()に話しておきたいことが、あります」

 その言葉に香は背筋がぞおっ! と冷える思いがした。ハインツが今までにないほどに深刻な、そして悲壮な顔をしていたのだから。

 

「は、はい……」

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「きゃはっはっは、この人おもしろかねー」

「ハーイりょうちゃんおもしろもっこりですよぉ~」

「ええがねええがね~、ほーれもういっちまい~」

 

 博多の歌舞伎町にある怪しげなスナックで、テーブルをお立ち台代わりにして半裸で踊っているのは、誰あろう冴羽獠であった。周囲には店の嬢や、彼がナンパして来た博多美人がヤンヤの歓声を上げている。

 こういう『夜のお遊び』は彼の十八番(おはこ)、まして先払いの依頼料で懐が温かいのもあり、景気よく博多の夜を満喫しまくっていた。

 

 そのバカ騒ぎに困惑顔の店主が、カウンターの端っこに座って静かに酒を飲んでいる男に声をかける。

「申し訳ありません、静かにさせましょうか?」

 その客の風貌が、いかにも乱痴気騒ぎとは縁のないクールなものだったので、不機嫌になっているのではと気を使ったのだが……

 

「いい。気にするな」

 そう言ってグラスのウィスキーをくっ、と開ける男。葉巻を懐から取り出し、ジッポーライターでシュボッ、と火をつけ、フーッと煙を吐き出す。

 

「いやぁーすいませんねぇ、お騒がせしちゃってぇ」

 ちょっとタンマと女達に声をかけ、パンツ一丁になった獠が自分の服を小脇に抱えて、ヘラヘラした顔でその男に近づいていく。

「あー、マスター。この人にもういっぱいお酒出してあげてー。りょうちゃんからのオ・ゴ・リ」

 

 その声に、カミソリのような眼光を突きつけて対峙する男。それを受けて獠もふっ、と真面目顔になる。

 

「一杯やろうか、()()()()()!」

「よかろう、()()()()()()()!」

 

 隣同士に座り、出されたグラスを合わせもせずに、お互いの酒をあおる二人。

 

 黒スーツの男とパンツ一丁の男が真面目顔で酒を飲むというその光景を、失笑するものは誰もいなかった。

 

 その場の空気がまるで、凍り付いたように張り詰めていたから――

 

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