シティハンター vs ゴルゴ13   作:三流FLASH職人

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第六話 深まる謎

 早朝のホテルのロビーに、何やら怪しい人影が抜き足、差し足、忍び足で横切ってエレベーター脇の階段へと向かう。

(やっべー、朝帰りになってしまった……獠ちゃん大ピンチ~)

 

 夕べハインツの護衛を香に押し付けて、歌舞伎町に繰り出し散々豪遊したあげくに、一晩で百万円以上の金を溶かしてしまったのだ。

 しかもナンパした女の子たちはいつの間にかドロンしており、ホテルで一発もっこりの目的も果たせずに、ヤケになって朝まであちこち飲み歩いてしまった。

 

 だが、お陰で思わぬ収穫もあった。恐らくはハインツを狙っているであろう、あのゴルゴ13と顔を合わせることが出来たのだ。

 

 獠としてもゴルゴがもう『自分たちがハインツを確保している』のを知っている前提で行動していた。だがすぐに狙撃するならあの倉庫でも、ミニクーパーでの移動中でも狙撃のチャンスはあったはず。

 それが無かったという事は、取りも直さず『狙撃の瞬間』を決め込んでいるという事だろう、なら行き当りばったりで決めたホテルで仕掛けて来るとは考えられない。狙撃にはポイントとなる場所の選定が不可欠だし、いくらテロリストとはいえこの日本で、ホテルに直接乗り込んで人を射殺するとは考えにくいからだ。

 

 ならむしろ奴は自分たちのマークを外さないために、近場に宿泊している可能性が高い。特に奴のような裏の顔を持つ男なら、歌舞伎町や風俗街のような所で身を隠しつつ情報収集をする可能性が濃厚だ。

 そう思って街中で二人の女性のナンパに成功した獠は、近場にある酒場に入った瞬間、奥にいる一人の男を見て思わず心で「ビンゴ!」と唸った。果たしてゴルゴ13はそこに居たのだから。

 

 ひとしきり彼を無視してバカ騒ぎした後、パンツ一丁になってから奴に近づいた。丸腰で油断してくれる相手ではないが、これだけ自分が女の子たちに注目される中でまさか荒事に及ぶほどバカではないだろう。

 

 自分が奢った酒をためらいもなく煽るゴルゴを見て確信した。コイツは今『仕事』をする気はない。あくまで俺達に張り付いて、遠くない将来に狙撃をするプランを練っている最中なのだろう。

 そしてそれは恐らく東京での個展に関する瞬間のはずだ。果たしてターゲットがハインツなのか、それとも彼を狙う組織の何者なのか、あるいは絵や美術品を狙撃して価値を無くすためなのか、それは未だに分からないが。

 

 ひとつ確実な事。東京に帰る道中での狙撃はまず無いという事だ。あのゴルゴ13が、与えられた好機に飛びつくような男ではありえないから。

 

 

 というわけで、とりあえず今日明日の危機は無いとみていい。が、獠にとっては()()()()が目前に迫っていた。

 放蕩の挙句朝帰り。この後に待っているのは当然ながら、香の怒りのハンマー炸裂である。鉄の鍋を頭に被ってヘルメット代わりにしながら、おそるおそる二階の部屋まで来て、ドアノブを回して扉を開ける。

「って、開いてる、のか?」

 てっきり鍵がかかってて、ノックの後出来る限りの猫なで声で香に呼びかけるつもりだったんだが……

(おいおい香、いくら何でも不用心だぞ)

 ハンマー攻撃の後にでもそう警告しようと思って部屋に入る。短い廊下に香の姿が無い所を見るに、どこかに海ちゃん直伝のトラップ丸太でも生えて来るのかと警戒しながら歩みを進めるが……

 

「あ、獠おかえり。ルームサービスでモーニング取ったから、あんたも食べたら?」

 

 そこで見たのは、ハインツと向かい合って朝食のサンドイッチをかじっている香の姿だった。

「へ、あ、あの……いや、んじゃ、いただきます」

 明らかに拍子抜けした感じでテーブルに着く獠。へ、一体どうなってんの?

 

 朝食後も結局香の怒りは炸裂しなかった。そしてそれ以上に不自然なのが、なんかハインツ氏との距離が妙に近くなってる気がするって事だ……ひょっとして香がこの初老のおっさんともっこりな関係に? いや、まさか。

 

 でもまぁ怒りが回避されたなら良かった。ゴルゴの件もあって油断した獠は、思わず頭をかきながら夕べの放蕩を白状する……

 

「ひゃくまんも使ったですってぇー、この大馬鹿者っ!!!」

 ぐわっしゃあぁぁぁぁん!!

 ホテルに百万トンハンマーの打ち下ろされる振動が響き渡った。

 

「う、うん……なんか安心する展開だなぁ」

 ハンマーの下敷きになりながら、獠は二日酔いの頭痛を新たな痛みで塗り替えることに成功した。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 九州から中国地方へと渡り、本線の中国自動車道ではなく、日本海側の下道である海岸線、国道9号線を通って東へと向かう。日程には余裕があるし、ハインツを後部左座席、つまり海側に座らせておけば陸地からの狙撃は避けられる。後は海にいるクルーザーなどに警戒しておけばさらに危険度は減少する。

 もっともあのゴルゴ13相手にその程度の予防策が有効な訳はない。獠にしてみればこれはむしろ香に対する経験を積ませるのと、ハインツ氏に安心してもらうための意味合いが強いのだ。

 

「で、香。あの三姉妹にはお父さん(ハインツ)捕まえたって連絡したのか?」

「報告してないわ。言ったらあのヒトたちの事だから、ヘリとかプライベートジェットで飛んで来かねないもの」

「あ、あはは。そりゃ確かにありそうだ……」

 

 ハインツの望みとして、個展の開催日まで娘達に会う訳にはいかないのだそうだ。なら下手に彼女たちに伝えてしまうと、彼女たちが念願の父の元に飛んでくる可能性は十分にある。

 そしてそうなると、仮にハインツを脅している組織が居たとして、条件を覆された代償として下手な行動を起こさないとも限らない。ならばハインツ氏の発見を黙っておいて、周囲の動きをよく見極めたうえで、ハインツにリボンでも付けて三姉妹にプレゼントするのがベストだろう。

 

「ご無理を言っております」

「いいですって。報酬は破格に頂いておりますから、きっと感動の再会と個展の成功を実現して見せますって」

 ハインツの言葉に、香がガッツポーズを見せてほがらかに答える。なんかいつもより香の態度がくだけているように見えなくもないのだが……

(いや、まさか……本当に? いやンなわきゃないか、けど……)

 

 何か釈然としないものを抱えたまま、日本海側をミニクーパーが走り続ける。夜までに車は京都に入り、そこでまた適当なホテルを取って宿泊する事にした。

 

 

「んじゃ、京都の舞子ちゃんと遊んできま~っすっ!」

「させるかあぁぁっ!!」

 べちょっ!!

 

 さすがに二日続けてエスケープさせるほど香は甘くない。ドアに結んだワイヤーを

思いっきり引っ張って開いたドアを閉め、駆け抜けようとした遼を鉄の扉に(はりつけ)にしてプレスした。その扉には大きな文字で『マッピー13号』と書かれている。

「お、俺は……昆虫採集の虫かよ」

「その背中、クイで打って固定してあげましょうか?」

 ジト目でぎらりと睨む香に、さすがの獠も「しゅみましぇえん」と嘆くばかりであった。

 

 もっとも深夜、そのホテルの窓から、カーテンやシーツを結んだロープで脱出した

獠が、今度は京都のキャッチバーに捕まって三百万もの放蕩をやらかすのだが、またそれは別のお話。

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 深夜、北軽井沢の神社。そこに白いスポーツクーペが到着し、神主らしき人物の出迎えを受ける。

「お待ちしておりました、郵送物が届いております」

「……ご苦労」

 車から降りたゴルコ13はそう労うと、玄関に出向いてそこに置かれた荷物を開封していく。

 見た目は電気機械かカメラの部品のように見えるそれを、ゴルゴは余計な金属部品を取り外し、まるでパズルでも組むかのようにカチャカチャと組み立てて行く。

 

 果たして完成したのは、彼の愛銃であるM-16ライフルであった。最後に瓶に入った2つの弾丸を確認すると、そのひとつをジャキン! と装填し、神主に向かって告げる。

「この一発を試射したい、銃声の対策を頼む」

「かしこまりました、本堂へおいで下さい」

 

 寺社の本堂内。神主が雨戸を閉めれば、そこは完全な防音空間となる。元々山の中腹にあるこの神社はゴルゴの銃の試射に適した場所になっている。

「では退室して貰おう」

 ゴルゴがそう言う時には、既に神主は部屋の出口に立っていた。協力者の彼と言えど、ゴルゴの仕事に過干渉するわけにはいかないのだ。それを心得ている神主は「では、後程」とだけ残してお堂から退室する。

 

 ゴルゴは部屋の隅にある小さなテーブルを中央まで持って来ると、そこに抱えていた紙袋から三つのリンゴを取り出した。今回の狙撃に必要な性能をこの銃と弾丸が備えているかを、しっかりと確かめておかなくてはならない。

 

 彼は三つのリンゴを一列にくっつけて並べると、そこから10mほどの距離を取ってM-16を構える。もし通常弾ならばこのまま撃てば、三つのリンゴの中央に風穴が開くだろう。

(距離9.7m、気温21℃、無風……標的の前後間、約30cm……)

 

 ズキュウゥゥゥゥーン!

 

 銃声が轟き、三つのリンゴが弾けるように吹き飛び、お堂の壁や屋根に当たって跳ね返り、地面にごとごとっ、と落ちて転がる。ゴルゴはそれをひとつひとつ手に取り、その弾痕を確かめていく。

 

 不思議な事に、風穴が開いているのは三つのリンゴの内、()()()()()だった。残りの一つは全くの無傷で、それを確認したゴルゴは満足そうな表情を浮かべて心で呟くのであった。

(見事だ……デイブ)

 

 神主に礼金の札束を渡し、再び車に乗ってその神社を後にする。求めるべき道具は揃った、後は万難を排して狙撃を成功させるのみであった。

 その為に、彼にはまだまだ多くの課題が残されている、それを全て成すために、やらねばならぬ事をなさねばならなかった。

 

「シティハンター、()()()()()()()()、さぁ、どう動く!?」

 

    ◇           ◇           ◇    

 

 東京、新宿。あの新聞記事に記された古いビルの三階、ハインツの個展が四日後に開催されるフロアには、今日も幾人かの作業員が、そのがらんどうの室内を整備し、展示場の体裁を整えて行く。

 同時にいくつかの絵画らしきものが厳重な郵送で届けられていた。それを離れたビルの上から双眼鏡で見つめるのは、かつて怪盗キャッツ・アイとして勇名を馳せた泪、瞳、愛の三姉妹だ。

 

「準備は進んでいるようね」

 

 泪の言葉に二人もこくりと頷く。ハインツが来日するとなれば必ずこの展示会と繋がりがあるだろう。(ハインツ)の捜索をシティハンターに依頼しているとはいえ、座してそれを待つほど彼女らは気長ではない。今日も野上冴子刑事と俊夫の監視を振り切って、こうして下見に来ているわけだ。

 

 だが流石の彼女たちも、まだ搬入される絵に手は出していない、あの三人の天使の絵も含めてである。

 もし下手に盗みでもして、この個展が中止や延期にでもなれば最悪、ハインツの手がかりが途切れてしまうかもしれないのだ。なので今はまだ監視するにとどまっているが、彼女たちとしてもそろそろ動き出さずにはいられなくなっていた……(キャッツ)はせっかちなものなのだ。

 

 

 夜、作業を終えた展示員の一人が帰路につく。人気のない歩道を歩くその人物が、街路樹の下に差し掛かった時、木の上にいたレオタード姿の泥棒猫が音もなく落下し、その人物の首筋に手刀を打ち下ろす!

 

 バチィッ!

「えっ!?」

 

 その作業員は、上から降って来た瞳の手刀を後ろ手で受け止め、身をひるがえして彼女に対峙する。気配を察した事と言い、その身のこなしと言い、明らかに只者ではない。

「キャッツアイ、だな」

 男はそう言うと、構えをスッ、と解いて、薄笑いを浮かべながらこう続けた。

 

「ハインツに会いたいなら、下手な動きはしない事だ」

 

 それだけ言ってきびすを返す男。その人物を見送って瞳は、背中に冷たいものを感じていた。

 

「一体……何をしようとしているの、お父様!」

 




鳥山明大先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。
すばらしい作品の数々を体験させていただき、本当にありがとうございました。
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